医療変革に AI の力を活用する

医療変革に AI の力を活用する

Microsoft Healthcare のゼネラルマネジャーを務める Desney Tan。マイクロソフトのレドモンド・キャンパスにて (写真提供者: Dan DeLong)

ジャンフィリップ・クルトワ – エグゼクティブ バイスプレジデント 兼 グローバルセールス マーケティング & オペレーション プレジデント

(本記事は米国時間 2019 年 6 月 19 日に公開されたブログの抄訳となります)

私たちは人工知能をそれほど遠くない将来に大きな影響を与えるものとして捉える傾向がありますが、人工知能は現在でもすでに、人々の生活を根底から強力に変革しつつあるということは、人工知能に関して注目しておくべき事項の 1 つです。AI は工場や倉庫で潜在的なリスクを検出するために数千件ものビデオをスキャンし、職場の安全性を高めています。米国では、研究者らが AI を利用して環境中の病原体の存在を検出し、大発生が起こる前に人間への感染を防ぐことにより、エボラ出血熱やチクングニア熱、ジカ熱などの死に至る病気の拡大を防いで世界中の保健機関の手助けを行う方法を模索しています。

私は、これこそ AI の真の課題であり、あるべき姿であると考えます。つまり、全人類のために健康で安全な世界を作り出すべく新しいテクノロジーを利用するということです。AI によってコンピューターは単語や画像を認識し、複雑なシステムでパターンを発見し、人間と同じように推論や学習を行えるようになったので、デバイスはより自然に、そしてより迅速に反応できるようになりました。その結果、私たちが世界を理解する方法は大きく変わり、人間固有の才能や能力を強化することにつながって、私たちは人類の最も差し迫った課題に対する答えを見つけ始めることができるようになっています。

人間の健康に関しては、特にこれが当てはまります。今日では、心臓病や慢性疾患、がんなど、医療における最も差し迫った課題のいくつかに取り組むことを可能にする新しい方法が発見されるような世界を想像することができます。幸いなことに、世界中のイノベーターたちがすでにこれらの問題に取り組んでいます。疾病の発見から予防的ケアや個別化医療に至るまで、AI を活用して治療成績を向上させ、コストを削減する機会はほぼ無限にあるように思われます。

「Project Premonition」を率いるマイクロソフトの研究者イーサン・ジャクソン (写真提供者: ブライアン・スメール)
「Project Premonition」を率いるマイクロソフトの研究者イーサン・ジャクソン (写真提供者: ブライアン・スメール)

インドでの例を挙げると、マイクロソフトは国内最大の民間医療企業 Apollo Hospitals と提携し、AI を活用して、インドで毎年 300 万件以上発生する心臓発作の原因となる心臓疾患の検出の向上に役立てています。大部分の予測モデルは欧州や北米で行われた研究を基にしており、インド人にはあまりよく当てはまらないので、今までは、医者が冠動脈疾患のリスクのある患者を特定するのは困難でした。たとえば、欧米諸国で心臓発作の主な原因となる高 LDL コレステロールは、インドではあまり一般的ではありません。

私たちは、Apollo の豊富なデータや深い知識とマイクロソフトの強力なクラウドや AI 機能を組み合わせて、心臓発作を起こすリスクの高いインド人の患者を識別するためにスコアリングシステムを開発することにしました。

そして、これを行うため、Apollo の臨床医とデータサイエンティストのチームは全国各地の病院から集めた 400,000 件以上の患者の記録を確認することから始め、その結果、約 60,000 人の患者が健康診断後に心臓発作を発症していたことが判明しました。課題は既存モデルが見落としていたデータ中のリスク因子を明らかにすることでした。そこで、彼らは Microsoft Azure を利用して収集したすべてのデータをクラウドにアップロードし、Microsoft Azure Machine Learning サービスを活用して隠れた相関関係を探しました。

チームは 100 個の潜在的なリスク因子と 200 個の実験データポイントから始めました。そして、将来の心臓発作の発生における各要因の統計的優位性を見つけるために、クラウドの大規模な計算能力を活用して機械学習アルゴリズムに学習させました。その結果、インド人のリスク因子 21 個を特定したモデルを作成できました。新しいモデルは以前のモデルと比べて 2 倍ほど正確に将来の冠動脈疾患の可能性を予測できると Apollo Hospital の心臓病学チーフの K. シブクマール医師は述べています。これによって、医師が予防検診を行う方法が大きく変わりつつあるだけでなく、詳細な健康診断のために医師を訪ねることなく、誰でも心臓病のリスクスコアを知ることができる AI 搭載アプリの開発も行われています。

中国では、Airdoc というスタートアップ企業の CEO を務めるレイ・チャンがエンジニアのチームを募り、眼底の高解像度画像を撮るだけで、糖尿病や高血圧、動脈硬化症、加齢黄斑変性症などの慢性疾患の兆候を即座に検出できる AI ベースの診断ツールを開発しています。

この装置は、網膜の画像診断が目の健康を評価するだけでなく他の疾患の証拠を見つけるためにも効果的であるという事実を利用しています。これを開発するため、Airdoc チームは何千件もの網膜スキャンを使用して Microsoft Azure の機械学習機能を利用し、アルゴリズムを作成しました。さまざまな健康上の問題の前兆である斑点やしみ、変形した血管などの小さな異常を検出できるように学習させたのです。

Airdoc の装置は検眼医が通常の目の検査で利用するスキャナーと同じようなものです。患者は椅子に座り、パッド付きの台に顎を乗せて接眼レンズをのぞきます。すると、緑の十字に焦点が合うまでアルゴリズムが自動的に角度を調節し、高解像度の医療用画像を撮影します。画像は即座にクラウドにアップロードされ、 1 秒も経たないうちに詳細な分析が行われ、さまざまな疾患に関する発生リスクが低・中・高で示されます。結果は患者のスマートフォンに送信され、潜在的な問題の兆候がある場合は専門家の診断を仰ぐよう勧められます。

現在、 Airdoc の装置は 30 種類以上の疾患の兆候を認識できますが、最終的には 200 種類の疾患が検出できるようになります。今後数年間で、中国全土の 1,000 件以上の眼鏡屋でこの装置が利用できるようになる予定です。Airdoc の装置のおかげでスキャンの確認と診断に必要な時間が大幅に短縮できるので、医師は深刻な健康問題を抱えた患者の特定や治療に集中できます。目の問題だけでなくさまざまな疾患を検出するための簡単で費用のかからない方法を提供できれば、中国および世界中で慢性疾患の治療をいつどのように始めるかが大きく変わる可能性があります。

私たちはまた、トロントの大学保健センターのプリンセスマーガレットがんセンターと共同で、「シングルセルシーケンス」と呼ばれる素晴らしい新アプローチを利用してがん治療を再定義する試みを行っています。シングルシーケンスを利用すると、医師はがん性腫瘍のすべての単一細胞 (シングルセル) の遺伝子構造を分析し、最も多くのがん細胞を殺すために最適化した薬の組み合わせを選択できます。一般的に今日では、医師は 1 度に 1 種類の薬を試しながら、個々の患者に対して最も効果的な組み合わせを見つけます。 Microsoft Azure Machine Learning とクラウドの力を利用して、医師は、がん治療に利用できる数千種類もの化合物のそれぞれに各細胞がどのような反応をするかをシングルセルシーケンスによって予測します。そして、各がん性腫瘍の遺伝的特徴に基づいて真にカスタマイズした治療を行うことができます。

Azure はまた、全国の研究者や医師と医療データや分析ツールを共有する共通プラットフォームも提供します。プリンセスマーガレットがんセンターの科学者は現在、そう遠くない将来、カナダのすべての患者がこのような詳細なゲノム解析を利用できるようになるだろうと考えています。

これらの例はマイクロソフトおよびそのパートナーが現在取り組んでいる AI 研究やイノベーションの一部にすぎませんし、取り組んでいる分野も医療だけに限りません。

次回以降の投稿では、マイクロソフトが農業や教育の分野でもイノベーターや起業家を支援し、AI の力を活用して変革を起こす手助けをしていることについて説明したいと思います。

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