モノのインターネット (IoT) の普及、マイクロソフトの調査で明らかに

※本ブログは、米国時間 7/30 に公開された”The Internet of Things is going mainstream, Microsoft survey finds” の抄訳です。

マイクロソフトが行った最新の “IoT Signals” 調査によれば、世界の大企業の 80% 以上がモノのインターネット (IoT) ソリューションの導入を進めており、2 年以内に企業の 94% がこの “見えない革命” を実現すると予測されています。

一方、企業での IoT の普及が進む裏で、ビジネス リーダーやテクノロジ リーダーの 97% が IoT の採用にあたってセキュリティ上の懸念を抱いていると認めていることも、同調査で浮き彫りになっています。

「IoT は多くの場合、企業にとってデジタル変革を推進するための入口であり、その導入は終わりではなく始まりに過ぎないのです。そして今、IoT の普及が進んでいます」と、マイクロソフトで Azure IoT 担当ディレクターを務める Sam George 氏は語っています。

同調査は、米国、ドイツ、日本、中国、フランス、英国の、従業員数 1,000 人以上の企業で働くビジネス部門と IT 部門の意思決定者およそ 2,500 人 (と開発者 737 人) を対象に実施されました。

昨今、照明や室温から、セキュリティや調理に至るまで、自宅をスマート ホーム化し、暮らしを楽にするために、IoT 対応製品を利用する消費者が増えています。

同様に、機器や設備をクラウドに接続する企業が増えており、これらは、リアルタイムの鋭敏な意思決定を促進する新たなデータ ソースを生み出しています。そのような企業の多くが、人工知能 (AI) やエッジ コンピューティング (そして、間もなく 5G ) を取り入れたソリューションを採用し、さらなる進化を遂げるために IoT を利用している、と George 氏は次のように続けています。

「IoT はさまざまなモノに大きな影響を及ぼしていますが、私はそれを “見えない IoT” と考えています。たとえば、エレベーターの信頼性が高まったり、給水ポンプが壊れなくなったり、農業で使われるエネルギーや水の量が 30 ~ 50% 減ったりする、といったことです」

「また製造でも、効率や収益性が桁違いに向上しつつあると同時に、工程で使用するエネルギーの量が減少していますが、これも IoT のおかげです。世界中には GDP に影響を及ぼす結果をもたらしている事例が何千とありますが、それらはどれも日常的に消費者の目には見えません」

最新の調査では、以下の点も明らかになりました。

  • IoT ソリューションを導入した企業は、平均で 25% の投資利益率 (ROI) を達成している。またそれらの回答者は、2 年以内に ROI が 30% まで上昇すると見込んでいる。
  • IoT を導入した企業のうち 38% が、IoT の導入をさらに進める上での障害として、IoT を利用する際の複雑さや技術的課題を挙げている。
  • IoT を導入した企業の半数にとって、IT 人材やトレーニングの不足が課題となっている (47% が、熟練した IT 人材を十分に確保できていないと回答)。

George は「IoT が各業界の状況を一変させる可能性はきわめて大きい」と指摘し、「小売、エネルギー、農業、製造など、多くの業界でその変化を示す兆候が見られる」と述べて、IoT を触媒とするイノベーションの機に乗じている例として以下の企業を挙げています。

thyssenkrupp

thyssenkrupp は、ドイツのロットヴァイルに “イノベーション テスト タワー” を建設しました。高さ 240 メートルを超えるこの研究施設は、同社が新たなテクノロジの試験を行い、それらを潜在顧客や一般に紹介するための施設です。テスト用ラボとしてだけでなく実際の商業ビルとしても使用され、およそ 20 万平方フィートの占有オフィス スペースと 24 時間体制であらゆる種類のデータを送信する IoT センサーを備えています。

thyssenkrupp Elevator は 2017 年にこのテスト タワーで、ワイヤーを使用せず水平方向にも移動できる画期的なエレベーター “MULTI” を発表しました。

thyssenkrupp Elevator で MULTI を担当する最高経営責任者の Michael Cesarz 氏は次のように述べています。「私たちは、IoT センサー テクノロジの新たな利用方法を見つけて、施設の管理者や所有者がビルと交信できるようにしたいと考えました。thyssenkrupp はこれを実現できる唯一の企業です。エレベーターはビルの神経系であり、そのシャフトは背骨にたとえることができます。きわめて重要な構造要素であるこれらは、どのフロアにも接していて、すべてのテナントにサービスを提供します」

また thyssenkrupp は、イノベーション テスト センターでの新たなソリューションの開発を促進すべく、Microsoft Partner Network のメンバーである Willow と提携しました。Azure IoT を利用する同社の Willow Twin プラットフォームを使ってタワーの “デジタル ツイン” を作成し、ビルの管理者に実践的な洞察を提供しています。

Starbucks

Starbucks の各店舗には、コーヒー メーカーはもちろん、グラインダーやブレンダーなど十数種類の器具があり、これらは 1 日 16 時間前後の使用に耐える必要があります。これらの器具のいずれかが故障して修理サービスを呼ぶことになれば、その費用がかかってしまいます。さらには、器具の故障によって、常に質の高い顧客体験を提供するという Starbucks の第一目標が妨げられる危険性さえあります。

Starbucks のグローバル器具担当バイス プレジデントである Natarajan Venkatakrishnan 氏は、次のように述べています。「スタッフとお客様との間に新たなつながりの瞬間を生み出すことができるよう、いつでもその瞬間を追求し、活かしていきたいと私たちは考えています。器具があってこそ、スタッフは特別なドリンクを作り出すことができます。器具が正常に動くようにすることが重要なのです」

Starbucks での体験を損なわないように、デバイスをクラウドで確実に接続するために、同社はマイクロソフトと提携し、Azure Sphere を導入することになりました。Azure Sphere は、スターバックス店舗の全器具に対して実施されるコネクテッド IoT デバイスという変化の波を受け入れられるように設計されています。

IoT 対応器具によって、エスプレッソを 1 杯抽出するごとに、使われた豆の種類からコーヒーの温度、水質など、10 項目以上のデータが収集され、8 時間のシフト中に 5 メガバイトを超えるデータが生成されます。マイクロソフトは Starbucks と協力して保護モジュール (guardian module) と呼ばれる外部デバイスを開発し、Starbucks のさまざまな器具を Azure Sphere と接続し、データを確実に集約して器具の不具合を事前に特定できるようにしています。

また、このソリューションにより、Starbucks は新しいコーヒーのレシピを直接器具に送信できるようになります。この作業はこれまで手作業で行われており、年に何回も USB フラッシュ メモリ経由でレシピを各店舗に伝えていました。それが、ボタンをクリックするだけで、クラウドから Azure Sphere 対応デバイスにレシピを安全に送信できるようになるのです。

Starbucks Technology のリテールおよびコア テクノロジ サービス担当シニア バイス プレジデントである Jeff Wile 氏は次のように述べています。「80 近くの市場で 30,000 件もの店舗に新しいレシピを届ける複雑さを想像してみてください。レシピを簡単に配信できるようになることで、大きなコスト削減効果が得られます。これこそがこのソリューションを利用する理由です」

Bühler

強力な発がん性を持つカビ毒 “アフラトキシン” によってトウモロコシがたった 1 粒汚染されるだけで、作物全体に汚染が広がってしまう可能性があります。また、アフラトキシンに汚染されたトウモロコシを 1 粒食べただけで、人や動物が病気になり、時には死に至ることさえあります。言うまでもなく、汚染の発見が遅れると、大量のトウモロコシを処分しなければならなくなります。アフラトキシンは、目に見えず、無味無臭であることがほとんどです。また、熱で殺菌されないため、アフラトキシンに汚染された食品を加熱調理しても安全にはなりません。

国際食料政策研究所によると、高濃度のアフラトキシンに汚染された食品を摂取すると死に至ることもあり、アフラトキシンに慢性的にさらされると深刻な健康障害が起こる可能性があるとのことです。アフラトキシンによって新たにがんに罹患する人の数は、毎年約 15 万 5,000 人にも上り、発展途上国ではアフラトキシンが肝臓がんの主な原因となっています。


消費者は食品が汚染されているかどうかを判断できないため、栽培業者、収穫業者、加工業者がすべての責任を負うことになります。気候変動によって農作物がストレスにさらされ、病気にかかりやすくなっていることで、アフラトキシンの生息地域が北の方に広がっており、さらに多くの栽培業者、収穫業者、加工業者がアフラトキシンに対処しなければならなくなっています。そのため、イノベーションへの挑戦の一環として Bühler のエンジニアが開発した新しいトウモロコシ処理システムは、うまくいかなかった場合に大きな代償を払うおそれがある一方で、うまくいけば大きなメリットが得られる可能性を秘めています。

光学選別システム LumoVision では、高さ 2 メートル弱の高さにある機器上のホッパーにトラックからトウモロコシが供給され、振動フィーダーによってシュートに送り込まれます。ここでトウモロコシが単一層で流れる速度が 3.5 m/秒まで上昇します。そして、両側にそれぞれ設置されたカメラが穀物に紫外線を当ててアフラトキシンの汚染を検出し、1,000 分の 1 秒単位で開閉可能な高速バルブが汚染された穀粒に圧縮空気を噴射して不良品廃棄ボックスに送ることで、残りの汚染されていないトウモロコシが貯蔵庫や配送コンテナーに送られます。

収穫時の気候パターン、地域で収穫される他の農作物の健康状態、その他の関連データ ポイント (穀物が通過した際に記録されたカメラの情報を含む) がすべてマイクロソフトのクラウドにアップロードされ、IoT とエッジ コンピューティングを用いて分析されます。これにより、農作物に関するリアルタイムのリスク レポートが生成され、システムのプロセスがガイドされます。リスクが最小限である場合、監視プロセスを継続しながら、選別プロセスを中断することもできます。リスクが高まると、選別プロセスが自動的に再開されます。

Bühler のデジタル責任者である Stuart Bashford 氏は、次のように述べています。「当社は、データ分析やモノのインターネットに向けたデジタルの取り組みを開始したばかりだったので、このカメラはまさに絶好のタイミングでした。このような一般概念は長年存在していましたが、これを商業的に成立させるためのテクノロジは今までありませんでした。しかし、現在、非常に実りあるこのプロジェクトで、すべてが良い方向に動き始めています」

Chevron

Chevron の石油精製所の奥深くに設置されたとある主要機器が話をし、自らの “健康の秘訣” を打ち明けるようになっています。

このおしゃべりな熱交換器と呼ばれる機器は、プラントの燃料加工プロセスの一環として、流れてくる液体から熱を取り除きます。

Chevron は、パイロット プログラムにおいて、安全制御システムによって既に収集されている情報を補完するために、リアルタイム データを熱交換器から収集してクラウドに送信する無線のIIoT (産業用モノのインターネット) センサーを、いくつかの熱交換器に取り付けました。

データ サイエンティストは、収集された新しいデータを分析して、機器の現在の正常性を確認し、将来の状態を予測しています。

Chevron のフェローであり IIoT Center of Excellence のリーダーである Deon Rae 氏は、次のように述べています。「こうした熱交換器の正常性について理解することで、予期しない障害を防ぎ、最適なタイミングでこれらの機器を清掃できるようになります。これをすべての熱交換器に拡大すれば、年間数百万ドルものコストを削減できる可能性があります」

同社は、世界中の施設の他の機器でも同じ IoT テクノロジを利用して、同様に機器の正常性を監視し、機器のパフォーマンスを予測する計画であると Rae 氏は述べています。Chevron は、100 を超える国々で 5,000 を超える熱交換器を稼働させています。さまざまな機器にわたって正常性を監視する機能を展開することで、コストを大幅に削減できる可能性があります。

トヨタ マテリアル ハンドリング グループ

トヨタ マテリアル ハンドリング グループは、世界最大のフォークリフト メーカーですが、同社の顧客は、倉庫用の運搬車や機器以外にもさまざまなものを必要としています。グローバルに事業を行う同社は、よりすばらしいサービスを提供するために、デジタル イノベーションとトヨタの有名なリーンかつ効率的な製造の原則に基づいて自社の物流ソリューションを拡張し、充実させています。

トヨタ マテリアル ハンドリング グループは、人工知能、複合現実、IoTを備えたソリューションを提供することで、顧客が e コマースのグローバルな発展に対応し、迅速、頻繁、正確、かつ安全に商品を輸送できるよう支援しています。

マイクロソフトのテクノロジを活用したソリューションは、現在利用可能になっているコネクテッド フォークリフトやフィールド サービス システムから、インテリジェントな自動化や物流シミュレーションへの道を切り開く AI を駆使したコンセプトに至るまで多岐にわたります。これらはすべて、効率性、運用支援、”カイゼン”、または継続的な改善を最適化するためのトヨタのスタンダードに基づいて設計されています。

愛知県に拠点を置く豊田自動織機の一部門であるトヨタ マテリアル ハンドリング グループのアソシエイト ディレクター兼 CIO である伊藤寿秀氏は、次のように述べています。「当社は、よりシステム化された物流ソリューション、デジタル自動化のサービス、AI 分析、IoT の実現に向けて取り組んでいます。フォークリフト車の改良も続けます。フォークリフト車は当社の原点であるからです。しかしながら、お客様はより効率的な物流を求めており、当社は自社のビジネスを加速させ拡大するためにデジタル イノベーションを実現する必要があります」

トヨタは、リーンな物流と事前トレーニングされたインテリジェントなフォークリフトを用いた未来の倉庫のビジョンを公開しています。Microsoft Azure の機械学習と IoT サービスによって実現される車両は、顧客の倉庫の仮想モデル (デジタル ツイン) ですばやくナビゲーションを学習できます。顧客は、物理環境および仮想環境と対話する運搬車を体験できます。

物理環境をシミュレートして視覚化する機能により、カスタマイズされた IoT ソリューションの展開に時間がかかるという業界で最も大きな課題の 1 つを解決できます。導入には、通常 6 か月から 1 年ほどかかりますが、機械学習とデジタル ツインを利用することでこの期間を大幅に短縮できます。

Electrolux

屋外の汚れた空気が換気システムから屋内に入り込み、家やオフィス内の空気の質に悪影響を及ぼしていることがさまざまな調査で明らかになっています。

さらに悪いことに、アメリカ合衆国環境保護庁によると、屋内で清掃用品、調理、暖炉から発生する汚染物質は、私たちが路上で吸う空気よりも健康に悪い可能性があるとのことです。

Microsoft Azure を使用して構築された Pure A9 (IoT に接続する空気清浄機) は、室内の超微粒子のほこり、汚染物質、バクテリア、アレルゲン、悪臭を取り除きます。Pure A9 は、3 月 1 日に北欧の 4 か国とスイスで発売され、既に韓国でも発売されています。

Electrolux は、空気清浄機と関連アプリをクラウドに接続することで、時間と共に屋内の空気の質が改善していく様子を追跡しながら、屋内と屋外の空気の質に関するリアルタイム データを製品ユーザーに示すことができます。また、Pure A9 は、フィルターの使用状況を継続的に監視して、交換用フィルターを注文すべき時期になるとユーザーに通知します。

さらに、コネクテッド機器である Pure A9 は、最終的に、居住者が普段いつ外出するかといった日々のパターンを学習し、スマートなスケジュールに基づいて自動的に稼働することが可能になるかもしれない、と Larsson 氏は語ります。

Electrolux のエンジニアリング ディレクターである Andreas Larsson 氏は、次のように述べています。「家がいつ無人になるか予測できるようになれば、誰も吸わない空気を浄化してフィルターを無駄にするといったことをなくせます。そして、居住者が帰宅したときに空気をきれいな状態にしておけるよう、最適なタイミングで空気の浄化を開始できます」

マイクロソフトの公式ブログにアクセスし、IoT トレンドの調査分析に関する記事で詳細をお読みください。

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