混沌とする現代社会で、私たちはどうすれば幸せになれるの? 3 名のパネリストが激論!

11 月 18 日から 24 日までの 7 日間、東京・渋谷にて開催された「これからの働き方」「未来の会社」について様々なテーマについて語り合うイベント「Tokyo Work Design Week 2019」。その公式プログラムとして、パネルディスカッション「僕たちはどうすれば幸せになれますか?〜 AI 時代の幸福をマネジメントする 〜」が開催されました。

AI やクラウドをはじめとするテクノロジーが進化する一方、見通しを立てづらく混沌とした激動の時代。わたしたちにとって幸せとは何か。どうすれば思い描いた幸福を追求することができるのでしょうか。21 世紀の幸福を研究している予防医学研究者・医学博士の石川善樹 (いしかわよしき) さん、大手電機メーカーの会社員でもありながら、株式会社ハピキラ FACTORY 代表取締役、慶應義塾大学大学院 特任助教としても活躍されている正能茉優 (しょうのうまゆ) さん、日本マイクロソフトの執行役員 常務として「週勤 4 日 & 週休 3 日」のトライアルをはじめとする自社の働き方改革をリードしている手島主税 (てしまちから) の三人が「これからの仕事&幸福」をテーマに意見を交わし、会場はこれからの働き方・ワークライフバランスに関心を持つビジネスパーソンで満席になりました。

■ 働き方を大きく変えたことによって、社員の意識はどう変化したのか

ディスカッションの端緒として、まずは日本マイクロソフトの手島から、今年の夏に日本マイクロソフトの社内で実施された「週勤 4 日 & 週休 3 日」を柱とする実践プロジェクト「ワークライフチョイス チャレンジ 2019 夏」の 効果測定結果が披露され、働き方改革を実践したことで社員の意識にどのような変化が生まれ、また課題が発見できたのかを議論しました。

この取り組みでは、週勤を 5 日から 4 日に短縮することによって、全社員が、短い時間をいかにして有効に活用して生産性を向上させ、また週休 3 日で生まれた時間を活かして創造性を高められるかを考え・取り組む、「短い時間で働き、よく休み、よく学ぶ」に挑戦しました。その結果、このプロジェクトで実践した「会議時間は 30 分、参加人数は最大 5 人」というコミュニケーションのルールが社内に浸透し、業務効率の向上に加えて、人財交流が向上したほか、月当たりの印刷枚数や消費電力量が削減されるというコスト削減効果も。そして、社員へのアンケートでは 94% が取り組みを評価するという結果になりました。

手島は、この取り組みの意図について「これからの働き方の“型”をみんなで作ろうというのが、この取り組みの狙い。会社は様々な働き方のスタイルを社員に提供しているが、仕事に求められるスピードが圧倒的に速くなり、人と人の繋がり方も変わっていく中で、もっと人間のポテンシャル・創造性を最大限引き出せる働き方を生み出さなければ、新たなイノベーションは生まれない」とコメント。これからの働き方について「どうすれば自分自身が幸せになり、創造性の高い働き方ができるのかを自分自身が決めなければならない」と語りました。

こうした取り組みの紹介を受けて、正能茉優さんは自身が代表を務めるハピキラ FACTORY での仕事の進め方を例に挙げた上で、「仕事のフォーマット化」のススメを紹介。具体的には、仕事のプロセスそのものをフォーマット化する、つまりは型をつくることで、各プロセスを最適化し、仕事全体の効率を高めていくという考え方です。「幸せに働くために大切なことの一つは、1 時間あたりに生み出せる価値を最大化することだと私は考えています。そのためには、できるところはフォーマット化した方が、やり方も見えるし、逆算もできる。ただ、自分たちがその型に縛られてはもったいないので、その時々の自分たちの考えに合った形で、フォーマットもアップデートしていくこともポイントでは」と提言しました。

一方で、幸福の研究を専門にする石川善樹さんは「生産性と創造性は別々に見えるが、型やフォーマットを作ると同時に達成できるのではないか。例えば、ぼくら研究者は難しい問題を解くのが仕事だが、毎回「うーん・・・」と試行錯誤して考えていたら極めて効率が悪い。そこで自分なりにどうやって問題を解けばよいのかフォーマットを生み出したら、仕事がとてもやりやすくなった」と自身の経験を披露しました。

■ 「幸福」ってよくわからない。少し見方を変えてみよう

今回のパネルディスカッションのテーマでもある「幸福」は、人によって定義や在り方も違い、その本質を説明するのは非常に難しいものです。果たして、「幸福」とは何なのか。引き続き石川さんが解説しました。

石川さんは「お勧めしたいのは、“幸せとは何か?” という問いはちょっと漠然としすぎているので、もう少し手触り感がありところから考え始めること。たとえば、幸せを『Time Well Spent (よい時間を過ごすこと)』と置き換えてみる。具体的には、ほとんどの人は「1 週間」という単位で生活をしているので、その時間の使い方をちょっとずつ良くしていく。すると、“こういう時間の使い方がいいな”とちょっとずつ変えていけばいい」と説明。抽象的な「幸福」について考えるのではなく、具体的な「時間の使い方」に着目することで、結果的に幸せなライフスタイルを実現していくのはどうかと提言しました。

この提言について、正能さんも自分がやりたい様々なことに対してライフスタイルの何パーセントを使うかを決める「人生配分表」という取り組みを続けていることを紹介。「時間は、意識した瞬間に具体的な形として現れるもの。1 週間という単位で時間の使い方を考えていくことが大切」と語り、これに対して手島も、「1 日の仕事を終えて“今日の働き方は良かったか”なんて考えることはまずない」と語り、時間の使い方を意識して見直してみることの大切さを指摘しました。

よりよく過ごし、創造性を高めるための、時間の使い方とは

石川さんの提言にある通り、幸せを『Time Well Spent (よい時間を過ごすこと)』と置き換えると、幸せなライフスタイルを実現するためには時間の使い方を自分自身でマネジメントする必要があります。石川さんは引き続きタイムマネジメントの在り方について紹介しました。

石川さんの場合は、クリエイティビティを高めることを目的として、自身のタイムマネジメントを考えているそうです。とはいえ、クリエイティビティを高めるコツは何なのでしょうか? そこで石川さんは、クリエイティビティの高い人の脳科学的な特徴を紹介した上で、右脳による直感的なアイデアの発案、左脳による精査・吟味・判断といった論理的な行動の間にある「大局観」に注目。クリエイティビティの高い人は、この直感・大局観・論理の脳内での切り替えが非常にうまいのだそうです。では、この「大局観」とは何か。石川さんは続けました。「大局観は直感と論理を行き来するために非常に重要な役割を果たします。大局観の本質は、俯瞰とディティールを高速で往復することです」。

この直感・大局観・論理を仕事に置き換えるとどうなるのか。石川さんは「直感 (アイデアを生み出すこと) は一人で過ごしているところで働きやすく、論理 (アイデアを精査すること) はグループワークをしていると働きやすい」という前提を語った上で、時間の過ごし方を「ひとりでいるか、みんなでいるか」「目的があるか、目的がないか」という違いで 4 つに分類。その上で、「複雑で困難な課題を深く考えながら取り組むときはひとりの時間がやりやすく、単純な作業などはみんなで取り組むほうがはかどる。リモートワークは、複雑な仕事に取り組むために行うべきだ」と指摘。そして石川さんの場合は、直感・大局観・論理のバランスを取りながら 1 週間の働き方を考えていることを紹介しました。

この説明を踏まえると、例えば移動時間といった非効率的な時間も直感的な脳を働かせるためには価値があるということになります。正能さんはこの説明を受けて、「効率化の先には、一見非効率に見える、でも大事にしたいことを大切にできるということがあるのではないか」と指摘。例えば同じ打ち合わせでも、共有はリモートで効率よく進めて、重要なディスカッションは会って行う、その使い分けをうまくしているからこそ、移動時間のような非効率的な時間はとことん自分と向き合えるようになる。「自分と向き合って直感を働かせる時間はなかなか作りづらい。効率化できない、あるいは効率化したくない時間を大切にするには、効率化できることは効率化することが大切では」と提言しました。

手島は学生時代から続けている習慣として、「毎日やることを 3 つ必ず決める」といいます。1 日を終えて「充実した 1 日だった」と満足できるように、その日にやり遂げることを決めて意識的にやっているのだそうです。「現実的には、1 日を通して集中力を保つことは難しい。だから、なにに一番の力を入れるかを決めておく。それをやり遂げれば、仮にその日に嫌なことがあっても気持ちをコントロールできる」(手島)。

白熱のディスカッションに参加者も興味津々、懇親会でも議論拡がる

これまでのディスカッションを熱心に聞いていた参加者からは、「数多くのやりたいことを組み合わせて時間配分を考えていくと、それだけで疲れてしまうのではないか。どのように具体的に配分設定をしているのか」「1 日の中で早朝の時間をどのように有効活用していくべきか」「日本マイクロソフトのワークライフチョイス チャレンジで地域活動での経験が仕事に役立ったというような意見はあったか」など様々な質問がパネリストに寄せられました。

参加者とパネリストの交流はその後の懇親会でも続き、多くの人がパネリストと今回のテーマとなった“より良い過ごし方”、“より良い働き方”について意見を交わしました。また、懇親会中には、異業種連携によるミレニアル世代の働き方改革推進コミュニティ「MINDS」の取り組みについて紹介され、参加者が熱心に耳を傾けていました。

今回のイベントの締めくくりとして、正能さんは「実は、幸せになるための第一歩は、今日のディスカッションのように“どうしたら幸せになれるのか”を自分の頭で考えてみることではないか。私たち含め、ここにいらしている皆さんは幸せに一歩近づいたかもしれないですね」とコメント。また石川さんは「幸せになれるかどうかは正直よくわからないが、“後悔しない人生”という最低ラインは突破したいと思っている。後悔しない人生とは、自分の心のままに人生を送ること。そのためには数々のジレンマを乗り越えないといけない」と呼びかけ、手島は「幸せになるか否か、自分の行動次第。テクノロジーがいくら進歩しても重要になるのは人との関係性。自分一人だけでは決して幸せにはなれない。膨大な情報が溢れる中で、それをひとりで消化することは不可能。人の関係性から良い影響を吸収することが大切になってくるのではないか」と提言しました。

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