マイクロソフトの海底データセンターが COVID-19 のワクチン探索を支援

※ 本ブログは、米国時間 6 月 16 日に公開された “Microsoft’s undersea datacenter helps the hunt for a COVID-19 vaccine” の抄訳です。

スコットランド オークニー諸島の海中に沈むマイクロソフトの実験データセンターでは、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) を引き起こすウイルス性タンパク質を解明し、ウイルスを止める治療薬を考案するという世界的な分散コンピューティングプロジェクトのワークロードを処理しています。

分散コンピューティングプロジェクトは、他では使われていないコンピュータの処理能力を活用し、大規模な科学研究に向けの特定タスクを実行しています。現在は、気候変動を解明するプロジェクトや、がんマーカーのマッピング、感染症対策といったプロジェクトが進行中です。このような動きが始まったのは、1990 年代後半に数万人が SETI@home のスクリーンセーバーをダウンロードし、地球外の無線信号を探そうとしたことがきっかけでした。

2000 年 10 月には、タンパク質の力学をシミュレーションする分散コンピューティングプロジェクトの Folding@home が始まりました。タンパク質は、生命に欠かせないさまざまな機能を実行する分子機械で、味覚や嗅覚、筋肉収縮、毛髪の成長などにも関わっています。その機能は、アミノ酸のつながりでできているタンパク質がどのように組み合わさって構造化されるかによって決まります。Folding@home のシミュレーションにより、治療薬が結合するウイルス性タンパク質の位置を特定するといったような大発見につながるかもしれません。

マイクロソフトの特別プロジェクト研究グループで技術スタッフの主要メンバーを務めるスペンサー ファワーズ (Spencer Fowers) は、「Folding@home は、COVID-19 関連の問題に初期から取り組んでいる分散コンピューティンググループで、迅速にワークロードを集約し、抗体を見つけ免疫を作り出す方法をあみ出そうとしています」と語ります。

ファワーズは、Project Natick というプロジェクトのテクニカルリードを務めています。同プロジェクトでは、1 年かけて環境面で持続可能なパッケージ化されたデータセンター設備を製造し運用することが可能かどうか調査しています。そのデータセンターは、サイズを注文して迅速に展開でき、電気を消したまま海底で何年も稼働できるというものです。スコットランド北部のノーザンアイルにある同プロジェクトのデータセンターは、輸送用コンテナほどの大きさで、2018 年 6 月より海底 117 フィートに沈められています。

ノーザンアイルで展開しているプロジェクトの主な目的は、864 台の標準データセンターサーバーが常時稼働する中で、システムの配管設備がどの程度適切に稼働温度を維持できるか調べることです。マイクロソフトのワークロードを処理していない時もサーバーを稼働させるため、ファワーズは分散コンピューティングのジョブを実行しているのです。

ファワーズが 2018 年にノーザンアイルにサーバーを設置したのは、IBM がスポンサーとして取り組んでいる分散コンピューティングプロジェクトである World Community Grid のジョブを実行するためでした。同プロジェクトでは、サハラ以南のアフリカで降水量をより的確に予測する方法や、体内のバクテリアがどのように病気を引き起こす可能性があるのか、またがんを発見し治療する方法を探るにはどうすればいいのかといったような大きな科学課題に取り組んでいました。

Folding@home が COVID-19 関連の研究の取り組みを発表した際、ファワーズはそのチャンスに飛びつき、ノーザンアイルのサーバーにソフトウェアを展開しました。

また、ファワーズはマイクロソフト社内の仲間と協力し、オフィスにある在宅勤務中の社員の PC でプロジェクトを展開できるようにし、Folding@home コミュニティと共にリモートからソフトウェアをインストールできるようにしました。

この取り組みは、マイクロソフトが AI for Health プロジェクトを通じて Folding@home を支援していることとは別に行っています。その AI for Health では、Folding@home が COVID-19 タンパク質のシミュレーションを実行するにあたり、Azure のコンピューティングリソースを提供したばかりです。この取り組みにより、潜在的な薬剤が結合するであろうウイルスの位置がすでに明らかになっていると、Folding@home のディレクターで セントルイスのワシントン大学にて准教授を務めるグレッグ ボウマン (Greg Bowman) 氏が、マイクロソフトのバーチャル開発者会議 Build 用に準備したビデオ内で述べています。

分散コンピューティングプロジェクトは、PC の余剰処理能力を消費するよう設計されています。Project Natick の貢献度が非常に高いと位置づけられているのはそのためだとファワーズは述べています。

ファワーズは、ノーザンアイルでの貢献度について、「われわれの貢献度が世界上位 1% に入りました」と話します。その理由については、サーバーが「100% このプロジェクトのために時間を注いでいるためです。常時ワークロードに対応していることから、大きく貢献できるのです」と述べています。

完全な Azure インフラを実行するマイクロソフトの商用データセンターでは、特定のニーズにあわせて用意された人工知能フレームワークなども含まれています。このようなデータセンターとは異なり、Project Natick は研究用データセンターで、そのサーバーは汎用的で数千台のハイエンド PC のようなものです。

「今回の COVID-19 によるパンデミックは、分散コンピューティングプラットフォームが今でも意味があることを示す例となりました」とファワーズ。それは、「迅速に導入できることもそうですが、参加者が貢献していると感じられるからです」と述べています。

トップ画像: マイクロソフト特別プロジェクト研究グループの技術担当主要メンバーであるスペンサー ファワーズ。スコットランドのオークニー諸島沖合で Project Natick のノーザンアイルデータセンターを展開しようと準備中。データセンターは、バラストが詰まった海底の三角ベースに固定されています。

写真提供: Red Box Pictures スコット エクランド (Scott Eklund)

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