会話からコードまで: マイクロソフト、GPT-3 による初の製品向け機能を発表

ジェニファー ラングストン (Jennifer Langston)
Microsoft Research & Innovation Writer

※ 本投稿は、米国時間 5 月 25 日に公開された “From conversation to code: Microsoft introduces its first product features powered by GPT-3” の抄訳を基に掲載しています。

マイクロソフトは、自社の開発者向けカンファレンス Microsoft Build で、OpenAI が開発した強力な自然言語モデル GPT-3 による初の顧客向け製品の機能を発表しました。本機能により、ユーザーは、コードや数式の書き方を知らなくてもアプリを構築できるようになります。

GPT-3 は、ローコードのアプリケーション開発プラットフォーム Microsoft Power Apps に統合されます。Microsoft Power Apps は、コーディングの経験がほとんどない人々、いわゆる「シチズンデベロッパー」や、プログラミングの専門知識が豊富なプロフェッショナル開発者によるビジネスの生産性やプロセスを改善するためのアプリケーション構築を支援し、非営利団体の寄付のレビューCOVID-19 期間中の旅行の管理風力タービンの保守に必要な残業の削減など、さまざまな用途で活用されています。

この AI を活用した新機能では、EC アプリを構築している社員が、たとえば、「名前が “Kids” で始まる商品を探す」といった音声でプログラミングの目的を説明できます。細かいチューニングが施された GPT-3 モデルは、たとえば、Filter (‘BC Orders’ Left (‘Product Name’,4) =”Kids”) のような、音声コマンドを Power Platform のオープンソースプログラミング言語 Microsoft Power Fx の数式に変換した選択肢を提供します。

マイクロソフトによれば、これは、Microsoft Azure 上で稼働し、Azure Machine Learning を活用した GPT-3 が、現実のビジネスニーズを全社的な規模で解決できることを示す最初の実装の 1 つであり、新しいマネージドエンドポイント機能の最初の社内利用事例の 1 つでもあります。

Power Fx は Microsoft Excel をベースに開発されているため、従来のプログラミング言語に比べてはるかに使いやすいとはいえ、複雑なデータクエリ作成の学習は困難なことがあり、この機能は学習曲線をなだらかにすることに貢献します。

マイクロソフトのローコードアプリケーションプラットフォーム担当コーポレートバイスプレジデントのチャールズ ラマンナ (Charles Lamanna) は、「このような高度な AI モデルを使用することで、マイクロソフトのローコードツールが、真の意味でのノーコードになり、さらに多くの人に利用されるようになるでしょう」と述べています。

独立系の AI 研究開発企業である OpenAI が開発した GPT-3 は、Azure 上でのみ動作する大規模な自然言語モデルです。

超大規模の AI モデルの要件を満足する Azure 上の初のスーパーコンピューターの共同開発や、新しい AI テクノロジのテストと商品化など、AI のブレークスルーの加速を目的とした OpenAI とのパートナーシップを通じて、マイクロソフトは GPT-3 モデルを支えるコードのライセンスを取得し、このテクノロジを自社製品に直接的に組み込むことができるようになりました。

「これにより、人々はこれまで不可能だった方法でデータを照会し、探索することができるようになりました。まるで魔法のような瞬間でしょう」とラマンナは述べています。

これらの「シチズンデベロッパー」は、これまでプログラミング言語を知る必要はありませんでしたが、たとえば、FirstN (Sort (Search (‘BC Orders’, “stroller”, “aib_productname”), ‘Purchase Date’, Descending), 10) といった数式のロジックを理解する必要はありました。

GPT-3 の新機能により、「商品名にベビーカー (“stroller”) が含まれる注文を 10 件表示し、購入日が新しいものから順に並べてください」といった平易な言葉によって同じ結果が得られます。

この機能は、実装コードを理解する必要性をなくすためではなく、Power Fx プログラミング言語の学習者に、必要な結果を得るための適切な数式の選択の支援を提供することを目的にしています。これにより、より高度なアプリ構築へのアクセスが飛躍的に拡大し、ローコードツールの学習期間が短縮されます。

今回の Build で発表されたこの新機能は、6 月末までに北米全域で英語版のパブリックプレビューが開始される予定です。

Power Apps 担当プロダクトマーケティングマネージャーのブリオニー ウルフ (Bryony Wolf) は、次のように述べています。「GPT-3 は、当社が保有する自然言語処理モデルの中で最も強力なものです。これを活用して、お客様を支援することにより得られる価値は計り知れません。自然言語をコードに変換する機能を、一般消費者向け製品で実現したのは、これが初めてです。」

GPT-3 は、マイクロソフトが、何 10 億ページもの公開テキストの学習に基づく AI at Scale の取り組みを通じて研究している新たなクラスのモデルの一部です。言語、文法、知識、文脈などのニュアンスを深く学習しているので、同じモデルでもテキスト生成に関連した幅広いタスクをこなすことができます。

昨年、OpenAI は、開発者が GPT-3 の機能を実験できるようにするための Azure 対応 API を公開しました。それ以来、人々は、詩やツイートの作成、記事の生成、電子メールの要約、トリビアへの回答、平易な言語からのコンピューターコードの生成など、あらゆることに API を活用してきました。GPT-3 の膨大な能力の発見は自然言語学習の可能性の限界を広げるものであったと、マイクロソフトの Azure AI 担当コーポレートバイスプレジデント、エリック ボイド (Eric Boyd) は述べます。しかし、このような大規模で複雑なモデルを、現実のビジネスニーズに合わせて高いコスト効率で展開できるかどうかについては、まだ疑問の余地がありました。

「私たちは、Azure などの主力製品にこのモデルを取り込む方法を模索しています。GPT-3 ができることは、まだまだ数多くあると考えています。これは、新しい可能性をもたらす根本的な新テクノロジであり、今回の事例は、その最初の兆しにすぎません」とボイドは述べています。

Power BI、Power Automate、Power Virtual Agents など、ビジネスの生産性を向上するローコードツールの開発にも取り組んでいる Power Platform チームは、会話文をコードに変換する GPT-3 の能力が、ソフトウェア開発の民主化、すなわち、ソフトウェア開発をより多くの人にとって分かりやすいものにするという中核的ミッションの推進に役立つことをすぐに理解しました。

ここでの目標は、コーディングや数式の表現などの定型的な作業を AI に支援してもらうことで、ツールの利用者の幅を広げるとともに、経験豊富な開発者が、ビジネスソリューションの本質を理解することや美しいインターフェースの構築などの、より付加価値の高い課題に集中できるようにすることです。

マイクロソフトは、Power Fx を Power Platform の他のツールにも導入することを計画しており、その際には GPT-3 による新たな自然言語処理機能がそれらの製品にも適用されることになります。

Power Platform チームは、Azure AI チームと緊密に連携し、Azure Machine Learning を使用して、自然言語と Power Fx の数式の間の変換を行う GPT-3 モデルにチューニングを施しました。

Power Platform 開発チームは、Build でプレビュー発表された新機能 Azure Machine Learning managed endpoints を使用しました。これは、基盤となるコンピューティングインフラストラクチャの複雑な管理なしに、あらゆる規模のモデルを Azure に展開できるようにするための機能です。社内の最初の使用例の 1 つとして、マイクロソフトの製品チームは、Power Apps ユーザーへの新機能提供の GPT-3 モデルの展開と管理に使用しています。

また、チームは、返される結果から、機密情報や不適切なコンテンツを検出するためのフィルターも追加しました。しかし、ラマンナによれば、この環境では、モデルは Power Fx の所定の計算式だけを生成するため、たとえば、自由形式の質問に対する答を生成する場合よりも、意図しない結果になる可能性は低くなります。

また、検索エンジンに質問を入力して、どの結果をクリックするかを決める時と同じように、GPT-3 は Power Fx の計算式を複数提案します。アプリ開発者は最適なものを選んで使用できます。

「いずれの場合も、ループの中には人間がいます。これは、開発者を置き換えるという話ではありません。世界から次の 1 億人の開発者を見つけるという話です」とラマンナは述べます。

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