デジタルテクノロジとウクライナでの戦争について

ブラッド スミス (Brad Smith)
プレジデント 兼 副会長

※本ブログは、米国時間 2 月 28 日に公開された ”Digital technology and the war in Ukraine” の抄訳を基に掲載しています。

マイクロソフトの従業員は皆、悲劇的で非合法かつ不当なウクライナへの侵攻について、情報を常に確認しています。今回の出来事は、物理的な戦争のみならずサイバー戦争にまで至っており、ウクライナ中から恐ろしい映像が流れてくるだけでなく、表には見えないコンピュータネットワークへのサイバー攻撃やインターネット上での情報操作活動も起こっています。この件について、また当社の活動について、さまざまな問い合わせが増えてきたことから、このブログで簡潔にまとめることにしました。ここでは 4 つの分野、サイバー攻撃からのウクライナ保護、国家による情報操作活動からの保護、人道支援へのサポート、マイクロソフト従業員の保護について言及しています。

はじめに、マイクロソフトは民間企業であって、政府でも国家でもないということです。このような状況では、政府関係者と協議を進めることが特に重要となるため、今回当社はウクライナ政府をはじめ、欧州連合や欧州各国、米国政府、NATO、国連と絶えず緊密に連携を取っています。

サイバー攻撃からの保護

マイクロソフトでは、企業として政府や国家をサイバー攻撃から守ることがグローバルにおける主要な責任のひとつだと考えています。この役割がこれほどまで重要になるようなことは、ウクライナにおけるこの 1 週間以前にはほとんどありませんでした。ウクライナでは、政府やさまざまな組織、そして個人の方々が、マイクロソフトのお客様であるためです。

2 月 24 日のミサイル発射や戦車移動の数時間前、Microsoft Threat Intelligence Center (MSTIC) では、ウクライナのデジタルインフラに対する攻撃的かつ破壊的なサイバー攻撃が新たに発生していることを検出しました。マイクロソフトはウクライナ政府に対し、新たなマルウェアパッケージ (当社で FoxBlade と命名) の使用を検知したことなどを含め状況をただちに報告し、マルウェアの目的達成を防ぐ方法について技術的なアドバイスを提供しました。(発覚から 3 時間以内で、脆弱性を狙ったこの新たな攻撃を検出するシグネチャが作成され、マイクロソフトのマルウェア対策サービス Defender を追加することで、この新しい攻撃の防御に役立っています。) ここ数日は、ウクライナ軍事機関や製造業者、その他ウクライナの政府組織など、さまざまな標的への攻撃について、脅威情報や防御策をウクライナ当局に提供しています。この活動は現在も継続中です。

このように、最近継続的に発生しているサイバー攻撃は標的を正確に定めており、2017 年の NotPetya 攻撃でウクライナ経済全体やその他の国にまで広がった無差別マルウェアの使用は確認されていません。それでも、ウクライナ民間組織のデジタル領域を標的にした最近のサイバー攻撃には強い懸念を感じずにはいられません。標的となったのは、金融や農業、緊急対応サービス、人道支援活動、エネルギー部門の組織や企業などさまざまです。こうした民間人をターゲットとした攻撃は、ジュネーブ条約に基づいて深刻な懸念を引き起こしており、マイクロソフトでもそれぞれの攻撃に関する情報をウクライナ政府と共有しています。また当社では、さまざまなデータを盗む最近のサイバー活動についてもウクライナ政府にアドバイスしています。ターゲットとなっているデータは、健康データや保険データ、交通関係の個人識別情報 (PII)、その他政府関連データなどです。

また、マイクロソフトは欧州の NATO 職員やワシントンの米国政府関係者とも適切な情報共有を続けています。これはすべて、マイクロソフトがこの数週間から数ヶ月間、ウクライナを標的としたサイバー活動への高まりに対応しようと取り組んできたことの一環です。ウクライナを標的としたサイバー活動には、以前公表した新種の破壊的マルウェアも含まれます。今後もマイクロソフトは、世界のセキュリティ関係者と共有すべき新たなマルウェアを発見した場合は、その詳細情報を公開する予定です。また、マルウェア対策サービスである Defender を含め、継続してマイクロソフトの全サービスを頻繁にアップデートし、他のお客様や国にまでマルウェア拡散の危険が及ばないよう保護します。サイバー攻撃を監視する幅広い取り組みは現在も継続中で、今後もウクライナのサイバー防衛当局への助言や防御支援を続ける考えです。

国家による情報操作活動からの保護

マイクロソフトでは、企業として国家による情報操作活動から身を守ることにも注力しています。このようなことは、昔から戦争中に行われてきました。ここ数日は、物理的な戦争はもちろん、情報エコシステムの中での組織的な戦いも見受けられるようになりました。そこでの武器は偽情報です。偽情報によって真実が曲げられ、不和や不信の種がまかれるのです。これには、テクノロジ業界全体での断固たる取り組みが必要です。企業単独での取り組みや他社と連携した取り組み、また政府や学界、市民社会とも連携した取り組みが求められます。

マイクロソフトでは、ロシアの国家としてのプロパガンダの露出を減らし、当社のプラットフォームがうかつにもこうした活動に資金提供することのないよう、新たな措置に向け迅速に取り組んでいます。最近の EU での決定に伴い、(MSN.com を含め) Microsoft Start プラットフォームではロシア国営企業の RT および Sputnik のコンテンツは表示しないこととしました。また、Windows アプリストアから RT のニュースアプリを削除するほか、Bing ではこれらサイトの検索結果のランクをさらに下げ、ユーザーが明らかにそのページに移動する意図がある場合のみ RT と Sputnik のリンクを返すようにします。そして最後に、マイクロソフトのアドネットワークでは RT と Sputnik の広告を全面的に禁止し、当社のアドネットワークからもこれらのサイトに広告を一切掲載しないこととします。

マイクロソフトは引き続き状況を入念に監視し、偽情報が拡散されないようにするとともに、独立性の高い信頼できるコンテンツの奨励に向け、検知と破壊のメカニズムを強化すべく取り組んでいきます。

人道支援へのサポート

いかなる戦争においても悲劇的な結果をもたらすのは、一般市民への影響です。その影響は、その場で避難する人や家族、そして安全のため別の場所に逃れる避難民にも及びます。ウクライナで起きている最近の出来事は、マイクロソフトによる世界各地の紛争地での支援活動が人々に与える影響を目に見える形で世界に示しています。マイクロソフトの慈善活動組織である Microsoft Philanthropies と国連担当チームでは、赤十字国際委員会 (ICRC) や複数の国連機関と緊密に連携し、ウクライナの人たちを支援すべく迅速にリソースを送り込んでいます。

マイクロソフトは、自社のテクノロジやスキル、リソース、そして発信力を活用し、人道的対応活動の支援に真摯に取り組んでいます。まずは近隣諸国への避難民を支援するために、重要な活動を行っている ICRC などの人道支援団体をサポートすることに注力しています。また、マイクロソフト災害対策チームも活動を開始して技術的なサポートを提供しており、増員された緊急救援担当者とも頻繁に連絡を取りつつ支援を行っています。

また、マイクロソフトの他の事業も活用し、一般の人たちが人道支援団体を探し出し、手を差し伸べられるようサポートしています。さらに、マイクロソフトの従業員寄付プログラムで寄付を呼びかけたところ、米国や欧州全域、そして世界中の従業員から溢れんばかりの寄付が寄せられています。従業員からの寄付と、マイクロソフトがその額に応じて上乗せした寄付金は、現在のところ ICRC やユニセフ、ポーランド人道協会など、主に最前線で活動を展開する非営利団体に資金提供しています。この先も数日から数週間は、全社で必要に応じて追加のリソースを送り込むべく取り組みを続けます。

従業員の保護

マイクロソフトでは、ウクライナ、ロシア、東ヨーロッパなど、世界中に従業員を抱えています。また、ウクライナやロシア出身の従業員も多く、西ヨーロッパや米国を含めさまざまな場所で働いています。

最近発生している他の紛争時にも見受けられたことですが、マイクロソフトの従業員には、出生地やパスポートを持つ国に関係なく、国境を越えて平和を願い、互いの幸せを気遣う共通の絆や人道的精神があります。広範なサイバー攻撃から身を守るための積極的な取り組みはもちろん、他人を助けるために何ができるかを尋ねるというささやかな親切なども含め、最悪の日々が人の持つ最善の心を引き出すということを、毎時間思い知らされています。

マイクロソフトでは、他の多国籍企業と同様、従業員の保護に真摯に取り組んでいます。このことはウクライナの従業員にとって明白なことであり、極めて重要なことでもあります。その一環としてマイクロソフトは、継続的に従業員とその家族の支援に尽力しています。その対象者には、生命や安全を脅かされたことで避難を余儀なくされた従業員や、ロシアの従業員も含まれます。この戦争を始めたのはロシアの従業員ではありませんし、雇用主による保護活動や自ら制御しようのない政府の決定が原因で、従業員が国内外で差別されるリスクを負うべきではないと考えています。またマイクロソフトは、状況を注視しているより広範な地域の従業員のサポートにも引き続き尽力します。マイクロソフトは企業として、あらゆる国の従業員を安全に保護するよう努めています。従業員が紛争地と指定された国の反対側に住んでいてもその姿勢は変わりません。

将来を見据えると、デジタルテクノロジが戦争と平和の双方で重要な役割を果たすことは明らかです。マイクロソフトは他の多くの人たちと同様、平和の回復とウクライナの主権の尊重、そしてウクライナの人たちの保護を求めています。そして、デジタルテクノロジが国や国民を保護するために使われるようになり、全員が互いに最善を尽くせるような未来に目を向けるだけでなく、そうした未来を実現すべく取り組んでいきます。

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