変化が絶えない時代の中で、独自のソリューションを構築する際に役立つソフトウェアや、重要なことに集中できるような人工知能ツールへの期待が高まっています。
※本レポートは、米国時間 1 月 26 日に公開された “Four Ways Leaders Can Empower People for How Work Gets Done” の抄訳を基に掲載しています。
サプライチェーンの混乱や、経済的逆風、さらにはハイブリッドワークへの見込みの変化など、過去数年間の急速な変革により、これまでの仕事や生活は根本的に変わりました。組織が俊敏性とレジリエンスを保つには、これまで以上に効率的で柔軟に働けるようなツールが従業員に用意されているかどうかが鍵になるといえるでしょう。
この変化は、チームに大きな負担をかけることや、イノベーションの優先度を下げることではありません。より効果的に働き、摩擦を軽減するプロセスとツールで最高の仕事ができるようにすることです。また、イノベーションと創造性を引き出し、雑務を減らしてすべての人がそれぞれ重要な仕事に集中できるようにすることです。
マイクロソフトは、従業員が現在使用しているデジタル生産性ツールや今後の成功に必要なツールについてどう感じているのか把握するため、調査を実施しました。この調査は、米国、英国、日本の企業などに所属されている従業員 2,700人と、ビジネス意思決定者 (BDM: Business Decision Makers) 1,800 人を対象に実施し、現在使用しているツールで能力が高まったと感じるか、柔軟な働き方をする中で効果的なコラボレーションができる環境が整っているか、 AIやローコード、ノーコードといった新しいテクノロジで課題を解決し、新たな機会を切り開くことはできるのか、といった質問を用意しました。
この調査は、マーケティングやセールス、カスタマーサービス、金融、サプライチェーン、IT など、さまざまな職種や業種を対象に実施しました。また、ハイブリッド環境で働く従業員も対象とし、調査対象者の約 3 分の 2 は自宅で仕事をしているか、オフィスではパートタイムでの勤務となっています。この調査結果は、現在テクノロジがいかに役立っているか、また障壁になっているかを示すとともに、従業員に活力と能力を与え、生産性を高めるにあたってリーダーが採用すべきツールやプロセスに関する新たなインサイトを提供するものです。
今回の調査では、2023 年にビジネスリーダーの指針となるであろう 4 つの重要な原則が明らかになりました。
- 新しいテクノロジに取り組む際には、従業員により多くの意見を出してもらうようにする
- コラボレーションアプリを活用してつながりを保ち、仕事の流れの中で情報を共有する
- 組織全体でローコードツールを使えるようにし、イノベーションを加速する
- AI を導入して雑務を自動化することで、従業員の充実感とエンゲージメントを高める
1.新しいテクノロジに取り組む際には、従業員により多くの意見を出してもらうようにする
従業員は現在、より優れたデジタルツールを求めています。87% の従業員は、DX の推進がこれまで以上に重要だと考えていますが、その取り組みにおいて自ら意思決定する立場にあると答えた従業員は半数 (54%) にとどまっています (BDMでは 94%)。回答者は、所属チームが最も恩恵を受けるソリューションとして、俊敏性を高めるソリューション (84%)、組織全体で情報にアクセスしやすくなるソリューション (86%)、タスクを自動化できるソリューション (86%) を挙げており、こうしたソリューションによって重要な仕事に集中する時間ができると考えています。
しかし現在は、組織内の異なる部門でそれぞれ異なるソフトウェアが使われているといったように、古いテクノロジがサイロを生み出していることから、DX の目標に関する情報の共有が難しく (72%)、既存のツールによって管理業務や雑務が増えている (74%) 状況です。
従業員のエンパワーメント
組織全体で関係者が求めているのは、DX の取り組みにおいて従業員の発言力を高めることです。
このような状況になってしまったのは、経営陣や技術部門がビジネスソフトウェアやツールの優先的な投資先として考えているものと、さまざまな場所に分散している従業員の実際のニーズとの間にギャップがあることが要因です。調査対象となったビジネス意思決定者の 84% は、こうした DX プロジェクトが最優先事項であると答えていますが、そのプロセスに自分は関与していないと答えた従業員が 61% にのぼります。また、従業員の 70% は、組織のポリシーにより、自らデジタルソリューションを積極的に検討し実施することが制限されていると回答しています。
マイクロソフト リサーチでパートナーを務めるニコル フォースグレン (Nicole Forsgren) は、「テクノロジは簡単だが人間は難しい、という言葉があります」と述べています。人は本来、組織で最も重要な存在ですが、最も複雑な存在でもあるためです。「すべての権限を奪われ、貢献できず、意思決定もできないとしたら、本当にやる気が失せてしまいます」
その結果、組織がデジタルソリューションにどのような投資をしても、多くの個人はこの件についてあまり発言権がないという断絶が生じます。従業員はこの取り組みについて、IT 部門が主導するものから、組織の全従業員が主導するものに移行してもらいたいと強く希望しており、回答者の 85% が、IT 部門や上級管理職だけでなく全部門の従業員がこの取り組みに関わるべきだと答えています。
リーダーにとって重要なのは、チームが新しいツールを要求できるようなシステムとプロセスを整備することです。これを実践しているある企業について、フォースグレンは次のように述べています。「その企業には、ゴールド、シルバーといった異なる階層の内部サポート構造があり、そこで従業員がツールの拡張や廃止を提案できるようになっています」
推奨されるアクション:
- デジタルビジネスへの投資に従業員を関与させ、継続的なフィードバックループを構築して卓越性を追求すること。
- ローコードツールの採用を加速させてイノベーションを促進し、従業員が新たなスキルを習得できるよう支援すること。
2.コラボレーションアプリを活用してつながりを保ち、仕事の流れの中で情報を共有する
柔軟な働き方は今後も定着するでしょう。調査対象となった従業員の 3 分の 2 (66%) は、会社の拠点で働くか、自宅などのリモート拠点で働くか選択肢が与えられており、そのように回答した人はほぼ全員 (91%) が少なくとも週に 1 日か 2 日はリモート拠点で働いていると答えています。
組織がこの新しい働き方を実践する中、85% の従業員は自社の DX への取り組みに特に必要なものとしてコラボレーションツールを挙げています。マイクロソフトでビジネスアプリケーション担当コーポレート バイスプレジデントを務めるエミリー ヒー (Emily He) は、「コラボレーションはマインドセットです」と話します。「顧客対応している時も、サプライチェーンの問題解決に取り組んでいる時も、人は皆、同僚やパートナーとその場でコラボレーションしたいと考えているものです。実施する業務すべてにコラボレーション機能を投入し、組み入れておく必要があるのです」
統合は不可欠
日々の業務と統合されていない断片的なツールではなく、単一の統合されたプラットフォームが求められています。
同時に 59% の従業員は、コラボレーションに使用しているツールが、チームの求める働き方に合っていないと感じています。また、64% の従業員は、ツールが日々のプロセスと統合されていないため、チーム間のコラボレーションが困難だと答えており、ほぼ 4 人に 3 人 (72%) がコラボレーションに使用するツールについて、複雑に断片化されているのではなく相互互換性があってほしいと考えています。さらに、少なくとも 10 人中 7 人が、企業が対応すべき重要な課題として、データの不正確さや、分散したデータにアクセスし共有できないこと、チームが異なるデータセットを基に作業していることを挙げています。
Lopez Research の創設者 兼 主席アナリストのマリベル ロペス (Maribel Lopez) 氏は、現在の仕事の性質そのものがハイブリッド化したことで、問題がより複雑になっていると語ります。コラボレーション ツールは、従業員が自宅にいようとオフィスにいようとその中間にいようと、どこでもシームレスに機能する必要があるとロペス氏は指摘します。多くの人はパソコンの前に座っているわけではないのです。「小売業であれば、フロアを歩き回って接客しています。そのような人が持ち歩くテクノロジは、リアルタイムで情報共有でき、その情報にアクセスできるものでなくてはなりません」
どのようなものが最適かを尋ねたところ、回答者のほぼ 10 人中 9 人 (86%) が同じソリューションを挙げました。それは、チームがさまざまな形でコラボレーションできる単一の集中型プラットフォームまたはポータルです。
こうしたソリューションにより、人間同士のサイロが解消されるだけでなく、組織全体でデータへのアクセスや共有が容易になり、共同作業も楽にできるようになります。今後 1 年間に組織が直面すると思われる課題を考えると、このことは特に重要です。
推奨されるアクション:
- 組織で現在使用しているコラボレーション ツールの監査を行い、ギャップと改善すべき領域を特定すること。
- 従業員と共同で理想的なコラボレーション ツールの KPI を構築すること。その際に、従業員と企業側双方のニーズを反映した必須事項のリストを作成すること。
- リソースを一元化して整理することで、一貫性のある最新データを使用できる状況にし、効率と統合性を改善すること。
- コラボレーション機能を仕事の流れに組み込むことで、同僚やパートナー、お客様と協力して問題を効率的に解決できるようにするとともに、他のシステムからコンテキスト情報にアクセスできるようにすること。
3.組織全体でローコードツールを使えるようにし、イノベーションを加速する
IT プロジェクトが滞っていたり、資金が不足していたり、常に「もうすぐ始まる」状態になっていたりする状況下では、ノーコードやローコードのツールが中心的な役割を果たすようになります。このようなツールによってプロセスが自動化され、ほとんど、もしくはまったくコーディングすることなく独自のアプリを作成できるようになり、イノベーションへの道が切り開かれ、調査で回答者が挙げたさまざまな不満が解決できるようになります。
衣料品大手の H&M は最近こうしたツールを活用し、衣料品デザイナーからソフトウェア エンジニアに至るまで、何千人もの従業員が自ら必要なソリューションを構築できるようにしています。マイクロソフトのヒーは、「自分のアイデアを人が触って使えるものに変えられるかどうかで将来が決まります」と話します。「一般的に従業員は DX を享受する側にいますが、今は新しい段階に入っています。つまり、従業員が課題を自ら取り上げ、ローコードやノーコードのツールを使って新しいアプリを作り、お客様との関わり方やプロセスの管理、ビジネスインサイトの入手方法などを新たな手法で試す段階に突入したのです」
ローコードでレベルアップ
ローコードツールにより、これまで開発チームが必要だった作業を自らできるようになりました。
とはいえ、回答者の 4 人中 3 人以上 (77%) は、目標達成に役立つデジタルソリューションを構築するにあたり、ローコードおよびノーコードのツールをもっと利用できたらいいのにと考えています。また、回答者の 84% は、コラボレーション ツールでチームのニーズに合ったカスタムビルドのアプリが作成できれば、効率的にコラボレーションができると考えています。
フォースグレンは、「ノーコードツールやローコードツールは、シンプルで簡単、そして迅速性の高いツールです」と述べており、こうしたツールが (例えば書類を確認する必要のある次の担当者に自動的にメッセージを送るといったような) ワークフローの自動化や請求プロセスの自動化、さらには Excel のマクロを利用した週報の作成など、あらゆるタスクの処理に役立つとしています。
ローコードツールを利用している 10 人中 9 人近くが、ツールによって反復的な作業や単純作業が自動化でき、コストが削減され、分析力とデータ管理能力が向上し、イノベーションが促進されると回答しています。マイクロソフトの 2022 年ローコード トレンドレポート (2022 Low-Code Trend Report) では、80% 以上がローコードツールによって、以前は開発チームが必要だった作業が自らできるようになったと回答しています。また、調査対象のビジネス意思決定者の半数近く (46%) が、こうしたツールによって組織の DX の取り組みの中で従業員がより直接的な役割を果たせるようになったと強く感じています。
推奨されるアクション:
- ローコードおよびノーコードツールの普及促進に向け、従業員やツールを使用したユーザーのケーススタディを盛り込んだリーダー向けの学習アジェンダを作成すること。
- 組織を横断する取り組みの拠点 (center of excellence) を設けることで、ローコードおよびノーコードツールのトレーニングと能力向上を目指すこと。また、同拠点にてお客様が構築したアプリを共有し、実践コミュニティを構築し、一元的なガバナンスやコンプライアンス、セキュリティを提供すること。
4.AI を導入して雑務を自動化することで、従業員の充実感とエンゲージメントを高める
仕事のあらゆる場面でコラボレーションが促進できる優れた手法を模索する中で、人と関わる時間を妨害するような反復作業を削減したいと考えるのは当然の流れです。10 人中 9 人近く (85%) の回答者は、コラボレーション ツールと統合された自動化機能の向上を求めており、これによって重要な仕事により多くの時間を割くことができると考えています。
AI ソリューション
回答者は、AI によって重要な仕事に取り組めるようになることから、AI ソリューションをより多くのタスクやアクティビティに適用したいと考えています。
一般的なコンタクトセンターでの典型的な通話を考えてみてください。「通話の 50% 以上がパスワードのリセットに関連するものだという IT サービスデスクやカスタマーサービスセンターが本当に多いのです」とロペス氏は述べています。
こうしたやり取りを自動化することで、従業員とお客様の体験は大幅に改善でき、それが企業収益の向上にもつながります。「担当者がより簡単にお客様をサポートする方法にたどり着くことができれば、お客様の満足度が上がり、従業員の定着率も高まります」とロペス氏。「これにより、従業員 1 人あたりのコストが何百ドルも抑えられるのです」
AI についても同じことが言えます。国際的な運動器具メーカーの iFit は、Microsoft Supply Chain Center をはじめとするさまざまな AI ツールや機械学習ツールを活用し、ランニングマシンやフィットネスバイク、クロストレーナー、ローイングマシンなどの在庫をどこに配置するべきか把握しています。
これまで同社では、お客様に製品を数日以内に届けるために、数多くのマイクロフルフィルメントセンターのうちどの製品の在庫をどこにストックしておくべきか、スプレッドシートとピボットテーブルを使用して判断していました。iFit で輸送および倉庫担当バイスプレジデントを務めるロバート クリッチリー (Robert Critchley) 氏は、この手法が「手作業による痛み」を伴うとしており、人為的ミスも発生していたといいます。「長年われわれは新聞を見て、『ここで先週何が売れたか、来週は何が必要か』を話し合っていました」とクリッチリー氏。それが今では、「その面倒な作業を AI が担当しています。しかも、とても迅速に行われているのです。AI を使えば、特定の地域でどの製品が売れそうか正確に把握できるため、需要を見越して最寄りの倉庫に在庫を配置できます。それに、手作業でやっていた時より 70% も精度が上がっているのです」
現状では、調査対象となった従業員の 3 分の 1 近く (30%) がこのような利点を活用できていません。一方、自動化ツールや AI ツールを利用している回答者の大半 (89%) は、本当に重要な仕事に時間を割けるため、充実感が高まったとしています。また、タスクを自動化できることで、他チームとよりシームレスに仕事ができると考えており (88%)、問題解決が改善したのは AI 機能のおかげだと評価しています (54%)。結果、10 人中 9 人 (89%) は、さらに多くのタスクやアクティビティに AI ソリューションを適用したいと答えています。
推奨されるアクション:
- 自社のデジタル能力を評価し、AI や自動化によってビジネスプロセスが改善できる部分を特定すること。
- データセンターやクラウドなど、データの保管場所にかかわらず、これまでサイロ化されていたデータを統合すること。これにより、チームが簡単に情報にアクセスして共有し、インサイトを得てビジネスアクションへとつながる行動ができるようにすること。
- 単純作業を自動化に向けて、Microsoft Dynamics 365 や Power Automate などの AI 搭載ツールを検討すること。
重要なポイント
調査結果から、面倒な作業を削減し、目の前の業務に集中しやすくする、デジタル生産性ツールが求められていることが明らかになりました。また従業員は、これらのツールをどう選択し導入するかについての発言権も求めています。そして何より、どこで仕事をするにしても直感的で使いやすく、シームレスなコラボレーションと効率的な作業を実現できるツールを求めているのです。
「最終的な目標は、組織内の誰もが必要な情報にアクセスできるようになり、コーディングの方法やデータサイエンティストになる方法がわからなくても、自分が役立つと思う方法で情報をまとめられるようにすることです」とロペス氏は話します。「それが未来の仕事の姿なのですから」
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