アリサ テイラー (Alysa Taylor) Azure ＋ Industry 担当 コーポレートバイスプレジデント
※本ブログは、米国時間 10 月 10 日に公開された、”Microsoft introduces new data and AI solutions to help healthcare organizations unlock insights and improve patient and clinician experiences” の抄訳を基に掲載しています。
どの業界であっても、目標を達成するためには独自の洞察が不可欠であり、データの力を引き出すことこそが組織の成功の鍵です。このことは、健康アウトカムの改善、患者と臨床医の体験の向上、医療システムの組織パフォーマンスの向上など、データが多くの価値を提供できる可能性が高いヘルスケア業界において特に当てはまります。患者や国民の健康が意思決定プロセスの中心にある場合、適切なデータ戦略を導入することで、人々の生活を変えるほどのインパクトを与えることができます。
ヘルスケア関連データは急速に増加し続けており、ヘルスケア組織は、データの量、多様性、リアルタイム性の増大への対応に苦慮しています。World Economic Forum によると、病院では年間 50 ペタバイトのサイロ化されたデータが生成されています。これは約 100 億の音楽ファイルに相当する量です。しかし、このようなデータの 97 パーセントは使われることなく、多くの貴重な洞察が封印されたままになっています。これらのすべてのデータを有効に活用することが、臨床と業務におけるブレークスルーを達成し、患者の生活と長期的なヘルスケア体験に有意義な変化をもたらすための鍵です。そして、ヘルスケア組織が、確固たるデータ戦略がなければ AI の可能性のほんの一部しか実現できないことを認識している中で、この AI の新時代におけるデータの重要性はますます高まっています。
HLTH 2023 カンファレンスにおいて、マイクロソフトは、ヘルスケア組織がより効率的に、かつ、低コストで高品質の医療サービスを提供しながら、患者と臨床医の体験向上にフォーカスできるよう支援する、データと AI の新ソリューションと機能を発表します。これらのソリューションを組み合わせることで、ヘルスケア組織は、データと AI 戦略に対する統一された安全で責任あるアプローチを獲得し、Microsoft Cloud for Healthcare の広範かつ大規模な利点を活用できるようになります。
統合データ分析によるビジネス価値と患者ケア向上の推進
今年の 5 月に、マイクロソフトは、企業がデータの潜在的価値を引き出し、AI 時代の基盤を築くために必要なすべてのデータとアナリティクスツールを統合したエンドツーエンドの統合アナリティクスプラットフォーム Microsoft Fabric を発表しました。本日、Microsoft Cloud for Healthcare を通じて、共通のアーキテクチャと体験によりデータと洞察を統合できる、初の Fabric 内業界データソリューションを発表します。現在、プレビュー版として提供されている Fabric のヘルスケアデータソリューションは、テキスト、画像、動画など、複数のヘルスケア関連データソースをつなぎ合わせるという、コストと時間を要する複雑なプロセスを排除し、組織全体でデータ主導型の洞察にアクセスし、分析し、可視化するための安全に管理された方法を提供します。
Microsoft Fabric はヘルスケア組織に以下の機能を提供します:
- 電子カルテ (EHR)、画像保存通信システム (PACS)、検査システム、請求システム、医療機器など、これまで組織内で縦割り化していたデータソース内のデータを統合する能力。このソリューションは、構造化データ、非構造化データ、画像データ、医療機器データを、FHIR、DICOM、MedTech サービスを使用したオープンデータ標準によって Fabric データレイクに取り込むことで、単一の共通アーキテクチャを提供します。さらに、コネクターとコンバーターにより、FHIR、DICOM、MedTech データのフォーマット変換や、特定のユースケースのためのパイプライン構築が容易になります。
- 標準化されたスケーラブルなソリューション構築により、臨床および業務上の重要な洞察を明らかにするプロセスを加速し、最終的に患者ケアの向上を促進する、マルチモーダルなデータ基盤。Fabric は、ヘルスケア関連データを保存し、AI モデルの構築と実行、および洞察の導出に使用できる単一のデータエステートの作成を支援します。
- OMOP (Observational Medical Outcomes Partnership) アナリティクスなどの標準機能が臨床研究を支援し、患者アウトリーチアナリティクスが患者への個別エンゲージメントの提供に貢献します。
- 新たに提供される匿名化サービスにより、企業は臨床データを匿名化し、機械学習モデルを使用して、医師のメモ、医療文書、臨床試験研究などの非構造化データから洞察を引き出しながら、識別子を抽出、修正、代替することで、患者の保護医療情報 (PHI) のプライバシーを保つことができます。
- さらに、Microsoft Purview (プレビュー版) に組み込み済みのヘルスケア業界特有の分類ルール、ラベル、データ用語集により、ヘルスケア組織はデータ資産全体を管理、保護、統制できます。
あらゆるヘルスケア組織が、Microsoft Fabric を活用可能であり、早期導入企業は、すでにアナリティクスプラットフォームを活用して、重要なユースケースの推進を計画しています:
- シカゴを代表する統合型アカデミックヘルスシステムである Northwestern Medicine は、さまざまなソースの臨床データを統合し、情報交換のための規制を満たし、データと AI によって洞察を引き出し、質の高いタイムリーなケアで患者第一のミッションを果たすために、Fabric のヘルスケアデータソリューションを活用していきます。
- Arthur Health は、Ontario Workers Network (OWN) のために、Quisitive と提携し、Fabric を使用してケア段階予測モデルを提供する計画です。OWN は、Ottawa Hospital を含む州の病院ネットワークであり、経験豊富な臨床医を擁し、それぞれの地域で働く労働者に世界水準のケアを提供しています。
- シンガポール最大の公的医療機関ネットワークである SingHealth は、Fabric のヘルスケアデータソリューションのパワーを、自組織の基盤となるデータインフラに活用することを目指しています。これにより、ヘルスケアサービスの提供体制を変革し、国民や患者に優れたケアとサービスを提供することで、患者が自ら健康や医療を管理できるようになります。
Microsoft Fabric は、ヘルスケア業界が長年抱えているデータ分断化の問題を解決するための一歩です。Fabric のデータソリューションに関する追加情報はこちらをご参照ください。
患者を支援し、医療専門用語を解説する新しい AI 機能
Azure AI サービスでは、組織が AI の価値を最大化し、患者の予後にプラスの影響を与えられるよう支援する新しいヘルスケア関連機能がリリースされます:
- 臨床医と研究者が十分な情報に基づいた意思決定を行えるよう支援 – Azure AI Health Insights は、臨床医や研究者がヘルスケアの重要シナリオで患者ケアを促進するために確認・使用できる分析処理と推論を行う事前構築モデルを提供するコグニティブサービスです。
プレビュー版では 3 つの新モデルが提供されます。患者タイムラインは、生成 AI を使用して、投薬、診断、処置などの非構造化データから重要なイベントを抽出し、それらを時系列で整理することで、臨床医が患者の病歴をより正確に把握し、より良いケアプランを提供できりよう支援します。臨床報告書簡素化機能は、生成 AI を使用して、患者を含む他者と共有できるよう、臨床情報の本質を維持しながら、医療専門用語を簡単な言語に変換する機能を臨床医に提供します。ラジオロジーインサイトは、エラーや矛盾に関するフィードバックを通じて、品質チェックを行います。また、このモデルは、放射線科医が記録した測定値 (サイズ) を用いて、臨床文書内のフォローアップ勧告と臨床所見を特定します。
- ヘルスケア業界向けチャットボットとバーチャルアシスタントに生成 AI を導入 – Azure AI Health Bot のこの新しいプレビュー機能は、ヘルスケア組織に、独自のソースからの回答に加えて、米国国立衛生研究所や米国食品医薬品局などの信頼できるソースからの回答も提供する生成 AI によって、既存ワークフロー向けにカスタマイズ可能な、すぐに使えるヘルスケアインテリジェンスを提供します。
- 重要な洞察を特定するためのヘルスケア関連データの抽出とラベリング – Azure AI Language サービスの Text Analytics for health は、機械学習インテリジェンスを適用して、さまざまな非構造化テキストから重要な医療情報を抽出し、ラベル付けします。新たにリリースされた業界向けオープンソーステンプレートには、集団衛生、Azure OpenAI Service を使用した患者集団 Q&A、臨床試験の患者コホート、大量履歴データ処理などがあります。
AI を活用したソリューションが、質の高い個別ケアを提供できるよう臨床医を支援
米国の医療システムは、管理業務の負担とそれに起因する臨床医の疲弊を軽減するため、AI を活用したソリューションに注目しています。Medscape による 2023 年度調査によると、医師の燃え尽き症候群は 2018 年の 42％ に対し、2023 年には 53％ に上昇しています。このような問題に対処し、臨床医が質の高い個別ケアの提供に専念できるようにするため、マイクロソフトは、Dragon Ambient eXperience (DAX™) Copilot (旧名称 DAX Express) の一般提供開始を発表しました。
DAX Copilot は、世界中で 55 万人以上のユーザーに利用されている Nuance Dragon のソリューションファミリーの一部であり、臨床医が診察室や遠隔医療での会話から数秒で臨床サマリーの草稿を自動的かつ安全に作成し、すぐにレビューし、EHR に入力できるようにしてくれます。
Atrium Health は、Nuance DAX Copilot を展開した最初の企業であり、40 の病院と 1,400 以上の介護施設から成る組織全体にライセンスを拡大する予定です。すでに、同社の医師は、患者の診察のための文書作成作業に要する時間を確実に節約できていると報告しています。より具体的には、Atrium Health の臨床医は、この高度な文書化技術によって、すでに 1 日あたり 40分 の時間を節約していると報告しています。さらに、68％ が、ケア体験が向上したと認識しています。
データと AI の時代における Microsoft Cloud for Healthcare
Microsoft Cloud for Healthcare を通じて、データと AI におけるこれらの業界イノベーションをさらに強化します。Microsoft Cloud for Healthcare により、ヘルスケア組織は Microsoft Cloud を業界固有のデータソリューション、アプリケーションテンプレート、AI サービスで補強し、データと AI の長期的取り組みを加速できます。また、マイクロソフトのオファリングは、信頼できるパートナーとの比類なきグローバルエコシステムによるカスタマイズも可能です。マイクロソフトは、ヘルスケア業界のお客様が独自のビジネス課題に対応するための完全なソリューションを提供できるよう、トップクラスの ISV やシステムインテグレーターと協力しています。
マイクロソフトのヘルスケアソリューションは、信頼と Responsible AI の原則を基盤として構築されています。これらのイノベーションを通じて、マイクロソフトは、ヘルスケア組織が、あらゆる治療現場で一貫した体験を創出し、コラボレーションを促進するツールを提供し、医療従事者を支援し、医療業界にとって重要なデータ標準を使用して臨床データと業務データから価値を引き出せるよう支援していきます。
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