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「森の中にある風変わりな機械」が新しいマイクロソフトのキャンパスの地下でクリーンエネルギーに触れる時

ヴァネッサ ホ― (Vanessa Ho)

※本ブログは、米国時間 2021 年 3 月 16 日に公開された “Unusual ‘machine in the woods’ taps clean energy deep underground for new Microsoft campus” の抄訳を基に掲載しています。

ワシントン州レドモンドのマイクロソフトキャンパス (マイクロソフト コーポレーション 本社オフィス) では、古い建物が倒され、新たな鉄骨が建てられています。72 エーカーの土地に最新のオフィスが建設されようとしているためです。作業員がむき出しの土を削り、300 万平方フィートにおよぶ美しい職場と設備を形にしていきます。

しかし、プロジェクトの一角で建設作業員は別のことにも取り組んでいます。それは、泥の穴に数百個もの深い井戸を掘り、最終的にその上に草木を植えるというものです。

この秘密の井戸は、新しい建物の冷暖房を担う大規模システムの基盤となります。その冷暖房システムは、従来とは異なるクリーンエネルギーを使用します。つまり、地面の下の温度が一定であることを利用するのです。地表から 550 フィートの深さまで掘った井戸は、シアトルの Space Needle とほぼ同じ深さになりますが、地球の熱エネルギーを活用する米国最大級の「ジオエクスチェンジ (地熱交換)」の場となります。また、地球を救うというマイクロソフトが掲げる意欲的なゴールに向けてもこれらの井戸が大きな役目を果たします。

マイクロソフトの不動産部門でグローバルサステナビリティリードを務めるケイティ ロス (Katie Ross) は、「新キャンパスでは、日々のオペレーションでゼロカーボンを実現したいと考えていました」と話します。「そのため、建物の冷暖房のニーズにどう対応するか、既成概念にとらわれないアイデアが必要でした。ジオエクスチェンジ技術にたどり着いたのはこうした背景があるのです」

ワシントン州レドモンドのマイクロソフトキャンパスで行われているジオエクスチェンジの工事
ワシントン州レドモンドのマイクロソフトキャンパスで行われているジオエクスチェンジの工事 (ダン デロング (Dan DeLong) 撮影)

このシステムは、熱エネルギーセンター (Thermal Energy Center) と呼ばれており、集中型でほぼ完全にカーボンフリーです。ただ、520 エーカーにもおよぶマイクロソフト本社の一部を数年かけて再開発するというキャンパスモダナイゼーション計画に、当初このシステムは含まれていませんでした。最初の設計では、天然ガスを燃料とした、より一般的な公共設備を新しい建物に採用する予定だったのです。

しかし、キャンパスというオフィスビル群でも築 34 年となった部分を再開発するにあたり、マイクロソフトは環境への影響を創造的に考えるきっかけを得ることになりました。

日々のオペレーションで化石燃料を排除するには、キッチンや冷暖房システムから天然ガスを取り除かなくてはなりません。一度に多くの建物を開発していたため、冷暖房機能を 1 か所に集中させ効率化することができました。また、これまでキャンパスではオープンスペースや緑地スペースを強化していたことから、土地は豊富にありました。

ワシントン州レドモンドのマイクロソフトキャンパスで行われているジオエクスチェンジの工事
ワシントン州レドモンドのマイクロソフトキャンパスで行われているジオエクスチェンジの工事 (ダン デロング (Dan DeLong) 撮影)

「マイクロソフトでサステナビリティ業務や今回のプロジェクトに携わっている中で、特に面白いと感じているのは、即興コメディゲームの『Yes, and』のようだからです」とロスは語ります。

「セントラルシステムの導入を決めた時は、『そうだ、電気式にしよう』となりました。次に、『そうだ、ジオエクスチェンジの井戸にしよう』となり、さらに『そうだ、屋根にソーラーパネルを設置し、キャンパス内でそのことについて学べるセンターとして打ち出そう』となりました。このようないくつもの考えにはとても刺激を受けます。私たちは常に異なる考え方や革新に向け挑戦しているからです」

こうしたプロセスを経て、2.5 エーカーの土地に 875 個の地中井戸を設置するという現在の設計に至りました。配管は 220 マイル以上にもおよび、井戸や新キャンパスの閉鎖循環システム全体に対し熱交換媒体として 30 万ガロンの水を循環させます。3 階建ての熱エネルギーセンターには、巨大な冷却機や冷却塔、バックアップ発電機、ソーラーパネルが設けられるほか、28 万ガロンの水を熱エネルギーとして蓄えることが可能な 65 フィートのタンクが設置されます。システム全体は、発電機以外再生可能エネルギーで稼働します。発電機はエネルギーをわずかに消費しますが、緊急時や定期メンテナンス時にのみ使用されます。

今回のキャンパスモダナイゼーションプロジェクトのサステナビリティコンサルタント会社、Atelier Ten にて環境デザインコンサルタントを務めるブライアン マインラート (Brian Meinrath) 氏は、「マイクロソフトは 2030 年までにカーボンネガティブになるという強固な取り組みを進めています。今回、日々のオペレーションで化石燃料の使用を排除する中央設備に投資したことは、キャンパスプロジェクトの中でも特に革新的な部分といえるでしょう」と話します。同氏は、「この設備は特に節水率が高くなるような設計にもなっています」としているほか、ジオフィールドが広いことも特徴だと述べています。

ワシントン州レドモンドのマイクロソフトキャンパスで行われているジオエクスチェンジの工事
ワシントン州レドモンドのマイクロソフトキャンパスで行われているジオエクスチェンジの工事 (ダン デロング (Dan DeLong) 撮影)

ジオエクスチェンジシステムは、年間を通じて一定の温度を保つ地中の土と、季節によって変化する外気の温度差を利用します。外気が地面よりも冷たい冬には、ポンプによってループ状のパイプに流体が流れ、地面の熱が建物へと伝わります。外気が地面より熱くなる夏には、これが逆になります。ジオエクスチェンジは何十年にもわたって使用されており、住宅のような小規模プロジェクトでよく見られるほか、米国東海岸でも普及しています。東海岸では、夏は灼熱、冬は氷点下といったように季節の変化が激しく、この技術によってコスト効率が高まるためです。ただし、従来のエアコンや、ガス・石油を燃料としたボイラーや炉に比べると、ジオエクスチェンジはまだそれほど普及していません。

レドモンドでは、このシステムで一般的な電力会社よりもエネルギー消費量が 50% 以上削減できると見ています。このシステムは、マイクロソフトがレドモンド地区でのオペレーションにおいて地域の電力会社から購入している再生可能エネルギーを使用します。また、システムの井戸やタンクは、冷却塔から水を排出するのではなく、今後利用できるよう水を熱エネルギーとして蓄えます。これにより、水の使用量が年間 800 万ガロン削減できます。これはオリンピックプール約 12 個分の水量に匹敵します。

ワシントン州レドモンドのマイクロソフト熱エネルギーセンター建設現場
ワシントン州レドモンドのマイクロソフト熱エネルギーセンター建設現場 (ダン デロング (Dan DeLong) 撮影)

この取り組みは、炭素と水に関するマイクロソフトのサステナビリティ目標を支えるにあたって重要な役割を果たします。昨年マイクロソフトは、2030 年までにカーボンネガティブを達成すること、そして 2050 年までに 1975 年の創業以来直接排出してきた炭素や電気消費によって排出してきた炭素のすべてを環境から取り除くことを発表しました。また、2030 年までにウォーターポジティブになることも発表しています。つまり、使用する水量よりも多くの水を補充することになります。マイクロソフトは、事業での水の使用強度を抑え、水が最も必要な流域に補充すると表明しています。

キャンパス内で再開発された新しい区域がオープンする際には、ジオフィールド上に芝生のスポーツ場や多くの木々が茂った状態になるでしょう。しかし、「森の中のマシン」というニックネームがついた熱エネルギーセンターの近くには、透明のポーチとファサードが設けられ、機器を見て学べるようになっています。

「このビルはサステナビリティへの取り組みの一環となるだけでなく、マイクロソフトがサステナビリティについてどう考え、その仕組みがどうなっているかを従業員やお客様に示す機会ともなります」とロスは述べています。

このプロジェクトは、ロジスティクスの訓練にもなっています。井戸の掘削には2年かかるとされていますが、マイクロソフトの樹木や生息地保護の取り組みの一環として、木の根を避けながら掘削しなくてはならないためです。また、この設備は最後に建設が開始された建物であるにもかかわらず、最初に完成させなくてはなりません。キャンパスプロジェクトの解体工事は 2018 年に始まり、2023 年には入居開始となる見込みです。

「新キャンパスでは、日々のオペレーションでゼロカーボンを実現したいと考えていました。そのため、既成概念にとらわれないアイデアが必要だったのです。」

熱エネルギーセンターのシニアプロジェクトマネージャーであるマイク グリーン (Mike Green) 氏は、持続可能な未来を築く努力に見合うだけの成果が出ると見ています。このキャンパスプロジェクトでは、雨水を 20 万ガロン貯めることができる貯水槽も建設するほか、解体廃棄物の 95% を埋立地から転換し、建設資材に含まれる炭素を 30% 以上削減する取り組みも行っています。建設資材に含まれる炭素とは、建築資材の製造や生産、輸送の際に排出される炭素のことです。

グリーン氏は、建設およびプロジェクト管理会社である OAC にてビルシステムディレクターを務めています。同氏は、「40 年以上のキャリアでずっと建設業に携わってきましたが、熱エネルギーセンターほど環境に配慮したプロジェクトに取り組むのは初めてです」と述べています。

「日々のオペレーションでエネルギーと水の使用量を削減し、炭素排出をなくすことを目指しています」とグリーン氏。「それが未来のあり方なのです」

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