世界で 6 拠点目、日本初となる「Microsoft AI Co-Innovation Lab Kobe」(以下、神戸ラボ) の開設から半年が経過した 3 月 21 日に、これまでの活動や施設の運用状況などを紹介するプレスツアーが開催されました。
神戸ラボはマイクロソフトおよび川崎重工業株式会社と神戸市との連携により、2023 年 10 月 11 日に神戸商工貿易センター内に開設され、AI や IoT を活用したイノベーションの創出と産業の振興を目指し、地域活性化にもつなげていくことが期待されています。ツアーは神戸市主催で行われ、施設の紹介をはじめ、地元企業の活用事例、神戸ラボとの連携も期待される神戸市のイノベーションへの取り組みなどが紹介されました
神戸市の港湾エリアを紹介するクルージングも行われた |
■国内外から注目度が集まり、毎週開発が行われている
今回のツアー開催について、神戸市広報戦略部長兼広報官の多名部 重則氏は開始の挨拶で、昨年10 月の開設以来、多方面で高い関心を集めていることがきっかけになったと説明しました。また、「神戸は江戸末期に神戸海軍操練所が開設された時代から、最先端のテクノロジを集めようという土壌があり、神戸ラボからも新しい時代を切り開くものが生まれてほしい」と述べます。
続いて、神戸ラボの所長を務める日本マイクロソフト株式会社の平井 健裕から、施設とその運用状況、今後の活動などが紹介されました。Microsoft AI Co-Innovation Lab は、企業や組織などお客様が運用したいと考える AI や IoT を活用したプロジェクトをアイデアからマーケットインまでの時間を月単位で加速させることをコンセプトに、マイクロソフトの専任技術者が 1 対 1 で個別にサポートしながら開発を行うことができる施設となっています。
神戸ラボは神戸市の中心地である三宮に近く、新幹線や空港もあって全国から訪れやすい、山と海に囲まれた風光明媚なロケーションにあります。これまでの来訪者数は 90 社を超え、イベントやセミナーをのぞいて 400 名を超える人たちが訪れ、3 月にはほぼ毎日ラボツアーが行われ、6 月までは国内外から見学者が続くということで、注目度が高まっていることがわかります。また、ラボの利用申し込み件数は 55 件あり、今年に入ってからは毎週のようにスプリント開発が実施され、プレスツアー当日も作業が行われていました。
「神戸ラボの利用申し込みはサイトから申請し、その後の打ち合わせで正式に運用を始めます。エンゲージメントの形はいろいろパターンがあり、新しいテクノロジを一緒に使ってトライアンドエラーを繰り返すものもあれば、何か動くものを作ったり、既に動かしているプロジェクトの中から一部の作業を検討したり、お客様の要望にあわせて行われます。期間は全体で 4 〜 6 週間となっており、プロジェクトではサンプルデータなどは極力使わず、お客様のデータを実際に拝見して開発内容を深堀りするため、開始前には NDA (秘密保持契約) を締結し、開発された成果物に関しては全てお客様に帰属します。」(平井所長)
作業の流れは、NDA 締結後、設計段階でテックコールと呼ばれる打ち合わせを複数回行い、作業内容を明確にすると同時に何を成功とするかを定義します。ラボ契約書を締結してからの開発はスプリント形式で、実際にラボに来訪して最長で 5 日間の集中作業を行います。神戸ラボには開発用の部屋が 2 つありますが、お互いがすれちがうことがないようレイアウトされており、日程も同業者が重ならないよう調整されています。終了後もサポートは継続され、中には続けて申し込みをされるケースもあるとのこと。
「参加者からは、神戸ラボを利用しなければゴールを達成できなかっただろうと思えるところまで結果を得られたと評価いただており、大変ありがたく思うとともに、引き続き皆さまをサポートできるプログラムにしていきたいと考えています。」(平井所長)
次のステップとして、よりお客様が問い合わせしやすくなるエンゲージメントモデルの作成に加えて、事前ディスカッションで目標を明確にするほど良い結果が得られるのがわかったことから、設計をデザインする半日のセッションを設け、問い合わせが多いラピッド プロトタイピングによる PoC の共同開発や支援を行うことなどを検討しています。
続いて、神戸ラボ内のショールームで様々な事例が紹介されました。その一つ、パイオニア株式会社は、通信型ドライブレコーダーやスマート音声ナビ機能を持つエッジクラウド型車載器「NP1」に、Azure OpenAI Service を活用して会話を通じて目的地の検索や設定ができるナビゲーションを搭載した事例を紹介。開発には神戸の道路や店舗の情報がデータとして使われています。
■地域一体でのエコシステム形成でスタートアップを支援
神戸市のイノベーション創出の取り組みが、神戸市経済観光局新産業創造課長の武田 卓 氏より紹介されました。神戸市は 2016 年に全国に先駆けて、自治体主導によるスタートアップ支援事業を開始し、米国ベンチャーキャピタルの「500Global」と連携したアクセラレーションプログラムを開始してから様々なプロジェクトを実施し、支援社数はのべ 500 社以上、資金調達額は累積実績で 140 億円となっています。2020 年には内閣府グローバル拠点都市に選ばれ、兵庫県や大阪、京都、また国連とも連携しながら、地元企業や大学、金融機関等とも一体となり、スタートアップのエコシステムを築くコンソーシアムづくりに取り組んでいます。
神戸市は様々なスタートアップ支援施策を行っており、その一つである「Urban Innovation KOBE」は、柔軟な発想や優れた技術力を持つ「スタートアップ」と社会・行政課題を知る「市職員」が協同し、最適なサービスの構築を目指すプログラムになっています。開発を行う実証フィールドや協力先を市が紹介することで地域とのつながりを生み出し、そのまま自治体サービスとしても導入されるというモデルは、今では全国 22 の自治体に拡大しています。
神戸市では市の職員に外部人材を登用しており、様々なバックグラウンドを持つ「イノベーション専門官」が活躍しています。その一人は米国西海岸を拠点に活動しており、実はその専門官がマイクロソフトの米国本社にコンタクトしたことがきっかけとなって、神戸ラボの開設につながったといいます。
「神戸市のイノベーション創出に向けた取り組みは国内外から評価されており、今後は神戸ラボとも連携しながらオープンイノベーションを推進し、AI を中心としたスタートアップを生み出すなど、日本から世界を狙えるよう人材創出を支援していきたいと考えています。」(武田氏)
■ロボティクス分野におけるマイクロソフトとの連携。神戸ラボの誘致にも貢献
川崎重工業株式会社は人口減少によって生じる労働力不足の課題に早くから着目し、半世紀を超える産業用ロボットの歴史があることから、ロボットソリューションを用いた解決策を探ってきました。特に医療やサービスといった新分野でロボット開発が進み、マーケットは現在の約 15 兆円から 2030 年には約 42 兆円へと成長することが見込まれており、すでに開発にも着手しています。
”ロボティクスを通じてより豊かな生活を提供する”という共通目的のもと、マイクロソフトとの協業を 2022 年から推進しています。川崎重工は製造業の知見とマーケット開拓力、マイクロソフトはデジタルの最新技術等の強みを活かして共創を進めています。そうした関係から神戸ラボの開所前より Microsoft AI Co-Innovation Lab を活用しており、神戸ラボへの誘致にも関わってきました。
インダストリアルメタバースの実現に向けた共創では、デジタル空間を介してお客様やパートナーと協業する世界を目指し、川崎重工のロボットを使った製造現場で Microsoft HoloLens 2 を使って、メタバース上での共同作業や、遠隔地からロボット操作を確認し現地に指示する等の実現に取り組んでいます。
また、川崎重工のソーシャルロボット「Nyokkey」に生成 AI を組み込み、自然言語でロボットとコミュニケーションできる世界の実現にも取り組んでいます。
神戸での連携について、技術開発本部 副本部長の加賀谷 博昭 氏は「神戸ラボの設立にあたっては、準備段階から神戸市と一緒に誘致活動を行ってきました。せっかく来ていただいたからにはやはり神戸からもいろいろなイノベーションを生み出したいという想いもあり、神戸市と協力して神戸 AI ラボ活用推進協議会を立ち上げ、おかげさまで参加する企業団体は全国で 500 社以上になっています」と説明します。
「今後も様々なショーケースを神戸ラボから発信しながら、人手不足を解消するソリューションを開発する計画を進めています。推進協議会としては神戸ラボがハブとなって、同じ課題を持つ開発企業やスタートアップ、アカデミアといろいろな協調ができるようにしたいと考えております。」(加賀谷氏)
■職人との相性の良さが AI オーブンの誕生につながった
株式会社ユーハイム 代表取締役社長の河本 英雄氏は 2016 年に南アフリカのスラム街を訪れ、お菓子を食べて喜ぶ子供たちの姿を見て「地球の裏側にバウムクーヘンを届けたい」と思うようになりました。お菓子を作ってから運ぶのではなく、現地で作るのを遠隔から手伝うというアイデアを実現するため、職人技のバウムクーヘンを焼ける小型の AI オーブンを開発にするプロジェクト「バウムクーヘン テレポーテーション」に着手します。
美味しいバウムクーヘンを作るには作業を繰り返して焼き加減を身に付ける必要があり、当初は不可能だと言われましたが、それがむしろ AI に向いていることがわかりました。開発にあたってはロボット工学や AI、IoT の技術が必要だったことから、レドモンドの Microsoft AI Co-Innovation Lab でソフトウェアの開発が行われました。
「職人技をデータとして取得し、AI 学習済の組込モデルを作成してオーブンにインストールするのですが、開発を進める段階で職人の方が自分のクセに気づいて調整するようになり、AI は職人の一番弟子にもなっています。」(河本氏)
開発された世界初のバウムクーヘン専用 AI オーブンは「THEO (テオ)」と名付けられ、2020 年 11 月に発表されました。コロナで苦境にあった店などから THEO を使わせてほしいという依頼が来るようになり、現在は AI 職人として派遣する事業もスタートしています。また、より美味しくするためには AI のパラメーターを増やす必要があり、現在も改良を続けています。
THEO を作ることができた理由として河本氏は、「菓子作り職人のフードテックであり、理想に近づけるために新しい道具を使うことに抵抗がないパティシエであったからこそ、AI とも親和性が高かった」と言います。今後はさらに、物流、レシピの著作権、販売方法でも DX を生み出すことに挑戦するとしています。
最初の目標にあった、地球の裏側でバウムクーヘンを焼くためにインターネットにつながる機能を持つ「THEO 2.0」も、まもなくリリース予定とのことで、今後の進化が楽しみです。
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