著者: ジェイ パリク( Jay Parikh ) / CoreAI 担当エグゼクティブ バイス プレジデント
※本ブログは、米国時間 2026 年 6 月 2 日に公開された “AI alone won’t change your business. The system running it will. – The Official Microsoft Blog” の抄訳を基に掲載しています。
AI は企業の現場に浸透し、その変革は同時多発的に進んでいます。あらゆる業務、あらゆる役割、あらゆるワークフローが再構築されつつあります。同時に、これまでのビジネス時代を形づくってきた企業とは根本的に異なる、新しい組織のあり方が生まれています。競争力を左右するのは、多くのデモを持つ企業ではありません。AI をガバナンスのもとで運用し、継続的に進化させ、実際の業務を支えるシステムへと変えられる企業です。
これは単なるチャットボットの話ではありません。そうした体験には価値がありますが、大規模な組織の運営のあり方を変えるまでには至りません。本当のチャンスは、ソフトウェア開発、サポート、財務、人事、オペレーションといった領域を横断し、長時間にわたる業務を実行する AI エージェントのチームにあります。さらに、本番環境で信頼して運用するためには、ID、コンテキスト、ポリシー、そして人による監督が不可欠です。
これを実現するためには、企業は高性能な AI モデルやスケーラブルな計算基盤を利用できるだけでは不十分です。成功を左右するのは、AI を取り巻くシステムです。具体的には、エンジニアリングチームによる AI エージェントの構築と展開の方法、エンタープライズ環境におけるコンテキストの与え方、本番環境でのガバナンスと観測のあり方、そして時間の経過とともに安全に改善し続ける仕組みが含まれます。こうしたシステムがなければ、AI は分断されやすく不安定で、大規模に信頼して活用するのは簡単ではありません。
マイクロソフトはこれまでとは根本的に異なるアプローチをとっています。包括的な AI エージェントプラットフォームを構築し、多様なモデルをサポートし、オープンであり、スタックのあらゆるレイヤーで選択肢と柔軟性を提供します。さらに、開発者を中心に設計しています。そして今、そのプラットフォームを構成する次の要素が次々と揃い始めています。
エージェントを前提としたエンタープライズシステムの構築
この新しい時代で成功するには、AI エージェントを支える基盤に、これまで以上に高い基準が求められます。実際の本番環境のワークロードを稼働させ、実在する組織の複雑さを反映し、現実のビジネスでの責任を適切に管理できることが必要です。
私たちは、3 つの重要な原則を軸に取り組んでいます。
第一に、単一で統合されたシステムであり、かつ幅広いモデルに対応している必要があります。
企業が、AI エージェント戦略を、後から一つひとつ組み立てていく方法は現実的ではありません。個別に導入したツールを後からつなぎ合わせると、チームのスピードを落とし、不要なリスクを生むことにもつながります。エージェントの構築、コンテキストの付与、実行、ガバナンス、改善といった一連のプロセスは、統合された一つのシステム内で完結することが求められます。そのためマイクロソフトは、Azure、GitHub、Microsoft IQ、Microsoft Fabric、Foundry、Windows、Microsoft Security、Microsoft 365を統合し、エンタープライズ規模でエージェントを展開できる単一のシステムとして提供しています。また企業には、品質、スピード、コストのバランスを取りながら、用途に応じて最適なモデルを選択できる柔軟性も求められます。これらには、マイクロソフトのモデル、パートナーのモデル、オープンモデルが含まれます。
第二に、設計の段階からセキュリティとガバナンスが組み込まれている必要があります。
ガバナンスは掲げることは容易ですが、実際に実現するのははるかに難しいものです。これを実際に実現するには、開発から本番運用までを一貫してカバーする単一のスタックから始めることが重要です。その基盤には、企業がすでに信頼するID、アクセス、コンプライアンス、セキュリティの基盤が組み込まれている必要があります。Entra、Purview、Defender、Agent 365、そして Microsoft Security の広範なスタックを拡張することで、ガバナンスは後から追加されるものではなく、システムに標準で組み込まれたものになります。これにより、統制を維持しながら、AI ファーストの企業が目指す取り組みを支えることができます。
第三に、継続的に進化し続けていく必要があります。
エンタープライズ向けの AI システムは、固定的なものではありません。AI エージェントの振る舞い、成果、そして人によるフィードバックはシステムに還元され、人の監督のもとで時間をかけて安全に改善し続けられる必要があります。システムを運用していく中で、モデルやワークフロー、エージェントはより高度になり、それぞれの企業固有の業務プロセスにさらに適したものへと進化していきます。その結果、使い続けるほどに価値が積み上がっていくシステムが実現します。
こうした特性は、今や欠かせないものになりつつあります。AI の取り組みをこれら 3 つの原則に沿って進める企業は、数年ではなく数四半期のうちに優位に立つようになります。
では、このようなシステムは実際の企業の中でどのように形作られていくのでしょうか。その出発点は、業務の起点である AI エージェントの構築にあります。ここから、私たちが構築したプラットフォーム上でそれがどのように実現されるのかを見ていきましょう。

1. GitHubで構築する
GitHubは、開発者がすでに日々の業務を行っている場です。必要なライブラリやコンポーネントが管理され、アプリケーションやコードのコンテキストが蓄積され、依存するオープンソースコミュニティとのコラボレーションが行われ、イノベーションが生まれている場所でもあります。AI エージェントを別の場所で構築するということは、これらの価値を活かせなくなることを意味します。
AI エージェントは、本番環境のソフトウェアと同じ方法で構築されることが求められます。GitHub Copilot を活用してコードを書くことで、開発のスピードを高められます。コードベース、作業項目、エージェントのスキル、各種ツールといった重要な資産を統合します。さらに、エージェントは単なるコードではないため、評価や運用状況の把握に関する資産もあわせて扱い、すべてを本番システムと同様にバージョン管理する必要があります。
AI エージェントは、開発、テスト、展開、観測、改善という一連の工程に沿って進めていく必要があります。GitHub はこのプロセスを整備し、最初から必要な統制機能を提供します。その結果、初めから適切なガードレールを備えたワークフローのもとで、エージェントを構築できます。そしてこれらすべてを、このシステムのために作られた新しいアプリ上で一元的に実行できます。
2. Microsoft IQでコンテキストを与える
コードは AI エージェントの一部にすぎません。価値を発揮するには、エージェントは顧客、製品、契約、プロセスなど、自社のビジネスを理解している必要があります。どれほど高性能なモデルであっても、信頼できる企業のコンテキストや知見があってこそ価値を発揮できます。それがなければ、実質的には推測に頼ることになります。
企業には、多様なモデルと、それぞれの用途に応じて最適なモデルを使い分ける能力が求められます。しかし、モデルの選択だけでは十分ではありません。Microsoft IQ は、Microsoft 365 や基幹業務システム(顧客や売上データなど)、さらにナレッジベースや自社の Web サイトといった、企業がすでに活用しているさまざまなシステムにあるビジネスデータと連携することで、AI エージェントを企業のコンテキストに根ざしたものにします。さらに、IQ プラットフォームに新たに加わった Web IQ により、適切な場合には、エージェントが Web 上の関連情報も取り込めるようになります。
企業データをもとにAI エージェントにコンテキストを与えることは、単にデータへアクセスできるようにするだけではありません。未加工の情報をそのまま AI に渡しても、効率が悪く、不安定になりがちです。Microsoft IQ は、適切な情報を整理し、安全に管理したうえで、エージェントが実際に活用できる形で提供します。これにより、ノイズに埋もれたり、誤った推論に陥ったりすることなく、より正確な洞察を得ることが可能になります。
AI エージェントが適切なコンテキストに基づいて動作できるようになると、企業はさらに一歩先へ進むことができます。Frontier Tuning を活用することで、単に AI モデルを呼び出すのではなく、自社のデータや実際の業務フローをもとに、その振る舞いを最適化していくことができます。
これには、画像、音声、文字起こし、コーディング、推論といった領域に対応する、マイクロソフトの新たな MAI モデル 7 つも含まれます。これらのモデル群は、現実の業務で重要となるさまざまなタスクに対応できるよう設計されています。また重要なのは、これらのモデルが固定されたものではなく、実際の業務の進め方から学習できるように設計されています。
マイクロソフトの強化学習環境では、実際の業務環境における成果をもとにモデルを継続的に強化することができます。いわば、AI にとってのトレーニングジムのようなものです。この環境の中で、AI エージェントは企業固有のプロセスや基準、業務の進め方を学習していきます。そして、その企業に最適化された形へと進化し、測定可能でより高い ROI の実現に貢献します。
さらに、カスタムモデルや追加トレーニングを施したモデルは、すべて自社の環境内に保持されます。知的財産や独自データ、実際の業務の進め方が、AI エージェントの判断や振る舞いの一部として組み込まれます。その結果得られる知見は自社の環境内で、企業自身の管理のもとで動作し、その学習成果も自社に帰属します。
コンテキストや Frontier Tuning がなければ、AI エージェントは汎用的な能力にとどまります。しかし、これらを活用することで、エージェントは業務の文脈を理解した、企業に最適化されたパートナーへと進化します。
3. Foundryで実行する
AI エージェントの構築とコンテキストの適用が完了した後は、それを実行する環境が必要です。実験としてではなく、本番環境での運用が前提です。
AI エージェントや複数のエージェントで構成されるチームは、従来のアプリケーションとは異なる要件を実行環境に求めます。推論し、行動し、ツールを呼び出し、他のエージェントと連携しながら、時間の経過とともに適応していく必要があります。そのすべてを、企業の管理下で実現しなければなりません。Foundryは、このような要件を前提に設計された実行環境です。
- 最大規模のモデルラインアップ: AI エージェントごとに求められる機能やコスト要件は異なります。どのようなタスクやコスト条件であっても、 Foundry は最適なモデルを柔軟に選択できるようにし、最適化されたモデルルーターによって品質、スピード、コストのバランスを実現します。
- オープンモデルに最適化されたパフォーマンス: Foundry 上の Fireworks AI により、企業はより高速で効率的な推論をプラットフォーム上で直接実行できます。
- あらゆる AI エージェントに対応: マイクロソフトのスタック上で構築されていないエージェントも含めて、Microsoft Agent Framework、LangGraph、GitHub Copilot SDK、Claude Agent SDK、さらには独自の仕組みで構築されたエージェントも利用できます。
- ツールとアクション: AI エージェントは MCP、コネクター、API、ワークフローを通じて企業システム上で動作し、既定で安全に実行されます。
- 評価とトレース: 可視化やトレースにより、AI エージェントの挙動を測定可能にします。測定できなければ、改善もできません。
- 継続的な最適化: Foundry は、モデル、実行基盤、IQ、ツール、アクションを時間の経過とともにチューニングできるようにし、現実の業務の中で AI エージェントのパフォーマンスを継続的に向上させます。
信頼性、セキュリティ、ポリシーの基盤が、実行環境全体を支えています。ポリシーは、コンテキストへのアクセス、ツール呼び出し、最適化の更新、追跡ログ、応答の提供に至るまで一貫して適用されます。AI エージェントは単に動作するだけではありません。企業の要件に沿った形で機能します。
ここで、AI エージェントは単なるプロジェクトから、本番環境で稼働するシステムへと移行します。
4. Agent 365 によるガバナンス
こうした AI エージェントが数百、さらには数千と増えていく状況を想像してみてください。企業全体で各チームがエージェントを構築していくと、実際にそのような状況になります。十分に設計されているものもあれば、そうでないものもあります。本来アクセスすべきでないデータにアクセスできてしまうものもあれば、価値ある成果を生んでいるにもかかわらず、組織全体で活用されていないものも存在します。
企業におけるガバナンスは、必須です。企業には、どの AI エージェントが稼働しているのかを可視化し、どのデータやリソースにアクセスできるのかを把握し、タスクの実行状況を監視し、組織全体のエージェント環境にわたってポリシーを適用できる仕組みが求められます。
Agent 365 は、Entra、Purview、Defender、そして Microsoft Security の広範なスタックと連携し、これらを実現します。また、AI のセキュリティ確保にとどまらず、セキュリティ分野における AI 活用にも関心がある場合は、「 MDASH 」も提供されています。
組織内のすべての AI エージェントは、Foundry で構築されたものかどうかにかかわらず、単一のカタログに集約されます。IT 部門は、誰がエージェントを展開したのか、どのデータやツールにアクセスできるのか、どのように動作しているのか、そしてどの程度のコストが発生しているのかを把握できます。さらに、必要に応じてポリシーを適用し、適切な対応を取ることも可能です。
一つの場所で、すべてを可視化し、AI エージェントの挙動に対する実質的なコントロールを実現します。
5. 継続的な進化
AI エージェントは、進化し続けます。すべてのアクションから、軌跡、成果、フィードバックといったシグナルが生まれます。システムはそれらを取り込み、洗練させて、それをまた活用します。観測し、評価し、改善し、安全に展開し、これを繰り返します。
この学習ループは、本番環境で継続的に実行されます。
多くの場合、改善は AI エージェントそのものの評価に基づく見直しから始まります。具体的には、プロンプト、コンテキスト、スキル、ツールの改善です。明確なパターンが見えてくると、モデルの選択や振り分け、最適化、さらには強化学習へと発展していきます。しかし、すべての取り組みは常に評価に基づいて行われ、求められる品質や ROI の水準に向けてエージェントを継続的に改善していきます。
このループは単に閉じて完結するものではなく、ガバナンスのもとで運用されます。企業には、その内容を監査し、必要に応じて修正し、変更の展開方法を適切に管理することが求められます。システムは人による監督のもとで徐々に高度化し、自律性も高まっていきますが、最終的な制御は常に企業の手の中にあります。
これは、改善し続ける仕組み(ヒルクライミング型のアプローチ)を実践したものであり、システムが稼働し続ける中で、継続的に全体最適が進んでいくことを意味します。
6. 人々が働く場所で展開し、Azure 上でスケールする
もちろん、これらすべても、実際に業務を行う人々に届かなければ意味がありません。
AI エージェントは、Teams や Microsoft 365 をはじめ、自社のアプリケーションや業務体験の中に組み込まれ、日々の業務の流れの中で直接利用されます。ID、セキュリティ、コンプライアンスは最初から組み込まれており、日常的に活用されるエージェントは、環境全体と同様の信頼モデルをそのまま引き継ぎます。
マイクロソフトは複数のプラットフォームに対応していますが、AI エージェントは Windows 上で最適化され、安全に開発および実行できます。モデルはクラウドとローカル環境の両方で実行でき、クラス最高レベルのサンドボックス機能により、常時稼働するエージェントも安全に運用できます。
AI に最適化されたコンピューティングから、グローバルおよびソブリン対応のインフラ、さらには市場展開に至るまで、システムは Azure 上でスケールします。長年にわたり多くの企業に信頼されてきたエンタープライズ基盤の上で、それを実現できます。
システムは、使うほどに価値が増幅していきます。
先進的な企業は、やがてこのモデルへと向かっていきます。すなわち、業務全体を横断してオーケストレーションを行い、データ、モデル、AIエージェント、そして人の判断を統合した、企業全体を支える AI プラットフォームです。
このシステムが稼働し続けることで、その価値は増幅していきます。業務のスピードは向上し、ボトルネックは単なる作業負荷から、人の創造性や協業へとシフトしていきます。共有されたコンテキストと引き継ぎの削減により、人はより自律的に業務を進められるようになり、企業全体としても摩擦を増やすことなくスピードを高めることができます。
今は大きな変革の時代です。この局面で一歩先を行く企業は、環境の変化に適応しながら、全社にわたる業務の連携をシンプルにし、インテリジェンスを継続的に実際の成果へと結び付けていく企業です。マイクロソフトの AI エージェントプラットフォームは、まさにこれを実現するために設計されています。マイクロソフトはエージェントの構築、コンテキストの活用、実行、ガバナンス、改善を、一つの統合されたシステムとして実現する力を提供します。
やがて、このプラットフォームは単なる開発基盤を超えた存在となります。設計段階からインテリジェンスと信頼性が組み込まれた、エンタープライズ AI を大規模に運用するためのオペレーティングシステムへと進化します。
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