日本のアルム、職人技をスケーラブルな AI へ ― 精密製造を変革
著: リム アイ リーン
金沢 ― ソフトウェア開発担当の北西 哲也氏がサウナ小屋ほどの大きさの金属製の機械の前に立ち、おもむろにディスプレイパネルをタップしました。
すると、鮮やかな黄色のジャンプスーツをまとった女性のアバターが画面に登場します。日本語で、製作したい精密部品のファイルを選択するよう話しかけます。アバターは瞬時にファイルを分析すると、「加工のセットアップをしますか?」と問いかけました。
これは石川県金沢市の完全自動化メーカー、アルム株式会社が試作を進めるマシニングセンター TTMC Origin に搭載された KAYA という対話型 AI インターフェースです。
KAYA の頭脳を支えるのは、アルム独自のソフトウェア ARUMCODE です。Foundry Tools の Azure Speech と Azure OpenAI in Foundry Models を基盤に構築されており、ドリルビットの交換や切削対象物の再配置といった手順を、自然言語でステップごとに作業者へ指示していきます。
このプロジェクトが目指すのは、日本で減少の一途をたどる熟練職人だけではなく、経験の浅い作業者でも操作できる CNC (Computer-Numerical-Control) マシニングセンターの実現です。
TTMC Origin のソフトウェア開発担当者の北西氏によれば、複雑な手作業の手順を音声で伝える生成 AI の組み込みが、ソリューションの核となっています。KAYA は現在、大規模言語モデル GPT-5 in Foundry Models (Microsoft Foundryで利用可能な OpenAI の大規模言語モデル) 上で稼働しています。


本プロジェクトは、AI を活用して日本の世界トップクラスの精密部品メーカーが抱える人手不足の解消を目指す、加工ソリューション設計企業アルムの最新の取り組みの一つです。
厚生労働省が 2010 年代から「長期的かつ持続的」 1と表現するこの人材不足により、製造業における労働者の需要は供給を上回り続けています。
「全世界で金属加工の技術者が激減しているため、自動化をすすめ、ARUMCODE と TTMC の開発を始めました」とアルム創業者兼 CEO の平山 京幸氏は語ります。
日本の精密製造セクターは現在の為替レートで約 150 億ドル規模と、テクノロジー市場調査会社カウンターポイントリサーチのリサーチディレクター、マーク アインシュタインは推定しています。
「日本は半導体用精密機器、ロボティクス、光学といった非常に専門的かつ重要な分野で約 60% の市場シェアを持ち、この領域でのグローバルリーダーシップを維持しています」とアインシュタインは述べます。「フィジカル AI の台頭に伴い、これらはさらに重要になるでしょう」
職人技をコードに変換する
アルムソフトウェア開発チームのゼネラルマネージャーである坂下 敬章氏は、ベテラン機械工とソフトウェアプログラマーの橋渡し役を務めています。
20 年以上前に医療機器用精密部品の設計でキャリアを始めた当時、彼は従来のやり方で技術を学びました。
先輩たちがどのようにデジタル図面を作成し、材料を選び、部品を成形するためにどの工具をどの順序で使うかを観察し、吸収していきました。自分でこれらの判断ができるようになるまでに 7 年かかったといいます。
現在、彼もまたその暗黙知を伝承していますが、その手段はプログラムコードです。
「私の仕事は、職人の勘をプログラマー向けに数式として落とし込むことです。プログラマーはこの職人の勘を数値化する必要があります」と坂下氏は語ります。「私たちは AI の頭脳そのものを作っているのです」

坂下氏の助言を得ながら、プログラマーたちは部品の材料や形状、切削パターンや工具の膨大なデータベースを構築し、グラフニューラルネットワークを通じてこれら無数の要素の相互関係を ARUMCODE に学習させました。
これにより、製造 AI である ARUMCODE は形状を分析し、CAD 図面を機械向けのCAM 命令に変換する時間のかかるプロセスを自動化できるようになりました。
アルムによると、携帯電話サイズの航空機翼リブを作る機械プログラムの作成に、熟練機械工でも 1 時間以上かかっていました。ARUMCODE ならわずか 4 分で済みます。
このAIソフトウェアは、最小限の人的介入でこれらの命令を物理的に実行するアルム初のマシニングセンター「TTMC Type F」でも駆動しています。
ARUMCODE と TTMC はいずれもマイクロソフトの Azure クラウドプラットフォーム上で稼働しています。
「前職で ARUMCODE と TTMC があれば、透析装置の部品の設計と試作を 3 週間でできたでしょう。実際には最大 6 ヶ月かかっていました」と坂下氏は振り返ります。

高度にカスタマイズされ単価が高いいわゆる「多品種少量」の精密部品の生産者にとって、生産サイクルの短縮とコスト削減は利益と損失の分かれ目となります。ARUMCODE や TTMC のような AI ソリューションは、日本の熟練労働者不足の中でも工場の稼働を維持することができます。
「製造業の有効求人倍率は 1.67 で、今後数年間で数十万人規模の人材不足が生じると言っても過言ではありません」とアインシュタインは述べます。「日本の機械エンジニアの平均年齢はすでに 50 歳を超えています」

これらはすべて、CEO の平山氏が 2008 年に自動化と AI への方向転換を決断した際に解決しようとした課題でした。
当時アルムは従業員 20 人の下請け企業で、自動車産業と半導体産業向けの部品を設計、製造していました。
「非常に難しいことをやっていたんですが、利益的には少ないという状況でした」と平山氏は語ります。「産業界全体で、金属加工の技術者が激減していました」
その年にリーマンショックが襲い、アルムの同業者の多くが倒産しました。「だから、技術を作れば需要があるだろうと考えました」と平山氏は語ります。
ARUMCODE の出荷準備が整うまで、さらに 12 年を要しました。
ソフトウェア開発者にとって最も困難だったのは、約 400 万の切削条件を一つのアルゴリズム式に変換することだったと、クラウドシステムエンジニアリング部のゼネラルマネージャー村上 聡氏は語ります。
「それは本当に大変でした。データは Excel が固まるぐらい多かったです。」と振り返ります。

現在では、GitHub Copilot を使って、さらに効率的なコーディングを実現しています。
ARUMCODE は 2021 年に商用化されました。その後、Microsoft for Startups プログラムの卒業生であるアルムは株式会社スギノマシンと提携して TTMC Type F を開発し、2025 年 5 月に発売しました。
両方の AI ソリューションを組み合わせることで、アルムは金属加工の図面から完成部品までの全 12 工程を自動化し、熟練度の低い作業者でも操作可能にしました。
新たな方向性、さらなる計画
現在従業員 40 人のアルムは、この過程で新たな事業方向性と収益源も生み出しました。
CEO の平山氏によると、アルムはこれまでに TTMC を 1 台 3 億 3,000 万円(約 210 万ドル)で 40 台販売しています。また、ARUM Factory 365 のサブスクリプションを通じて、200 社以上の日本のメーカーが自社のマシニングセンターに ARUMCODE を導入しています。
「当時と今の会社を比較すると、利益は 8 倍から 10 倍になりました」と平山氏は語ります。「下請け時代とは違い、私たちの社名も世界的に知られるようになりました。今では設計と開発に注力するファブレス企業としてやっています」
TTMC Origin 向けの KAYA やコーディング用の GitHub Copilot など、技術への AI アップグレードの追加は、多くの計画の一つに過ぎません。
アルムはまた、日本全国に TTMC を連携させた調達ネットワークの構築も計画しています。例えば地震により一地域の生産が中断した場合、他の拠点のマシニングセンターがバックアップできるようにする仕組みです。
「このネットワークは Microsoft Azure 上でコントロールをされて、全て統括制御されて動くことになります」と平山氏は語ります。マイクロソフトのクラウドプラットフォームのセキュリティ機能が、機械間の通信やメーカーの設計データを保護してくれると確信しています。
Azure のスケーラビリティとグローバルなリーチは、最終的に米国、韓国、インドなどへ TTMC を輸出するアルムの計画も支えることになると村上氏は語ります。
AI がなければ、2006 年に自宅のキッチンテーブルで創業した会社は精密部品事業だけで存続し、成長の可能性は限られていただろうと平山氏は考えています。
「会社の存続はできたと思いますが、夢も希望もなかったでしょうね」と語りました。
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1. 出典: 令和6年版労働経済の分析一人手不足への対応(厚生労働省)
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