Majorana 2 登場
Microsoft の新しい量子チップは、Microsoft Discovery のエージェント型 AI をどう 利用して信頼性を 1,000 倍に高めたか
著者: キャサリン ボルガー(Catherine Bolgar)
※本ブログは、米国時間 2026 年 6 月 2 日に公開された ” Majorana 2, made more reliable with Microsoft Discovery agentic AI“の抄訳を基に掲載しています。
発表のポイント
- マイクロソフトは、Microsoft Discovery のエージェント型 AI を活用して開発した次世代のトポロジカル量子チップ「Majorana 2」を発表しました。
- Majorana 2 の新たな特徴には、新しい材料スタックの採用が含まれており、前世代の量子ビットと比べて信頼性が 1,000 倍向上しました。これにより平均的な量子ビット寿命は、 20 秒に達し、長いものでは 1 分間維持された例もありました。
- これによりマイクロソフトは、2029 年までにスケーラブルな量子コンピューターの実現を見込んでおり、当初想定していた開発期間の半減を発表しました。
- Microsoft Discovery の一般提供(GA)も開始しました。フロンティア R&D 向けのこのプラットフォームを活用し、お客様は人間の専門知識に導かれた AI エージェント チームを展開し、科学的発見につながる取り組みを加速できます。
- 新たに登場したMicrosoft Discovery アプリは、プラットフォームの主要な機能をローカルで利用できます。個人ユーザーが無料でダウンロードし、GitHub Copilot アカウントでお使いいただけます。
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マイクロソフトは本日、次世代の材料スタックと従来比 1,000 倍の信頼性を持つ量子ビットを特徴とする最新トポロジカル量子チップ「Majorana 2」を発表しました。これにより、チームは当初想定していた開発期間を半分に短縮し、2029 年までにスケーラブルな量子コンピューターを実現できると見込んでいます。
科学研究のスピード向上とコラボレーション促進に向けて特別に設計された最新のエージェント型 AI を活用することで、マイクロソフトの量子チームは、量子コンピューティングの実用化を阻んできた信頼性、処理速度、規模という主要な課題を乗り越えつつあります。
たとえば、新しいチップに搭載された量子ビットは、第 1 世代と比較し量子状態を 1,000 倍長く維持でき、より信頼性の高い計算を可能にします。一般的なアプローチでは量子ビットの「寿命」はマイクロ秒単位で測定されますが、Majorana 2 は平均 20 秒という量子ビット寿命を実現し、最長で 1 分間維持された例も確認されています。これは、通常であれば 1 日でなくなるスマートフォンのバッテリーが、1 回の充電で 3 年間使い続けられるようになったくらいの大きな進歩です。
この卓越した信頼性、高速な動作(1 マイクロ秒単位の動作)、そして量子ビットサイズの微小さ(100 分の 1 ミリメートル)により、チームは 2029 年までに商用レベルで価値のあるスケーラブルな量子コンピューターの実現に向けて大きく前進しました。このようなマシンが実現すれば、グローバルな健康問題、食料供給、サステナビリティ、エネルギー生産などの分野で、従来は解決困難だった課題に取り組める可能性があります。
「私たちは極めて大きな商業的価値と、社会的価値をもたらすであろうコンピューターの実現に向けて、毎年着実に改善を重ねていかなければなりません。そのためには、このロードマップに沿って前進し続けることが必要です。では昨年と比べてどうか。1,000 倍も向上しているのです」と、Microsoft テクニカル フェローの Chetan Nayak は述べています。
そして本日より、科学やエンジニアリング分野で革新的な発見を目指す研究者や開発者は、マイクロソフトの量子チームが Majorana プログラムで実際に活用していたエージェント型 AI の技術や知見を利用できるようになります。
マイクロソフトは、本日、Microsoft Discovery の一般提供開始を発表しました。フロンティア R&D 向けのこの包括的なプラットフォームは、科学研究開発のための専門的な AI エージェント、研究と推論のワークフローを支える Discovery Engine、エンタープライズ レベルのセキュリティ、ガバナンス、透明性を組み合わせています。
マイクロソフトはまた、Microsoft Discovery アプリの早期プレビューも公開しました。このアプリでは、主要機能を個人が無料でダウンロードでき、GitHub Copilot アカウントを使ってローカルのコンピューター上で実行できます。高度な AI 駆動型研究をより身近なものにし、参入障壁を大きく引き下げます。
Microsoft Discovery により、研究者は、人間の専門知識に基づいて運用される自律型エージェント チームを利用できるようになります。これらの AI エージェントは、膨大な知識をもとに推論を行い、仮説生成、実験の最適化、理論検証、そして、継続的な学習ループを実現します。また、組み込まれた制御機能で、研究が優先事項やセキュリティ、コンプライアンス基準、安全要件に沿って進められるよう支援します。
「立ち上げから 1 年で、ライフ サイエンス、化学、材料、エネルギー、製造、消費財といった主要産業において、お客様の間でさまざまな形で活用が広がっていく様子を目の当たりにしてきました。Syensqo のような企業が Microsoft Discovery を活用して半導体製造向けの次世代流体を開発するなど、活用の可能性は広がっています」と、Microsoft Discovery 製品イノベーション担当コーポレート バイス プレジデントの Aseem Datar は述べます。
マイクロソフトの量子チームの科学者やエンジニア自身も、Microsoft Discovery のエージェント型 AI 機能を活用し、ワークフローの管理、測定の自動化、製造プロセスの最適化、これまで見過ごされていた欠陥の特定、新たな解決策の提案などに取り組んできました。

「エージェント型 AI は、私たちの業務のほぼあらゆる場面に浸透しており、ワークフローのごく自然な一部となっています」と Nayak は語ります。
「AI エージェントは、必要に応じて作業を加速してくれます。情報をまとめて要約するような小さなことから、さらに踏み込んで情報を統合し、興味深い仮説を生成することまで可能です。今、非常に強力なツールだと実感しています。」
エージェント型 AI が新材料の発見を支援
昨年発表された Majorana 1 は、トポロジカル超伝導体を採用した点が画期的でした。トポロジカル超伝導体は、より安定した量子コンピューティングを可能にする、まったく新しい物質の状態を生みせる特殊な材料です。チームは、初期の概念実証をさらに進化させるため、材料スタックを改めて見直しました。
当初の Majorana 超伝導体にはアルミニウムが使われていましたが、Majorana 2 では鉛を採用しています。鉛は、病院や産業用途、放射線防護に広く使われている材料です。量子コンピューターにおいて、鉛の超伝導体は、繊細な量子ビットを不安定にしかねない宇宙線等のノイズから脆弱な量子ビットを保護する役割を果たします。一方で、こうした材料の採用に伴う他のトレードオフが生じるため、それらを克服するには長年にわたる研究開発が必要でした。
「実際、かなり大きな変更でしたが、デバイス品質の大幅な改善につながりました」と Nayak は語ります。
この一連の材料研究はエージェント型 AI の登場以前に始まりましたが、チームは現在新しいデバイスの製造管理に活用しており、今後の Majorana の材料研究では Microsoft Discovery がさらに広く使われる予定です

Majorana 量子デバイスの重要な部分は、原子レベルで設計されています。各原子を正しい位置に保つため、結晶構造に別の材料、いわゆる「不純物」を加えることがあります。しかし、加えすぎたり、加え方を誤ったりすると構造が乱れてしまうため、その最適なバランスを見極めることは非常に難しいと、マイクロソフト量子担当コーポレート バイス プレジデントの Zulfi Alam は語ります。
「望ましいエネルギー構造を得るための最適なレシピ、つまり適切な材料配合を見つけるには、従来は膨大な実験が必要でした。しかし、新しいアプローチでは、シミュレーションを通じて、有望なターゲット候補を事前に特定できます。その知見を得ることで、理想的には、一度の実験で検証できるようになります」と Alam は話します。
エージェント型 AI が大規模な情報分析を可能に
量子コンピューティングのプロジェクトには、ソフトウェア、アーキテクチャ、設計、材料スタック、製造プロセス、測定など、多くの要素が関わっています。ある領域での変更は他の領域に波及し、別の場所で対応が必要になることもあります。こうした複雑に絡み合う要素をチームが把握し続けるうえで、AI エージェントが役立っていると Nayak は指摘します。
量子プロジェクトでは、約20 年にもおよぶ膨大なデータが、様々な形式で蓄積されています。AI が導入される以前、これらのデータはサイロ化され、十分に活用できていませんでした。「こうしたデータにAI エージェントを活用することで、人間には見えない相関関係を再構成し、発見できるようになります。これほど大量なデータ全体を一人の人間が俯瞰し理解することは現実的に不可能です。」と Alam は続けます。

さらに、量子チームは複数の国にまたがって分散しており、物理学、機械工学、プロセス工学など、多岐にわたる専門分野の研究者で構成されています。一人の人間がすべてに精通することは不可能です。これは学際的な科学研究によくある課題であり、だからこそマイクロソフトの量子チームは、情報を整理、分析し、他のメンバーが必要な情報を見つけやすくする AI エージェントを開発しました。
「AI は、異なる専門分野に存在する知識を横断的に統合するのに役立ちます」と Alam は説明します。専門家へのヒアリングや他分野の知識を一から学ぶために必要だった時間と労力を大幅に削減できるのです。エージェント型 AI は「非常に短い時間で膨大な情報を並列処理し、提案を示す」ことができます。ただし、AI が行うのは、あくまで支援であり、最終的な判断を下すわけではありません。「常に『科学者がループの中にいる(scientist in the loop)』のです。」
エージェント型 AI が実験を加速
トポロジカル状態を作り出すには、何百ものパラメーターの設定が必要です。この工程を経て初めて、量子計算を実行するうえで鍵となる測定プロセスを開始できます。これらの作業を人間が行う場合、それぞれに数週間を要します。実際、測定は難易度が高く時間もかかる作業のため、チームは数年前に、初期の機械学習を用いて自動化を試みましたが、実現には至らなかったと Alam は振り返ります。
Microsoft Discovery のエージェント機能を活用し、チームはこの作業に特化した AI エージェントを開発することで、作業サイクルにかかる時間を桁違いに短縮できたと Alam は言います。
AI のパターン認識能力は、量子ビットの状態を測定し、半導体ワイヤ上に存在する数十億個の電子が偶数個か奇数個かを検出するという、非常に高度な作業にも活用されています。AI エージェントはこのプロセスを自動かつ継続的に実行し、人間の研究者一人では実現できない規模と精度で、量子ビットの動作条件を 3D マップで構築できると Alam は言います。
「測定の自動化にエージェント型 AI を活用したことは、まさにゲームチェンジャーでした」と Alam は言います。「AI は数理計算を実行しながら、『すべてが最も安定して機能するポイントはどこか』を探し始めます。そして人間には不可能な形で、こうした電圧調整を並列的に実行できます。人間の思考はもっと線形的です。」
エージェント型 AI でノイズを低減
データはそれ自体では情報になりません。意味を持たせるには、フィルタリング、分析、そして文脈に沿った解釈が必要です。たとえばチームは、物理学やデバイス、組織内に蓄積されたノウハウを組み合わせた AI エージェントを開発し、量子チームの製造プロセスから得られる生データを分析しました。その結果、システムに影響を与えていた未校正の温度センサーの異常値を特定しました。

Alam はこのプロセスを、Teams 会議の AI 要約になぞらえます。AI要約は、和やかな雑談を省き、会議の要点を3 つか 4 つのポイントまとめてくれます。「科学の場面では、まさに同じようなことを大規模なスケールで行っています」と Alam は言います。
Microsoft Discovery は AI と科学的手法を組み合わせるプラットフォームとして構築されており、量子チームが活用しているエージェント型 AI ツールの多くは、他の領域の科学的探求にも応用できます。
「この全く新しいタイプのフロンティア R&D のアプローチにより、研究者は中心的な役割を担いながら、非常に高い精度で多様な分野を同時に俯瞰し、それらの間にある新たな相関関係を見出すことが可能になります。これは、あらゆる最先端で高い成果を目指すチームが理想とする研究開発の本質です」と Alam は締めくくりました。
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写真: Majorana 2 は、Microsoft Discovery のエージェント型 AI を活用して開発された次世代の量子チップです。撮影: John Brecher (Microsoft 提供)。
Catherine Bolgar は、Microsoft で AI とイノベーションをテーマに執筆しています。量子コンピューターの最前線から、AI が日常の暮らしをどう支えているかまで、幅広いテーマを取り上げてきました。これまで数多くの媒体でテクノロジーやビジネスについて取材し、Wall Street Journal ではニューヨークとブリュッセルで編集者を務めました。ケニアでは高校で数学を教え、現地でスワヒリ語も身につけています。現在はフランス在住。詳細は LinkedIn をご覧ください。
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