著: ジャスティン スペルハウグ (Justin Spelhaug), プレジデント、Microsoft Elevate
※本ブログは、米国時間 2026 年 9 月 16 日 に公開された “Microsoft’s commitment for AI in education: Protecting students, strengthening learning – The Official Microsoft Blog” の抄訳を基に掲載しています。
マイクロソフトは 50 年にわたり教育に取り組んできました。当社の創業当初から、私たちは新しいテクノロジーの波が訪れるたびに、教育者、生徒、家族、そして教育機関の責任者と共に歩み、学びを支えるものは何か、学びを妨げるものは何かを学んできました。
そのコミットメントは、これまでにない技術革新の時代を迎えた今日も続いています。AI は一人ひとりに合わせた学習を可能にし、管理業務の負担を軽減し、研究を加速させ、質の高い教育へのアクセスを広げる可能性を持っています。一方で、現実的なリスクも伴います。教育関係者や保護者からは、「生徒自身がきちんと考えることができているのか」、「子どもたちが利用する技術は安全なのか」といった問いが寄せられています。いずれも、向き合うべき重要な問いです。
その根底にあるのは、生徒を教え、励まし、それぞれが最善の自分になれるよう支えるという、人間だからこそできることです。教育は、教育者、生徒、そして保護者の間の意義ある信頼と協力の関係の上に成り立っており、それによって人の可能性を引き出し、より明るい未来を切り拓くものです。
AI が教育をどのように変えていくのか、その全体像を完全に理解している企業はどこにもありません。しかし、不確かであるからこそ、より慎重な配慮が求められます。だからこそマイクロソフトは、5 つの原則に基づき、教育における AI に総合的に取り組んでいます。
- 安全性、プライバシー、セキュリティ、透明性を組み込んだ設計
- 教育現場での AI 活用も、教育者が中心となり主導権を持つ
- 生徒の思考を置き換えるのではなく、学びを支援するために設計された AI
- 学びから探求まで、教育システム全体を強化する AI
- すべての生徒が、 AI を活用する未来に向けて備えられるように
1. 安全性、プライバシー、セキュリティ、透明性を組み込んだ設計
教育で使用されるすべての AI システムは、生徒のプライバシーを守り、安全性を高め、偏りへの対応を含めてリスクを減らすための十分な安全対策を備えるとともに、生徒、教育者、保護者に必要な透明性を確保できるよう設計されるべきです。
私たちは、教育機関が技術革新と信頼のどちらかを選ばなければならない、という状況はあってはならないと考えています。
セキュリティ、プライバシー、透明性は、教育分野における マイクロソフトの取り組みの土台となるものです。
そのため、先週、私たちは 全米教員連盟(American Federation of Teachers , AFT) と画期的な合意を締結し、Microsoft Education 製品を対象とする新しい「学校向けプライバシーおよび安全性基準」を発表しました。この合意は、大手テクノロジー企業と米国有数の教職員組合が、これらの製品に求められる信頼できる AI のあり方を定めた、初めての取り組みです。この基準では、Microsoft Education 製品が生徒および教育者のデータの利用方法を制限し、重要な意思決定には人による監督を求め、保護者に対して十分な透明性を提供するとともに、マイクロソフトが基準に満たせなかった場合の説明責任を定めています。また、学校が自ら生み出した知識やアイデアの所有権を保持することも明確にしています。
私たちは、この基準を自社だけのものにするために策定したのではありません。生徒や教育機関は、学校がどのテクノロジーを選択するかにかかわらず、こうした保護を受けるべきです。私たちは、業界の他の企業にも、共にこの基準を満たしていくことを呼びかけています。
2. 教育現場での AI 活用も、教育者が中心となり、主導権を持つ
教育者は、教育と学習の中心であり続けるべきです。AI は教育者の専門性を補完するものであり、専門家としての判断にとって代わるものではあってはなりません。教育者は、 AI システムの設計に関わるとともに、生徒の学習成果を支える形で AI を活用するために必要な知識と支援を得られるようにする必要があります。
テクノロジーだけで教育が変わるわけではありません。それを実現するのは教育者です。米ニューヨーク市ブロンクスのある学校では、特別支援教育の教師である Ashley Hernandez が Copilot を使い、意思の疎通や医療的面で複雑な配慮を必要とする生徒のために、一人ひとりの違いに応じた、感覚面にも配慮した教材を作成しています。テクノロジーを活用することで、学習体験をより効率的に生徒に合わせて調整できるようになり、生徒と直接向き合う時間をより多く確保できるようになります。同様に重要なのは、彼女自身の経験がテクノロジーそのものの未来を形づくることにも役立っているという点です。
教室で何が効果的かを最もよく理解しているのは教育者であり、その声は私たちが開発する製品に反映されています。Education Insiders Program を通じて、教育者や学校管理職は、製品の限定公開や意見交換会に参加し、製品が正式に提供される前の機能改善に向けて意見を寄せています。
だからこそ私たちは、Teach in Microsoft 365 Copilot のような製品を開発しています。Teach は、教育者向けに教育を第一に考えて設計された AI を活用した機能です。実際の授業の進め方を踏まえて設計されており、教育者がさまざまな学習者に合わせた教材を調整し、教育基準に沿った授業を作成し、授業準備にかける時間を減らすことを支援します。私たちの目標は、教育を自動化することではありません。教育の妨げとなる管理業務や事務作業の負担を軽減することです。
教育現場からも、その効果が報告されています。Brisbane Catholic Education では、支援を必要とする学習者層において、学習者の主体性が 275 % 向上しました。Miami Dade College では、Microsoft 365 Copilot の導入以降、生徒の合格率が 15 % 向上し、授業の履修を途中でやめる生徒の割合が 12 % 減少しました。
教育者には、実践的なトレーニング、実践者同士が学び合うコミュニティ、そして需要の高い資格認定が必要です。Microsoft Elevate for Educators を通じて、私たちは教育者をこうした学びの機会や支援を利用できるよう取り組んでいます。過去 1 年間で、1,700 万人を超える方々が、需要の高い AI スキルの資格認定を取得しました。Microsoft Elevate for Educators プログラムでは、教育者が AI について効果的かつ責任ある方法で教えるために必要な理解と自信を身につけられるよう支援しています。また、教育者が生成 AI を安全かつ責任ある方法で生徒に紹介するために役立つ実践的な教材も提供しています。
3. 生徒の思考を置き換えるのではなく、学びを支援するために設計された AI
教育における AI システムは、学習科学に基づき、生徒が健全な形で学びに取り組むことや、批判的に考える力、心身の健やかさ、そして学習成果の向上を促すよう設計されるべきです。
学習科学に関する私たちの最新の調査によると、教育における AI の重大なリスクの 一 つは、学習を定着させるために本来自分で行うべき思考を AI などに委ねてしまう「認知的オフロード」です。これは現実に存在する問題です。生徒は、実際に学べていないにも関わらず、自分では学んでいると思ってしまうのです。
一般的に利用されている多くのツールは、教育向けに設計されたものではありません。これらのツールは、理解よりもスピードを優先しており、多くの教育機関では、学生が個人的に AI を使い続けている一方で、AIの 利用を制限したり、全面的に禁止したりする対応を取っています。学習のために設計された仕組みがなければ、生徒による AI 利用を可能にするうえで信頼の確保が障壁となります。
教育には、教育の目的を支えるために設計された AI が必要です。それは、人々が知識、批判的思考、判断力、そして自信を育むことを支援する AI です。
最も重要な学びのいくつかは、生徒が行き詰まったときに生まれます。困難に向き合うことが、長く定着する理解を築きます。そうした苦労を取り除いてしまう AI は、知らず知らずのうちに、考える主体を学習者から機械へと移してしまう可能性があります。私たちは、学習者の成長につながるこうした取り組みを守らなければなりません。
マイクロソフトの AI を活用した学習環境は、学習者の年齢に応じて設計されています。これには、初等中等教育 (K-12) の生徒に対して Copilot Chat へのアクセスを既定でオフにし、学習の進み具合に応じて、管理者が年齢に基づいて利用を有効にできるようにすることも含まれています。低学年では Minecraft Education を通じて、 AI に関する基礎的な知識や理解を身につけることができます。また、Learning Accelerators は、一人ひとりに合わせた学習支援と適切なタイミングでのフィードバックを提供します。学年が上がると、 Study and Learn が、理解の度合いに応じた問いかけや対話を取り入れた練習を通じて、生徒に代わって答えを出すのではなく、生徒自身が考えながら理解を深められるよう支援します。さらに上の学年では、Microsoft 365 Copilot を通じて、将来の仕事で使用するものと同等の、企業での利用を想定した機能に触れることができます。
4. 学びから探求まで、教育システムを強化する AI
教育機関は、早期に必要な支援を把握することで、迅速に対応し、限られた人員や予算などを最も必要とされるところに振り分け、より良い教育機会を生み出すことができます。
AI は、教育機関がより早く生徒を支援し、事務作業を削減し、情報をより効果的に活用し、セキュリティを強化するとともに、研究や発見を加速するのに役立ちます。
現在、教育現場で必要な情報は、さまざまなシステムや組織に分散していることが少なくありません。AI を責任ある方法で活用することで、こうした情報をまとめ、学校や大学などの教育機関が、より適切な判断を行い、連携して対応できるようになります。
Broward County Public Schools は、235 校全体で業務効率の向上が求められるほどの、大幅な予算不足に直面していました。豊富なデータを保有していたものの、必要な情報をすぐに把握できる環境が整っていませんでした。そこで、 Microsoft 365 Copilot を既存のMicrosoft 365 環境と組み合わせて 導入し、業務上の大きな非効率を特定しました。その結果、施設関連の費用を5 年間で 4,000 万 ~ 5,000 万ドル削減できる見込みとなり、その削減分を教育者や生徒への支援に充てることができます。
University of North Carolina では、医学研究者が Microsoft Azure 上に構築された安全な研究環境を活用し、機密性の高い患者情報を保護しながら、データに基づく臨床研究を行っています。現在、この環境では、 25 件の研究が進行しており、管理された研究環境の中で、高度な分析や AI を活用できる機会も広がっています。
革新的な教育システムは、単に新しいテクノロジーを導入するだけにとどまりません。学習者、教育者、研究者、そして地域社会により良い成果をもたらすため、連携した取り組みを推進します。
5. すべての生徒が AI を活用する未来に備えられるように
すべての生徒が、AI を責任ある形で活用するために必要な知識と判断力、そして新たに生まれつつある AI 経済の中で活躍するために必要な知識を身につける機会を得られるべきです。
今後 10 年で最も重大な AI の格差は、AI を利用できるかどうかではなく、 AI を活用するための知識や能力を身につけ、それを経済的な機会につなげられるかどうかによって生まれる可能性があります。
マイクロソフトの主要なシンクタンクである AI Economy Institute は先ごろ、AI 技術が教育や学びにどのような影響を与えるのかを考察した書籍を発表しました。その調査では、AI 関連の知識や能力を身につけている人は、賃金が最大 40% 高くなる傾向があり、その差は高度な学位を取得した場合を上回ることが示されています。
今や、どの分野においても、AI に関する基礎的な知識は欠かせません。AI の基本的な仕組みや限界、倫理的な影響を理解すること、そして AI が生成する内容を適切に疑う姿勢を持つことは、分野を問わず重要です。
Minecraft Education AI Ready Skills のような学習プログラムでは、ゲームを活用した段階的な学習を通じて、生徒がこうした基礎力を身につけることができます。さらに、その学習の成果としてCSTA(Computer Science Teachers Association)およびISTE(International Society for Technology in Education)の教育標準に沿った資格認定の取得を目指すことができます。
American Federation of Teachers、National Education Association、National Applied AI Consortium、North America’s Building Trades Unions とのパートナーシップにより、この取り組みには、教育者、働く人々、地域社会の人々の知見が反映されています。こうした知見は、私たちが開発するツール、教えるスキル、そして構築する道筋の指針となり、生徒が AI を活用する経済の中で活躍できるよう支えています。
NABTU とのパートナーシップを拡大する中で、私たちは先ごろ「Jobs Machine」を発表しました。これは保護者、生徒、高校の進路指導担当者が、熟練技能職を有意義な教育およびキャリアの選択肢として検討できるよう支援する取り組みです。
高等教育では、 AI に関する知識や理解を、実際の教育課程に取り入れる動きが進んでいます。Auburn University は「Teaching with Artificial Intelligence」という講座を開設し、現在 90 以上の教育機関の約 1 万人の教職員が利用できるようになっています。Babson College は、分野の垣根を越えて AI を研究、活用する「The Generator」を設立し、すべての教職員と学生を対象に Azure OpenAI のツールと Copilot を教育に取り入れています。また University of South Florida は、学生アンバサダー プログラムを立ち上げ、一部の業務で 55 ~ 60 % の時間短縮を実現しています。現在、このプログラムでは、実際の学部、部門で行われている業務を通じて、AI の具体的な活用方法を紹介しています。
目指しているのは、特定の機能を使うための知識を身につけてもらうことではありません。生涯にわたって変化に適応し続けるために必要な知識、自ら考えて行動する力、適切に判断する力を身につけてもらうことです。
教育の未来は、テクノロジーだけで決まるものではありません。技術革新、信頼、そして人の可能性を、私たちがいかに効果的に結びつけられるかによって決まります。
教育の未来を、共に築く
マイクロソフトは、これら 5 つの原則すべてに引き続き投資していきます。そして何より、教育の次の時代を形づくる教育者、学習者、教育機関、政府、労働組織、地域社会の皆さまと共に取り組んでいきます。
AI はすでに、人々の学び方と働き方を変えつつあります。私たち全員に課された責任であり、同時に目の間にある機会は、AI が学びを強化し、機会を広げ、人を中心に据え続けるものとなるようにすることです。
その未来はすでに形づくられつつあります。私たちは、その未来を共に築いていくことに力を注いでいます。
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ジャスティン スペルハウグ (Justin Spelhaug) は Microsoft Elevate を率いています。Microsoft Elevate は、教育機関、人材育成機関、非営利団体が機会を広げ、人々が AI 経済に備えられるよう支援するグローバルな取り組みです。マイクロソフトでの 28 年間にわたり、彼はテクノロジーが人々と地域社会にもたらす影響を推進するリーダーシップの役割を担ってきました。マイクロソフト入社前には、アメリカ海兵隊に勤務していました。
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