変革をもたらす AI: Wayve が Azure のディープ ラーニングで自動運転の常識を書き換える
著者 クリス ウェルシュ
※本ブログは、英国時間 2026 年 1 月 8 日に公開された ” AI that drives change: Wayve rewrites self-driving playbook with deep learning in Azure” の抄訳を基に掲載しています。
ロンドン — いつもより一層混雑する木曜の朝、ソーホーでは灰色の 12 月の空から雨が降り注いでいました。交通は進んでは止まりを繰り返していたが、ほとんど止まったまま。歩道さえも混雑していました。
ようやく、威厳ある大英博物館の脇に差し掛かると、車やトラックの流れが勢いを取り戻しました。自動運転中の 4 ドア EV セダンの車内では、セーフティ オペレーターが受動的ながらも油断せずに、ハンドルの後ろに座り、手のひらを上に向けて太ももの上に置いていました。車は、彼の補助なしに滑らかに前進し、トラファルガー広場 に向かっていました。
その少し後に、慌ただしい様子の男性が駐車中の車の陰から突然目の前に飛び出してきました。AI で制御されたセダンはしっかりとブレーキをかけて停止し、車内の 4 人の乗客はわずかな揺れを感じる程度でした。無頓着なその歩行者は振り返ることもなく道路を横断していきました。セーフティ オペレーターはペダルに触れていませんでした — 車は自律的に行動していたのです。
AI を搭載した自動運転車は、近年いくつもの大都市の道路を走行していますが、今回乗車した車を手がけた Wayve は、2017 年に英国ケンブリッジで創業した際、まったく異なるアプローチを選びました。
本質的に、Wayve はどのメーカーやモデルの新車にも搭載可能で、わずか数週間の調整だけで、どの国や都市でも運転できる、 AI 搭載 ドライバーを構築しています。このアプローチは 人間の脳にヒントを得た “ニューラルネット” として知られるAI モデルの一形態に基づいています。Wayve の AI Driver は、主にカメラを使用して安全に目的地まで走行します。

ロンドンのキングスクロス地区にある Wayve のワークショップにて。写真 クリス ウェルシュ
「私たちは、自動運転を真に AI の課題として捉え、エンドツーエンドのディープ ラーニングによるデータ駆動型のスタックを構築しています。」
目標を達成するため、Wayve は Microsoft Azure のパワーを活用しています。特に、Azure Storage、Azure Databricks、Azure Kubernetes Service を用いたAzure AI インフラストラクチャを使用し、数千もの GPU を柔軟なスーパーコンピューターに接続して、自動運転向けの AI モデルのトレーニングと検証を行っています。
Wayve の技術を搭載した車両は、トランクに強力な中央コンピューターを搭載しており、Wayve AI プログラミングがあらかじめ読み込まれています。車載カメラを通じて、AI モデルは道路標識や信号機を読み取り、ロンドンのように混雑した都市でも周囲の環境を認識し、それに応じて適切に行動できます。現在、Wayve 技術を搭載した車両は、英国、米国、ドイツ、日本の都市で走行しています。
「創業当初、私たちは業界の常識に逆らうようなアプローチを取っていました。」と、Wayve の共同創業者兼 CEO、アレックス ケンダル氏は語ります。「その姿勢は今も変わっていません。私たちは、自動運転を真に AI の課題として捉え、エンドツーエンドのディープ ラーニングによるデータ駆動型のスタックを構築しています。」
柔軟でスケーラブルな戦略

この戦略は、同分野の他の競合他社とは対照的です。競合他社の多くは、運転を異なる問題の集合として扱うルールベースのアプローチを手作業で設計し、車両に複雑な種類のセンサーやコンピューターを統合することから始めました。
Wayve は、より汎用的で柔軟性があり、迅速にスケールアップでき、異なる自動車メーカーによって展開できるアプローチを望んでいました。Wayve はディープ ラーニングを使って、ニューラルネットワークを構築しました。これは、人間の脳の仕組みについての理解に着想を得たコンピューター アルゴリズムです。相互接続されたノードの層で構成され、ビデオ、その他の形式のセンサー データ、さらには(ビデオ ゲームのような)シュミレーション環境からパターンを学習します。
「私たちはフル スタック全体を構築することを目指しているわけではありません」と、アレックス ケンドルは述べます。「私たちは自社で車を製造しているわけでもありません。自社のクラウド インフラストラクチャを構築しているわけでもありません。自社のモビリティ ネットワークを構築しているわけでもありません。」
「私たちの専門分野は AI Driver であり、自動車メーカーであれ、Uber のようなモビリティ プラットフォームであれ、もちろん私たちが行うすべての基盤となるマイクロソフトとAzureインフラストラクチャであれ、最大かつ最良のパートナーとの提携を目指しています。」
「本当に感謝しているのは、マイクロソフトが Wayve に賭けてくれたことです」と彼は述べました。「私たちが他の自動運転大手企業と競い合っていた非常に早い段階で、パートナーシップとして支援してくれたことです。」
Wayve は創業以来、13 億 ドルを調達しています。
マイクロソフトもその将来性を信じている企業の 1 つです。2025 年 10 月、Wayve とマイクロソフトは、Wayve による Azure サービスの利用に関する新たな契約を締結しました。これは、Wayve が Azure サービスを利用する範囲を大幅に拡大する内容です。両社はさらに、戦略的枠組み協定も締結しており、開発中の技術を他の自動車や車両メーカーへ展開、マーケティングや営業における協業など、さまざまな形で連携を継続していくことを意味しています。他の企業も、Wayve との取り組みを計画しています。

6 月に発表された Uber との協業では、同社は今年、Wayve 搭載車両による乗客サービスの限定的な試験運用を、ロンドンで開始する予定です。Wayve は日産との契約も発表しており、 2027 年度には Wayve 搭載車両の量産を開始する予定です。
「私たちは、これまで一度も運転したことのない国である日本で、日産から提供された新しい車両で走行しました。」と ケンダルは語っています。「そしてわずか 4 か月で、この新しい車両を使い、私たちのシステムが東京全域を自律走行できることを実証できました。」
アレックス パーシン は Wayve のプリンシパル エンジニアです。彼は同社の「事前トレーニング (pre-training)」チームを率い、AI Driver となるモデルを開発しています。
「私たちが好んで使う例えは、人間が運転を学ぶとき、16 から17 年かけて空間認識や手と目の協調といった能力を身につけます」と彼は述べます。「そのうえで、道路交通のルールや車の扱い方を学ぶために、 40 時間ほどの運転レッスンを受けます。事前トレーニングとは、その最初の 16 年間にあたる部分なのです。」
マイクロソフトとの新たな取り組み
Wayve のエンジニアは、テスト車両のフリートから収集した動画やその他のデータに加えて、シミュレーション データ(ビデオゲームを思い浮かべてください)や他の種類のデータを使用し、AI モデルに動的な環境の中を安全に走行する方法を学習させています。
「モデルは、物体が空間内でどのように動くか、複数のカメラからの映像がどのように関連しているか、それらが動作とどのように関連するか、そして速度などの要素が将来の世界の見え方にどのように影響するかを学習しています」と パーシン氏は述べています。
さらに彼は、Wayve の AI モデルを学習させるためのデータを大量に必要とするシステムは、マイクロソフトの大規模な処理能力に依存していると付け加えました。Wayve で生成されるペタバイト規模の動画などのデータを格納する Azure Blob Storage(blob は binary large object の略で、ここではそのようなデータを指します)や、モデルのトレーニングをサポートし、動作に必要な計算需要に対応するために不可欠なツールとして Azure Kubernetes Service AKS を挙げました。をサポートし、動作に必要な計算需要に対応するために不可欠なツールとして Azure Kubernetes Service AKS を挙げました。
パーシン氏は、Wayve とマイクロソフトが、真に新しいものを生み出すうえで役立ったツールについてどのように協力してきたかを振り返りました。
「具体例の 1 つとして、AKS は以前は 1,000 ノードしかサポートしていませんでした」とパーシン氏は述べています。ノードとは通常、最大数個の GPU を搭載できる 1 台のサーバーであり、クラスターはノードの集合体です。「私たちはそれよりも大きい単一クラスターを望んでいましたが、現在このサービスは 5,000 ノードをサポートしていっるため、自分たちで独自の Kubernetes サービスを実行する必要がなくなりました …… その結果、私たち自身の開発が加速しました。」

マルタ ヴォリンスカは、Wayve のドライビング パフォーマンス チームで働く機械学習エンジニアです。彼女の仕事は、車種ごとに異なるカメラ構成や、レーダーやライダー(光検出測距)などの他の種類のセンサーを備えた、異なるタイプの車両にモデルを適応させることです。
彼女は、新しい車にはすでに車線検知や一定程度の運転支援など、多くの AI 機能が組み込まれているが、Wayve の技術はそれをさらに次の次元へと引き上げるものだと指摘しています。
彼女によると、訓練時には遭遇していない可能性がある実世界の状況に対しても、モデルが非常に適切に反応する点が、彼女自身や Wayve のエンジニア、コンピューターサイエンティストたちを驚かせているそうです。
「道路を横切るガチョウやリスを避けるために減速するようなことです」と彼女は述べました。「こうした ロングテールなシナリオ こそ、私たちが上手く一般化できるケースなのです。」
自動運転車の利点
キングス クロス近くの Wayve のロンドン本社からトラファルガー広場まで、Wayve 搭載車で移動中、ロンドン中心部の交通がいかに複雑かを十分に体感することができました。
発進はスムーズで、頻繁な停止も同様でした。ガチョウやリスのような小動物に遭遇することはありませんでしたが、信号が変わった後に不注意な歩行者が横断してきた際には、車はしっかりと歩行者を認識し停止しました。その後は何事もなく4 人の乗客をトラファルガー広場まで送り届け、戻ってきました。走行中、安全オペレーターが介入する必要は一度もありませんでした。
Wayve の CEO であるケンダル氏は、Wayve やその競合企業がロンドンやその他の地域にもたらす影響について、大きな期待を寄せています。
「ロンドンの人々は、自動運転車サービスにきっと喜んでくれると思います。自動運転がもたらすメリットは計り知れないほど大きいからです」と彼は語りました。
彼は、自動運転車が共有やレンタルが可能なため、より生産的に利用でき、駐車場に停めている時間が減ることで、都市環境における駐車スペースの必要性の減少につながり、街そのものを変える可能性があると述べます。ケンダル氏は、Wayve が開発している技術は最終的には、Copilot のような大規模言語モデルほど注目されていない分野、より大きなトレンド「エンボディドAI (身体性AI )」の一部であると述べた。
「今後 10 年間で、AI を物理世界に持ち込むエンボディド AI の台頭を目にすることになると思います」と彼は語ります。「これが私たちに与える機会は、もちろん、自動運転車、物流、ヘルスケア、ロボティクス、製造、家庭用ロボットなど、物理的な相互作用を伴う私たちの生活の膨大な部分です。物理世界におけるこれらすべてのアプリケーションも AI の恩恵を受けることができます。」
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