テクノロジ、倫理、法律: AI が作る未来の課題に備える

[2018年4月16日]

ジェフ スペンサー (Geoff Spencer)
Microsoft Asia ライター

デジタルテクノロジは毎日のように進化しています。クラウドの膨大なコンピューティング能力と大量データの蓄積が、相乗効果を発揮しています。人工知能 (AI) の普及が進み、コンピューターがますます人間に近づいています。

この大規模な変化は、個人と社会にどのような影響を与えるでしょうか?デジタルの世界を律するために、どのような法律が必要でしょうか?

マイクロソフト コーポレーションのプレジデント、ブラッド スミス (Brad Smith) にとって、この問題は「『コンピューターは何ができるか』だけではなく、『コンピューターは何をすべきか』」という、基本的な質問から始まります。

スミスは、新テクノロジとイノベーションを積極的に採用してきた都市国家シンガポールの訪問中に、「これが、今後 10 年間にあらゆるコミュニティと世界のあらゆる国が自身に投げかけなければならない質問です」と、法律家、政策立案者、学識者に向けて語りました。

開発者が自分の開発する画期的テクノロジに夢中になるのは無理もないことですが、「未来を無批判に見ることはできません」と、スミスは警告します。

コンピューターが人間のように振る舞うようになるにつれ、社会的課題も増してきます。「私たちにはAIのテクノロジのビジョンだけではなく、倫理のビジョンも必要です」と、スミスは述べます。

このような倫理上の課題は、「エンジニアとテクノロジ企業だけがフォーカスすべきものではありません。 … 事実上、すべての人にとっての課題です。」これは、マイクロソフトなどのテクノロジ企業が作成した「構成要素」を活用して、自分独自のAIシステムを構築する人々や組織の数が増しているからです。

TechLaw.Fest コンファレンス、および、National University of Singapore Lee Kuan Yew School of Public Policy で講演したスミスは、この東南アジアのハブ都市が、「未来がどのようになるか、AIの多様性がどのように進んでいくかを知る上で最適の場所である」と述べました。

National University of Singapore の Lee Kuan Yew School of Public Policy で講演するマイクロソフト プレジデントのブラッド スミス(左)、そして、シンガポール情報通信教育省上級相のジャニル プスチュアリ (Janil Puthucheary) 博士
National University of Singapore の Lee Kuan Yew School of Public Policy で講演するマイクロソフト プレジデントのブラッド スミス(左)、そして、シンガポール情報通信教育省上級相のジャニル プスチュアリ (Janil Puthucheary) 博士

本年の初めに、スミスとマイクロソフトのMicrosoft AI and Research Group エグゼクティブバイスプレジデントであるハリー シャム (Harry Shum) は、『Future Computed:AIとその社会における役割』 (Future Computed: Artificial Intelligence and its role in society) を共同執筆しました。そして、シンガポール訪問時に、スミスは以下の 6 つの倫理基準について解説しました。

公平性: 「人間と同じように意思決定を行うテクノロジを作るということは、何を意味するのでしょうか?コンピューターは公平になるのでしょうか?それとも、コンピューターが差別を行い、法律家、政府、規制当局がそれを違法と見なすことがあるのでしょうか? … もし、データセットに偏りがあれば、AI システムにも偏りが生じてしまいます。」緊急の課題として、今日のテクノロジ業界における男性中心型の状況を変える必要があります。

信頼性と安全性: 今日の製品の製造責任に関する法律や基準は、 1世紀以上前のテクノロジに基づいています。コンピューターと AI の進化に合わせて、これらも変化していかなければなりません。「人々は AI が何をできるかだけでなく、AIができることの限界についても理解する必要があります。」これにより、人間が議論の対象となり、厳重なテストが行われることになります。

プライバシーとセキュリティ: 「ニュースにおける議論、そしてAI などの情報技術の進化を考えると、プライバシーほど重要な課題はありません。今日のプライバシー法の適用から始め、法制度のギャップについて考えなければなりません。 … これにより、悪意ある人々からデータを守り、責任あるデータ利用が可能なように、人々がデータを管理し、マイクロソフトはシステムを設計できるようになります。」

「私たちにはAIのテクノロジのビジョンだけではなく、倫理のビジョンも必要です」

多様性: 「何らかの障碍を抱えている方は数多くいらっしゃいます。AI ベースのシステムはこのような人々の生活を向上させることも、不便にすることもあります。これは、システムを設計する人が、これらの人々のニーズを考慮した設計を行うかどうかに依存します。」

上記の 4 領域は以下の 2 領域を基盤にしています:

透明性: 「AI の領域では、『説明可能性』の理念が急速に注目を集めています。」別の言い方をすれば、AI システムを開発した人は、それを利用する人、またはそれに影響を受ける人に対して、「アルゴリズムがどのように機能しているのかを説明する責任を負います。そして、これはきわめて複雑な課題です。」

最後の領域として、「最も基本的規範」である説明責任があります。「コンピューターにより多くの意思決定を行わせることで、コンピューターは人間に対して説明責任を負うことになります。そして、これらのコンピューターやシステムを設計する人も、他社や社会に対する説明責任を負う必要があります。」

これらの 6 つの領域はすべて互いに補完し合いますが、それでも「世界が必要なすべてを提供するとは考えていません」。

「これが、マイクロソフトがコーダーに対しても、医者に対する『ヒポクラテスの誓い』と同等の規範を作るべきであると考える理由です。すなわち、AI システムを設計する人々に AI が人間に害をもたらさないことを保証させるための規範です。」

スミスはシャムとの共著の出版により、世界的な対話が触発されたと述べます。「共著の出版により、世界中の学生たちが協力して、さまざまな規範を作成し始めました。これが、倫理的な未来を人々が自分自身で定義していくために必要なことです。」

しかし、最終的には世界が倫理基準について合意するだけでは十分ではありません。「倫理について合意するだけでは、倫理的な人々だけが AI システムを正しく開発するだけになります。それだけでは十分ではありません。 … これらの基準を法制化することが必要です。」

「今後10年に、AI 法が、たとえば、今日のプライバシー法と同じレベルで重要になっている未来を造ることによってのみ、コンピューターが倫理的に意思決定を行う世界が到来することになります。」

一方、テクノロジ企業が求めるスキルセットの範囲も広がっています。 「科学、テクノロジ、工学、数学 (STEM) が今まで以上に重要になっていきます。しかし、コンピューターが人間のように振る舞うようになるにつれて、テクノロジの構築における社会科学や人文科学の重要性が高まっていくでしょう。」

 

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