コンピュータから得た教訓をもとに、新たなプラットフォームを用いて救命生物療法の生産を強化

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当ブログは、2019 年 3 月 11 日に米国で公開されたブログの抄訳をベースにしています

 

ジェニファー ラングストン (Jennifer Langston)

英国ケンブリッジ – ここ最近、バクテリアからセメントを作る方法が企業により発見され、従来の製造工程で発生する汚染の削減に貢献しています。科学者はより高度な技術を活用し、患者の免疫細胞をプログラミングすることで、白血病細胞を見つけて抹消するといったこともやり遂げています。これにより、生存する見込みがほぼないとされていた子どもたちが、何年も生き続けられるようになりました。

このようなことが可能なのは、製造された一連の DNA を生きた細胞に入れることで、DNA が新しい、変革的な行動をとるためです。

生態をプログラミングするこの能力によって、医薬品や科学物質はもちろん、食料や燃料に至るまで、あらゆるものの製造方法が変わる可能性が大きいと研究者は考えています。しかし、何百万にもおよぶ遺伝的要因や環境的要因の組み合わせの中から望ましい結果が得られる組み合わせがどれかを予測することは、多大なコストがかかる上、根気が必要な、職人技のような作業だといえます。単純な運による成功よりはずっと前に進んでいるものの、数カ月から数年にもおよぶ実験で失敗を重ね、ようやく成功に至る場合もあります。

「例えば、月にロケットを着陸させようとする人が、物理法則を十分に理解していなかったり、ロケットを正確に制御する手段がなかったりするとしましょう。月に近づけただけでもラッキーですよね」と、英国ケンブリッジのマイクロソフト研究所で生物学計算グループを率いるアンドリュー フィリップス (Andrew Phillips) は話します。「しかし、ロケットの行動を管理する方程式を理解した上で制御できれば、ロケットの行き先を自分で決めることができます」

何千年もの間、ビールを発酵させるために醸造所の酵母を利用するといったような生物学的な工程を活用し、われわれは自らが生産できないものを作り上げてきました。酵母の DNA の中には、どのタンパク質を作り、原材料を泡状の飲料水に変える複雑な作業をどのように行うのかといったことを伝える指示書が符号化されています。そこで、新たな DNA を酵母の中に入れることで、他にもさまざまなことをするための、新しい指示書を DNA にプログラミングすることができます。

マイクロソフトの研究者は、このような根本的なプロセスを調査し、どうすればそのプロセスに影響を与えることができるかを長年に渡って研究してきました。今回、これらの研究者は、プリンストン大学、そして英国に拠点を置く Oxford Biomedica および Synthace と協業することになりました。この協業では、さまざまな企業や研究チームがより信頼性の高い作業ができるように、統合プラットフォームを開発し、テストします。その目的としては、有益な科学的進歩を遂げるまでに求められる試行錯誤の量を削減することと、すでにその分野で確立された企業や学術研究者に、より効率的でコスト効果の高い運営をしてもらうことがあげられます。

このプロジェクトは Station B と呼ばれており、エンドツーエンドのプラットフォームを開発することを目指しています。同プラットフォームには、ソフトウェアスタックや、Microsoft Azure のクラウド上で実行される研究所の実験や機械学習メソッドを自動化する手法などが含まれています。これにより、科学者は生きた細胞という生命における究極の情報処理機器の力をより効率的に、また予想通りに導くことができるようになります。

Station B プラットフォームを開発したマイクロソフトの生物学計算グループ長、アンドリュー フィリップス。撮影:ジョナサン バンクス (Jonathan Banks)

Station B の研究者は、コンピュータプログラミングで予測通りの結果が得られることと同様の厳密性を生物学のシステムに適用しようと取り組んでいます。同プラットフォームは、プログラミング言語やコンパイラの開発におけるマイクロソフトの専門性を活用し、バイナリコードの代わりに DNA の構成要素を表す A、T、C、G のシーケンスを生成する新たな原理を適用します。計算モデルを利用することで、パソコンや表計算シートのみで解析するには複雑すぎる細胞内の相互作用を表現するのです。

プリンストン大学の微生物学者および物理学者との学術的共同研究における最初の Station B プラットフォームの試験は、バイオフィルムの構造調査を予定しています。バイオフィルムとは、薄くてぬるぬるとした細菌の層であり、表面に蓄積して医療感染や産業汚染を引き起こします。研究チームでは、遺伝子構造を迅速に組み立ててテストする予定であり、これによって研究者がこうした細菌集団についての理解を深め、最終的には破壊できるようになれば良いと考えています。というのも、これら細菌集団は死因としてガンに匹敵すると考えられており、世界で主な感染原因となっているためです。

また、マイクロソフトでは、 Oxford Biomedica との協業も開始します。Oxford Biomedica は、患者の細胞が衰弱性疾患や致命的疾患に対抗できるようにする遺伝子治療を開発し、製造している企業です。Station B の研究者と共同で、どの遺伝子と環境の組み合わせが製造工程の生産性を高めるかを特定すべく研究を進めることにより、Oxford Biomedica では「人生を変えるような治療のコストを大幅に軽減し、より多くの患者の手に届くようになる」ことを望んでいると、同社の最高事業責任者であるジェイソン スリングスビー (Jason Slingsby) 氏は述べています。

「より一般的な疾患に対処する場合、同じ労力で 1 回あたりの標的療法の回数を何百から何千へと上げる必要があります」とスリングスビー氏は話します。

同プラットフォームは、ロンドンに拠点を置く企業である Synthace のソフトウェアも活用しています。Synthace は Microsoft Azure を利用し、科学者が手動で行う生物学の実験を自動化しています。これにより、科学者や製薬会社がより複雑な事象をテストできるようになるだけでなく、異なる環境でも同じ実験が再現できるようになります。

Microsoft Azure のクラウドインフラストラクチャと機械学習ツールは、実験データを迅速に分析し、特定の DNA シーケンスが導入された際に細胞がどう反応するか予測するモデルを改善します。これにより、ユーザーは命を救う薬品や、非毒性プロセスにおいて染料を布地に固着する細菌を開発するにあたり、最善の状況に専念できるようになります。

最終的には、知識ベースを共有することで、遺伝子装置、つまり細胞に導入された加工 DNA の一部が、新たな状況でどのように機能するかが予測できるようになり、新製品や新プロセスの開発における試行錯誤の削減につながります。

気象学者が明日の天気やハリケーンの上陸地を予測する際にコンピュータモデルを利用することと同様に、Station B のツールはこのような生物学的プロセスを、コンピュータを用いてモデル化し、科学者が有望な結果を得られるよう支援します。また、実験室で苦労しながらすべての状況をテストする必要がなくなるため、生産プロセスの迅速化につながります。

Synthace ロンドン研究所にて、同社の Antha ソフトウェアと自動化プラットフォームを使って実験するアソシエイトサイエンティストのシャーマ チラクワッド (Shama Chilakwad) 氏。撮影:ジョナサン バンクス (Jonathan Banks)

命を救う薬の工場へと細胞を変化させる

製薬会社である Oxford Biomedica の本社は、免疫体の形をしています。これは、ビルを設計した同社の象徴であり、タンパク質を活用して細胞内の有益な作用を引き出した同社の名残でもあります。

最近では製薬会社もパーソナライズされた治療法を模索しており、新薬の開発コストや市場投入コストが上昇しています。薬の開発において最も急成長している分野のひとつが遺伝子治療であり、培養下で遺伝子操作された細胞から作られることの多い、生物送達ツールを用います。

Oxford Biomedica は、20 年以上前にオックスフォード大学からスピンアウトして設立された企業で、こうした最先端の遺伝子治療や細胞治療の開発を数多く手がけているほか、戦略的パートナーの独自開発や製造も支援しています。また、人工遺伝子を細胞に組み込む送達システムの開発を専門としています。ここでいう人工遺伝子とは、基本的には病気を引き起こす要素や成長する機能を取り除いたウイルス粒子のことで、巧妙な細胞侵入メカニズムを使って、有益な遺伝子の治療ペイロードを送達します。

例えば、パーキンソン病患者の脳に対する 1 回の送達で、標的細胞を誘導し失われた神経伝達物質であるドーパミンを生成する 3 つの遺伝子が導入されます。初期の臨床試験では、パーキンソン病における弱体化症状の改善につながる様子がうかがえました。

また、同社ではある薬を開発するパートナーの支援も行っています。その薬は、一部で「バブルボーイ」としても知られる重症複合型免疫不全 (SCID) 症候群の子どもの幹細胞における遺伝子変異を修復するものです。これまでにこの治療を受けた子どもの免疫機能はすべて回復しています。子どもたちの生活は変わり、初めて学校に通えるようになった子も少なくありません。

また、Oxford Biomedica は Novartis との間で、米国および欧州連合にて承認された初の治療薬を生産する契約も締結しました。その治療薬とは、白血病およびリンパ腫の患者自らの免疫細胞を再プログラムし、ガン細胞を識別して抹消するというものです。薬はそれぞれの患者に対して特別に作る必要があり、急性リンパ性白血病の子どもの治療に 50 万ドル近くの費用がかかります。

この治療がなければ、子どもたちには通常、数週間から数カ月の命しか残されていませんでした。それが、細胞治療の臨床試験を受けた子どものうち 81%が回復に向かい、治療を受けた最初の患者は 6 年経った今でも生存しています。

「遺伝子治療でできることに対する期待値は高まっています。何をしても効果がなかった子どもの命を救ったり、大幅に延命できたりするのはすばらしいことです」と、Oxford Biomedica のチーフテクニカルオフィサー、ジェームス ミスキン (James Miskin) 氏は語ります。「同時に、製造コストを削減し、より一般的な病気に苦しむ患者でもこのような変革治療に手が届くようにしてほしいと望む声も多いのです」

Oxford Biomedica の研究所で遺伝子治療を開発するペイシェンス ブレイス (Patience Brace) 氏。これにより、患者自らの細胞がガンやパーキンソン病、さらには重度免疫不全などの病気に立ち向かえるようになる。撮影:ジョナサン バンクス (Jonathan Banks)

Oxford Biomedica の現在の課題は、人工遺伝子を人間の細胞に送達するシステムである同社の LentiVector® プラットフォームから、自社製品用およびパートナー用に十分な治療薬を生産できるようにすることです。さらに大きな目標としては、既存治療のコストを下げ、膨らみつつある新たな治療への要望に応えることです。その新たな治療には、何百万もの患者に影響を及ぼすより大きな臓器や疾患をターゲットとしたものも含まれます。

スリングスビー氏は、「遺伝子治療製品が大衆から支持され、幅広く採用されるには、経済を下方推進して患者にとって妥当なコストにし、医療システムが患者を受け入れるようにしなくてはなりません」と語ります。「今回、新たにマイクロソフトと協力することで、われわれのシステムの最適な構成方法について新たな知見を得ることができ、生産性を高めつつ正しい方向に進むことができるでしょう」

Oxford Biomedica は新たな施設への投資も進めており、すでに生産量を 10 倍にまで高めています。生産性を飛躍的に向上させるために、同社は Station B とのコラボレーションで LentiVector プラットフォームに最適な生成細胞をより深く理解し、最終的には設計できるようにしたいと考えています。

Oxford Biomedica は、細胞株や遺伝物質、そして環境条件の組み合わせを何千組にも渡って慎重にテストし、最善の組み合わせを選び出しています。しかし、同社の科学者は、未だなぜその組み合わせが他のものより優れた結果を出すのか把握できていません。

「製薬会社で一般的に使われているこのスクリーニング手法で結果は出せますが、理由まではわかりません」と、ケンブリッジの Station B 研究室にて実験を行う合成生物学者のポール グラント (Paul Grant) は語ります。「この成功を元に次のことをしようと思ってもできません。なぜ成功したのかわからないためです。この状況を変えるべく、インフラを構築しているのです」

Oxford Biomedica は、実験や製造工程から何千ものデータポイントを収集しています。その中には、液体処理ロボットの動作から、産業用生物反応器の状態、さらにはカクテルバーテンダーがマティーニをシェイクするように生産システムを混在させる機械の状態に至るまで、さまざまなものが含まれます。

Station B チームでは、まず、これらのデータにモデリングと機械学習の専門知識を適用し、どの実験条件がより多くの遺伝子治療ベクターを生成するかを深く理解して予測します。製造の生産性を高め、少ない労力で多くの量をより確実に生成できれば、治療の全体的なコスト削減につながるでしょう。

次の段階では、遺伝子装置を体系的に設計できるよう取り組みます。遺伝子装置は生物学上のコンピュータプログラムに相当します。これによって有効な作用が高まり、行動を微調整することで、同社の細胞株を信頼性の高いパフォーマンスを出すものから、すばらしい生産工場へと変革させます。

英国ケンブリッジのマイクロソフトリサーチに所属する生物学者ポール グラント。Station B 研究所で実験中だ。撮影:ジョナサン バンクス (Jonathan Banks)

Station B プラットフォームの構築

マイクロソフトの生物学計算グループでは、長年にわたって Station B プラットフォームの構成要素を構築しています。

約10年前、フィリップスは同僚のマイケル ペダーセン (Michael Pedersen) と共に、生物学的アルゴリズムをバイナリコードではなく DNA にコンパイルするプログラミング言語を開発し、細胞の行動に影響を与えました。この最初の取り組みに加え、コンピュータサイエンスと生物科学を専門とするマイクロソフトの科学者ボヤン ヨルダノフ (Boyan Yordanov) は、チームと協力して細胞内の生物学的アルゴリズムの設計、実装、分析を行う試作プラットフォームを開発しました。これには、データを使ったシミュレーションモデルのトレーニングに基づき、行動を予測する機能も組み込まれています。この機能は、さまざまな生物学的応用を模索した経験を持つ数学者のニール ダルチャウ (Neil Dalchau) が開発した機械学習システムを活用したものです。グラントは、過去にゼブラフィッシュの細胞がどのように縞模様を作るか研究していた生物学者ですが、この試作品を使って細胞がどう決定を下すのかを調べる遺伝子構造を設計しテストしています。

マイクロソフトの科学者で数学者のサラ-ジェイン ダン (Sara-Jane Dunn) も、計算モデルを開発し、幹細胞が脳や膵臓、皮膚、神経、血液といった他の細胞に変化する力や準備状況を維持する手法を見極めようとしています。こうしたプロセスをリバースエンジニアリングすることで、この領域の科学者は多くの病気を治療する幹細胞療法を生み出したいと考えています。その幹細胞療法で治療が見込める病気は、健康な臓器の再生からアルツハイマー病の要因となる失ったニューロンの置き換えに至るまでさまざまです。

ただし、生物学的システムに影響を与えることは、オペレーティングシステムやビデオゲームのプログラミングとは異なります。論理的な順序に従うようなレシピを書くこととも少し異なり、騒々しい分子スープの中で発生する数多くの相互作用や並行プロセスを解明しようとすることだと言った方がいいでしょう。

「細胞が健康なものと異質なもののどちらになるのか、またどのように分裂し、どうやって育つかを決めるのは、本質的には分子レベルで情報処理がされています」とダンは話します。「この生物学的計算を理解する新たな方法を考え出す必要がありました。また、システムにやってもらいたいことをしてもらうにはどうすればいいのかも考えなくてはなりませんでした」

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” 製薬会社で一般的に使われているこのスクリーニング手法で結果は出せますが、理由まではわかりません。この成功を元に次のことをしようと思ってもできません。なぜ成功したのかがわからないためです。この状況を変えるべく、インフラを構築しているのです “

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フィリップスによると、Station B プラットフォームにはこうしたパズルのピースをすべて集めてひとつの統合システムにする力があるといいます。いずれの初期展開も、健康面や安全面、倫理面、そして医学面における規制当局の監視の下、研究所内で行われます。

「これは、プログラミング言語やモデリング機能、機械学習に関するマイクロソフトの深い専門知識と、ラボ自動化やクラウドおよびインテリジェントエッジの能力を結びつけたものです。このようなツールの組み合わせは、現在この業界のどこにも存在しません」とフィリップスは述べています。

ある大きな課題を解決するにあたり、同プラットフォームは Synthace のラボ自動化システムを活用してクラウドから実験を実行し、複雑な科学プロトコルの各ステップを正確に再現できるようにしています。

Synthace の Antha ソフトウェアにより、「試験管をしっかり振る」といった主観的な指示を、誤解が生じることのない、実験ロボットが実行できるデジタル言語に置き換えられます。Azure IoT 上に構築された Antha は、生物学的実験の記述に向けたハイレベルな言語で、さまざまなメーカーが製造した一連の研究マシンを実行できます。これは、プリンタドライバによってどんなプリンタの型やモデルであっても PDF ドキュメントが印刷できるのと同じです。

毎回実験を全く同じ方法で実行できることから、ユーザーはそこで出た結果がたまたまその日に行われた実験の手法によって偶然出たものではなく、意味のあるものだと確信が持てるようになります。

Synthace のシステムは、一度に 1 つや 2 つではなく数十にもおよぶ異なるパラメータや遺伝子構造を同時にテストする実験に対処できるため、研究プロセスの速度を飛躍的に高めます。機械学習機能と組み合わせることで、顧客はより洗練された一連の調査から問題を引き出し学ぶことも可能です。

「生物学の無限に近いパワーは、ソフトウェアの抽象化と自動化機能を生物学的研究開発と製造工程に適用し、生物学者の共同作業上に構築できるようにすることでのみ得ることが可能です。これを Antha プラットフォームはうまく実現しているのです」と、Synthace の最高経営責任者、ティム フェル (Tim Fell) 氏は述べています。

英国ケンブリッジ マイクロソフトリサーチの科学者、サラ-ジェイン ダン。撮影:ジョナサン バンクス (Jonathan Banks)

「広範囲で普及する可能性」

Station B プラットフォームは、まずプリンストン大学の分子生物学部長でハワードヒューズ医学研究所の研究員であるボニー バスラー (Bonnie Bassler) 氏が最初にテストする予定です。バスラー氏はマッカーサー才能交付金を授与しており、細菌が集団行動することで並外れた力を発揮する手法を研究しています。プリンストンのチームには、バスラー氏と長年共同研究を続けているネッド ウィングリーン (Ned Wingreen) 氏も在籍しています。ウィングリーン氏は、プリンストンのルイス-シグラー統合ゲノム研究所の物理学者で教授を務める人物です。

「歴史的に、細菌は感染によって病気を引き起こすといった有害な行動しか取らないと考えられてきましたが、最近になって科学者が微生物叢という少し不思議な細菌群を発見しました。これは、人の内部や表面上に生存し、人に生命を与えるものです」とバスラー氏。「われわれの研究所でいつも疑問に感じているのは、細菌がいかにして人を殺したり生かしたりするのかということです。あんなに小さなものなのに」

バスラー氏は、細菌の世界で菌体数感知という現象が幅広く使われていることを発見しました。これは、細菌が使用する分子コミュニケーションの一種で、細菌の数が臨界量に達したかどうかを判断します。細菌が「定足数」に達すると悪性の病気を発症させるといったように、細菌が統合グループとして行動した場合のみ成功する行動を引き起こします。

概念実証の試験では、チームが Station B プラットフォームを展開し、コレラ菌が菌体数感知を使ってバイオフィルムを形成する手法を調査します。バイオフィルムは薄い細菌の層で、ほぼすべての表面上で成長します。バイオフィルムコミュニティ内に生息する細菌は、バイオフィルム外の細菌より抗生物質に対する耐性が 1000 倍も高くなることがあります。

プリンストンの研究者らは、Station B プラットフォームと Synthace のラボ自動化ツールを使って、バイオフィルム形成の鍵となり、遺伝的に発光するようにプログラムされた 2 つの異なる型のタンパク質を生成しテストします。発光することで、さまざまな状況下や異なるバイオフィルムの領域において、それぞれのタンパク質がどれだけ生成されたかを科学者が把握し、測定できるようになります。

バスラー氏は、望ましい結果が出るよう、優雅で複雑な遺伝子構造を作り上げた同氏の研究室で働く微生物学者を、熟練した職人に例えています。しかし、こうした職人技の工程では一度に少しの調査しかできず、チームが大規模に問題対処することはできません。

Station B プラットフォームでは、数十もの人工タンパク質を同時に構築し、テストすることが可能です。どのような組み合わせでも、研究者は液体処理ロボットが生産するシステムを思い描き作り出せるのです。また、バスラー氏によると、同プラットフォームではどのタンパク質の構造が自然なタンパク質に最も近い動きをするのかを見極め、バイオフィルム細胞がどのように組織化していくか正確に描写できるようになるといいます。

目標は、基礎的な理解を深め感染力の高いバイオフィルムを弱体化させるアキレス腱を見つけるか、バイオフィルムの抗生物質への感度を高めることです。

「プラットフォームがあれば、より多くの疑問を投げかけ、より多くの結果を得ることができ、大学院生や非常に有能な博士課程の学生よりも多くの実験ができます。このプラットフォームによって、確実な遺伝子構造により早くたどり着けます」とバスラー氏は述べています。

加えて、バスラー氏によると、同様に重要なのはプラットフォームが失敗した実験を含むすべての研究実験からデータを収集するため、分析する際に役立つという点です。必然的に科学者は最も実りのある調査を追求することになりますが、これでは成功しなかった実験から得る情報の宝庫が生かされないことになります。

「こうした追加情報により、何が機能して何が機能しないのか、その理由は何なのか、根本的なパターンの発見につながる可能性があります。そうなれば、斬新な飛躍を遂げることができます」とバスラー氏は語ります。

バスラー氏の研究室に Station B プラットフォームを導入することの価値は、研究者がこれまで何年もかけてコレラ菌などの細菌を研究する中で、すでに遺伝子構成や科学混合物、そしてモデルといった膨大なリストを構築してきたことにあります。

同チームが遺伝子構成などのシステムを支配する規則や原理を発見できるようになれば、それを転換できるようにプログラムできるかもしれないとウィングリーン氏は言います。そうなれば、ガンの研究をする医師や低炭素燃料に取り組むエンジニアが何年も実験室で時間を費やさなくても、テストしたい遺伝子構造を想定できるようになり、その遺伝子を組み立てる正確な青写真も入手できるようになります。

ウィングリーン氏は、「私の観点からすると、これは非常に幅広く普及する可能性があります」と語ります。「マイクロチップデザインで必要なものを要求し他人に作らせることができるソフトウェアによって技術分野が民主化されたように、生物学でも同様の革命が必要です」

トップ画像:Oxford Biomedica の研究所で働くブリーチ オドゥ (Breech Odu) 氏。Station B プラットフォームの導入により、遺伝子および細胞治療の発見と製造の加速が見込まれます撮影:ジョナサン バンクス (Jonathan Banks)

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ジェニファー ラングストンは、マイクロソフトの研究とイノベーションについて情報発信しています。彼女の Twitter アカウントはこちらです。

 

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