Gears 5 が、より多くの人々がプレイできるための機能でアクセシビリティの水準を向上

※ 本ブログは、米国時間 12 月 9 日 に公開された ”Gears 5 sets a higher bar for accessibility with features that mean more people can play the game” の抄訳です。

ビデオゲームはチェリー トンプソン (Cherry Thompson) の人生を何度も救ってきました。子供時代の困難から救ってくれた 1980 年代のゲーム Rainbow Islands や、ホームレスのティーンエイジャーだった頃に安らぎを与えてくれた Pokémon Red などです。ゲームは、コミュニティであり、治療であり、冒険であり、愛情でした。

しかし、6 年ほど前、当時 31 歳のトンプソンは脳卒中を患い、その結果、平衡機能と認知機能を損ない、エーラスダンロス症候群と診断されました。これは、関節、皮膚、血管、筋肉を脆弱にする全身性の疾病です。性多様性を考慮して自ら「彼ら」という代名詞を使っているトンプソンは、痛みと手術の苦痛に対応するためにゲームをしたかったのですが、その多くが偏頭痛、乗り物酔いの症状、手の痛みなどをもたらすためプレイ不可能でした。

トンプソンは「本当につらかったです」と述べています。合併症の自閉症、難読症、そして、ADHD (注意欠如多動症) により、ゲーム中の情報の理解やプレイが困難なのです。「しかし、障碍を少しずつ受け入れられるようになってきました。問題はゲームにあるのであって、私にあるのではないことに気付いたからです。これは革新的なことです。」

現在は、カナダのバンクーバーに住み、著名なゲームアクセシビリティ専門家・ゲーム開発者のトンプソンは、最近、Gears 5 をプレイする機会を得ました。多くの人々がプレイ可能なように多数のアクセシビリティ機能を備えたゲームです。ゲームスタジオの The Coalition は今まで以上に多様性にフォーカスし、Gears of War シリーズの最新版であるサードパーソン シューティングゲームである Gears 5 を開発し、Xbox Game Studios タイトルとして 9 月にリリースしました。それ以来、このゲームは、アクセシビリティを適切に考慮していることで高く評価されています。

Gears of War 4 の時とは異なり、トンプソンは Gears 5 を問題なくプレイすることができます。これは、めまい、吐き気、頭痛をもたらす急速なカメラの動きをオフにできるオプションが提供されたからです。画面に表示される情報をカスタマイズし、ゲームの邪魔にならないようにし、プレイ中の感覚過負荷を事前に防止することもできます。また、聴覚に問題が無い場合でも、文字サイズの調整可能な字幕により情報の理解が容易になりました。

先日の金曜日、何体かのモンスターを退治したばかりのコントローラーを手にしたまま、トンプソンは「ゲームをより長く楽しめるようになったことがとてもうれしいです。アクセシビリティは、プレイヤーのことを真剣に考え、多様な人々がいることを理解しているというゲーム開発者からのコミットメントの表われです」と述べています。

ゲーム制作スタジオ The Coalition の責任者ロッド ファーガソン (2019 年 11 月 22 日にカナダのバンクーバーの本社内ロゴ前で撮影)(写真提供: ダン デロング (Dan DeLong))

同じくバンクーバーに拠点を置く制作スタジオ The Coalition は、Gears 5 を既存ファンにとって魅力的であると同時に、できるだけアクセシビリティに優れ、親しみやすいゲームにしたいと考えていました。

The Coalition の責任者ロッド ファーガソン (Rod Fergusson) は次のように述べています。「このゲームシリーズには Gears のタトゥーをするようなコアなファン層がいます。そのようなシリーズに新しいファンを迎えるにはどうしたらよいでしょうか? 障壁を取り除きゲーム体験を楽しんでもらえるようにするためにはどうしたらよいでしょうか? そのための方法の 1 つが多様性を考慮した設計と『1 人の問題を解決し、多くの人に展開していく』という考え方です。」

開発初期段階の 2017 年、The Coalition は、2 日間にわたる多様性デザインのセッションを開催し、トンプソンと障碍を持つ人々がゲームの課題、解決策、そしてゲームへの情熱について議論しました。Gears 5 のアクセシビリティ機能のアイデアの多くがこのセッションから生まれました。これには、聴覚障碍者のために改善された字幕などが含まれます。

Gears 5 の主任マルチプレイヤープロデューサー兼アクセシビリティ責任者であるオットー オットソン (Otto Ottosson) は「チーム内で多くの気付きがありました」と述べています。彼は、チームメンバーをマイクロソフトのゲームとアクセシビリティに関する研修コースに同伴し、Gaming for Everyone のチームと協力して障碍を持つ多くのゲーム愛好家と議論しました。

オットソンは次のように述べています。「プレイヤーたちはなぜゲームが好きかを説明してくれました。彼らはいくつかの制限があるという以外は、私がゲームを好きな理由と全く同じだったのです。これは私の心を動かしました。『これはあるべき姿ではない、改善すべきだ』と思ったのを覚えています。これが、アクセシビリティに真剣に対応するためのスタート地点になったと思います。」

ゲームをプレイするクリス ロビンソン (Chris Robinson) (本人による写真提供)

過去において、ゲーム開発者はアクセシビリティ機能が限られたユーザーだけのための機能であると考えていた、とファーガソンは述べます。たとえば、適切な字幕の開発には時間とリソースを要しますが、それは、聴覚障碍者だけではなくより多くの人々にアピールします。乳児が寝ているそばでプレイしたい両親たち、空港などの公共スペースでプレイしたい人々などです。

先天性の聾唖者であるシカゴのゲーマー、クリス ロビンソン (Chris Robinson) にとって、Gears 5 の字幕機能は他のゲームには無い大きな利点です。子供時代からゲームに親しんできたロビンソンにとって、字幕の無いゲーム、細かい文字の字幕、さらには、コミュニケーションに手話を使用できずマイクを使うことを要求されるなど多くの障壁がありました。

数年前にある字幕が無いカットシーンを見た後、彼は、自らのうつ症状を克服し、ゲームの多様性を提唱するために、動画ストリーミングサイトの Twitch 上に DeafGamersTV を開設しました。「ただ画面に向かって怒っているだけではなく、何か行動を起こす必要があると感じました」と彼は述べています。

今、Gears 5 の字幕には、話者の名前、無線で話しているかどうか、感情の状態、主要な音響効果などの情報が含まれ、見やすいコントラストを提供するための背景枠も表示されており、ロビンソンは満足しています。また、テキストを拡大できる機能やアクションと共に音楽が大きくなり、戦闘後は小さくなることが示される機能も高く評価しています。

「音声とビジュアルをできるだけ『同一化』しようとする取り組みは素晴らしいものです。もし、何か聴くべき情報があれば、それを知り、感じることができます」と、プレイ中のアクションを「感じられる」よう支援してくれる触覚音声システムである振動ベストを着用したロビンソンは述べています。

Gears 5 のアクセシビリティ機能は、スペインのゲーマー、ゲームレビューアー、アクセシビリティ提唱者である脊髄性筋萎縮症患者アントニオ マルチネス (Antonio Martínez) のこともサポートしています。3 歳の時に進行性の筋力低下の疾病と診断され、15 歳の時に車椅子を使用し始めた彼は、脊柱側湾と両腕の運動障碍を抱えています。ゲームのプレイには苦痛を伴いますが、友人とつながり、山登りや屋根の間のジャンプなど自由を感じさせてくれる体験に没入するためにゲームを楽しんでいます。

Gears 5 が最初に登場した時、銃の操作にボタンを押下し続けることが必要でしたが、それはマルチネスにとって困難でした。「30 分もプレイしていると、へとへとになってしまうんです」と彼は述べています。

しかし、障碍者のコミュニティがソーシャルメディアでこのゲームに照準ロックの機能が欠けていることを指摘すると、オットソンは直ちに機能を追加しました。数週間後にはゲームに取り入れられ、マルチネスは 3 時間にわたって弱視の友人とゲームをプレイできるようになりました。

Gears 5 をプレイするアントニオ マルチネス (本人による写真提供)

「友人と一緒にゲームを楽しめるのは本当に素晴らしいことです。彼が見えないものについて私が手伝うことができ、私が撃てない相手を彼が撃つことができます。私たちの障碍は私たちのアイデンティティの一部です。しかし、ゲームにおいては障壁ではありません」とマルチネスは述べています。

また、マルチネスは運動の制限を回避できるようキーボードをリマップできる機能、そして、カメラ酔いを避けるためにカメラの揺れをオフにできる機能も高く評価しています。

「企業にとってアクセシビリティ機能を追加することが追加投資になることは理解しています。しかし、私の友人の声を聞けば驚くことでしょう。彼は本当にハッピーなのです。ゲームにアクセシビリティ機能が無かった頃は、ゲームから『君はプレイできないよ、君に能力が無いからじゃなくて、僕らが許さないからだ』と言われているような感覚でした」とマルチネスは述べています。

Gears 5 の他のアクセシビリティ機能には、豊富なコントローラーリマッピング、Xbox Adaptive Controller のフルサポート、シングルスティック動作、コントローラー振動のオフ、ボタン押下による連打の代替、色覚障碍者のサポートなどがあります。また、新しいプレイヤーにとっての親しみやすさを増すために、The Coalition は、飛行するサポートロボット Jack を開発し、Bootcamp と呼ばれる戦闘訓練も提供しています。また、すべてのレベルのプレイヤーに対応できるよう、5 つのプレイモードを提供しています。

開発努力と豊富な機能により、Gears 5 は成功し、公開後最初の週で 300 万人以上のプレイヤーを獲得しました。2012 年の Halo 4 以来、最も成功した Xbox Game Studios のタイトルです。また、Gears 5 は、ゲームアクセシビリティの情報サイト Can I Play That? の聴覚障碍者向け評価で最高スコアである AAA を獲得した最初のゲームになりました。このサイトは照準トグル機能の欠如を指摘していましたが、Gears 5 がこの機能を追加すると、運動障碍者向けレビューのスコアは (10 点中) 9.9 に上昇しました。

Gears 5 の改良された字幕機能には話者の名前、無線で話しているかどうかなどの情報が含まれ、コントラストのある背景枠が提供され、テキストサイズが調整可能です。 Gears 5 の改善された字幕機能は音楽が終わったことをプレイヤーに教えてくれるので戦闘が終わったことを知ることができます。
Target Lock は、Gears 5 の新しいアクセシビリティ機能であり、照準を構えると自動的に十字線を合わせます。 Gears 5 のアクセシビリティオプションには多くの機能があります。

ファーガソンは、Gears 5 のアクセシビリティ機能が将来の Xbox Game Studios タイトルの標準となること、さらには、業界の標準になることを期待しています。

「私たちがこのゲームに対して行なってきたことを、これからのゲームにも行なってほしいと思っています。Gears 5 はやるべきことの基準点であり、さらに上を目指せるはずです。人々が、アクセシビリティに対してより多くの注意を払うようになることを期待します。それによって自分の作品をより多くの人が楽しめるようになるからです」とファーガソンは述べます。

生まれつき全盲の、英国のゲーマー、ストリーマー、ゲームアクセシビリティのコンサルタント SightlessKombat は、Gears 5 のアクセシビリティ機能がスコアを稼ぐのに有効なだけでなく大きなコミュニティの一員と感じさせてくれる効果もあると言います。1990 年代にコンソール機のゲームを最初にプレイした時には、多くのゲームがアクセシビリティを欠いており、妥協してプレイするしかありませんでした。

Gears 5 には、メニューなどのテキストを読み上げてくれる機能があり、彼はこれを高く評価しています。これに対して、Gears of War 4 ではメニューの場所や必要なボタンの操作を記憶しなければなりませんでした。

ビデオゲームをプレイする SightlessKombat (本人による写真提供)

彼は、音によって、飛行する敵機やロケット発射機を構えたロボットなど様々な敵キャラとその武器を識別できるようになりました。遠くにいる敵は、ステレオヘッドホンやサラウンドサウンドの機器によってその位置を知り、スナイパーライフルで追加のダメージを与えることができます。また、照準を構えると自動的に十字線を合わせてくれる Target Lock というアクセシビリティ機能にも彼は満足しています。

Sightless というゲーム名を普段でも使うことを好む彼は「Target Lock によりゲーム中最大の敵も倒せるようになりました。4 連続命中を成功させたこともあります。思わず『やった!』と叫んでしまいました」と述べています。

また、Sightless は Fabricator Ping という機能も使っています。Fabricator は武器や防具を入手するために必要な箱ですが、距離に応じて高さと音量が変化する金属音を発生します。これは、彼が Gears of War 4 をプレイしている時に The Coalition に提案したナビゲーションツールです。驚いたことに、開発者はゲームにその機能を追加し、リリースノートに彼の名前をクレジットしてくれました。「あれには本当にびっくりしました」と Sightless は述べています。

「Gears 5 にナレーションメニュー、Target Lock、Fab Ping などの機能が無ければ私はプレイしていなかったでしょう。文化的現象とも言えるこのゲームを楽しめなかったことになります。」

タイトル画像: 2019 年 11 月 22 日、カナダのバンクーバーのゲーム制作スタジオ The Coalition で、マルチプレイヤーゲームの主任プロデューサーであるオットー オットソンと Gears 5 をプレイする、ゲームのアクセシビリティ専門家・開発者チェリー トンプソン (左)(写真提供: ダン デロング (Dan DeLong))

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