※ 本ブログは米国時間 5 月 7 日に公開された “Leading businesses reveal the power of combining human ingenuity with AI” の抄訳です。
さまざまな規模の企業が安定と成長への復帰に向けた戦略に取り組む中、異例ともいえるような混乱と変化に直面しています。こうした新たな環境下では、人間の創意工夫やイノベーション、適応力が非常に重要となります。
新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) により、企業のデジタルトランスフォーメーションはこれまでにないほど加速しています。マイクロソフトの CEO であるサティア ナデラ (Satya Nadella) がこのほど決算発表にて述べたのは、「この 2 ヶ月で 2 年分に匹敵するほどのデジタルトランスフォーメーションが起こった」ということでした。
しかし、多くの人が分散した職場環境へと移行し、企業が重要なワークロードをクラウドへと移行する中で、即座には明らかにはなっていないことがあります。それは、デジタルトランスフォーメーションの中心で人工知能 (AI) が果たす役割が高まってきていることです。一部の組織ではすでに AI の利用を加速させており、他の組織でも AI がもたらすメリットの進化に注目しています。
AI は、発見や学習、想像、意思決定を支援してくれるものです。AI によって業務が効率化されることはもちろん、製品やサービス開発の強化、さらには新たな顧客体験の実現にもつながっています。医療業界などでは、患者の転帰改善や人命救助にも貢献しているのです。
パンデミックが発生するまでは、マイクロソフトのお客様の多くは同じような課題に取り組んでいました。それは、AI が実際にビジネスに影響を与えるような世界で成功を目指す際、社員に適切なスキルやマインドセットを持ってもらうにはどうすればよいのかということです。
このことについてより深く調査しようと、マイクロソフトでは AI とスキルに焦点を当てた大規模な国際調査プロジェクト*を実施しました。その結果、最も成功している組織では、AI を駆使した新技術を導入するとともに、社員のスキル開発にも注力していることがわかったのです。
この数ヶ月で事業環境は大きく変化しましたが、この調査から得た知見や、その知見から描かれるロードマップは今も変わっていません。
調査で明らかになったことの中でも中核となるのは、「この新たな環境下において、企業が事業を再スタートさせるには創意工夫が必要だ」ということだと、AI 業界の専門家で Exponential View の創業者であるアジーム アズハール (Azeem Azhar) 氏は述べています。「お客様やパートナー、関係者との関わりに新たなルールが敷かれる中では、革新的で適応力のある組織の方がうまく行くでしょう。今回の調査にて、AI の最先端企業がより有利であることが明らかになりました。それは、こうした企業が幅広いスキルへの投資を進め、新技術で従業員の力を高める方法に注力しているためです」
AI とスキル、そしてビジネス価値との関連性
今回の調査では、20 カ国におよぶ国の企業で役員や従業員として務める 1 万 2000 人を対象にヒアリングを実施、これまで疑問だった点が明らかになりました。AI へのジャーニーにおいて最先端を行く企業では、AI の価値を最も高く評価していたのです。AI の成熟度が高い企業のビジネスリーダーは、AI へのジャーニーがあまり進んでいない企業のリーダーよりも自社が大きく成長すると予測していました。
ただし、成功の要因となっているのは、単により多くの AI をビジネスに投入したからではありません。むしろこうした組織では、従業員のスキル育成に大きく注力していたのです。
ビジネスリーダーが活用できる実用的な知見
- 自社ビジネスの基準を査定しましょう: AI の成熟度が同程度の企業や、成熟度がより進んでいる企業と比較して、自社のスキルの内容がどのようになっているか見定めてみましょう。
- AI やスキルから得られるリターンに確信を持つことが重要: ビジネスの成果や価値を評価する際は、テクノロジ、スキル、文化による貢献度を考慮しましょう。
- マイクロソフトの AI Business School で、AI へのアプローチを検討する際のベストプラクティスを探してみましょう。AI Business School は、ビジネスリーダーを対象として用意した無料のオンラインマスターコースです。
事実、AI の最先端企業に所属する上級管理職の 93% は、積極的に従業員のスキルを構築しているか、その予定があると答えています。こうした企業の従業員もこの事実を裏付けており、3 分の 2 近く (64%) がすでに再教育プログラムによるメリットがあったと回答し、70% が自社は AI の世界に向け準備中であると確信していると答えています。
AI の導入があまり進んでいない企業では、この数値が大幅に下がります。つまり、AI をビジネスにより多く取り入れるにはスキルアップが重要であることを示した格好です。
AI が普及する中で、企業が求めるスキルも興味深いものとなっています。データ分析やプログラミングといったスキルを優先的に求めているものの、コミュニケーションや交渉術、リーダーシップ、マネジメントスキルなども同様に求めているのです。
成功している企業がこのように幅広いスキルを重視している理由はどこにあるのでしょうか。
こうした企業では、膨大なデータセットから知見を引き出し、繰り返しのタスクを削減する上で、アルゴリズムが大きく役立つことを理解しています。同時に、それだけでは方程式の片方しか成り立たないことも知っています。もう片方の要素として必要なのは、AI によって導かれた知見を創造的に活用する能力を最大化し、課題を解決して新たな機会を見つけることです。つまり、AI に繰り返しのタスクをより多く任せることで空いた時間を有効に使えるよう、個人の力を高めることが必要となるのです。こうして確保した貴重な時間は、お客様との時間に使ったり、同僚とコラボレーションする時間に使ったり、専門的な能力開発に集中する時間に使ったりすることが可能です。
「グローバルでエンジニアリング、マネジメント、開発のコンサルティングを展開する Mott MacDonald では、一見困難に思えるような課題に取り組む手法を探るお手伝いをしています。これまでに、英国ロンドン、マンチェスター、カーディフ、グラスゴーの COVID-19 緊急対応病院をサポートしたほか、シアトルの 2 階建て道路を巨大トンネルに置き換えるプロジェクトや、スーダンの女子児童の教育成果を高める方法の立案など、さまざまなプロジェクトを手掛けてきました。こうした取り組みが成功したのは、社員の創意工夫や知識があってのことです。その知識をすべて取り込み、効率的に共有するにあたり、当社では AI を駆使したツールを使って自動的にコンテンツをトピックとつなげて整理し、1 万 6000 人におよぶ社員が簡単に見つけ出し消化できるようなコンテンツを作成しているのです」– Mott MacDonald のチーフデジタルオフィサー、ダレン ラッセル (Darren Russell) 氏
強化された社員の力
今回の調査の中でも特に手応えのあった知見をひとつお伝えしたいと思います。それは、AI の最先端企業では、上級管理職と社員の大半が AI によって自身が強化されたと感じており、AI が単純なタスクの管理を支援し、実行可能なインサイトをリアルタイムで提供してくれると答えていることです。10 人中ほぼ 9 人 (85%) のリーダーと 62% の社員が、AI によって自分の力が高まったと答えています。
企業における AI の用途を調査したところ、AI の最先端企業では 81% が業務効率化促進のために AI を利用していると回答しました。これは驚くほどのことではありませんが、こうした企業が AI を駆使していかに新規ビジネスを推進しているかは注目に値します。
- 57% が新製品やサービスの開発に AI を活用していると回答しました。一方、AI の成熟度が低い企業では同様の回答が 40% にとどまりました
- 45% が顧客体験向上のために AI を活用していると回答しました。これに対し、AI の成熟度が低い企業ではその比率が 28% でした
このことから、AI の最先端企業から得られる知見がもうひとつあることがわかります。それは、適切なスキルに注力することはもちろん、AI は自分の可能性を最大限に高める機会を与えてくれるものだと全員が受け入れ認識する文化の存在も重要だということです。
ビジネスリーダーが活用できる実用的な知見
- AI の自動化と能力強化の両側面でメリットを得られるよう、全体的なスキル戦略を構築しましょう。AI によって最も戦略的な価値を得ている企業では、AI の構築や監督に必要なスキルが高いだけでなく、AI と共に働くスキルも持ち合わせています。こうした企業は、AI が従業員のスキルをいかに高めることができるのか把握しており、従業員のスキルを構築し高めることに注力しています。
- AI で人間の創意工夫を切り開いている他社の事例を積極的に探し出し、そこから学びましょう。他社のユースケースから、成功につながったスキルとテクノロジの組み合わせを探り、それが時間と共にどう進化したか解明するのです。
- 従業員が AI によって空いた時間を何に使いたいのか把握し、その時間に再投資する道筋を作るようにしましょう。スキル開発の役に立つ学習プログラム促進の機会を探ると共に、従業員が時間とエネルギーを再配分し、優先度の高い主要なビジネスの解決やイノベーション、コラボレーションにつながるよう指導するのです。
「差別化された新製品の開発には時間と努力が必要です。つまり、高品質な新作ブレンデッドウイスキーをより迅速に市場投入できれば、市場最先端企業としての貴重な地位を勝ち取ることができるのです。Mackmyra がマスターブレンダーやチーフノーズオフィサーをサポートするために人工知能の活用を検討し、潜在的なフレーバーの組み合わせを迅速に特定しようとしたのもそのためです。そのフレーバーの組み合わせの中には、これまで考えられなかったような新しい革新的な組み合わせも含まれます。ウイスキーのレシピは AI で作成していますが、今でも人の専門性や知識から得るものは大きく、特に良質の大樽セレクションや人間の感覚などはどのプログラムにも置き換えられません。ウイスキーは AI が生成したものですが、人間が監督したものなのです。その成功は口にすれば明らかで、最近では米国蒸留協会のゴールドメダルを受賞しています」– Mackmyra の CEO、マグナス ダンダネル (Magnus Dandanell) 氏
AI 時代に頭角を現す「何でも学ぶ」という文化
AI の最先端企業から得た知見により、より多くの AI を展開しスキル再構築の取り組みを進めている企業では、それと並行して大規模な文化の変化が起こっていることがわかりました。
AI の成熟度が高い企業のリーダーや従業員は、自社を非常に革新的だと評価する傾向が 3 倍高くなっています。
励みになる材料として、多くの従業員が継続的な学習に注力し、古い課題に取り組む新たな方法を見極めようとしていることが挙げられます。AI によって空いた時間をどう使いたいか質問したところ、上位の回答は以下の通りとなりました。
- 学習
- イノベーションや問題解決
- コラボレーション
ビジネスリーダーが活用できる実用的な知見
- 従業員の学習意欲は高いため、柔軟で継続的な学習プログラムを検討しましょう。育成するスキルを自由に選択できるようにすることで、学習プログラムへの参加率が大きく高まります。柔軟なキャリア開発の道筋を描く方法を検討し、従業員が何を選ぶべきか指導することで、従業員にとっても企業にとってもメリットが出るようにしましょう。
- AI の世界で必要となる主なスキルを従業員に身につけてもらう計画を効果的に伝えましょう。これにより、従業員が自分に与えられた学習の機会をより把握できるようになるだけでなく、企業ブランドや従業員のエンゲージメント向上にもつながります。
- AI に対応できる企業文化を育成する方法や、その変化を組織内で推進するフレームワークについては、こちらで紹介しています。
このほかにも、さまざまな企業で「何でも学ぶ」文化が台頭しているという見解をさらに裏付けるデータがあります。それは、10 人中 9 人の従業員 (92%) が、AI 分野で再スキルアップする取り組みに参加したいと答えていることです。
これは、企業が AI へのジャーニーを続ける中で好循環を生み出すことになります。現在の AI 分野における最先端企業では、適切なスキルを持つことで AI からさらなる価値が引き出せることを認識しています。それが AI の利用拡大を促進し、結果として継続的な組織のスキルアップにもつながっているのです。
「患者の皆さんが私たちのすべての活動の中心です。そのため、私たちの活動は彼らのニーズ、およびスタッフが最高のケアを提供するために必要としている要素をもとに行われています。COVID-19 の世界的流行に効果的に適応し、柔軟に対応するために、私たちは臨床医と密接に協力して重要なイノベーションを加速させています。その一例が、呼吸器関連の症状を持つ在宅患者を対象とした COVID‐19 のモニタリングシステムです。AIとその音声分析機能を使用することで、臨床医は遠隔から患者を診療し、患者と対面することなく経過を追跡することができるようになりました。このようなつながりは、たとえ社会的に孤立している時であっても、将来的にはより適切なケアを提供するための方法になるかもしれないという希望を与えてくれます。」– Austin Health 社 EMR・ICT サービス担当ディレクター、アラン・プリチャード (Alan Pritchard) 氏
これまで以上にデジタルトランスフォーメーションが進む世界では、スキルが非常に重要となってきます。企業でも、テクノロジと同様スキルの優先度を高めなくてはなりません。それは、不安定な時期にあっても人間の創意工夫を高めることの重要性が変わることはないためです。
* 調査方法について
この調査は、KRC Research が 3 月 12 日から 30 日までの期間、(従業員 250 人以上の) 企業で働く約 1 万 2000 人を無作為にオンラインサンプルとして収集し実施しました。各市場で 500 人以上の従業員と 100 人以上のリーダー (ディレクター以上の役職) をサンプルとして収集しています。対象となった市場は、ドイツ、イギリス、ロシア、ポーランド、チェコ共和国およびスロバキア (両国の合計)、ハンガリー、オーストラリア、ブラジル、イスラエル、トルコ、南アフリカ、アラブ首長国連邦、アメリカ合衆国、インド、カナダ、イタリア、オランダ、スペイン、スウェーデンです。
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