不安定な現状の先に広がる、デジタルを活用した明るい未来
ラジ ラグニーサン (Raj Raguneethan)
マイクロソフトアジア Retail and Consumer Goods 担当 リージョナルビジネスリード
※ 本ブログは、シンガポール時間 8 月 7 日に公開された “Re-imagining retail: Microsoft customers embrace technology for post-COVID recovery and resilience” の抄訳です。
COVID-19 は私たちすべての生活を変えてしまいました。小売の世界も例外ではありません。他の業種と同様に、公衆衛生上の前例のない行動制限とグローバルな経済の停滞により不安定な状況にあります。
何カ月間も閉店している店舗があり、その中には二度と再開しないものもあるでしょう。もちろん、多くの e コマース企業が業績を伸ばしています。しかし、これらの企業も、消費者の需要や行動の予期せぬ変化に対応しなければなりません。そして、在庫管理やサプライチェーンといった取引の根本に関わる要素があらゆる場所で圧力を受けています。
この現実から逃れることはできません。COVID-19 は、小売ビジネスを多くの局面で変えており、この業界のプレイヤーはそれに適合していく必要があります。そのためにはどうすればよいのでしょうか?
悲観的になりがちですが希望はあります。ここでは、新たなデジタルテクノロジが鍵となります。それは、現在の課題に対応し、今後の回復期に備えるだけではなく、未来を再構築していくためにも必要です。
先を読む
ある意味、最良のアドバイスは先を読んで考えることです。好調な時に競争力強化のために新たなテクノロジを採用していた企業が、環境が突然に悪化した時でも競争力と堅実性を維持できるケースがよく見られます。
IKEA の事例を見てみましょう。ウィルス蔓延の前から、このスウェーデンの家具販売企業は、グローバルに 16 万 6 千人以上存在する社員の社内外コラボレーションのために Microsoft Teams を採用していました。ウィルスが蔓延し、ロックダウンが命じられた後も、Teams はシームレスで安全で生産的なコラボレーションを継続的に提供できました。この混乱を回避できる能力こそが全体的な業績維持にきわめて重要であることが過去数カ月間に明らかになっています。
これは、現場の最前線で活躍する従業員 (ファーストラインワーカー) が店舗内に留まらなければならない他の小売企業においても同様です。これらの企業は、Teams、そして、店舗プロセスの自動化のための Power Apps などのソリューションにより、安全にお客様とのやり取りを行えています。
COVID-19 による制限により e コマース市場は拡大しています。オーストラリアの歴史ある大規模小売企業 Woolworths は迅速にこの動向に適合できました。SAP システムを Azure に移行済であり、現在は顧客体験向上のためにクラウドのパワーを活用しています。
もうひとつの素晴らしいケーススタディは Myntra によるものです。このインドのファッション用品 e コマース企業は、パンデミックが到来する少し前に、アナリティクスによる顧客ニーズ把握のためにデータプラットフォーム全体を Azure クラウドに移行していました。インド全域で最初のロックダウンが命じられた時も、Myntra は消費者のニーズや優先事項に関する有用な洞察を得ることができました。
顧客に奉仕する
他のファッション業界のプレイヤーが顧客獲得に苦慮する中で、Myntra は販売キャンペーンを成功させることができました。また、自社の販売アプリ上で、コンフォトウェア、部屋着、アスレジャー、民族衣装などのカテゴリにフォーカスした “Work from Home Edit” (在宅勤務バージョン) を展開して好評を博し、顧客満足度を向上させました。
新テクノロジの迅速な採用が企業の生死を決定することもあります。アジア最大級の歴史あるヘルスケアサービス企業グループ Zuellig Pharma は地域内の数 100 万人の患者のために、数 10 万の薬局や診療所に医薬品を供給しています。
同社は、およそ 2 年前にデジタルトランスフォーメーションの取り組みを開始しました。アジア地域にウィルスの影響が及び始めた時には、多様なデジタルイノベーションを推進するためのクラウド基盤を確保できていましたが、これはきわめて重要であったことが明らかになりました。特に、発注システム eZRx と支払システム eZPay によりシンガポール、マレーシア、フィリピンの顧客が重要商品の在庫を維持できるようになりました。
次に、サプライチェーンと在庫管理の分野で、テクノロジが不安定な環境にどのように対応できるかを見ていきましょう。
グローバルサプライチェーンプラットフォームの Blue Yonder は、Microsoft Azure、AI、機械学習を活用した予測エンジンにより、企業がサプライチェーンに対するパンデミックの影響を最小化できるよう支援する、Luminate Control Tower を開発しました。このソリューションは、デジタルエコシステム全体のリアルタイムな情報を発見し、解釈し、対応するための洞察を企業に提供します。
Luminate Control Tower は、企業のサプライチェーン関連指標に対する COVID-19 の影響を図示し、高リスク要素の判別を可能にします。この結果、同社の企業顧客は、経費を最大 30 パーセント削減し、計画の効率性を 60 パーセント向上できています。
オーストラリアでは、サーフウェア企業の Rip Curl が、Power BI を活用して卸売システムと小売システムの情報を統合することで、店舗出荷と倉庫在庫に関する情報を分単位で把握しています。同社は、このデータを信頼できる唯一の情報源として集約することで、管理職とスタッフにリアルタイムの洞察を提供できています。データウェアハウスを構築し、組織全体に Power BI を展開したことで、Rip Curl は情報の全社的視点を獲得することができました。
COVID-19 は、コンタクトレス販売や店舗内オートメーションといった、アウトブレーク前から存在していた小売業界の動向を加速しました。日本では、大手コンビニチェーンのファミリーマートが、AI、ネットワーク、ロボティクスを活用して商品の検品と品出しを自動化する、Azure ベースのソリューションで、マイクロソフトのパートナー企業 Telexistence と協業しています。
小売業者の必須項目
このパンデミックが多くの課題をもたらしたことに疑いはありませんが、同時に新たな機会も示されています。小売企業が、現状に適合し、回復し、成長を続けていくために必須のポイントを以下に挙げます。
- オムニチャネルのタッチポイントを強化し、同時に物理的店舗の位置付けを再定義する。これには、顧客のニーズと嗜好を把握するためのデータの活用、ソーシャルディスタンスと衛生面のガイドラインに準拠した安全で効率的な店舗内の顧客体験の提供などが含まれます。
- 顧客にコンタクトレスの支払、集荷、配送を提供するオプションを維持する。
- バックエンドのツールとアナリティクスによる在庫管理の精度向上により業務運営の俊敏性を確保する。
上記を実現するための新たなパートナーシップが新たな未来を築く上で重要な役割を果たします。小売企業は、パンデミックがもたらした課題に対応するために業界内外でのコラボレーションを強化し、「ニューノーマル」の中で変化する顧客のニーズに応える機会を追求していかなければなりません。
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