自動車はよりスマート化が進み、接続性が高まり、ソフトウェアで定義されるようになりつつあります
サンジェイ ラビ (Sanjay Ravi) 自動車・モビリティ・運輸業界担当ゼネラルマネージャー
※本ブログは、米国時間 1 月 4 日に公開された “The future of mobility is now: Five themes to watch at CES 2023” の抄訳を基に掲載しています。
信じがたいことですが、ほんの 200 年前には馬車が主な交通手段として使われており、その状況が数百年間続いていました。それが内燃機関の発明により、人やモノの移動手段は短期間で大きく変化しました。移動がより身近で手頃になり、想像をはるかに超えるような機会が生まれたのです。
あの時の 100 年に一度の変化が、現在の状況につながっているのです。
そして今、私たちは再び 100 年に一度の変革期を迎えています。
モビリティ業界は今、重要な転換期にあり、大規模なイノベーションが進行中です。自動車はよりスマートになり、接続性が高まっているほか、ソフトウェアで定義されるようになり、一部では自律走行できる自動車も登場しています。電気自動車は定着しつつありますし、持続可能性への注目も高まっています。この業界のイノベーターたちが、世界中の人やモノの移動に関するあらゆる側面を再考しているのです。マイクロソフトは、こうしたモビリティの再発明に取り組むイノベーターとパートナーシップを組むことを誇りに思っています。
ただし、この変革にはさまざまな困難が立ちはだかっています。世界的なマクロ経済の課題や、サプライチェーンの混乱、エネルギー不足、労働力の確保に遅れが出ていることなどです。つまり、より少ないリソースでより多くのことを実現することが、かつてないほど重要になっているのです。
ラスベガスで開催される CES 2023 では、このパラダイムシフトの両面が強調されることになるでしょう。モビリティを向上させると同時に効率を高め、環境負荷を削減する機会を提供し、新しい方法で人々をつなぐイノベーションが待ち受けています。マイクロソフトは自動車業界の重要なパートナーとして、その進化に対し独自の視点を持っています。当社では、自動車を製造したり、お客様のデータを収益化したり、自動車ブランドと競合したりすることはありません。当社は、自動車メーカーやモビリティサービスプロバイダーが独自のデジタルプラットフォームを構築し、可能性の限界を超えることができるよう、インテリジェントクラウドとエッジテクノロジで支援しているのです。
マイクロソフトは、自動車企業やモビリティ、運輸関連企業が、データおよびソフトウェア駆動型のモビリティサービスプロバイダーへと変革できるよう支援しています。Azureのクラウド型分析サービスは、お客様とのやり取りやデータソース、従業員および業務パフォーマンスなど、さまざまな分野で収集した独自のインサイトを導き出していますし、当社の広範なクラウドサービスとパートナーエコシステムにより、差別化されたモビリティサービスで新たな収益源を生み出すことも可能です。
明日開幕する今年の CES では、運輸関連の専用ホールが設けられており、モビリティの未来に飛び込んでその世界を探索できるようになっています。世界で最も影響力のあるこのテクノロジイベントでは、さまざまな企業が最新かつ最高のものを披露しますが、その中で注目すべき主なテーマをここでご紹介したいと思います。
- レジリエンスを向上する持続可能で協調的なサプライチェーンの構築
組織が長期的に存続するにはレジリエンスが重要な要素となりますが、現在の状況ではそれが新たな意味合いを持つようになりました。ほぼすべての業界が、サプライチェーンの混乱による連鎖的な影響を感じており、期待値の回復にはその混乱緩和が欠かせないのです。
トラック運送業界ではタイミングがすべてです。トラックがお客様のもとに時間通り到着するには、問題を早期に発見し、機敏に対応することが求められます。しかしサプライチェーン全体が可視化されていないと、生産はもちろん配送にまで影響が及ぶような問題がいつ発生するか把握することは困難です。そこで Daimler Truck North America では、プロセスを効率化し、サプライチェーン全体をエンドツーエンドで監視するため Microsoft Supply Chain Platform を活用、可視性の向上やダウンタイムの削減、効率性の向上に取り組んでいます。
また、自動車の生産にもサプライチェーンの可視化が不可欠です。そこでMercedes-Benzでは、新 MO360 Data Platform を活用し、世界約 30 ヶ所の乗用車工場を Microsoft Cloud に接続、デジタルプロダクションとサプライチェーン全体の透明性と予測可能性を高めています。MO360 Data Platform は、Mercedes-Benz のデジタルプロダクションエコシステムである MO360 が進化したもので、これによって潜在的なサプライチェーンのボトルネックをより迅速に特定し、生産リソースの優先順位を動的に決められるようになります。
- AI とコネクテッドデータを活用し、迅速なビジネスプロセスを構築
AI とデータは重要なビジネスプラクティスを根本的に再構築し、面倒で時代遅れのプロセスを合理化する上で重要な役割を果たします。AI と機械学習を責任を持って活用すれば、日常生活にもプラスの影響が出てきます。業界内の多くの企業では、従業員体験と顧客体験の双方を改善する機会を活用するとともに、持続可能性にも影響を及ぼしています。
旅行・観光業界はパンデミック前のレベルに近づいてきており、その上を行く状況にもなりつつあります。その需要の高まりに備え、American Airlines では新たな方法でテクノロジを活用して事業効率化を実現、お客様の旅行体験をよりシームレスにしようとしています。同社は Microsoft Azure 上に自社プラットフォームを構築し、AI、機械学習、データ分析をシステムに適用することで、滑走路での待機時間を削減。これによって年間数千ガロンのジェット燃料が節約できるようになり、乗り継ぎフライトの時間にも余裕を持たせることができるようになりました。
世界 180 ヶ所以上に生産拠点を抱える ZF では、現場従業員の能力向上は「望ましい」というより「必須事項」と考えています。乗用車・商用車の資材や、産業技術向け材料を供給するグローバルテクノロジ企業の ZF では、従業員が Microsoft Power Platform のローコードソリューションを活用し、プロの開発者とコラボレーションできるようにしています。例えばある従業員グループは、スプレッドシートの使用をやめ、データを強力な Power BI レポートへと移行するソリューションを開発してリーン生産監査を改善。これによって時間とリソースが大幅に削減できました。
- パーソナライズされた車内体験と顧客体験を提供
選択肢が豊富にあると、差別化が重要になってきます。お客様を理解し、お客様のライフサイクル全体を通じて特別な体験を提供することに投資しているブランドが頭角を現すことになり、自動車業界でもパーソナライゼーションが新たに重視されるようになるでしょう。これから自動車を購入する人は、これまでのように購入時に提供されていた固定的な体験から抜け出せなくなるようなこともありません。コネクテッドカーやソフトウェア定義型の自動車を介した車内パーソナライゼーションにより、自動車体験は継続的にアップデートされるようになるのです。
今週、General Motors はマイクロソフトと提携し、新しいソフトウェア定義型自動車サービスを展開すると発表しました。GM では Ultifi プラットフォームを 2023 年に展開する予定で、Microsoft Azure のクラウドと AI サービスを利用してソフトウェア開発を簡素化し、便利で安全なデジタルモビリティサービスを数百万人のお客様に迅速に提供しようと取り組んでいます。
また、生産性に関しては、Lynk & Co がマイクロソフトと協力し、同社の 01 モデル自動車のインフォテインメントシステム用に独自のミーティングアプリを開発しています。このアプリにより、ユーザーは外出先でも Teams のミーティングに参加できるようになりました。これで車内体験に新たな次元が生まれ、モビリティに多機能性が加わることになります。
- ソフトウェア駆動型自動車と自律走行車のイノベーションを採用
ソフトウェア定義型自動車と自律走行車の分野では、非常に速いペースでイノベーションが起きています。ここでは複雑さの軽減やコラボレーションの促進を実現するためにも、団結することの重要性を見過ごすべきではありません。協力することで、より遠くに、より速く到達できるのです。
オープンソース環境は長期的な成功に欠かせないもので、Eclipse Foundation が推進する取り組みはその実現の鍵になるでしょう。マイクロソフトは、基盤となる車載アーキテクチャと下位レベル機能の管理を簡素化する抽象化レイヤを提供することで、開発者の効率を高めたいと考えており、最新のアプリケーションプログラミングモデルとデジタルツインに焦点を当てた 2 つのプロジェクトで同財団の活動に貢献しています。この 2 つの相互関連プロジェクトでは、車載アプリケーションの開発における複雑さの軽減と、大規模な開発者コミュニティの構築を目指しています。
マイクロソフトは今後もアシスト運転や自律運転の開発をサポートしていきます。また、Wavye や Cruise をはじめとする業界のさまざまな企業とのパートナーシップも大変うれしく思っています。
今週は、Hyundai Motor Group 傘下で高度エアモビリティ企業の Supernal が、マイクロソフトとの協業を発表し、Microsoft Cloud プラットフォームにて航空業界の自律性やデジタルオペレーション、クラウドインテグレーションテクノロジの高度化に取り組むとしています。Supernal は Microsoft Azure により、安全なシミュレーションを大規模に実行する際に必要となる柔軟性とクラウドコンピューティグパワーを活用し、商業化までの時間を短縮させることができます。
- インスピレーションが生まれ、つながりをもたらし、力を与えるような新しい体験をメタバースで設計
「メタバース」はおそらく業界内における流行語で、この新しい次元で何ができるかを模索しつつその期待値が高まっています。産業界と消費者サイドの両方で、この業界でも際立って効果的なアプリケーションがいくつか登場しています。
特に産業用メタバースには、トレーニングの状況を改善する機会があるとされています。専門家と、その専門家とつながりたい人が、地理的に離れていることが可能なためです。
Toyota Motor North America や Nissan Motor Corporation などの自動車メーカーでは、HoloLens 2 と Dynamics 365 Guides を活用し、専門家が物理的に同じ場所にいない状態で従業員をトレーニングしています。紙のマニュアルが山積みになることもなく、従業員はその場で実践しながら学ぶような形でトレーニングを受けています。この方法により、新しいプロセスやスキルの習得に必要な時間が短縮でき、特別なプログラミングや IT スキルがなくてもコンテンツが作成できるようになります。
また、マイクロソフトのお客様の中には、消費者体験を効率化し改善している企業も見受けられます。最近では FIAT が、新型 FIAT 500 の完全なバーチャルショールームを発表しました。このショールームはメタバースにてホストされており、Microsoft Azure 上で実行されています。そこではイタリアのお客様が製品スペシャリストと対話して新車の詳細を知ることができ、あの有名な La Pista 500 での試乗シミュレーションも可能で、お客様は自宅の快適なソファから新車を購入できるようになっています。マイクロソフトと Touchcast によって開発されたこのバーチャルショールームは、現在すでに体験可能です。
ここでご紹介した内容は、この先も続くと思われるトレンドのほんの一部に過ぎません。何が起こるのか明確なことはわかりませんが、ひとつはっきりしていることがあります。それは、この業界がかつてない速さで進化していることです。マイクロソフトは、安全かつ持続可能で、生産性の高いモビリティの未来に貢献できることを大変うれしく思っています。
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