AI 時代の新たなパフォーマンスの方程式

AI 時代の新たなパフォーマンスの方程式

不確実な経済環境において、従業員エンゲージメントが業績に大きな影響を与えることを示す新たな調査結果を公開

本レポートは、米国時間 4 月 20 日に公開された ”The New Performance Equation in the Age of AI” の抄訳を基に掲載しています。

不確実な経済環境と働き方の変化の中、リーダーは柔軟な働き方で生産性を高め、より少ないリソースでより多くのことを達成するというプレッシャーにさらされています。同時に、次世代 AI が、企業・組織における競争優位獲得のルールを根本的に変えようとしています。このような激変する環境の中で、従業員エンゲージメントは重要事項ではないかのように見えるかもしれません。しかし、新たな調査結果がそれは事実ではないことを示しています。

エンゲージメントがビジネスに与える影響、そして、エンゲージメントの推進要素の理解の助けとなるよう、マイクロソフトは、複数の業界の 200 社以上の企業、300 万人以上の従業員を対象とした調査を分析し、これらの企業の 2022 年における株価動向と比較しました。

調査結果は明確です。従業員エンゲージメントの高さが財務パフォーマンスと相関しているのです。そして、従業員エンゲージメントが高い企業は、以下の 2 つのことに注力しています。第 1 に、意識的な従業員とのコミュニケーションや目標設定によって、明確性を生み出しています。第 2 に、データを使って強力な「フィードバックのはずみ車」(feedback flywheel) を構築し、時間をかけて継続的な改善を行っています。

従業員のエンゲージメントが高い企業は、1 年後に S&P500 を上回る業績をあげています。

この分析により、従業員エンゲージメントが企業業績の方程式の重要な構成要素であることがわかりました。業績を向上するには、生産性だけに目を向けるのでは不充分です。エンゲージメントと生産性は相互に補完しあうものであり、一方が他方を増幅すると考えるべきです。すなわち、仕事へのエンゲージメントが高ければ、生産性が向上し、生産性が高いと、仕事へのエンゲージメントも高まります。

詳細を見ていきましょう。

3 つの重要な発見:

  1. とくに不確実な経済環境では、従業員エンゲージメントが業績に大きな影響を与える
  2. 明確なコミュニケーションと目標設定が従業員エンゲージメントを最大化する
  3. エンゲージメントを持続させるためには「フィードバックのはずみ車」の構築が必要である

新たなパフォーマンスの方程式

エンゲージメントと生産性の両方がパフォーマンスを向上し、それらは相互に強化し合います。

新たなパフォーマンスの方程式

1.特に不確実な経済環境では、従業員エンゲージメントが業績に大きな影響

調査結果は、経済が不安定な時期に、従業員エンゲージメントを強化した組織は、エンゲージメントを軽視した組織と比較して 2 倍の業績を達成したことを示しています。最もエンゲージメントを高められた企業はその年の最後には S&P500 を上回る業績を達成しています。平均すると、従業員が報告したエンゲージメントが 1 ポイント増すごとに、従業員 1 人あたりの時価総額が 46,511 ドル増加するという相関がありました。つまり、従業員エンゲージメントが高い企業は、財務的な成果も優れているということです。リーダーは従業員エンゲージメントを、ビジネスや財務の成果と同様に、戦略的な重要事項として扱う必要があります。


エンゲージメントが業績に直結

エンゲージメントスコアの高い上位 10% の企業の 2022 年の財務ポートフォリオのリターンを、エンゲージメントスコアの低い下位 10% の企業と比較すると、エンゲージメントの高い企業が低い企業を上回っていることがわかります。

エンゲージメントが業績に直結

エンゲージメントのレベルは、2022 年 1 月 1 日 ~ 12 月 31 日に収集された 300 万人以上の従業員のアンケート回答に基づく従業員の感情分析により算出

取るべきアクション:

  • 財務指標と同様に、従業員エンゲージメントを測定し、タウンホール、取締役会、年次報告書で報告する。
  • リーダーがスキルを身につけ、エンゲージメントに関するグロースマインドセット (growth mindset) を採用できるような、組織全体のマネージャーフレームワークを導入する。
  • 管理職にエンゲージメントに関する目標を設定するなど、エンゲージメントがビジネス上の必須事項であることを明確化する。
  • コミュニケーション、従業員エンゲージメント、生産性向上に向けたアクションを起こすために、マネージャーにデータへのアクセスを提供する。
  • 次世代 AI とデータに基づくインサイトを活用したデジタル従業員体験を採用する。

2.明確なコミュニケーションと目標設定が従業員エンゲージメントを最大化

分散化したフレキシブルワークの世界において、マネージャーやリーダーは、効果的に人々とやり取りし、触発し、参加意識を高めるためのスキルやツールが不足していますが、そのスキルやツールは、これまで以上に重要になっています。エンゲージメントがきわめて低い組織では、従業員の約 4 人に 1 人が、自分が何にフォーカスすべきかわからないと回答しています。これとは対照的にエンゲージメントが高い組織の従業員は、エンゲージメントの低い組織と比べて、自分の組織を強力なコミュニケーターとみなす傾向が 46%、リーダーシップへの信頼を表明する傾向が 37%、何を重視すべきかが明確である傾向が 16% 高くなっています。また、明確なコミュニケーションは従業員の維持にも影響します。自分の会社はコミュニケーションが悪いと答えた従業員は、コミュニケーションが良いと答えた従業員に比べ、組織を去る確率が 2 倍になります。

これに対応するために、リーダーは、仕事の流れの中で、意図的なコミュニケーションを提供する必要があります。マイクロソフトのデータが以前から示しているように明確性が鍵になります。明確性なくしては、従業員は仕事の優先順位をつけるのが困難になり、自分の仕事がなぜ重要なのかわからなくなります。

取るべきアクション:

  1. リーダーシップレベルで明確な優先順位を設定し、OKR のような目標を用いて、全員が優先事項に集中できるようにする。
  2. 従業員の仕事の流れの中でコミュニケーションが行える最新ツールをリーダーに配備する。
  3. 次世代 AI やデータ分析を活用し、コミュニケーションの効果を高める。

3.エンゲージメントを持続させるためには、フィードバックのはずみ車が必要

エンゲージメントを構築し維持するために、リーダーは従業員のフィードバックを収集し、それに対応し、変化を促すための迅速性と継続性に優れたシステムを必要としています。エンゲージメントが高い組織の従業員は、自分のフィードバックが企業の行動につながるという確信を持つ割合が 40% 高く、企業が継続的にプロセスを改善していると回答する割合が 56% 高くなっています。意見の多様性は重要です。エンゲージメントが高い組織と低い組織では、従業員が多様な視点が評価されていると感じているという点に大きな違いがあります。

従来の直線的なフィードバックシステムだけでは、従業員の状況を把握し、長期的に組織のプロセスを改善するにはもはや十分ではありません。重要なのは、従業員のフィードバック、生産性やコラボレーションのシグナル、コミュニティにおける感情などの行動データを組み合わせて、「フィードバックのはずみ車」(feedback flywheel) を構築することです。すなわち、豊富なデータを収集し、分析し、行動に移し、従業員に伝え、組織全体で実行する連続的なループのプロセスが必要なのです。

取るべきアクション:

  1. リスニング戦略を包括的にし、関連する直接的、間接的なシグナルを組み込む。
  2. AI を活用して収集したデータを分析し、パターンをより深く理解し、アクションまでの時間を短縮する。
  3. チーム内に有意義な変化をもたらすために、独自のフィードバックのはずみ車を構築する権限をマネージャーに与え、影響を測定するための主要な指標を確保する。
  4. 従業員から「必ず実行される」と信頼されるような説明責任を設定する。フィードバックがどのように利用されるかについての透明性を保ち、明確な次のステップを提供する。

今後の展開

この最新の調査結果は、多くのリーダーが直感的に知っていることを明確に示しています。すなわち、活力があり、十分に権限委譲された従業員は、高い生産性とパフォーマンスを発揮しやすいということです。次世代 AI が、人材の状況や従業員のスキル再構築を変えつつある中で、金融市場と労働市場の両方で勝者となるのは、今、重要なアクションを起こした企業です。

株価分析

この調査は、組織がビジネス成果を推進するために従業員エンゲージメントを理解し、改善することを支援する「従業員の声」ソリューションである Viva Glint の Viva People Science チームによって実施されました。米国の証券取引所に上場している226の企業から 2022 年 1 月 1 日 ~ 12 月 31 日に収集された、300 万人以上の従業員の回答から、従業員の感情を分析しています。これらの226社について、2022 年 1 月 ~ 12 月の公開されている年始月初株価データを照合しました。これらの組織は、米国の証券取引所に上場していますが、従業員は世界中に分散しており、業種は 17 種(製造、テクノロジ、金融、プロフェッショナルサービス、食品・飲料、公益事業、石油・ガス・鉱業、製薬、保険、小売、ヘルスケア、運輸・物流、旅行・接客・レジャー、メディア、建設、バイオテクノロジー、不動産)に及びます。調査データは、Viva Glint の eSat 調査項目で測定された、最もエンゲージメントの高い (上位 10%) 企業と最も低い (下位 10%) 企業をグループ化するために使用されました。株価データセットを用いて、これら高エンゲージメントグループと低エンゲージメントグループの 2022 年の株価の全体的な動きを追跡し、各グループの年末総株式リターンを算出しました。

従業員体験の分析

本調査の分析には、2022 年 1 月 1 日 ~ 2022 年 12 月 31 日に収集された、1,009 社の 900 万人以上の従業員からの調査回答を使用しました。調査データは、Viva Glint の eSat 調査項目で測定された、エンゲージメントの高い従業員と低い従業員を持つ組織をグループ化するために使用されました (エンゲージメントのスコアに基づいて上位と下位 3 分の 1 を分離)。従業員感情の各ファセット (例: 優先事項の明確性、会社の将来への確信) について、高エンゲージメント企業グループと低エンゲージメント企業グループの両方で、平均好感度パーセント (5 点および7 点の回答尺度で上位 2 点を選択した回答者の平均パーセントとして定義) を算出しました。

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