小学校の授業での AI 活用を Microsoft Copilot が支援。初めての体験から、EDIX 東京の公開授業までをレポート

※本ブログは、2024 年 4 月 18 日の授業視察及び、5 月 9 日に教育総合展 (EDIX) 東京 2024 で実施した公開授業を元に構成したものです。

Copilotを活用した公開授業

学校教育ではじまる。AI 活用の最前線

近年、企業における AI は活用フェーズに移行しつつありますが、学校教育の現場においても AI をいかに扱うかが注目されています。今回ご紹介するのは、東京学芸大学附属小金井小学校における AI の活用事例です。5 年生担任の鈴木秀樹教諭は、いち早く AI を授業に取り入れ、子どもへの導入と授業での活用方法、またその可能性を研究しています。視察で訪れた 4 月 18 日は『道徳』と『総合』の授業で、子どもたちが初めて Microsoft Copilot を体験するという貴重な機会に立ち会うことになりました。

東京学芸大学附属小金井小学校 鈴木 秀樹教諭
東京学芸大学附属小金井小学校
鈴木 秀樹教諭

生成 AI が子どもたちの思考を刺激する

鈴木教諭によると、現在小学校の授業における生成 AI の活用は、「教員自身が十分な知識を持ってデモンストレーションを行い、子どもたちに体感させる段階」と言います。マイクロソフトでも、児童・生徒の Copilot 活用については、責任ある AI の原則に則り、教育関係者の皆様のご意見を伺いながら、慎重に進めています。

この日の道徳の授業は、“心を通わそう”の単元です。冒頭で鈴木教諭は子どもたちに、これまで自身がかけてもらった“心が温かくなる言葉”を問いかけ、子どもたちが次々と答えます。「バスケのとき、コツを教えてくれた。」「応援団のとき、ありがとうと言われた。」など。その言葉を Surface で書き出し、ディスプレイに映し出します。ICT の活用で、授業がテンポ良く展開します。

生成AIが子どもたちの思考を刺激する

次の問いは、“バスケットボールが苦手な友達に対する声かけ”です。話し合いのあと、子どもたちが各々の意見を発表します。がんばるように励ます声かけが多い中、鈴木教諭は次の質問を投げかけます。「”がんばりたくないよ”と返されたらどうする?」子どもたちから再び意見を引き出し、一連のコミュニケーションを子どもたち自身に考えさせ、言葉かけの難しさ、温かい言葉をかけあう大切さの理解を促します。

授業の中盤

授業の中盤、ここで生成 AI の登場です。これまでの一連のやりとりを今度は生成 AI を使って繰り返します。

子どもたちに初めてMicrosoft Copilot が紹介されました。

「なにこれ? 初めてみた!」「AI なの?」「ChatGPT とは違う?」

「生成 AI にもいろいろあります。」と鈴木教諭。これまで授業で活用していたのは OpenAI 社の ChatGPT でしたが、今回子どもたちに初めてMicrosoft Copilot が紹介されました。

子どもたちは初めて見る Copilot に驚いたものの、すぐに授業に集中し直し説明に耳を傾けます。日頃から生成 AI に慣れ親しんでいるからこその反応です。鈴木教諭がデモンストレーションを通じ、子どもたちに見せます。「プロンプトって言うんですけど、(AI へ伝える言葉を) 書いてみますね。」

鈴木教諭がデモンストレーションを通じ、子どもたちにCopilotを見せます。

「みんなは温かい言葉がどんなものかわかるけど、AI はよくわからないんですね。だからもう少し説明を加えましょう。」

温かい言葉とは、「嬉しくなる言葉」「相手の気持ちがほかほかしてくる言葉」など、子どもたちから次々とアイデアが上がります。鈴木教諭曰く、これは“ AI には感情がない”、ということを子どもたちに意識させる工夫だそう。子どもたちへの AI 活用は、まず AI とは何かを理解させることが大前提だと言います。

プロンプトを実行する前に、子どもたちに問いかけます。「バスケットボールが苦手な友達に、AI はなんて返すだろうね?予想してみて。」

授業中の場面

ここでプロンプトを実行します。「大丈夫ですよ。苦手なことを克服するためには、少しずつ練習することが大切です。友達と一緒に楽しくプレーすることで、徐々に上達することができるかもしれませんね。応援しています。」とCopilot。

回答がディスプレイに映し出されると、「さっきのみんなの意見を全部合わせた感じがする。」「でも口調が変? わからない。」と子どもたち。

続けて、先ほどと同じように“がんばりたくないよ”という言葉を入力します。「さ、もう 1 度、予想してみて。AI はなんて返すと思う?」

生成 AI を実行する前後に必ず、子どもたちに自分なりに考えることを促します。

出てきた答えに対し「AI の回答は温かかった? どうだろう?」鈴木教諭は生成 AI を実行する前後に必ず、子どもたちに自分なりに考えることを促します。

このクラスの子どもたちは、生成 AI の回答を無条件で受け入れることは無いそう。

「共感できるけど何か足りない。言葉だけだと納得いかない。」という声が教室から上がります。このクラスの子どもたちは、生成 AI の回答を無条件で受け入れることは無いそう。なるほど、授業の間も、「回答に感情がない」だとか「他人事に感じる」といった率直な声が発せられていました。昨年から授業で繰り返し生成 AI の使い方を見せ “共感するもの”、“違和感を覚えるもの”など様々なアウトプットに触れ体験させてきた成果です。

検索と創造の違い

また『総合』の授業では、「生成 AI とは何か?」を子どもたちに理解させる指導も行われました。Copilot を使い生成 AI の特徴を、子どもにもわかりやすいようデモンストレーションを交え説明します。

『東京学芸大学附属小金井小学校の、鈴木秀樹先生の教育に対する考え方について教えてください』

Copilot を使い生成 AI の特徴を、子どもにもわかりやすいようデモンストレーションを交え説明します。

「いろいろ出てきましたが、実は、これは合っていないんです。世の中にある先生の情報の多くを元にテキストが生成されましたが、もともと先生を目指したきっかけである“村井実、イヴァン・イリイチの考えに感銘を受けた”、この大事な情報が入っていません。これが生成 AI の弱いところです。」続けて「生成 AI が得意なのは創造です。先ほどの授業のように、温かい言葉を創り出す。そしてその言葉を使えるか使えないかみんなが判断する。そういう風に生成 AI を使ってください。」と鈴木教諭。最後に、Teams で展開した Forms に振り返りを入力、提出させ、授業を締めくくりました。

最後に、Teams で展開した Forms に振り返りを入力、提出させ、授業を締めくくりました。

日頃の成果を発表。EDIX 東京 2024 で公開授業を実施

子どもたちが初めて Copilot を体験した約 3 週間後、授業での AI 活用の様子を紹介する公開授業が、EDIX 東京 2024 のマイクロソフトブースにて行われました。教育関係者やメディアをはじめとする多くの来場者が集まり、小学校での AI 活用に向けた関心の高さが伺えました。この日のテーマは、「EDIX で気になったものを紹介する」というもの。子どもたちは数名ごとの班にわかれ、事前に会場内の展示ブースを周り取材を行い、企業や商品を紹介するホームページを作ります。学校での授業同様、Copilot のチャット機能を使ってアドバイスを受け、より良いホームページへとブラッシュアップします。

日頃の成果を発表。EDIX東京2024で公開授業を実施

公開授業の冒頭、まずは子どもたちの発表です。学習アプリやプログラミングロボット、電子辞書など、「学校にあったらいいな」という視点から気になったブースについて目を輝かせながら紹介します。並行してインプット担当の子どもが、Microsoft Sway にテキストや画像をまとめホームページをデザインします。鈴木教諭がそこから文章を抜き出し、Copilot のプロンプトに打ち込みます。

「次の文章は小学生が書いたものです。直した方が良いところを教えてください。」

例えば、デジタルコンテンツの紹介文に対し Copilot は「具体的な遊びの種類を加えては?」と提案。「もぐらたたきと、サッカーがあった!」と答える子どもに、「それを具体的に書くといいね。」と鈴木教諭がフォローします。一方、知育アプリの紹介では、「頭を使って解く」という元の文章を「思考力を養う」と改善され、「難しい言葉になっている」と反論する場面もありました。また、キャスター付きディスプレイの改善提案には、「微妙に納得がいかない」という子どもに対し、「納得できない点を、グループで話し合うのも良い勉強になります。」と鈴木教諭。学校での授業同様、生成 AI に疑問を持ち意見を述べる子どもたちの姿がありました。最後に鈴木教諭から、「生成 AI にアドバイスをもらいながら、さらに考え文章を良くしていく、そんな風に AI を使っていきましょう。」と声かけがあり、授業が締めくくられました。

学校での授業同様、生成 AI に疑問を持ち意見を述べる子どもたちの姿がありました。

■ “批判的思考力が育っているかが、カギ

このクラスの約 1/3 は昨年も鈴木教諭が担任として関わり、授業で AI に日常的に接してきたと言います。授業での活用にあたり「子どもたちが生成AIに対し、どれだけ批判的に捉えることができるかが大切」と鈴木教諭。生成 AI を鵜呑みにしないこと。LLM の理解は難しいが、感情があっての言葉ではないことを理解させる必要があると言います。「4〜5 年生くらいの年齢になるとある程度、AI に対するイメージを付けやすいが、2 年生や 3 年生に同じような授業を行った場合、『AI はすごい』『AI は人間のことをわかってくれる』という話になりかねません。子どもの年齢や認知レベルに応じた導入を考える必要があります。また体験を重ねていく中で、子どもたちの反応が変わっていく可能性があり、丁寧に見ていく必要があります。」

“批判的思考力”が育っているかが、カギ

教育現場で生成 AI を活用するメリット

例えば道徳のテーマで考えると、「友達同士だとなかなか意見を出しづらい部分も、生成 AI だと気にせず批判や意見を言える、そういった利点がある」と鈴木教諭。国語や社会といった教科の学びに生成 AI を活かすことも、さほど難しくないと、これまでの取り組みからわかってきたとも言います。また今後は、「学びづらさを抱える子どもたちに向けて、AI の助けを借りながら学びの環境を整えたい」とも。日本マイクロソフトは、こうした様々な声をいただきながら、子どもたちが主体的に自分の学びを実現できる環境づくりに、テクノロジを通じて引き続き貢献していきます。

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