What’s Next for Healthcare: ヘルスケア業界における DX 支援の最新動向: AI 新時代の取り組み

日本マイクロソフト株式会社
業務執行役員 ヘルスケア統括本部長 大山 訓弘

※本ブログは、2023 年 3 月 23 日に開催した報道関係者向け説明会を元に再構成したものです。

マイクロソフトでは、ヘルスケア業界のデジタルトランスフォーメーション (DX) 推進を支援しています。今回は AI 新時代における、マイクロソフトのヘルスケア領域の取り組みについて、事例を交えご紹介します。

ヘルスケア業界における日本マイクロソフトの取り組み

近年コロナ禍の影響もあり、ヘルスケア領域の DX が加速しています。国内の主要な製薬企業や医療機関において、Microsoft Teams の月間アクティブユーザー数は 2020 年 3 月から 415% まで増加、また Azure 上での Data and AI 機能の利用率も 144% まで成長しています。ヘルスケア領域はマイクロソフトが注力する分野の一つですが、近年特に社会とデータの連携が重要なテーマとなっています。製薬企業が扱うデータは知的財産を伴うものも多く、高いセキュリティとコンプライアンスを持った運用が求められ、またグローバル化のニーズも高まっています。一方医療機関では、2022 年より働き方改革関連法の適用に向けた取り組みが加速しています。AI やクラウドを活用し、電子カルテの運用をはじめとする業務の効率化など、マイクロソフトセキュリティソリューションの採用が進んでいます。

<2023 年度におけるお客様事例>

2023 年度におけるお客様事例

<日本マイクロソフトのヘスクケアクラウド賛同パートナー>

パートナー企業は現在 69 社。取り組みを開始した 5 年前から約 2 倍となっています。ヘルスケア領域支援にあたり、日本の業界を熟知するパートナー企業との協業は不可欠で、今後も広く連携を進めていきます。

日本マイクロソフトのヘスクケアクラウド賛同パートナー

プレシジョン医療: 新時代の AI によるディスカバリとデリバリ

社会全体で台頭する斬新な AI テクノロジは、ヘルスケア領域での活用も期待できます。特にプレシジョン医療 (個別最適化医療) では、AI の活用が欠かせません。患者さんに向けた医療デリバリおよび、新たな知識を発見し付加価値を生み出すナレッジディスカバリの両軸をシームレスにつなぎ、強力なエコシステムを構築します。

プレシジョン医療: 新時代の AI によるディスカバリとデリバリ

<プレシジョン医療を実現するために必要な 3 つのポイント>

1.データの可用性とその自由な活用

2.安全にデータをやりとりできるクラウドプラットフォーム

3.医療と AI 技術のスキルセット

AI を活用し、PHR (Personal Healthcare Record) とゲノム情報を統合的に連携・分析できるプラットフォームを構築し、病気の早期発見と治療の個別化、薬の特定、遺伝子治療などを可能にするプレシジョン医療を強力に支援します。

プレシジョン医療を実現するために必要な3つのポイント

■Azure Health Data Service

マイクロソフトでは「HL7 FHIR」に準拠し高いセキュリティを担保したプラットフォーム、Azure Health Data Services の国内でのサービス提供を 2023 年上半期に予定しています。
構造化、非構造化のデータ、また画像データといった異なる種類のデータをクラウドで統合し、リアルタイムに全体像を把握できるクラウドサービス (PaaS) です。業界標準のデータ連携をベースに FHIR だけでなく、DICOM 形式の画像データやウェアラブルデバイスなど IoMT データの連携も可能。お客様の既存システムやデータと接続し必要な情報を素早く分析、可視化し、ヘルスケア領域のデータ運用の効率化を支援します。

Azure Health Data Service

ヘルスケア領域における OpenAI サービス/ChatGPT の可能性

昨今注目を集める OpenAI の Chat-GPT について、マイクロソフトでは 2023 年 3 月より Azure 上で GPT-4 の提供を開始しましたが、これはヘルスケア領域に革新をもたらします。まず、患者さんとのコミュニケーションにおいて簡素化・自動化できる部分を効率化し、患者さんと向き合う時間を確保します。また文章の解読・要約に優れた利点を活かし、複雑なカルテ情報や医学系の研究論文の検索や要約なども可能です。また画像対応できる利点を活かし、これまでより高度な画像診断支援が可能になります。

ヘルスケア領域における OpenAI サービス/ChatGPT の可能性

<GPT 活用事例>

BioGPT

Microsoft Research が開発し GitHub で公開。医学用語を理解する対話型の AI で、生物医学領域で注目を集めます。GPT-2 ベースで PubMed をソースに開発されているため現時点では英語版のみのリリースですが、従来検索しかできなかった機能が大きく進化し、専門家と同等の質問応答が可能になりました。

BioGPT

Dragon Ambient eXperience (DAX) Express

3 月 20 日にグループ会社のニュアンス・コミュニケーションズと共同で、GPT-4 を活用した医療従事者向け臨床文書作成サービスを発表。ニュアンスの会話型 AI とアンビエント AI に GPT-4 を組み合わせ、これまで 4 時間かかっていた臨床メモ作成をわずか数秒で自動生成できるようになりました。

■PHR (Personal Healthcare record) の取り組み

少子高齢化が進む日本において、医療介護サービスの IT 化、効率化は課題の一つですが、中でも個人が自分の健康状態や医療履歴を管理できる PHR の活用は重要です。マイクロソフトではガイドラインに準拠し、業界団体などと連携しながら点在する PHR を統合させ、「PHR と電子カルテの連携」「PHR 同士の連携」および普及を加速させるプラットフォームの構築を推進しています。リファレンスアーキテクチャーマップを Azure 上で公開するほか、Azure Healthcare Data Service にパーソナルヘルスデータを取り込むなど注力しています。

<パートナー企業における PHR 事例①>

TIS: ヘルスケアプラットフォーム

TIS のヘルスケアプラットフォームは、個人のヘルスケアデータを活用して、生活者と社会をつなぐネットワーク価値訴求型のサービスです。このプラットフォームでは、生活者の健康リスクを早期に発見し、適切なアプローチを行うことができます。
医療・健康・介護関係者や社会の様々な組織とデータを共有することで、新たなサービスや製品の開発にも貢献します。生活者の意思に基づいてデータが流通し、保険やウェルネスなどヘルスケアに関わる様々な分野で新しい価値を創出することが期待できます。

ヘルスケアプラットフォーム

<パートナー企業における PHR 事例②>

富士通: Health living Platform

電子カルテ市場大手の富士通では、診療データや個人の健康データの利活用を目的に、Healthy living Platform を展開。Microsoft Azure が採用されています。次世代の医療情報標準規格 HL7 FHIR に準拠し、電子カルテなどの診療データに加え、患者さん本人同意の上、健康に関する幅広いデータ集約を実現しています。

富士通: Health living Platform

ゲノム解析業務における支援

マイクロソフトでは「ゲノムデータの研究と発見」「大規模な自動化と分析を可能にするプラットフォームの構築」「臨床レベルでの最適化された安全なパイプライン作り」をコア分野に設定し注力しています。

<Microsoft Cloud による支援>

  • 基盤提供
    様々なデータソースを連携しスケーラブルな環境で柔軟に、AI による高度なデータ解析、機械学習を実現。必要とする方に一気通貫でデータを提供。
  • パートナー連携
    ゲノム解析に必要なパートナー、ソリューションの連携を促進し、業界のスタンダードな分析環境を Azure 上に構築。
  • コラボレーション促進
    研究者や関連メンバーとシームレスなコラボレーションを実現。事務作業の効率化やナレッジ共有など、高度なセキュリティとコンプライアンス対策を実施し提供。

Microsoft Cloud による支援

ゲノム解析の国内動向

東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター長 井元 清哉氏

現在国内では、「全ゲノム解析等実行計画」が推進されています。2019 年 12 月に厚生労働省で第一版が策定され、ゲノム医療の精度向上と、解析結果を新しい医療として患者さんに届ける大きな目標があります。ヒトの体を構成する全ゲノム情報は、約 30 億もの ATGC という塩基で構成され、この並びが壊れるとがんのような病気を発症します。つまり全ゲノム情報は、病気の根本原因を探る鍵を握ります。国内ですでに保険収載されている遺伝子パネル検査は、がんに密接な数百個の遺伝子 (ヒトを構成する遺伝子の 1%〜2%) を調べるにすぎず、残念ながら治療の見立てがつく患者さんは多くはありません。この割合を高める取り組みが全ゲノム解析等実行計画です。

AMED (国立研究開発法人 日本医療研究開発機構) では、令和 3〜4 年度の 2 年間で 12,000 のがん症例の全ゲノム解析を実施し、うち令和 3 年の 600 症例、令和 4 年の 2,000 症例の患者さん対し、現在進行形で最適な治療の検索と提案を行っています。また解析結果は創薬開発にもつながっています。全ゲノム解析は、非常に多くの作業を要します。データ量も膨大で、患者さんひとりから得られるデータはおおよそ 400GB、ときには 1TB 以上にもなり解析するとさらに増えます。このプロジェクトは令和 7 年度に事業として本格始動する予定で、年間 1 万症例までスケールアップする計画です。しかし真の目標はその先です。現在国内で新たにがんと診断される患者さんは年間 100 万人を超え、そのうち 30〜40 万人は病状が進んだがんであり全ゲノム情報の解析が治療に活かせると考えられています。将来的にはこの 40 万以上の解析を目指しますが、そのデータ量は 160PB にものぼり、これをマネージできるインフラ整備が急務です。現在オンプレミスのサーバーからクラウドへプラットフォームの移行を計画しており、解析環境をクラウド上で性能比較している段階です。最新の AI テクノロジによる支援は、非常に早くかつスケーラブルと実感しています。ゲノム情報だけでなく病理画像なども含むマルチオミクスデータを統合的に解析し、人にわかる形でその結果を提示してくれる。マイクロソフトが持つ非常に優れた最先端の技術を、がんに関するプロジェクトのみならず、健康維持管理や疾患治療に活用できることを期待しています。

AMED

情報セキュリティへの取り組み

医療ヘルスケア領域では特に、セキュリティに対する取り組みは重要です。マイクロソフトによる支援の事例をご紹介します。

  • 「医療情報セキュリティ研修及びサイバーセキュリティインシデント発生時初期対応支援・調査事業」

厚生労働省からの委託事業として、一般社団法人ソフトウェア協会と協働し参画。病院を狙ったサイバー攻撃増加を背景に、医療機関におけるサイバーセキュリティ教育の実施、インシデント発生時の調査や初動対応を支援します。

医療情報

マイクロソフトの製品は Windows 端末ほか、医療情報端末も含め幅広く普及しています。社会的な使命として、日本全体の医療情報の安心安全への支援を進めると同時に、責任ある AI の原則に則り患者さんに寄り添いながら、日本社会が直面するヘルスケア領域の課題解決に挑戦し続けます。

 

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