ヘルスケア分野におけるマイクロソフトの取り組み:テクノロジとコラボレーションによる、患者のケア、体験と知見の向上

当ブログは、2019 年 2 月 7 日に米国で公開された記事の抄訳をベースにしています

ピーター リー (Peter Lee)
Microsoft Healthcare 担当 コーポレート バイスプレジデント

Surface Hub において Microsoft Teams を活用し、患者のケアを検討する臨床医
Surface Hub において Microsoft Teams を活用し、患者のケアを検討する臨床医

ヘルスケア業界では、米国有数のヘルスケア IT イベント「HIMSS19」カンファレンスに向けた準備を進めています。同イベントにおいて来場者に情報を提供し、関心を引き出し、ひらめきを与えようと考えているからです。HIMSS19 では、現代のヘルスケアに関わる最も一般的で持続的な課題に対し、数多くの革新的なアイデアやソリューションが見られることでしょう。加えて、私たちも、新たなテクノロジが実際に人々の生活を変えていることを紹介し、ヘルスケアにおける体験やその提供方法に変革をもたらそうと取り組んでいるマイクロソフトの姿を見てもらえることが楽しみです。

過去数年間、マイクロソフトでは、業界の専門家と共に学び医療機関が複雑な技術革新に取り組む際の支援を着実に進めてきました。そして、共に取り組んできた医療の提供者や被保険者、ソフトウェア開発者、デバイスメーカー、製薬会社からの熱心な反応をうれしく思っています。

中でも、特に励みになるのは、この取り組みが人々に大きな影響を与えている点です。ヘルスケアサービスにおいては、誰もがよりパーソナライズされた透明性の高いアプローチを模索していますが、そこで役立つのが技術革新です。技術革新によって、医療関係者は患者のエンゲージメントや満足度を高め、健康維持につながるような最新のエクスペリエンスを提供できるとともに、治療成功率を高められるのです。

今年の HIMSS では、プライバシー保護に細心の注意を払いつつ、マイクロソフトのテクノロジやパートナーシップが看護チームの強化や臨床、運用結果の向上、および精密医療の進歩に結びついたことをお話しする予定です。その一環として、今回は、ヘルスケア業界の変革を支える新たなイノベーションをいくつか発表したいと思います。

  • Microsoft 365 for Health Organizations: ヘルスケアチームにおけるコミュニケーションを円滑にし、安全なハブ上でコラボレーションできる Microsoft Teams の新機能です。
  • Microsoft Healthcare Bot: 一般提供を開始したサービスで、AI を搭載したバーチャルアシスタントやチャットボットの作成を支援します。こうしたアシスタントやチャットボットが、さまざまなヘルスケア体験に対応します。
  • Azure API for FHIR®: 医療システムのクラウド上での相互運用やデータ共有を支える新ツールです。

安全なメッセージ機能や AI を搭載したツールで医療機関に力を 

ヘルスケアの中心にいるのは、医師、看護師、臨床医、そしてその患者などを含む「人」です。マイクロソフトは、最善の治療に必要なツールを提供して医療チームを支援すると共に、彼らが医療システムのさまざまな部分と携わる際に、それがその人の力になるよう全力を注いでいます。

多くの臨床医は、安全なコミュニケーションを行うにあたって、利便性とコンプライアンスのどちらかを選ぶ必要があると述べています。コンプライアンスを遵守すると、治療時に重要な情報を得るまでに時間がかかることがよくあるからです。多くの臨床医は、コンシューマー向けのメッセージアプリに注目しています。こうしたアプリはコミュニケーションを促進しますが、セキュリティ漏洩につながる可能性があります。

マイクロソフトでは、利便性とコンプライアンスがゼロサム方式にならないように取り組んでいます。そこで、今回、Microsoft Teams の新機能を発表します。これはチーム作業向けの安全なハブで、メッセージを安全に送ることができるほか、電子医療記録に保管されている豊富な患者情報を利用して共同作業ができるというものです。

Microsoft Teams による安全なワークフローの実現: Microsoft Teams の新しい優先通知機能は、緊急メッセージの受信者に対し、モバイルデバイスやデスクトップに応答があるまで最長 20 分間、2 分おきにアラートを送り続けます。メッセージ委託機能は、臨床スタッフが手術中やその他の事情で対応できない際、他の担当者にメッセージを委託できるというものです。他にも、FHIR 対応の電子健康記録 (EHR) Microsoft Teams を統合する機能も発表します。EHR データを表示する機能は、Dapasoft、Datica、Infor Cloverleaf、Kno2、Redox といった主要な相互運用プロバイダとのパートナーシップにより実現しました。臨床スタッフや病院スタッフは、メモを取る時と同じアプリケーション上で安全に患者のカルテにアクセスできるほか、他のチームメンバーとメッセージしたり、ビデオミーティングを始めたりすることも可能で、患者のケアの調整をすべて単一の場でできるようになります。

マイクロソフトでは、業務プロセスの最適化を目指す医療機関や、従業員および患者に新たなエクスペリエンスを提供したいと検討中の医療機関に向け、Microsoft Healthcare Bot の一般提供も発表しています。

Microsoft Healthcare Bot: Microsoft Healthcare Bot サービスは、2017 年に研究プロジェクトとして発表されたもので、この度一般提供が開始されました。これは、医療機関がコンプライアンスに準拠した AI 搭載バーチャルヘルスアシスタントやチャットボットを構築し展開できるよう設計されており、医療インテリジェンスや医療用コンテンツ、および専門用語といった重要な機能が含まれているほか、症状チェック機能も搭載されています。Microsoft Healthcare Bot サービスは柔軟に拡張でき、ボットを調整して組織内の事業課題を解決することや、EHR などの医療システムと接続することも可能です。マイクロソフトは、すでにこの分野では Premera などの企業と提携していますが、今回、 Quest Diagnostics、Children’s Healthcare of Atlanta、Clalit Health Services といった組織もボットを提供開始、または近日提供予定であることを発表します

 より良い臨床結果や運用に結びつく安全なデータ接続

人間の体は複雑なコンピュータのようなもので、現代の医療システムとやり取りが発生するたびに新たなデータポイントが生まれます。こうして生まれたデータポイントはさまざまな記録へと拡散していきますが、貴重な知見はサイロの中に隠れた状態になっています。マイクロソフトは、プライバシーとセキュリティを中核としつつ、データを接続し重要な知見を適切なタイミングで引き出す技術を開発してこの課題に対処したいと考えています。

接続性の高い医療システムによって、臨床医はより完全な患者の情報を入手できるほか、研究者も研究に必要なデータをより完全な状態で手に入れることができます。また、個人もより詳細な情報を入手して自分の健康に責任が持てるようになります。こうした意見は、研究や看護提供コミュニティ内の有力な専門家からよく耳にします。

そこで、マイクロソフトでは今回、 Azure API for FHIR を発表します。これは、保健機関においてシステムの接続性を向上させ、クラウドデータの活用を実現するツールです。

Azure API for FHIR: Azure API for FHIR は、医療システムやデータが「会話」できる手法を提供します。これは、相互運用性といわれるものです。これにより、例えば健康の記録がコラボレーションツールや薬局システム、フィットネス機器などとよりシームレスに接続できるようになります。接続性が高まったシステムから得られるデータや知見は、必要とされる時間や場所で活用できます。

API とは、ソフトウェアプログラムを結びつける技術のことです。コンセントとプラグのように、API は海外旅行で電子機器を利用する際に必要なアダプタといえば分かりやすいでしょう。テクニカルではありますが、相互運用性は基礎的な医療技術に必要なため、API の機能は現代の医療システムを扱う人には重要なものです。

Azure API for FHIR は、パブリックプレビューとして利用可能です。現在、早期アクセスプログラムに 25 以上のテクノロジパートナーが参加しており、保健機関の FHIR 対応サービスの構築支援が可能です。

精密医療の進歩

科学と技術が交わることで起こるブレークスルーの中でも特に面白いのが、精密医療 (precision healthcare) の分野です。私たちは皆、人間独自の生態や環境、病気に基づいて正確に処置する医療システムの恩恵を受けますが、こうした未来の実現に向けて主要なツールとなるのがクラウドと高度な AI です。

精密医療の進歩に向け、マイクロソフトでは、さまざまなサービスや計算生物学プロジェクト (computational biology projects) に継続的に投資しています。その中には、次世代の精密医療やゲノミクス、免疫学、CRISPR、細胞、および分子生物学といった研究を支援するツールも含まれています。

例えば、 Microsoft Genomics は、高速シーケンスや二次分析機能を提供しSt. Jude Children’s Research HospitalSt. Jude Cloud のように、さまざまな組織が研究による知見を見出せるようになりました。St. Jude Cloud は、世界最大の小児癌ゲノムデータの公開リポジトリです。

今年のはじめには、Adaptive Biotechnologies とのパートナーシップに関する最新情報も発表しました。同社とマイクロソフトが、卵巣癌、膵臓癌、セリアック病、1型糖尿病、ライム病の患者を対象に、2 万 5000 人の免疫シーケンスを共同研究するというものです。

Microsoft Research でもさまざまなプロジェクトが継続しています。例えば、インテリジェント書記サービスに関する Project EmpowerMD、医療画像処理に関する Project InnerEye、機械読み取りに関する Project Hanover、メタゲノミクスに関する Project Premonition などが挙げられます。これらのプロジェクトは、テクノロジの医療分野への適用における限界に立ち向かっており、マイクロソフトとしても、今後医療機関でどのように活用されるかを楽しみにしています。

専門家との協力

 ヘルスケア分野における改善はたったひとつの努力で成しえることではないですし、確実な改善方法も存在しません。マイクロソフトはヘルスケアプロバイダになることを目指しているわけではなく、世界中の人々を助けている医療関係者に能力や力を与えたいと考えています。マイクロソフトは、Walgreens Boots Alliance、Allscripts、Hill-Rom、Novarad などの業界リーダーと戦略的提携関係にあるほか、数千社にも及ぶテクノロジパートナーからサポートを得ています。ここで、その一例を紹介します。

  • Walgreens Boots Alliance: Walgreens Boots Alliance (WBA) とマイクロソフトは、ヘルスケア提供の変革を目指し、戦略的パートナーシップを結びました。マイクロソフトのクラウドや AI 技術の力、ヘルスケア関連への投資、そして小売ソリューションと、WBA の顧客層や利便性の高い店舗、外来ヘルスケアサービス、さらには業界の専門知識を結びつけます。両社のパートナーシップにより、世界中の人々にとってヘルスケアの提供がよりパーソナルに、安価に、利用しやすくなることを目指します。
  • Veradigm: Veradigm は Allscripts のグループ企業であり、マイクロソフトは同社と協力して臨床研究に向けた革新的な統合モデルの実装に注力します。臨床研究デザインを強化し、研究を効率化し、研究提供者と参加者のエクスペリエンスを向上させることが目的です。
  • Hill-Rom: Hill-Rom とマイクロソフトは、看護担当者やヘルスケアプロバイダへの高度で実用的な看護データやソリューションの提供に向け、協業を発表しました。この協業により、Hill-Rom の深い臨床知識や医療機器からのストリーミング運用データと、マイクロソフトのクラウドや IoT、AI 技術を組み合わせ、患者の治療結果の向上を支援します。
  • Novarad: Novarad はヘルスケア業界の画像処理企業で、このほど米食品医薬品局 (FDA) からマイクロソフトの HoloLens 向け OpenSight Augmented Reality System の 510 (k) 認証を受けたばかりです。OpenSight が手術計画時の拡張現実利用に関する術前認証を受けたことで、医師は新たなソリューションが利用できるようになります。そのソリューションとは、正確さを高め手術時間を短縮することで外科処置の改善を実現するものです。
  • ThoughtWire: ThoughtWire は、同社の EarlyWarning アプリケーションで人命救助に取り組んでいます。EarlyWarning は、患者が病院で心肺停止に陥るような事態を未然に防ぐよう設計されました。同ソリューションにより、病院 7 カ所と癌センター 1 カ所を抱える医療グループの Hamilton Health Sciences では、すでに心肺停止の危険を示す緊急電話が 61% 減少しています。ThoughtWire は、Microsoft Azure 上で稼働する EarlyWarning アプリケーションを医療システムに対して大規模に提供していく予定です。
  • Innovaccer: Innovaccer は、ヘルスケアデータ活性化プラットフォームを提供する企業で、同業界におけるデータ相互運用性の課題に取り組み、データ第一主義によってヘルスシステムが臨床結果や経済的な結果の改善に結びつくように支援しています。Innovaccer は、マイクロソフトのベンチャーファンドである M12 のポートフォリオ企業です。

未来は明るいと言えるでしょう。接続性が高まる未来では、より良いエクスペリエンスや知見を得ることができ、患者のケアの向上にもつながります。HIMSS19 でみなさんにお会いして、 マイクロソフトの取り組みをより詳しくお話しすることを楽しみにしています。ぜひブース 2500 番まで足を運んでマイクロソフトのソリューションのデモをご覧になってください。また、@Health_IT でも情報発信していますので、フォローよろしくお願いします。

 

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