英国で最も親しまれている「声」がアクセシビリティに配慮した職場づくりを 実現

※ 本 Story は、米国時間 1 月 21 日 に公開された ”How one of the UK’s most famous voices is helping build a more accessible workplace” の抄訳です。

執筆: アティマ チャンサンチャイ (Athima Chansanchai)

英国のテレビ局 Channel 4 のコンティニュイティ アナウンサー (番組間のつなぎの情報提供を担当するアナウンサー) 、コリー ブラウン (CORIE BROWN) さんは、”芯の強さを感じさせる声と気骨のある性格” で知られています。しかし、ブラウンさんの声がいくら大きくても、ジェニー レイフレリー (Jenny Lay-Flurrie) の注意を引くことはできませんでした。2 人は、2019 年 10 月にロンドンで開催されたマイクロソフトのイベント Future Decoded に登壇し、インタビューを行うことになっていました。

「私を呼び止めようと、ブラウンさんが舞台裏の階段を駆け下りてきたときのことは忘れられません。彼女は私の耳が聞こえないことを教えられるまで、ずっと大声で私を呼んでいたのです…」と、マイクロソフトのチーフ アクセシビリティ オフィサーであるレイフレリーは回想します。「耳の聞こえない女性が、視覚障碍者の女性にインタビューする。それだけでも興味深いでしょう。その後、二人でおしゃべりをした中で、留守電で困っているとブラウンさんに話したのです。これまで自動応答で、『お電話ありがとうございます。恐れ入りますがメッセージは残さず、メールか SMS をお送りください』という自動応答メッセージが再生されるようにしていました。ブラウンさんと会った 2、3 日後、私がアメリカに戻ってから、ブラウンさんは新しい自動応答メッセージを録音してくれていました。『こちらはジェニーの電話です。ジェニーは耳が聞こえないため、応答できません。ご了承ください』って。私たちは大笑いでしたよ。」

「おかげで留守電がなくなりましたね。」

このエピソードは、ブラウンさんがいかにして、自分以外の障碍者が社会で生活しやすくするかを示すほんの一例にすぎません。幼いころからテクノロジに触れていたこと、また、ラジオの才能があったことから、ブラウンさんは数千人の応募者の中から選ばれて BBC での仕事をスタートさせるなど、キャリアに関しての様々な目標を達成することができています。しかし、ブラウンさんはさらに声を上げて、4 Purple という Channel 4 の障碍者スタッフのネットワークを設立し、共同代表として他の人のために啓蒙活動を行っています。

ブラウンさんは、20 年間近く Channel 4 に勤務しており、視聴者の声を放送にも、放送以外の面にも、反映させる取り組みを先頭に立って進める組織の 1 人でした。

「人は自分自身を見たがるものです。考え方が多様になると、組織は強くなり、収益性も向上します。つまり、内部にさまざまな意見があればあるほど、外部の人が共感できるコンテンツを制作できる可能性が上がるのです」と、ブラウンさんは語ります。

その他のカメラに映らないタレントと同様に、ブラウンさんも比較的人に気付かれずに出歩くことができます。ただし、しばらく会話をすると、Channel 4 で番組が終了してから次の番組が始まるまでのアナウンスの声だと、気付かれることがあります。

それでも、障碍者の機会均等のために、ブラウンさんが果たしてきた役割にまで思いが及ぶことはないでしょう。

「2012 年のパラリンピックの放送を準備していた時点では、Channel 4 は、障碍者の視点で見ると、多くの人がもっと努力しなければならないという状態でした。あのとき大きな変化が訪れたと感じています。」と、ブラウンさんは語ります。ブラウンさんは、職場での障害を取り除くことについて、より積極的に発言するようになりました。「パブで友人たちと話をしたのです。でも、職場の人に、私のような目が不自由な人間の生活について正直に話をしたのは、それが初めてでした。ふいに、このまま話すと議論を呼びそうな自分の考えを明かしていました。それまでは、人と違っているとか、劣っていると思われたくないと考えていたのです。パラリンピックの準備中に、すべてがガラリと変わりました。」

ポール サプスフォード (Paul Sapsford) さんは、Channel 4 のアナウンサー チームの管理者です。「ブラウンさんのおかげで、ここで働く障碍者について、前向きな議論ができるようになりました。ブラウンさんはダイバーシティ計画の推進に大きく貢献しています」と、サプスフォードさんは語ります。

サプスフォードさんは、2007 年から Channel 4 に勤務しています。Channel 4 では、常に、障碍者雇用やダイバーシティに対して前向きな見方をしていましたが、あのパラリンピックがきっかけで、局内での議論が格段に活発になったと言います。

「外部的にも、内部的にも、パラリンピックは桁違いに影響力の大きなイベントでした。パラリンピックのおかげで、局内の一人一人が、Channel 4 の放送とそれが私たちにとって何を意味するのかについて、深く考えることになりました」と、アナウンサー チームのダイバーシティ向上に努めてきたサプスフォードさんは話します。「Channel 4 では、障碍者雇用を増やし、彼らが歓迎されていると感じてもらえるようにしました。一人一人のニーズは異なるため、それぞれに適切に対応する必要があります。」

サプスフォードさんとブラウンさんは、ブラウンさんが Channel 4 に入社する前からの知り合いでした。ブラウンさんが BBC で勤務していたときに、サプスフォードさんはネットワーク ディレクター、後に、編集者を務めていました。

サプスフォードさんが抱いたブラウンさんの第一印象は、「聡明で、仕事に全力を傾け、熱意にあふれている」というものでした。知り合って以来、ブラウンさんは「どんどんと自信をつけていきました。それは、経験と、働く障碍者に対する認識と戦うことで、培われたものです。彼女は周囲に訴えかける方法を見つけ、それを効果的に活用してました。ブラウンさんの姿勢は、この会社をさらに前に進めるうえで重要な役割を果たしています。」

英国は 2012 年のパラリンピックを無事終えました。それは、主に Channel 4 のマーケティング キャンペーンのおかげです。このキャンペーンでは、パラリンピックのアスリートを “超人” と呼び、従来の有名なオリンピックのことをパラリンピックの “前座” と位置づけたのです。2012 年のパラリンピック開催後に行われた調査では、83% の回答者が Channel 4 の放送によって、身体障碍に対する認識が改善されたとしています。

レイフレリーは、「(Channel 4 のマーケティングは) 固定観念と一般の認識を変えた、素晴らしい広告でした」と述べています。英国人のレイフレリーは、Channel 4 の広告によって、障碍者のコミュニティに新風が吹き込まれた様子を覚えています。「Channel 4 のあらゆる活動は、障碍者を認め、受け入れていると思えました。そのような感覚は得られるものではありません。」

 「局内は活気に満ちていました」とブラウンさん振り返ります。「すっかり舞い上がっていましたが、私やその他の何人かは、局に対する世間一般の見方と、局の組織としての実態は異なると感じ始めていました。『ちょっと待って。本当に放送のイメージ通りの会社かしら』と。どうも、身体障碍に関してもっと自信を深める必要がありそうです。」

Channel 4 では、インクルージョンの問題全般に取り組むダイバーシティ対策室を局内に設け、2016 年には、障碍者雇用の専門家を迎えました。この専門家は在職中に、多くのポジティブな変化をもたらしました。

「舞台裏でも放送でも、私たちは最大限の努力をしました」と、サプスフォードさんは語ります。「パラリンピックにあれほど注力したので、さすがに Channel 4 の全部署が影響を受けています。これで、現在、取り組みを進めるための基盤ができました。Channel 4 では、あの経験を不可能はないという意味で捉えています。」

これは、ブラウンさんが Channel 4 に入社した 2001 年のころとは大違いです。当時は、障碍者のために職場を工夫すること (スクリーン リーダーや拡大鏡、音声認識、音声合成、支援ソフトウェアなど) について話す人などいませんでした。英国では、そのような取り組みに対しては政府の助成金が支払われます。職場改善にかかる費用が、特定の人物を採用しない理由にならないようするためです。ブラウンさんは、2009 年まで、この就労へのアクセス (Access to Work) 制度のことを知りませんでした。

「私がこの制度のことを知ったのは、会社が簡単な健康診断を実施していて、たまたま看護師さんが話題にしたからです。その制度のことを知らないと答えたら、看護師さんは非常に驚いていました」とブラウンさんは語ります。「それが、“気付き”の始まりでした。」

ブラウンさんは、この制度の利用を始めました。それまでは、自前の支援機器を職場に持ち込んでいました。ブラウンさんは、テキストを読み上げるスクリーン リーダーと、画面を拡大表示する機器を使用しています。ブラウンさんの仕事では、生放送で対応することがよくあります。テレビ放送では、すべてが秒単位で進行します。あらゆることに終わりのタイミングが決められていて、映像もどの程度の時間放送で流すかが決まっています。タイミングを合わせるためのカウントダウンを、ディレクターは声でブラウンさんに伝えます。画面を見ながら、原稿を読むのは大変なことなのですが、声のカウントダウンのおかげでその必要がなくなりました。

 ブラウンさんは、また、会議の前にプレゼンテーションを提供してもらい、会議の始めに参加者を紹介してもらうようにしています。これは、誰もが参加できる会議にし、会議の生産性を高めるための工夫です。必要なことをお願いできるというのは、弱さの表れではなく、「実は、関係者全員にとっての大きなエンパワメントになる」と感じています。

Channel 4 では Office 365 と Windows 10 を使用しています。ブラウンさんは、どちらもアクセシビリティ機能が充実していると太鼓判を押しています。ブラウンさんは、原稿に Word を使っています。同僚は原稿を印刷しますが、ブラウンさんは放送中に、タブレットでオートキュー アプリを実行し、ハイコントラストの大きなフォントで表示して原稿を読んでいます。これは、ブラウンさんが子供のころからテクノロジに慣れ親しんでいるがゆえです。

ブラウンさんは “見える” 世界に適応することに人生を費やしてきました。ブラウンさんの両親は、視覚障碍者としての実体験から、ブラウンさんには自分たちが得られなかった機会を早くから与えることにしました。そこでまずは、特別支援学校ではなく、普通の学校に通わせました。

ブラウンさんは次のように語ります。「1 つだけ確信していることは、特別な対応が必要な子供もいますが、大きな世界に飛び込んで、その中で生活させる必要があります。世界に加わるのは早ければ早いほどよいです。もちろん、完全に目が見える子供たちにとっても、共に学ぶ経験はためになります。だれもが同じ機会を得られることが、本当に重要なのです。

ブラウンさんの学校には、同じように視覚がないか弱い子供たち 17 ~ 18 人のためのリソース センターがありました。これは 1980 年代のことなので、本を読み上げるスキャナーの初期のバージョンを使っていました。学校で受けたタイピングの講座では「しっかりと昔ながらの音が出るタイプライター」を使っていましたし、子供の 1 人は、“マウス”の前身である “カメ” を試していました。ワープロで文章を作成するようになったのは、その後のことです。

ブラウンさんの父親はコンピューター プログラマーだったので、あらゆるハイテク機器を使っていました。ですから、テクノロジはすっかり日常生活の一部でした。

ブラウンさんは仕事で使うツールのほかに、普段の生活ではマイクロソフトの Seeing AI アプリを使用しています。

「手書き文字の認識機能は、手書きのカードを読むのに重宝しています。特にクリスマスの時期は大助かりです」とブラウンさんは話します。

Microsoft Soundscape アプリは、ブラウンさんのお気に入りのナビゲーション ツールの 1 つです。このアプリは、立体音響機能を備え、特に Tube (ロンドンの地下鉄) のわかりにくい分岐駅で降りるときに、とても便利です。

ブラウンさん自身は、生まれてからずっとテクノロジを使いこなしてきましたが、現在は、他の人がより簡単に、積極的にテクノロジを活用できるようにしたいと考えています。

サプスフォードさんは、ブラウンさんの局内での存在感と、既存の社員や新入社員が抱えている課題についての歯に衣着せぬ発言、役員や部門長に配慮を強く求める行動を通して、Channel 4 は変わってきていると話します。

Channel 4 は、リスクをとり、世間の認識に挑むことで知られています。同局の 2012 年のパラリンピック放送で生まれ、その後も高い人気を博している番組の 1 つが『The Last Leg』です。「4 つ足の男 3 人」がホストを務め、現在では Channel 4 の看板番組の 1 つになっています。最初は、パラリンピック後にハイライトをまとめた番組だったのですが、年を追うごとに、風刺に富んだ “タブーなし” の時事ニュース番組へと進化しました。Channel 4 では、現在もパラリンピック関連の放送を続けています。

Channel 4 では、他の企業も Channel 4 の経験から学び、成功できると考えています。

「正しい姿勢で臨み、変化を起こしたいと進んで思えるかどうかにかかっているのだと思います」と、サプスフォードさんは語ります。「障壁は、私たちの考え方だけなのです。その壁を崩せれば、障害はなくなります。私たちは、それを成功させるべきですし、成功させるつもりでいます。Channel 4 では「英国内で最もインクルーシブで、ダイバーシティの高い放送局になる」という同じ目標を全員が共有しています。本当に長期にわたり、そのような姿勢で臨み、結果を出してきています。これからも、さらに上を目指してがんばります。」

写真のセレクション:
https://1drv.ms/u/s!AnjCBjhP311JhOpP0jOoKJbHoIOrlg?e=6z5NgR

引用:
考え方が多様になると、組織は強くなり、収益性も向上します。
一人一人のニーズは異なるため、それぞれに適切に対応する必要があります。
障壁は、私たちの考え方だけなのです。

本ページのすべての内容は、作成日時点でのものであり、予告なく変更される場合があります。正式な社内承認や各社との契約締結が必要な場合は、それまでは確定されるものではありません。また、様々な事由・背景により、一部または全部が変更、キャンセル、実現困難となる場合があります。予めご了承下さい。

Tags: ,

関連記事