オンライン会議における並行チャットの台頭: その最適な活用方法

アドバイ サカール (Advait Sarkar) シニア リサーチャー
ショーン リンテル (Sean Rintel) プリンシパル リサーチャー

※本ブログは、米国時間 8 月 3 日に公開された “The rise of parallel chat in online meetings: how can we make the most of it?” の抄訳を基に掲載しています。

オンライン会議における並行チャットの台頭: その最適な活用方法

「ドキュメントのリンクはチャットに書いておくから」

「ネットの環境が良くないので質問はチャットに書いておきます」

「エイミーのチャットの GIF 画像は笑えるね」

これらのフレーズに聞き覚えがある方は、あなただけではありません。世界中の人々が、Microsoft Teams などのビデオ通話サービスのチャット機能を毎日のように使用しています。しかし、なぜメインの会話と並行してメッセージを投稿するのかと考えるかもしれません。それは会議の生産性を向上させるのでしょうか、もしくは悪化させるのでしょうか。そして、より重要な点は、チャットをより効果的にするためにはどうすれば良いのかということです。

なぜ人はチャットをするのか、そして、それは会議にとって良いことなのか?

これらの疑問に答えるために、マイクロソフトは 2 種のデータ ソースに基づいた論文を執筆しました。このデータ ソースとは、(1) COVID-19 によりリモート ワークやオンライン会議が広まった 2020 年の夏におけるマイクロソフト社員 849 人の体験の記録、および、(2) マイクロソフト社員 149 名を対象に、チャットの具体的な利用方法を尋ねた調査です。この論文は、2021 年度の ACM CHI Virtual Conference on Human Factors in Computing Systems で採択されました。

今回の調査では、回答者の圧倒的多数 (85.7%) が「並行チャットは有用である」と回答しました。否定的な回答はわずか 4.5% であり、中立的な回答は 9.8% でした。

チャット メッセージには、質問、リンクや資料、会議中の意見に対する同意や賞賛、関連する議論や無関係な議論、ユーモアや雑談など、さまざまな内容が含まれています。

多くの人がチャットによって集中力を削がれていると回答しています。チャットに参加しながらそのオーディオ/ビデオ (AV) 会議に集中することは困難です。チャットの正しい使い方やフォーマルさに関する意見は人により異なります。重要なチャット入力に気づかない参加者が混乱する可能性もあります。また、文字を読むのが苦手な人や文章中の感情を理解するのが難しい人にとって、チャットは課題となります。チャットに投稿された画像には、視覚障碍者が理解できるような代替テキストが付いていない場合があります。

ある回答者は「(前略) 時にはメインのプレゼンターやスピーカーとは別のところで複数のスレッドが発生し、非常に気が散ることもあります。(中略) 複数の会話を把握しつつ、話者に注意を払うのは本当に難しいことですと述べています。

それでも、マイクロソフトの調査では、会議中のチャットには十分なメリットがあり、その悪影響を抑える方法が模索中であるとは言え、チャットを活用すべきであることが示されています。

チャットのさまざまなメリット

チャットはオンライン会議には欠かせない要素になっています。チャットがなければ、多くのオンライン会議の効率は大幅に低下し、その実施が不可能なケースもあるでしょう。チャットにより、ドキュメントやフォローアップ ミーティングを中心にして、コラボレーションやアクションを整理できるようになります。ネット接続状態の悪化などの技術的障害、言語の壁、難解な専門用語などの問題を回避することができます。特に大規模な会議では、発言の順番決めや質疑応答の管理にも役立ちます。

調査の回答者は次のように述べています。「重要なリンクをテキスト チャットで提供してくれるケースや、関連性のある重要トピックがチャットで取り上げられ、それが会議に反映されるケースなどを考えれば、チャットは不可欠と感じることがあります。」

チャットは、このような機能的役割に加えて、ユーモアや雑談によって、会議に必要な社交的なサポートやつながりを与えてくれます。

ある回答者は、「私たちは、テキスト チャットを使って、同意を示す『拍手や面白い GIF を送っています (中略) これにより、人々の個性が表れ、会議がより楽しいものになります」と述べています。

そして、おそらく最も重要な点として、チャットはインクルージョンの手段にもなります。チャットにより、発言者を邪魔することなく、会議の流れを維持しながら会議に参加できるようになります。これにより、引っ込み思案の人や、言語障碍のある人も会議に貢献できます。また、投稿に対する反応を記録しておくことで、関連する議論から生まれた良いアイデアを活用することができます。ある回答者は、「技術的な制約 (マイクがない)、環境的な制約 (うるさい、集中できない)、個人的特性による制約 (引っ込み思案、新人、チームの文化に馴染めない) などにより、他の方法では発言できないような人がチャットにより会議に貢献している」と感じています。

マイクロソフトの調査データでは、チャットによるインクルージョンの効果が具体的に示されました。25 歳から 34 歳の女性では、他のグループに比べて、リモート ワークに移行した後にチャットの利用が増えたと回答する割合が非常に多くなっています。また、どの年代でも、女性のチャットの利用率は男性より高くなっています。

チャット利用の増加は 25~34 歳の女性で最も多く報告されました。
図 1: チャット利用の増加は 25~34 歳の女性で最も多く報告されました。数値は、自分のチャット利用が増えたと「強く思う」と答えた割合を示しています。

これは重要な発見です。なぜならば、ジェンダーによって会議の経験や参加率が異なるからです。若い女性は、会議中に話を聞いてもらえないと感じることがありますが、マイクロソフトの調査は、チャットが彼女たちに別の参加方法を与えられることを示唆しています。しかし、チャットに参加することと、一般的には重要とされる「メイン」のオーディオ/ビデオ会議で発言することを同一視すべきでない点には注意が必要です。

より広く言えば、マイノリティ グループに属する人々や障碍のある人々は、チャットでポジティブな経験をすることもありますが、ネガティブな経験をする可能性もあります。たとえば、ニューロダイバージェントのプロフェッショナル視覚障碍のある人々などです。一方で、発話障碍のある人でも、チャットであれば参加できる可能性があります。チャットがシステム的な不利益を被っている人々のインクルージョンを向上させるのか、それとも、彼らの参加を傍流に追いやることで不利益を定着させているのか、さらには、悪化させているのかを理解するためには、さらなる研究が必要です。

オンライン会議でチャットを最大限に活用する方法

チャットにはメリットもデメリットもあります。適切に活用すれば、チャットはオンライン会議の強力で効果的なツールになり得ます。適切に活用されなければ、参加者の注意力が散漫になったり、混乱を招いたりします。マイクロソフトの調査に基づいた、チャットを効果的に使用するためのガイドラインを以下に挙げます。

  1. 会議が始まる前に、チャットの使用に関するガイドラインを定める。明確なガイドラインは、インクルーシブで生産性の高いチャットを支援します。
  2. アクセシビリティの課題を考慮する (たとえば、参加者の中には文章を読むのが困難な人や、文章中の感情を理解できない人がいるかもしれません)。
  3. 会議のトピックに関連した、あるいは会議をよりインクルーシブにするようなチャットを奨励し、過剰に脱線したり、排他的であったり、インクルーシブではないチャットは控えさせる。
  4. 質問やコメントがないかチャットを監視し、メインの会議の中でそれらに対応する。
  5. アイデアやフィードバックを保存し、共有するために、会議のアーカイブにチャットのサマリーを含める。

これらのガイドラインをより詳しく説明したミーティング チャット ガイドを作成しました。

チャットの未来

チャット機能の向上により、より効果的な会話が実現され、会議ツールも充実します。今回の調査をもとに、システム設計によってチャットを強化できる機会が特定されました。たとえば、機械学習やタグ付け機能を使って、チャットメッセージのタイプを識別できるようにし、参加者が質問、説明、コメント、賞賛、雑談などを視覚的に区別できるようできます。チャットが活発か不活発かを示すインジケータを表示したり、議論している内容に一致する用語を含むメッセージを強調表示したり、チャット内の画像やウェブサイトをメインのビデオストリームに統合したりすることで、チャットをメインのオーディオ/ビデオの会話とよりよく統合できます。このような可能性の詳細については論文の 4.2 節をご参照ください。

オンライン会議の時代は始まったばかりであり、私たちは効果的なオンライン コラボレーション ツールの構築方法をまだ模索しています。チャットのような地味で平凡な機能にも、課題と共に大きな可能性があります。

ここでは、科学を伝えるために詩を使うという精神に基づき、第一著者であるアドバイ サカールが書いた詩を紹介します。この詩は、私たちが予想以上に長く離ればなれになったパンデミックの中で行われた研究からインスピレーションを得たものです。

Summer came, but winter’s game
Would see no end
The micro-reign, devil stain
Cleft foe from foe, and friend from friend

(夏が来ても、冬のゲームは終わらない
ミクロに君臨する悪魔のけがれは
敵と敵、味方と味方を引き裂く)

Learnt we swift, our this day’s gift
To meet apart
Let sound, sight, and what we write
Join head to head, and heart to heart

(この日の贈り物から、私たちはすぐに学んだ
離れた場所で会うということ
音、イメージ、そして文字で
頭と頭、心と心とを結びつけよう)

追加情報は論文をご参照ください。

謝辞

本研究は、アドバイ サカール、ショーン リンテル、ダミアン ボロウィック (Damian Borowiec)、レイチェル バーグマン (Rachel Bergmann)、シャロン ジレット (Sharon Gillett)、ダニエル ブラッグ (Danielle Bragg),ナンシー ベイム (Baym)、アビゲイル セリン (Abigail Sellen) により、COVID-19 パンデミック期間における会議に関する広範囲の研究の一環として行われました。

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