サステナビリティに関するスキル ギャップの縮小: 企業による誓約の実現に向けて

ギャップの縮小: 企業による誓約の実現に向けて

ブラッド スミス – 副会長 兼 プレジデント

本ブログは、米国時間 2022 年 11 月 2 日に公開された ”Closing the Sustainability Skills Gap: Helping businesses move from pledges to progress” を元にしています。

マイクロソフトは、新しいレポート「サステナビリティに関するスキル ギャップの縮小: 企業による誓約の実現に向けて」を公開しました。世界中の何千もの企業が、気候変動に関する何らかの誓約を発表していますが、そうした誓約を実現するために必要なスキルを持った労働者が世界的に不足しているのが現状です。

このレポートは、サステナビリティのイノベーションと変革の最前線で活躍している 15 社の従業員約 250 人を対象に、マイクロソフトと Boston Consulting Group (BCG) が実施した徹底的な調査の結果です。本書は、世界中で克服されなければならないサステナビリティ関連のスキル向上という手ごわい課題を浮き彫りにしています。さらに重要なポイントとして、ビジネス リーダーと政府の政策立案者の両方向けに、いくつかの具体的な提言を行っています。この世界的なスキル向上の危機は、コラボレーション、データ、そしてグローバルな取り組みによって解決できるという楽観的な見通しを本書は与えてくれます。

私が執筆した序文は以下で、またレポートの全文はこちらでお読みいただけます。この調査に参加された 15 社の皆様、そして特に BCG チームの皆様に対しても改めて感謝申し上げます。BCG のグローバル チェアであるリッチ レッサー氏は、調査のスポンサーとなってくれました。また BCG 内の 2 人のリーダー、デレク ケネディ氏とサイモン バンバーガー氏は、私とマイクロソフトのチームに何度も必要不可欠なサポートを提供してくれました。このプロジェクトは、新しい学際的なサステナビリティとスキル向上のフロンティアについて、私たち全員が真剣に考えるきっかけを与えてくれました。こうした新しい分野について解明するのは容易ではありません。私たちがこの最終レポートにまとめた教訓が、私自身にとって有用であったように、皆さんにとってもお役に立てば幸いです。

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序文

気候変動の影響を無視することはできません。ここ数週間、私が住んでいる地域には、近隣の山火事によって生じた煙が重く垂れ込めています。この不気味な現象は、不幸にも、米国の太平洋岸北西部の季節行事のような出来事となりつつあります。一方、米国西部や欧州の一部は、歴史的な干ばつに見舞われています。そして地球の裏側では、パキスタンが今夏の大洪水から復興しつつある状況です。この洪水により 1,500 人が死亡し、3,300 万人が避難を余儀なくされ、400 億ドルの損害が発生しました。これらの壊滅的な出来事はすべて、気候変動が原因であると考えられています。

この問題の深刻さのために、マイクロソフトを含む 3,900 社以上の企業が、気候変動に関する何らかの誓約を発表しています。社内で、そしてこうした多くの企業と一緒に仕事をする中で私たちが感じ取っていることですが、いずれ大規模なビジネスの変化が到来するのは明らかです。こうした変化は、デジタル技術の新たな利用法 (クラウド サービスや AI に加え、Microsoft Cloud for Sustainability のような専用サービスなども含む) のためもあって、広範なプロセスや業務に影響を及ぼすでしょう。しかし、私たちが学んできたとおり、気候変動への適応とサステナビリティに向けての変革を実現するのに必要な幅広い新スキルを企業や従業員に習得させることも、同様に不可欠な取り組みであると言えます。

サステナビリティ関連のスキル向上という課題には歴史的な重要性があり、さまざまな分野に及ぶことは、いくら強調しても足りないでしょう。私たちは、この問題を調査する中で、ある明確な類型を発見しました。人類が最初に月に到達したときは、その前提条件として、物理学が学問分野として全米に広く行き渡る必要がありました。世界がデジタル時代に突入するためには、コンピューター サイエンスがすべての学校に取り入れられる必要がありました。それと同様に、地球を「ネット ゼロ」にするためには、サステナビリティ サイエンスが経済のあらゆる分野に浸透する必要があります。

これが、本レポートのポイントです。

マイクロソフトと Boston Consulting Group (BCG) は、過去 1 年間にわたり、サステナビリティのイノベーションと変革の最前線で活躍している、マイクロソフト自身を含む 15 社の取り組みを調査しました。調査チームは、サステナビリティ関連の仕事をしている 250 人近くの従業員を対象にインタビューやアンケートを実施しました。新たに生まれた仕事を特定し、以前からある多くの仕事への影響も調べました。そして、どのような知識やスキルが求められているかをデータに基づき検討しました。

その結果、各社での仕事への影響を大きく 2 つのカテゴリーに分類することができました。1 つ目は、世界経済の中で、サステナビリティを専門に扱う職種が急速に台頭しつつあることです。例えば、マイクロソフトのような企業は、現在では、長期的かつ高品質な炭素除去の購入業務を担当する人材をフルタイムで雇用しています。2 つ目ははるかに広範で、既存の仕事がサステナビリティ分野まで包含するように拡大することです。例えば、ハードウェア デバイスの設計を行うエンジニアや材料科学者がその好例と言えるでしょう。彼らは現在では、新しいデバイスに使用される材料の性能だけでなく、サステナビリティへの影響も評価する必要があります。

企業はこのような職種を生み、適切な人材を雇用するよう動いていますが、同時にサステナビリティに関する大きなスキル ギャップに直面しています。このギャップは次の 3 つのカテゴリーに分類されます。第一に、一部の従業員には、炭素会計、炭素除去、生態系サービスの評価などの分野で、サステナビリティに関する深く専門的な知識やスキルが求められます。気候問題に特化した新しいデジタル ツールを操作して必要な取り組みを行うスキルも、ここに含まれます。第二に、広範なビジネス チームが、より限定的な、しかし時には非常に深い、特定のサステナビリティ分野に関する知識に今まで以上に容易にアクセスできるようにする必要があります。そうした分野の例としては、調達業務やサプライチェーン管理業務に特に関連する気候問題が挙げられます。第三に、さまざまなビジネス オペレーションやプロセスに影響を及ぼすサステナビリティ問題や気候科学分野に関する基本的かつ広範なノウハウが、多くの従業員に求められます。

結局のところ、サステナビリティに関する専門的な知識やスキルと、その他のさまざまな分野やレベルのスキル セットとを組み合わせることができる人材が必要です。サステナビリティの変革を目指す際は、この事実を認識することが重要です。そのためには、STEM やリベラル アーツなどの知識 (ビジネス、データ活用、デジタル技術などに関するスキルを含む) を組み合わせる必要があります。こうしたスキルをあわせ持った人材は、現状では見つけるのが難しく、基本的に育成なしには存在しません。

また、驚くには値しませんが、サステナビリティのスキル ギャップのためにビジネス リーダーの不安感がますます高まっていることも分かりました。これは、気候変動問題の大きさだけでなく、次の 2 つの要因にもよるものです。

第一には、気候変動に関する誓約の実現に向けて、企業に対する社会的期待が高まっていることが挙げられます。今後 24 か月の間に、複数の国の規制当局が、上場企業に対して炭素排出量の報告を義務付ける可能性が高いと見られています。しかし、多くの企業は、このステップに対応するために必要な熟練人材や、ビジネス プロセス、データ システムなどをまだ揃えられていません。報告内容が不完全であったり、目標に対する進捗が見られなかったりする場合に、世間からの批判が高まることをビジネス リーダーが恐れているのも理解できます。

第二に、このような業務の履行に向けてのプレッシャーに加え、経済的な懸念も高まっていることが挙げられます。企業は経済の混乱のために、より少ない労力でより多くの成果を上げる新たな方法を見つけなければならないというさらなるプレッシャーにさらされています。場合によっては、気候変動に関する誓約の実行を含む新しいビジネス施策を延期するか、あきらめる企業さえも出てくるかもしれません。

しかし、現在の科学的観測やデータは、世界に残されている時間が少ないことを示しています。10 月下旬には、対策を加速させる必要があると強調する新たな報告が発表されました。とりわけ国連環境計画は、その年次報告書「排出ギャップ」の中で、現在の各国の気候変動対策計画は、世界の温暖化防止目標を達成するために必要な水準に足りていないと述べています。

ビジネス界がもっと努力しなければならないのは明らかですが、他の組織にも同じことが言えます。気候変動に対する誓約やその履行は、非営利団体や政府機関も含め、地球上のあらゆる組織にとって等しく重要です。つまり、私たち全員がこの問題に直面しているのであり、サステナビリティ関連のスキルへの投資を含め、協力し合いながら成功への道を切り開いていく必要があるのです。

しかし、今日では、サステナビリティ関連の人材ニーズと、適格な採用候補者数との間のギャップは大きくなっていくばかりです。「LinkedIn グリーン ジョブ」レポートによると、グリーン ジョブの件数は 2015 ~ 2021 年の間に年率 8% で増加した一方、人材プールはわずか 6% の増加にとどまりました。

これらの数字が示すように、一定の進歩は見られるものの、その速さは十分とは言えません。これまで、サステナビリティの変革の最前線にいる企業の多くは、必要な人材を「生え抜き」で育てようとしてきましたが、その試みにはまとまりがありませんでした。今回の調査によると、雇用主はこれまで、自社のサステナビリティ リーダーの 68% を社内から登用してきました。また、サステナビリティ チーム メンバーの約 60% は、この分野の専門知識を持たずに入社しています。雇用主は基本的に、サステナビリティに関する正式なトレーニングを受けていなくても、社内に変化をもたらすために求められる重要な変革スキル セットや機能的スキル セットを持っている優秀な内部人材を登用してきました。そして、彼らがサステナビリティに関わる必須の仕事をこなせるよう、スキルアップも行っています。

このアプローチの最大の問題は、ビジネス界や地球自体のニーズに合わせて取り組みを拡張することができないという点です。気候変動に関する何らかの誓約を行った約 3,900 社の状況を見ると、これらの誓約を実現するためには、サステナビリティ関連のスキルやノウハウを備えた人材が、現在社内で育てられているよりもはるかに多く必要であることがすぐに分かります。

どうすればもっと遠くへ、もっと速く行けるでしょうか。 

これは根本的な問題です。そのためこのレポートでは、いくつかの提案と、企業がなすべきコミットメントを提示します。以下の 3 つの領域で取り組みを進める必要があります。

第一に、進化し続ける仕事と、それを遂行するために必要なサステナビリティに関する知識やスキルについて、より良いデータに基づき、私たち全員が協力して共通の理解を構築していく必要があります。現在のデータにはムラがあります。私たちは、国際機関、各国政府、および民間企業による最近のサステナビリティ関連の取り組みをベースとして、より優れた共通の分類体系やフレームワークを作っていかなければなりません。このたびの報告書で述べたように、サステナビリティ関連のスキル向上へのアプローチとしては、最近のサイバーセキュリティ関連のスキル向上や進化を見習いながら、サステナビリティのスキル、トレーニング、仕事、およびキャリア パスを結びつけるロードマップを構築し、改善を重ねていくのがよいと私たちは考えています。

そのためには、幅広いステークホルダーからの協力が必要です。サステナビリティに関する人材ニーズについての共通の理解を深めるため、マイクロソフトと LinkedIn は、スキルとコンピテンシーを定義することで、進化するサステナビリティ スキルと職務をマッピングして対応させる取り組みを進めていく予定です。私たちは、国際労働機関などの組織とのパートナーシップや、Development Data Partnership との連携などを通じて、これを達成していくつもりです。なお Development Data Partnership は、経済協力開発機構 (OECD)、世界銀行、米州開発銀行 (IADB)、国連開発計画 (UNDP)、国際通貨基金 (IMF) などの国際機関によって構成されています。

第二に、雇用主は、サステナビリティに関する知識やスキルに焦点を絞った学習施策を通じて、人材のスキルアップを迅速に実施する必要があります。その際には、各種の教育機関、職業教育プロバイダー、実習プログラム、オンライン トレーニング プロバイダーなどのさまざまな学習パートナーからのサポートが必要になります。この取り組みは、まず、対面式とオンライン式の両方に対応した新しい学習教材を開発することから始めなければなりません。これを幅広い学習施策によって支え、社内の従業員や、より広範囲な人材全体に行き渡るようにしていく必要があります。このような取り組みは、政府の政策や資金援助の対象となって規模を拡大できる場合もあるでしょう。

こうした活動を支援するため、マイクロソフトはパートナー各社と協力しながら、新しいサステナビリティ関連の学習教材を開発し、共有しているところです。これには、「LinkedIn Learning」のサステナビリティに関するパスや、マイクロソフトの Sustainability Learning Center および Cloud Solution Center を通じて提供されるビジネスに特化したサステナビリティ教材などが含まれます。さらに、マイクロソフトは NGO と新たなパートナーシップを結ぶことで、気候変動の影響を受けている地域や移行期にある地域で、労働者がサステナビリティ関連の学習を修了できるように支援しています。例えば、INCO Academy とのパートナーシップでは、南半球の発展途上国などで最大 1 万人の学習者をサポートする「グリーン デジタル スキル」コースを立ち上げる予定です。

また、顧客との協力を通じてネットワークや先進的なフォーラムも構築し、新しい学習やベスト プラクティスの共有によって、サステナビリティの実践を変革し、二酸化炭素排出量を削減していくことを目指す予定です。これには、サステナビリティ最高責任者向けのテーマを絞った新しいフォーラムも含まれます。

第三に、世界は、将来のサステナビリティ関連の仕事に従事する次世代の労働者を用意しなければなりません。政府、NGO、企業がデジタル スキルの向上やコンピューター サイエンスを学校の科目に導入してきたのと同様、サステナビリティに関する知識や科学を小中学校に導入するためにも、同様のパートナーシップを構築していく必要があるでしょう。また、高等教育機関では、学部や大学院のサステナビリティ プログラムを強化して拡大していかなければなりません。政府や官民のパートナーシップが、国レベルのネットワークやセンター オブ エクセレンスを通じて、より強力なサステナビリティ プログラムを開発し、国際的な専門家フォーラムや実践コミュニティを醸成し、学生向けに実社会での学際的学習の機会を作ることができれば、上記のすべての取り組みを加速させることが可能になります。

こうした施策を支援するため、マイクロソフトは、小中学校の生徒が使用できる新しいカリキュラムやトレーニング教材を作成し、提供していくことを目指しています。これには、COP27 で BBC Earth と共同で発表する予定の Minecraft の新しい DLC「Frozen Planet II」の世界も含まれます。この DLC は、Minecraft: Education Edition で利用可能な Climate & Sustainability Subject Kit と Sustainability City 学習マップに追加されます。さらに、マイクロソフトの学生向け FarmBeats では、ビッグ データ、AI、および機械学習を現実世界のサステナビリティの問題にどのように適用できるかを探る実践的な体験を提供します。最後に、マイクロソフトはユネスコの「緑化教育パートナーシップ (Greening Education Partnership)」に参加することで、包括的かつサステナブルな経済発展に必要なスキルを学習者に身につけさせるため、強力かつ協調的なアクションを実行していく予定です。

マイクロソフトは、高等教育以降のグローバルな能力開発にも投資していきます。これには、国際的な研究協力団体である MECCE (Monitoring and Evaluating Climate Communication and Education) Project との新たなパートナーシップが含まれ、世界中で行われているサステナビリティ教育の実施、モニタリング、および報告活動を支援していく予定です。さらに、Association for the Advancement of Sustainability in Higher Education との提携を通じ、同協会の Centers for Sustainability Across the Curriculum プログラムへのサポートも行います。

2020 年代初頭は、新型コロナウイルス感染症の大流行、欧州周辺での戦争、経済不安の拡大など、国際的な危機が多発しました。これらの現在進行形の問題がいつ収まるかは予測できませんが、気候変動危機は、どの問題よりも長続きするであろうことは間違いなさそうです。

産業革命の幕開けから約 300 年が経過する中で、人間の創意工夫は目覚ましい発明を生み出し、世界の多くの人々にかつてない繁栄をもたらしています。しかし、これは持続不可能なレベルの二酸化炭素を排出する化石燃料を使用することで実現されたものです。今、私たちは、正味の二酸化炭素排出量をゼロにすると同時に世界経済の拡大を目指す「ネット ゼロ」の世界へと移行していかなければなりません。そのためには、世界のあらゆる国のあらゆる経済セクターで、抜本的な改革を行う必要があります。そして、そのすべてをわずか 30 年の間に達成しなければなりません。

今までの文明の歴史を見ても、短期間のうちにこれほど多くのことに取り組まなければならなかった世代は、私たちくらいのものでしょう。同時に、これは最も基本的なレベルで、現代における最大のチャレンジであり、チャンスでもあります。

宇宙時代やデジタル時代と同様に、世界のサステナビリティの変革を実現するには、新世代のテクノロジだけでなく、新世代の知識とスキルも必須となります。明らかに、これは 1 企業の手に負えるものではありません。大切なのは、他者と幅広く効果的なパートナーシップを結ぶことによって、世界の労働者を未来へと導くことです。本レポートの提言にすべての答えが含まれているわけではありませんが、それでも私たちは、世界のあらゆる人がグローバルなサステナビリティ関連のスキル向上戦略にコミットしなければならないと考えています。その際には、企業、業界団体、学習プロバイダー、および政府による協調的な取り組みが不可欠です。マイクロソフトも、必要な役割を果たすことをお約束します。

 

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