マイクロソフトと Quantinuum、物理量子ビットの 800 倍優れたエラー率で、史上最も信頼性の高い論理量子ビットを実証

マイクロソフトと Quantinuum、物理量子ビットの 800 倍優れたエラー率で、史上最も信頼性の高い論理量子ビットを実証

H シリーズ量子コンピューターのレーザー パルスを照射するビーム ライン アレイを調整する Quantinuum の科学者たち (写真提供: Quantinuum)

マイクロソフト 戦略的ミッション&テクノロジ担当 エグゼクティブ バイス プレジデント
ジェイソン ザンダー (Jason Zander)

※本ブログは、米国時間 4 月 3 日に公開された “Advancing science: Microsoft and Quantinuum demonstrate the most reliable logical qubits on record with an error rate 800x better than physical qubits” の抄訳を基に掲載しています。

本日、量子エコシステム全体にとって重要な成果が達成されました。マイクロソフトと Quantinuum が、史上最も信頼性の高い論理量子ビットの実証を行ったのです。マイクロソフトのブレークスルー テクノロジである量子ビット仮想化システムとエラー診断・修正機能を Quantinuum のイオントラップ ハードウェアに適用することで、14,000 回以上の個別実験を一度もエラーなしに行うことができました。さらに、論理量子ビットを破壊することなくエラー診断と訂正を行うことで、より信頼性の高い量子計算を実証できました。これにより、現在の NISQ (Noisy Intermediate-Scale Quantum) のレベルから、Level 2 Resilient の量子コンピューティングへの移行がようやく進むことになります。

これは、さまざまな産業分野の研究とイノベーションを推進するハイブリッド スーパーコンピューティング システムを構築するための、マイクロソフトの取り組みにおける重要なマイルストーンであり、量子ハードウェア、量子ビットの仮想化と補正、AI、スーパーコンピューティング、量子機能、それぞれの長所を生かしたハイブリッド アプリケーションの総合的進歩によって実現されました。信頼性の高い 100 個の論理量子ビットを搭載したハイブリッド スーパーコンピューターがあれば、科学的な成果が期待できます。さらに、1,000 個の論理量子ビットがあれば、商業的な成果の可能性が生まれます。

これらの論理量子ビットに基づく先進的機能は、今後数か月以内に Azure Quantum Elements のお客様向けにプライベート プレビューとして提供される予定です。

科学研究のための専用コンピューティング プラットフォーム

気候変動の回復、食糧不足への対応、エネルギー危機の解決など、社会が直面している最も困難な問題の多くは、化学や材料科学に関する問題です。しかし、安定した分子や物質の数は、観測可能な宇宙に存在する原子の数より多いかもしれません。古典的な計算機では、10 億年かけても、そのすべてを探求し評価するには不十分です。

これが、量子コンピューティングが魅力的な理由です。大規模な量子コンピューターは、古典的コンピューターでは到達できない量子レベルでの分子や原子の相互作用をシミュレートする能力を提供し、私たちの世界にポジティブな変化をもたらす触媒となるソリューションへの道を開きます。しかし、量子コンピューティングはこのようなブレークスルーを実現するための 1 階層に過ぎません。

製薬の生産性を高めるためであれ、次の持続可能なバッテリーを開拓するためであれ、科学的発見を加速するには、専用のハイブリッド コンピュート プラットフォームが必要です。研究者は、探索フローの適切な段階で適切なツールにアクセスし、各層の科学的問題を効率的に解決し、最も重要な部分の洞察を獲得する必要があります。これが、マイクロソフトが Azure Quantum Elements で構築したものであり、AI による膨大なデータセットのスクリーニング、HPC (ハイパフォーマンス・コンピューティング) による選択肢の絞り込み、スケーラブルな量子コンピューティングによるモデル精度の向上などにより、研究開発の変革を支援します。

マイクロソフトは、お客様のために、これらすべてのハイブリッド テクノロジの進化を続けていきます。本日のマイルストーンは、有用で信頼性が高く、スケーラブルな量子力学のシミュレーションの基盤となるものです。

レジリエンスの達成に向けて

LinkedIn に書いた記事の中で、量子コンピューティングにとって忠実性とエラー訂正が重要な理由を説明するために、私は「水漏れするボート」のたとえを使いました。簡単に言えば、忠実度とは量子コンピューターがどの程度確実に意味のある計算を行うことができるかを測定するための値です。忠実度が高くて初めて、現実的な問題を解決できる実用的な量子マシンを確実にスケールアップするための強固な基盤ができるのです。

何年もの間、この水漏れするボートを修正するために使われてきたアプローチの 1 つは、ノイズの多い物理量子ビットの数を増やすこと、そして、そのノイズを補正することでしたが、優れたエラー訂正率を持つ論理量子ビットには及びませんでした。現在の NISQ マシンの主な欠点は、物理的量子ビットのノイズが多すぎてエラーを起こしやすく、堅牢な量子エラー訂正ができないことです。量子エラー訂正が機能するには、現在の業界の基盤要素は十分ではありません。そのため、より大規模な NISQ システムであっても、現実の応用では実用的ではありません。

量子エコシステム全体にとって目下の課題は、量子ビットの忠実度を高め、耐障害性に優れた量子コンピューティングを可能にすることです。これにより、量子マシンを使って、これまで解決できなかった問題を解決できるようになります。すなわち、信頼性の高い論理量子ビットに移行する必要があるのです。複数の物理量子ビットを論理量子ビットに結合することで、ノイズから保護し、長時間の (つまりレジリエントな) 計算を維持することができるようになります。これには、ハードウェアとソフトウェアの綿密な共同設計が不可欠です。高品質のハードウェアと、それに特化して設計された画期的なエラー処理能力により、個々の構成要素が提供できる以上の結果を得ることができるようになります。本日、私たちはそれを成し遂げました。

「科学的発見とエネルギー安全保障のための量子コンピューティングの長期的価値を実現するためには、量子エラー訂正と耐障害性におけるブレークスルーが重要です。今回の成果により、研究開発のための量子コンピューティング システムの継続的開発が可能になりました。」
– Oak Ridge National Laboratory Quantum Science Center
ディレクター
トラビス ハンブル博士 (Dr. Travis Humble)

量子エラー処理のブレークスルー

だからこそ、今日は歴史的な瞬間なのです。業界で初めて、マイクロソフトは Level 1 Foundational から Level 2 Resilient の量子コンピューティングへと進んでいます。今、信頼性の高い量子コンピューターで現実の問題を解決するという、次の段階に入ろうとしています。エラーをフィルタリングして修正するマイクロソフトの量子ビット仮想化システムを、Quantinuum のハードウェアと組み合わせることで、これまでに報告された物理エラー率と論理エラー率の間の最大のギャップが示されました。これは、物理エラー率よりも論理エラー率を大幅に改善する 4 論理量子ビットを持つシステムにより初めて実証されました。

マイクロソフトは、物理エラー率と論理エラー率の間のこれまで検出された中で最大のギャップを実証することができました。かつては、ギャップはブレークイーブン ポイントをはるかに下回っていましたが、現在では量子エラー訂正が有効に機能し得る範囲内にあります。
マイクロソフトは、物理エラー率と論理エラー率の間のこれまで検出された中で最大のギャップを実証することができました。かつては、ギャップはブレークイーブン ポイントをはるかに下回っていましたが、現在では量子エラー訂正が有効に機能し得る範囲内にあります。

さらに重要なのは、論理量子ビットを破壊することなく、そのエラーを診断し修正できるようになったことです。これを「アクティブ シンドローム エクストラクション」と呼んでいます。これにより信頼性の高い量子計算が可能になり、業界にとっては大きなステップとなります。

このシステムにより、14,000 回以上の個別実験を行いましたが、一度のエラーもありませんでした。この実験結果についての詳細はこちらをご参照ください。

「量子エラー訂正はしばしば非常に理論的なトピックに見えます。ここで注目すべきは、量子ビット最適化のためのマイクロソフトのミッドスタック ソフトウェアが、エラー率の低減に大きく貢献していることです。マイクロソフトはまさに理論を実践に結び付けたのです。」
– Global Quantum Intelligence チーフ アナリスト
デビッド ショー博士 (Dr. David Shaw)

Quantinuum との長期的協業

マイクロソフトは、2019 年から Quantinuum と協力し、高忠実度、フルコネクティビティ、中間回路測定を備えたイオントラップ量子ビット技術により量子開発者が独自の量子コードを書いて実行できるようにしてきました。Quantinuum は、複数のベンチマーク テストで最高の量子体積を持っていると評価されており、Level 2 に参入するのに有利な位置にあります。

「本日の結果は歴史的快挙であり、私たちの共同研究が量子エコシステムの限界を押し広げ続けていることを示す素晴らしい事例です。マイクロソフトによる最先端のエラー訂正技術が、世界で最も強力な量子コンピューターおよび完全に統合されたアプローチと連携したことで、量子アプリケーションの次の革新に大いに期待できるようになりました。特に、量子プロセッサの大規模化を進める中で、お客様やパートナーの皆さまが私たちのソリューションをどのように活用していだけるか楽しみでなりません。」
– Quantinuum 創設者兼最高製品責任者
イリアス カーン (Ilyas Khan)

Quantinuum のハードウェアは、99.8% の物理的 2 量子ビット忠実度で動作します。この忠実度が、診断とエラー訂正を備えたマイクロソフトの量子ビット仮想化システムの適用を実現し、本日の発表を可能にしたのです。マイクロソフトと Quantinuum の共同イノベーションによるこの量子システムは、私たちを Level 2 Resilient の世界へと導いてくれます。

量子スーパーコンピューティングのパイオニアとしての協力関係

マイクロソフトのミッションは、すべての個人と組織がより多くのことを達成できるようにすることです。マイクロソフトは、世界最高の NISQ ハードウェアを Azure Quantum プラットフォームによってクラウド化し、お客様が量子コンピューティングの取り組みを開始できるようにしました。そのために、Azure Quantum Elements のプライベートプレビューでは、AI と量子コンピューティングとクラウド HPC を統合しました。マイクロソフトはこのプラットフォームを使って、Copilot、Azure コンピュート、Quantinuum プロセッサ上で実行される量子アルゴリズムを統合し、特性予測のための AI モデルを訓練するエンドツーエンドのワークフローを設計し、実証しました。

本日の発表は、量子ハードウェアをレベル 2 に進めることで、このコミットメントを継続するものです。これらの論理量子ビットに基づく高度な機能は、今後数か月以内に Azure Quantum Elements のプライベートプレビューとして利用可能になる予定です。

最後に述べたい点として、マイクロソフトはレベル 2 を超え、量子スーパーコンピューティングのレベルまでスケールアップするための多大な投資を続けています。これが、マイクロソフトがトポロジカル アプローチを提唱してきた理由です。このアプローチの有効性は、Azure Quantum チームが実証しています。レベル 3 では、特に化学や材料科学などの分野で、最も困難な問題を解決できるようになることが期待されます。Azure Quantum 上で統合された、量子コンピューティング、古典的スーパーコンピューティング、AI の長所を融合させた新たなアプリケーションが実現されるでしょう。

マイクロソフトは、多様な才能ある人々を支援し、これらのブレークスルーをお客様に提供できることにわくわくしています。本日の成果の詳細については、マイクロソフトの技術ブログをご参照ください。また、近日開催のイベント Quantum Innovator Series with Quantinuum への登録も是非お願いいたします。

 

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