日常的に使われているテクノロジを形成する、障碍のある数千人もの人たち
バネッサ・ホー (Vanessa Ho)
※ 本ブログは、米国時間 2020 年 10 月 21 日に公開された ”How thousands of people with disabilities shape the technology you probably use every day” の抄訳です。
サイエンスフィクション好きで脳性麻痺のあるマサチューセッツ州の IT 専門家、ユージン・フラハティ (Eugene Flaherty) 氏や、ジョージア州で 2 つの読書クラブを運営する元ソフトウェアテスターで弱視のアン・マクエイド (Anne McQuade) 氏のことをご存知ない人もいると思います。マイクロソフトの Disability Answer Desk (障碍のある人に向けたアンサーデスク) に電話している人、つまり「Trusted Tester (信頼できるテスター)」とされる人の存在を知らない人もいるでしょう。
それでもこうした人たちは、多くの人が日々使っているであろうテクノロジの形成に貢献した数千人の中に含まれているのです。彼らの意見や働きは、マイクロソフトのテクノロジ構築の舞台裏に欠かせないものとなっています。そのテクノロジが、障碍の有無に関わらず何百万人もの人たちに役立っているのです。
マウスポインターのサイズを大きくしたことがある人は、マクエイド氏の体験に感謝することでしょう。Windows でテキストやボタンを読み上げるスクリーンリーダーのナレーターを使っている場合、このスクリーンリーダーをより使いやすくするナレーター ホームのアイデアを提案したのは、全盲や弱視の Disability Answer Desk のお客様でした。また、デバイスにメッセージを音声入力する際の研究を支えているのは、フラハティ氏をはじめとする人たちです。
フラハティ氏は、「障碍のある人のコミュニティの一員として、意見を出すことは重要だと考えています。それがすべての人にとって改善につながるためです。それにテクノロジは、障碍のある人たちにとって良いことばかりなのです」と話します。そんなフラハティ氏は、電動車椅子とキーボードショートカットを利用し、自身の器用な体験とマイクロソフトの音声認識について語ってくれました。
アクセシビリティ技術の進歩は、何千回にもおよぶテストや調査、レビュー、そして障碍のある人との対話などによる evolution model から生まれたものです。そこで重視されたのは、全員が参加すること、そして「私たちのことを、私たち抜きで決めないで」という言葉です。
製品テストの手法は、3 つの主要なプログラムを中心に展開します。その 3 つとは、マイクロソフトにフィードバックを提供する障碍のある人のコミュニティである Accessibility User Research Collective (AURC) と、障碍のあるお客様の問題を解決し、機能のアイデアを製品チームに伝える 24 時間年中無休の無料サポートチームである Disability Answer Desk、そしてアクセシビリティ テスターのトレーニングと認定を行う国土安全保障省の Trusted Tester (信頼できるテスター) プログラムです。
マイクロソフトのシニア アクセシビリティ エバンジェリストであるメーガン・ローレンス (Megan Lawrence) は、「こうしたプログラムが障碍のある人のコミュニティとの信頼関係を築きます。それが信頼性の維持につながり、より良い製品や体験を生み出す基盤となるのです」と述べています。
「当社では、障碍のある人の意見を社内に取り入れ、そういった人たちが製品をどのように使っているのかより深く理解し、よりアクセシビリティの高いツールを作るためエンジニアにフィードバックを送るという拡張性の高いシステムを構築しました。その方法を共有して他社も支援し、常に学び続けています」
AURC は、障碍のある人 900 人以上を抱えるコミュニティで、マイクロソフトの設計および工学研究のために多様かつターゲットを絞った集団をまとめている Shepherd Center の研究者が管理しています。Shepherd Center は、脊髄や脳に損傷を受けた人や、その他の神経筋に疾患のある人を対象としたアトランタのリハビリ病院で、AURC とは別の組織です。研究に参加する人は病院の患者である必要はありません。
AURC のオペレーションディレクターであるニコル・トンプソン (Nicole Thompson) 氏は、「全体的な目標は、さまざまな障碍のあるいろんな人たちにテクノロジを提供することです」と話します。「アクセシビリティ技術により、自立するチャンスが高まるほか、好きなことややりたいことができる機会も増えます」
今年は、フラハティ氏やマクエイド氏を含む 500 人以上の人たちが、自らの体験をエンジニアに伝えています。過去 3 年間で AURC のメンバーは、1 時間 50 ドルの報酬を得て研究に参加し、約 75 件のプロジェクトにフィードバックを提供、それが新しくより良い製品や機能につながりました。マクエイド氏や他のメンバーとの研究により、ポインターや文字の大きさ、ハイコントラストカラーモードなど、Windows の簡単操作の機能も改善されたのです。
Windows のアクセシビリティリーダーであるジェフ・ペティ (Jeff Petty) は、「アンは定期的にすばらしいフィードバックを提供してくれます」と述べています。「障碍のある人が自分のストーリーを語り、大きな文字を使いたい理由を説明してくれると、私たちも彼らの体験とつながりを感じることができますし、より良い機能を構築することの重要性もわかってきます」
テレコミュニケーション分野のソフトウェアテスターだったマクエイド氏は、AURC やマイクロソフトへの協力に喜びを感じているといいます。自分の技術力を他の人のために活かすことができるためです。マクエイド氏は、網膜ジストロフィーによる視力低下が原因で 6 年前に退職し、現在は障碍のある人の代弁者として働いています。
「仕事をやめて特につらかったのは、目的がなくなったように感じたことでした」とマクエイド氏は語ります。「今は自分の意見が求められているので、いい気分になれますし自信も持てるようになりました」
AURC はターゲットを絞ったユーザーへの調査を支援していますが、Disability Answer Desk ではお客様が全体的に何を求めているのかを把握します。障碍のあるお客様に向けグローバルで提供するこの活きた技術サポートサービスは、年間 15 万件の問い合わせに対応していますが、それ以外にもお客様の話に耳を傾け、どの分野に機会があるか見極める役目もこなしています。
マイクロソフトでアクセシビリティおよびインクルーシブ採用ディレクターを務めるニール・バーネット (Neil Barnett) は、「その時点での問題を解決するだけでなく、より良い製品を作るには何ができるのかを理解したいと思っています」と話します。「そのため、エンジニアグループにフィードバックを送るシステムを用意しています」
Disability Answer Desk のスタッフは、自らの言葉で迅速に対応しようと、ビデオ通訳リレーサービスではなく、アメリカ手話によるビデオサポートを直接提供しています。また、全盲や弱視のお客様に対しては、モバイルアプリの Be My Eyes と連携し、アプリとお客様のカメラ付き携帯電話を通じてスタッフがお客様の画面やデバイスを確認できるようにしています。
このサービスが非常に好調なため、マイクロソフトは昨年、Google などの企業の障碍のある人に向けたサポートサービスの開始をサポートし、Be My Eyes との連携も支援しました。今年は Disability Answer Desk のチームで業界向けの手引書を発行し、より多くの組織が独自で障碍のあるお客様に向けたサポートデスクを開設できるよう支援しています。
「自社での学びを共有しているのは、それが業界全体の取り組みを加速させ、障碍のある人のコミュニティをパワーアップさせる貴重な方法だと考えているからです」とバーネットは語ります。「より多くの企業がアクセシビリティに投資するようになればと思います」。バーネットのいう「学び」には、手引書やウェビナー、お客様向け製品トレーニングの機会なども含まれています。
製品テストの手法の第 3 の柱となっているのは、一般的に認められているアクセシビリティ標準に合わせたものです。2010 年、国土安全保障省の 2 人の職員が Trusted Tester というプログラムを立ち上げました。両職員ともアクセシビリティ技術の専門家で、うち 1 人は全盲なのですが、この 2 人が立ち上げたプログラムでは、ソフトウェアが連邦調達基準に準拠しているかテストする人材を育成し認定しています。このプログラムにより、約 2,500 人の熟練したグローバルの人材が誕生し、信頼できるテスターとしてリリース前の製品を評価しています。
国土安全保障省の一部であるアクセシブルシステム & テクノロジ室でディレクターを務めるシンシア・クリントン-ブラウン (Cynthia Clinton-Brown) 氏は、「アクセシビリティは決して障壁となってはいけません」と主張します。「開発者やコンテンツ制作者がアクセシビリティの高い製品を開発し維持することが簡単になれば、エンドユーザーもアクセシビリティの高い製品やサービスがリリース時に入手しやすくなります」
マイクロソフトは約 5 年前にこのプログラムと提携した最初の企業のひとつで、認定テスターの拡大と増加に貢献してきました。このプログラムは、効率的で大規模なテストの基盤を提供しており、このパートナーシップによって 800 人以上の信頼できるテスターが当社に協力しています。テスターの評価は、当社の製品やサービスのアクセシビリティ適合性レポートで使用されています。
マイクロソフトでエンターテインメントおよびデバイスのアクセシビリティを担当するグループプログラムマネージャー、クリント・コビントン (Clint Covington) は、「信頼できるテスターは、当社製品のアクセシビリティへの信頼性を新しいレベルにまで高め、製品やサービス全体で障碍のある人の体験の質を向上させています」と述べています。
このアプローチは、ジェイソン・グリーブス (Jason Grieves) が Windows マネージャーを務めていた 12 年間で大きく進歩しました。弱視のグリーブスは、あるアクセシビリティ機能に多大な労力を注いだ後、ソフトウェアサイクルの初期段階からテスターを取り入れることに価値があるという明確な教訓を得たのです。というのも、その機能はグリーブス自身うまく使いこなせたのでいい機能だと考えたのですが、全盲の同僚が試してみたところ、全く機能しなかったのです。
「今ではチームメンバーも最初からアクセシビリティの高い製品を設計しコーディングしようと努めています」とグリーブスは話します。グリーブスは過去 10 年間、定期的に障碍のある人のコミュニティとミーティングを持ち、「1 人のために設計し、多くの人に広げていく」というインクルーシブな原則を実践してきました。
ポインターの色を例に取ってみましょう。マイクロソフトの弱視のアドバイザリーボードのメンバーが、「白と黒の海が広がる中で」マウスポインターを見失うことがあると話したため、グリーブスのチームはいくつかの明るいポインターの色の中から使いやすく見やすい色を選択できる機能を構築しました。
Windows のアップデートをテストする Windows Insider は、この機能を見て、色が限られているのも悪くないものの、自分でも色を選びたいと考えました。1 人のために作られたアクセシビリティ機能が、今では多くの人に愛される色選択カスタム機能となったのです。スポーツファンが自分の好きなチームの色でポインターをデザインすることもあれば、グリーブスの息子のトミーくんはいつもピンクを選んでいるといいます。
「インクルーシブデザインのすばらしい一例です」と、グリーブスは述べています。
弱視で AURC のメンバーでもあるバージニア州のデータベースエンジニア、ジョン・マキュエン (John McKeown) 氏は、多くの人が使うツールの設計に貢献する機会に恵まれているのはありがたいことだと考えています。特にマキュエン氏は、支援技術が重要となる人生を送っているためなおさらです。
「開発者にも届くようなフィードバックを提供し、世界中の何千人もの人たちに向けたより良い製品として具現化されるというのはすごいことだと思います」と、マイクロソフトの調査に参加したマキュエン氏は語ります。
「製品の改善や生産性向上に貢献できるようなことは、すべて正しい行為だと思います」と、マキュエン氏は述べています。
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