[2018年4月4日]
プレジデント
ブラッド スミス (Brad Smith)
今日、すべての企業がある意味ではソフトウェア企業であるといえます。自動車メーカー、小売業者、ヘルスケアプロバイダー、金融サービス企業といったお客様は、マイクロソフトのソフトウェアを使用して自社ビジネスを変革するだけでなく、マイクロソフトのコンサルタントやエンジニアと協力し、マイクロソフトのプラットフォーム上で稼働する新しいデジタル製品やサービスを作り出しています。将来的に、クラウドサービス、データアナリティクス、人工知能の普及などにより、この傾向はますます強まっていくでしょう。
これが、マイクロソフトが Shared Innovation Initiative を発表した理由です。この取り組みは、共同開発されたテクノロジと知的財産(IP)の課題に対応し、お客様が確信を持ってマイクロソフトとの協業を行えるようにするための規範に基づいています。また、テクノロジによるお客様のビジネスの成長とマイクロソフトによるプラットフォーム製品の継続的改良の間の健全なバランスを生み出すことを目標にしています。
デジタルトランスフォーメーションの良い例として、韓国の 365mc Hospital のソリューションが挙げられます。同病院は、マイクロソフトと共同開発したモーショントラッキング AI アプリケーションによって、手術の正確性と安全性を向上しています。センサーによって手術中の外科医の手の 20 億回以上の動きのデータを収集し、機械学習を使用したパターン認識により、「外科医の GPS」とでも呼べる機能を提供しています。この AI システムは手術中に外科医をガイドし、ミスが起きそうな時には警告を発し、対策を提案します。これによって外科医は患者のリスクを低減しながらスキルを学ぶことができます。同病院は、このテクノロジを自院のビジネスに適用することに加えて、ソフトウェアと研修プログラムを他の病院に外販することによって、新たな事業ラインと収益ストリームを確保する計画です。
このようなテクノロジ企業とその顧客のコラボレーションが増すにつれ、特許などの知的財産の扱いに関する課題が生まれます。顧客の主要特許を新たなソリューションに適用するというアプローチがなければ、テクノロジ企業が自らの知識に基づいて顧客の市場に参入し、おそらくは顧客と共に作り出した知的財産を使って、顧客と競合することになるのではないかという懸念の声が高まっています。
過去において、マイクロソフトが重要な課題や懸念材料に遭遇した時には、ビジネスの指針となり外部への説明にもなる規範を作成し、公表することが有効でした。10 年以上前にWindows Principles を公表して以来、Interoperability Principles、Privacy Principles、そして最近ではCloud Trust Principles を公表してきました。新たに公表された Shared Innovation Principles は、以下の 7 つの領域をカバーします。
1. 既存テクノロジの所有権の尊重
2. 新たな特許と意匠の権利は顧客が所有
3. オープンソースのサポート
4. 新規 IP のマイクロソフトへのライセンスバック
5. ソフトウェアのポータビリティ
6. 透明性と明確性
7. 学習と改善
これらの規範についての詳細は以下のとおりです。
1. 既存テクノロジの所有権の尊重: 協業を開始する時、マイクロソフトとお客様はそれぞれ既存のテクノロジと IP を持ち寄ります。お客様との協業の結果としてそれぞれのテクノロジに対して行われた改良も、それぞれが所有することになります。
今日の世界において、新しいテクノロジの共同開発が無から行われることはほとんどありません。マイクロソフトが既存の製品、IP、専門知識を持ち込み、多くの場合お客様も自社の領域における世界有数の専門知識を活用して、同じことを行います。共同開発では、両者が相手の IP を尊重することが大前提です。
2. 新たな特許と意匠の権利は顧客が所有: 協業により新たなテクノロジが作られた時には、マイクロソフトではなく、お客様が共同イノベーションの成果の特許権と意匠権を取得することになります。
特に重要な点として、これは、マイクロソフトが新しい発明の出願手続きに協力することを意味します。また、共に作り出した特許の権利をお客様のものにするということも意味します。
3. オープンソースのサポート: 共同イノベーションの成果としてソースコードが開発され、お客様がオープンソースとしてのライセンスを希望される場合には、マイクロソフトはそれに協力します。
マイクロソフトはオープンソースに積極的に貢献しており、お客様が選択された時には、共同開発コードをオープンソース化することを歓迎します。マイクロソフトは、Linux カーネルにコードを提供し、世界中のデータサイエンティストに使用されている統計プログラミング言語である R の強化にも貢献しました。今日、Azure で稼働するバーチャルマシンの 40 パーセント以上が Linux を使用しています。既存プラットフォームテクノロジの一部は、オープンソースコードを利用して開発されました。そして、マイクロソフトは、.NET、 Visual Studio、SQL Server といった多くの重要テクノロジを Linux 上に移植しています。お客様が共同開発の成果物を GitHub 上でリリースすることを希望されることがありますが、その場合にはマイクロソフトも協力します。
4. 新 IP のマイクロソフトへのライセンスバック: マイクロソフトは、共同イノベーションの結果として得られた特許権と意匠権のライセンスを得ますが、その目的はマイクロソフトのプラットフォームテクノロジの機能向上に限定されます。
ここで言うマイクロソフトのプラットフォームには、Azure、Azure Services (例: Cognitive Services)、Office 365、Windows、Dynamics、Enterprise Mobility and Management、Cortana、Bing、Xbox、Xbox Live、HoloLens、Systems of Intelligence (例: Customer Care Intelligence、Market Intelligence、Sales Intelligence) の現在、および将来のバージョン、そしてお客様のビジネスを技術的に支援するためにマイクロソフトが開発、または開発を委託したコードとツールが含まれます。
5. ポータビリティ: マイクロソフトは、お客様が所有する共同イノベーションの成果を他のプラットフォームに移植することを制限する契約条項を設けません。
今日の世界では、お客様は共同開発した成果物を将来必要なときに他のプラットフォームに移植する上で、契約上の自由を維持したいと望んでいます。マイクロソフトはその権利を尊重します。マイクロソフトは誰よりも優れた性能と価値を提供することで、お客様を維持することにコミットしており、お客様が希望しないプラットフォームへの囲い込みは行いません。
6. 透明性と明確性: 共同イノベーションの進行に伴い、発生し得る IP 上のあらゆる課題について、マイクロソフトはお客様と協力して透明性と明確性を維持します。
IP 上の課題は複雑になり得るため、プロセス全体を通じてお客様にとっての透明性と明確性が確保されなければ共同イノベーションはうまく行きません。マイクロソフトは、お客様が常に明確で完全な情報を得られるような体制を整え、プロセスを定義することにコミットしています。また、共同イノベーションにおいて生じた疑問や課題への迅速な対応を支援する担当役員を任命する予定です。
7. 学習と改善: マイクロソフトはこの取り組みから得た教訓を活かし、将来の共同イノベーションをさらに改善していきます。
共同イノベーションは先進的テクノロジ開発における次のフロンティアです。これらの規範が重要なステップであることには確信を持っていますが、これが必要な最終形であるとは考えていません。この重要な取り組みを続けていく上で、お客様の声を聴き、そこから学び、将来的にこれらの基準を改善していけることを楽しみにしています。
マイクロソフトは、お客様が強い確信を持ってデジタルトランスフォーメーションを進めていけることが重要であると考えています。昨年、Azure IP Advantage プログラムを発表した時にも、この点を明確にしていました。今、Shared Innovation Initiative がさらにそれを強化していきます。
マイクロソフトはこの取り組み、そして上記の規範により、デジタルテクノロジの共同開発がテクノロジ業界の一部企業だけではなく、世界中の企業に新たな経済的価値を提供することになると考えています。そして、言うまでもありませんが、これはマイクロソフトが成長するための道でもあります。要するに、マイクロソフトとお客様がそれぞれの得意分野にフォーカスし、信頼と確信の元に協業し、互いが成功できるよう支援していくということです。