ジョン カハン (John Kahan)– Chief Data Analytics Officer, CELA(Corporate, External, and Legal Affairs)
本件は、米国時間 2020 年 1 月 29 日に公開されたブログの抄訳です。
世界中の人々と地域社会の健康は時間の経過とともに向上してきました。たとえば、乳幼児や妊婦の死亡率の急速な低下は健康状態が向上していることを表わす重要な指標です。
しかし、この向上は世界のどこでも一様というわけではなく、健康に関する不平等を減らし、開発途上国における医療サービス向上といった重要な社会的課題があります。医療研究者たちが取り組む、生命を救うための新たな研究、や緊急の健康課題に対応する新たなアプローチの開発に加えて、テクノロジの進化もこれらの新たな解決策の加速と拡大に役立ちます。
マイクロソフトは、こうした背景のもと、5 年間にわたる 4,000 万ドル規模の新プログラム AI for Health を立ち上げました。このプログラムの目的は、AI によって研究者や研究組織を支援し、世界中の人々や地域社会の健康を向上することです。堅固なプライバシー、セキュリティ、倫理の基盤に基づいており、重要な医療の課題に取り組む専門家との協業により遂行されます。AI for Health は、Microsoft AI for Good の 5 番目のプログラムとなります。AI for Good は、先進的テクノロジにより、研究者、非営利団体、企業による、今日の社会が直面する重要課題の解決策の開発を支援する 1 億 6,500 万ドル規模の取り組みです。
AI for Healthは、次の 3 つの分野に注力します。
- 発見の探求: 疾病の予防・診断・治療を推進する医学研究を加速する
- 世界的な医療に関する知見: 世界規模の健康危機から保護するために、死亡率と長寿に関する共通の理解を深める
- 健康の公平性: 健康状態の不平等を減らし、人々が十分なケアが受けられるようにアクセスを改善する
AI for Health は、ヘルスケア分野におけるマイクロソフトの広範な活動を補完する慈善活動です。AI for Health を通して、特定の非営利団体や大学などと、マイクロソフトの主要なデータ サイエンティストとのコラボレーション、AI ツールとクラウド コンピューティングへのアクセス、および助成金などのサポートを提供します。
AI とデータを世界の重要課題のために活用するという私のミッションの一環として、AI for Health を統率する職務に就いたことを光栄に感じています。重要な社会的課題に取り組む組織が、マイクロソフトの最新の AI テクノロジと専門知識にアクセスできるようにすることは、テクノロジ企業としてのマイクロソフトの責任です。
AI for Health の役割
過去 30 年において、世界中の医療専門家は小児と妊婦の年間死亡数を半分に減らしました。これは、世界の医療地域社会が協力することで、素晴らしい結果が達成できることを示しています。
しかし、小児と妊婦の死亡率低下は、世界のどこでも平等に起きているというわけではありません。たとえば、小児 10 万人あたりの死亡数は、フィンランドでは 43.7 人であるのに対してソマリアでは 1,899.2 人です。出産 10 万件あたりの妊婦の死亡数は、米国では 29.9 件であるのに対してチャドでは 383.3 人です。小児の死亡率で大きな進歩を達成した米国でも、5歳の誕生日まで生き残る確率は、その子供が生まれた郵便番号に大きく依存し、人口統計によって劇的に変化します。
医療の課題には AI が重要な役割を果たせる領域があり、特に、今まで営利目的の医療産業から軽視されていた領域において新たなソリューションの開発の加速と拡大を支援することが、マイクロソフトが進むべき道であると考えています。
たとえば、テクノロジにより糖尿病網膜症のスクリーニングを効率化できる可能性があります。これは、4 億 6,300 万人の人々が直面する課題ですが、世界には眼科医が 21 万人しかおらず、そのリーチの拡大を支援する必要があります。また、乳幼児突然死症候群 (SIDS) のケースでは、影響を受ける人口を考慮すると、営利目的企業では十分な研究投資が困難でしたが、テクノロジによる連鎖効果によって乳幼児の全体的死亡率を低下できる可能性があります。
しかし、真の意味でのインパクトをもたらすには、テクノロジの価値を最大限に引き出せるよう医療専門家を支援してくれる技術専門家へのアクセスが必要です。現時点では、AI 関連の人材のほとんどがテクノロジ業界に属しています。
AI専門家の 50 パーセント以上がテクノロジ業界で働いており、医療関連組織や非営利団体で働く者は 5 パーセント以下です。その結果、世界中の医療関係の研究者は AI 関連の人材の不足に悩まされています。
この分野での成功には、プライバシーとイノベーションの適切なバランスが重要です。そのため、マイクロソフトは、学術界の研究者と共同開発した差分プライバシーという考え方に基づき、個人のプライバシーを守りつつデータセットから重要な洞察を獲得できるようするために取り組んでいます。この取り組みは、ハーバード大学の Institute for Quantitative Social Science と共同で行なわれています。
マイクロソフトとして、そして、テクノロジ業界全体として、私たちには、新しいテクノロジが人間中心型であり、広く認められた社会的価値基準に基づいて開発されるようにする責任があります。マイクロソフトは、テクノロジの開発において、規範に基づいた透明性の高いアプローチを取っており、革新的な組織との協業により、AI を責任ある形で活用することで世界に多大な価値を提供できると考えています。
助成対象の支援
マイクロソフトは、データサイエンスの専門知識、テクノロジ、リソースを、重要な医療問題の解決のために提供できるという点でユニークな位置にあります。AI for Health プログラムは、医療上の発見、健康に関する洞察の獲得、世界の医療の不平等の解消を目指して、マイクロソフトの業界最高レベルの AI ツールと技術専門知識を活用し、他組織との協業により遂行されています。現在進行中のプロジェクトには以下のものがあります:
- Seattle Children’s Research Institute との協業により、乳幼児突然死症候群 (SIDS) の原因と診断に関する研究を進めています。
- Novartis Foundation との協業により、ハンセン病の伝染を防ぎ、根絶する取り組みを加速しています。
- 失明を防ぐための初期診療に活用できる、糖尿病網膜症の総合診断ソフトウェアを Intelligent Retinal Imaging Systems (IRIS) と共同開発し、展開しています。
- 組織横断型のデータアクセスによって癌の防止と治療を加速するブレークスルーを Fred Hutchinson Cancer Research Center と Cascadia Data Discovery Initiative と共同研究しています。
また、主要非営利団体 BRAC 、PATH および St. Jude Children’s Research Hospital との協業により妊婦死亡率の減少、および、結核の治療という重要な領域での研究を推進しています。
以下の PowerBI を使用して、世界の医療関連データをビジュアルに対話型分析することができます。
SIDS 分野における Scarlett’s Sunshine on Unexpected Death Act によるデータ品質と収集の向上の取り組みのように、世界中の研究者、学術界、非営利団体、医療産業、政策決定者と協力し、研究開発を推進していけることをとても楽しみにしています。共に、世界中の人々と地域社会の健康を向上していきましょう。
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