新型コロナウイルス (COVID-19) 感染拡大防止のための緊急事態宣言は解除されたものの、全国の学校や学習塾などの教育現場では “どのように子どもたちの学びの機会を確保するか” という大きな課題に直面しています。対面授業に替わる様々な学習方法が模索されているなか、急速に拡大しているのが「オンライン学習」の導入です。
- 「Microsoft Teams」をオンライン学習に活用する教育機関が世界的に拡大
学校や自治体、学習塾や予備校、教育出版社、英会話教室やスポーツクラブなどでは、レッスンの模様を動画コンテンツにして配信したり、ビデオ会議を使って双方向性を確保したりしながら行うオンライン学習の機会が拡大しつつあり、保護者も子どもからも新たな学びの機会として期待されています。
日本だけでなく、欧米やアジア各国でも同様の動きがみられており、オンライン学習は世界的な大きな潮流となりつつあります。175ヶ 国 18 万 3,000 の教育機関が Teams for Education を利用しています (2020 年 4 月 9 日時点)。現在の社会情勢をきっかけにして、働き方の観点ではオンラインによるリモートワークが大きなトレンドになっていますが、教育の観点からも、これまで “学びの場に集って行う” ことが当たり前だった学習スタイルそのものが、大きな転換点を迎えるのかもしれません。
- 今年度から小学校で必修化した「プログラミング教育」への対応を
教育機関では、主に国語、英語、算数 (数学) といった主要科目のオンライン教育が行われていますが、IT が果たす役割がさらに大きなものとなる中で、パソコンやタブレットに触れて学習する機会が多い今だからこそお勧めしたいのが、「プログラミング教育」への対応です。
コンピューターが動くプログラムの仕組みを学んだり、転じて物事を論理的に考える力を養ったりすることを目的としたプログラミング教育は 2020 年度から必修化。今年度から施行された新しい学習指導要領では、小学校から高等学校で順次「プログラミング教育」が導入されます。2020 年度からは小学生が、2021 年度からは中学生が授業で学ぶことになるのです。プログラミング教育では、既存科目の理解をより論理的に行う「プログラミング的思考」を養うことが目的のひとつとされていて、パソコンやタブレットなどオンラインの環境が整いつつある今だからこそ、早期にプログラミング教育を本格的に開始してプログラミング的思考を養うことが、今後の学習効果にも大きな影響を与えることになるのではないでしょうか。
- Microsoft Teams と Power Apps を活用した実践的なプログラミング教育
では、オンライン教育の環境をどのようにプログラミング教育に活用しているのでしょうか。ここでは、愛知県小牧市のプログラミング教室「スクーミーエンジニアクラブ」をご紹介します。
スクーミーエンジニアクラブでは、マイクロソフトのローコード・ノーコード アプリケーション開発基盤「Microsoft Power Apps」を活用しながらプログラミングの基礎と実践的なアプリ開発のノウハウ学習を小中学生向けに行っており、教室に集まることができなくなった 4 月から、Microsoft Teams を活用したオンライン授業を実施、5 月中旬から通塾が可能となってからも、オンライン授業も継続して提供しています。子どもたちはプログラミングの仕組みや Power Apps の使い方を学びながら、「新型コロナウイルスの感染予防に役立つアプリを考えよう」といった社会課題を解決できるアイデアを考え、子どもたちならではの発想をアプリとして形にしています。ただプログラミングを学ぶのではなく、世の中の課題・困りごとに目を向け、課題解決志向を持ちながらアイデアを生み出し、プログラミングを実践しているのが大きなポイントです。
「スクーミーエンジニアクラブ」を主宰する株式会社 ForNext 代表取締役の橋本 真弓さんに、授業のなかでどのようにマイクロソフトのツールを活用しているのかや、授業の進行で工夫している点、子どもたちの反応などについて、お話をお伺いしました。
――オンライン授業とプログラミング教育の相性について、どのように感じていますか?
橋本さん: 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、日本中で仕事も教育もオンライン化が急速に進みました。これまでも情報リテラシーの向上や、ICT 教育の必要性は課題として挙げられてきましたが、これを機に “やらなければならない課題” として認識されたと思います。2020 年 5 月の時点で、日本で双方向のオンライン教育が行われているのはわずか 5% だと言われていますが、これは機器や環境が準備できていないだけでなく、ツールを扱うスキルが教育現場に浸透していなかったり、使い方がわからないという生徒のフォローが十分ではなかったりなど、“人の問題” も大きいのではないでしょうか。
プログラミング教育とオンライン授業を組み合わせて行うことで、今後再び休校などの措置がとられたような場合でも、すぐに家庭でも学習が継続できるようになるのではないかと思います。実際、スクーミーエンジニアクラブでは普段の授業で Microsoft Teams を利用していたおかげで、急遽オンライン授業になっても「レッスンの時間に会議を設定しておくから参加ボタンを押してね」という連絡だけで、すぐに通常授業からオンライン授業への切り替えができました。
――なぜ、Microsoft Teams と Power Apps を導入されたのでしょうか?
橋本さん: Microsoft Teams は、通常授業を自粛する以前から授業で使用していました。クラス単位でチームを分けて利用できる点や、操作のわかりやすさ、他のアプリとの連携のしやすさといった点がとても使いやすいですね。今後は Power Apps で出席管理や課題の進捗管理アプリを作り、Teams に組み込んで利用したいと考えています。一方、Power Apps は子どもたちが学校でも使用している PowerPoint に操作性が近く、わかりやすいことが魅力です。以前は Excel VBA を使い学習していましたが、Power Apps を子どもたちに見せたところ「こっちのほうがわかりやすいね」「簡単そうだね」と興味を示したのも大きかったです。
――Microsoft Teams を使ったオンライン授業を行うにあたって工夫している点はありますか?
橋本さん: スクーミーエンジニアクラブでは、テキストに沿った学習はしていません。地元の方々の困りごとを子どもたちが解決することが教材になっています。そこで課題が与えられると、子どもたちは役割分担をしてチームとなって取り組んでいました。ところがオンライン学習となると、さすがに一人ひとりの異なる取り組みをフォローしきれない場合もあります。そこで、オンライン学習の間はスキルアップ研修の時間とし、全員でデモを見てそれを再現するという課題に取り組むように変えました。
子どもたちは、わからないことがあると各自の画面を共有して解決方法を学習します。これは対面授業よりも課題の共有がしやすいと感じています。対面での授業中に誰かの画面をのぞき込むより、オンラインで画面共有をしたほうがシェアしやすいですよね。この点では、通常授業がはじまってもオンラインでつないでおいて電子黒板に画面を映しながらみんなで検討しあうような学習ができるのではという、うれしい発見もありました。
―― Power Apps を活用してどのような学習成果を生み出していますか?
橋本さん: Power Apps を使ったアプリ開発の実践では、最初は画面遷移だけを使って「心理ゲームアプリ」を作るところから始めました。初めて自分で作ったアプリがスマホで動いているのを見て、子どもたちはとても嬉しそうでしたね。
また、歯医者に通っている患者さんから「治療中の時、自分に代わって先生に返事をしてくれるアプリが欲しい」という相談を受けたときには、治療中にボタンを押すだけで「痛いです」「大丈夫です」と返事をしてくれるアプリが 90 分のレッスン時間内で完成してしまいました。この開発の速さが Power Apps の良さのひとつです。実は相談された患者さんはエンジニアだったので「自分も子供たちに負けてられないな」と驚いていましたね。大人をやる気にさせるという影響も子どもたちが与えているとしたらすごいなぁと感心しました。
そして、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、子どもたちが役立つアプリのアイデアを考えて制作しました。家庭用の漂白剤を使って消毒液を作るために、配合の割合を自動計算してくれるアプリ、手の洗い方の説明してくれるアプリ、マスクの作り方を教えてくれるアプリなどを制作しました。
――授業のなかで「世の中の課題解決」にこだわる背景について教えてください
橋本さん: 教室をオープンした当時はカリキュラムに沿った形で授業を進めていました。しかし、ある時生徒から「先生、次の課題も仕組みはほとんど同じだからもういいよ」と言われたんです。びっくりしました。それを機に、子どもたちには世の中にある “生きた課題” を解決してもらうスタイルに変えました。地元の企業や個人の方などに、「困った」を提供してくださいとお願いし、いただいた「困った」を課題として、テキストなしで取り組んでいます。困っている方から、実際にお仕事として発注していただき、子どもたちで解決策を考えます。納品後は仕事に対して報酬をいただきます。もちろんお気持ちで数百円から数千円です。そのお金を、生徒が世界で困っている子どもたちのことを調べて、どこの地域のどんな子どもたちにどんな支援をするのかを決めて送金する予定です。子どもたちは、本当に困っている人を自分たちのちからで解決して助けるということに、とてもやりがいを感じているのではないでしょうか。
私は、子どもたちには “子ども向け” として設計されたものを与えるのではなく、Microsoft Office 製品や Power Platform など、大人になってもそのまま使えるツールを使った学習をするべきだと考えています。「子どもには難しい」と感じるかもしれませんが、それは大人が勝手に思っているだけで、そんなことはありません。工夫次第でいくらでも子どもでも楽しく学べるようにアレンジできるし、ここでの経験が社会に出たときにすぐに役立ってくれると確信しています。
――最後に、プログラミング教育を考える上で保護者に意識してほしいことを教えて下さい
橋本さん: これからの社会では、プログラミング学習は “お稽古事” というジャンルではなく、英語と同じように “必須の学び” だと意識する必要があると思います。情報教育の必要性は今まで以上に高まりました。また、ICT 化の遅れが私たちの暮らしや教育、社会での活動に直接影響することが、この緊急事態宣言の期間を通して実感できた方も多いのではないでしょうか。
そして、プログラミング教育では「子ども向け」「子ども専用」の教材を学習するのではなく、“未来にそのまま役立つ学び” を大人たちが真剣に取り組んで子どもたちに提供していかなければならないと、教育者の使命として感じています。プログラミング教育を通じて、大人も子どもと一緒になって、親子で学ぶ気持ちになってもらえたらと強く願っています。
- Microsoft Teams を活用したオンライン教育のヒント
Power Apps を含む、Microsoft Power Platform は企業のビジネスソリューションを構築するためのプラットフォームとして多くの企業や組織で活用されていますが、今回ご紹介した事例では「子どもたちの将来に役立つプログラミング教育を提供したい」という観点から、プログラミングを実践する舞台として、あえて子ども向け教材ではなく Power Apps を活用されていました。
また、Microsoft Teams を使ったビデオ会議では、先生と子どもたちが顔を見ながら授業ができるだけでなく、先生の授業画面や参加者 (子どもたち) の開発画面を簡単に画面シェアできるので、より細かなフォローアップや情報共有ができるようになります。
なお、Microsoft Teams を活用した遠隔授業のヒントや、操作方法の手引は下記にまとめています。オンライン授業に Microsoft Teams を活用したいという教育関係の方はぜひご活用ください。
・教師と学生の遠隔授業への移行を支援
https://news.microsoft.com/ja-jp/2020/03/13/200313-helping-teachers-students-switch-remote-learning/
・Microsoft Teams でオンライン授業をするための手引き書
https://blogs.windows.com/japan/2020/04/15/onlinelesson_microsoft-teams/
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