マイクロソフト、データセンターのバックアップ電源に水素燃料電池を試行

※ 本ブログは、米国時間 7 月 27 日に公開された “Microsoft tests hydrogen fuel cells for backup power at datacenters” の抄訳です。

マイクロソフトは、水素燃料電池が 48 時間連続で多数のデータセンターサーバーの稼働を達成したことを発表しました。この世界初の取り組みは、長く期待されていた、宇宙で最も豊富な元素を活用したクリーンエネルギー経済を加速する可能性があります。

これは、マイクロソフトによる 2030 年までにカーボンネガティブになるというコミットメントの最新のマイルストーンです。マイクロソフトは、この目標を達成するため、そして、世界的な化石燃料からの離脱を加速するために、2030 年までにディーゼル燃料への依存をなくすことも目指しています。

ディーゼル燃料は、マイクロソフトの全炭素排出量の 1 パーセント以下を占めるに過ぎず、その用途は Azure データセンター向けにほぼ限定されています。世界の他のほとんどのクラウド事業者と同様、ディーゼル発電機が、停電などの電力中断事故における継続的運用をサポートしています。

マイクロソフトのデータセンター関連先進技術開発チーム主任基盤エンジニア、マーク モンロー (Mark Monroe) は、「これらの発電機は高価であり、99 パーセントの時間は何もせずにただそこに置かれているだけです」と述べています。

マイクロソフトの最高環境責任者であるルーカス ジョッパは、大手エネルギー、運輸、製造企業による、水素経済推進を目指すグローバルな取り組みである Hydrogen Council におけるマイクロソフトの代表です。写真提供: ロデリゴ デ メデリオス (Roderigo De Medeiros)

最近になり、水素燃料電池のコストが低下し、ディーゼルによるバックアップ発電機の経済的に有効な代替案となってきました。

「環境に優しい水素で動かすということはマイクロソフトの炭素排出に対する全社的コミットメントに合致します」とモンローは述べます。

さらに、燃料電池、水素貯蔵タンク、そして、水分子を水素と酸素に分解する電解槽を備えた Azure データセンターを、送電網に統合し、電力サービスの負荷バランスに貢献することも考えられると、モンローは付け加えました。

たとえば、風力や太陽光発電能力が過剰な時に、再生可能エネルギーを水素として蓄積するために電解槽を活用できます。そして、電力需要が大きい時に、水素燃料電池を稼働して電力を供給することができます。

水素動力の長距離トラックがデータセンターに立ち寄って水素を補給することもできます。

マイクロソフトの最高環境責任者であるルーカス ジョッパ (Lucas Joppa) は次のように述べています。「これらのインフラストラクチャはすべて、今後数年間に世界が目指すエネルギー消費の最適化の枠組みにおいてマイクロソフトが重要な役割を果たすための機会となります。」

水素燃料電池と関連インフラストラクチャへの投資活用をさらに推進していくために、本日、マイクロソフトは、ジョッパを、Hydrogen Council のマイクロソフト代表に任命しました。Hydrogen Council は、大手エネルギー、運輸、製造企業による、水素経済推進を目指すグローバルな取り組みです。

ジョッパによれば、既に、科学者は、水素燃料電池により、宇宙で最も豊富な元素から温室効果ガスを排出しないエネルギーを取り出せることを実証しています。

「既にやり方はわかっています。しかし、水素の生産、運搬、供給、そして、様々な領域での活用を大規模に行うためにやらなければならないことはまだ数多くあります。そのために、Hydrogen Council が存在するのです。」とジョッパは述べます。

ディーゼルの置き換え

マイクロソフトのデータセンター関連先進技術開発チームの主任基盤エンジニア、マーク モンローは、データセンターのバックアップ発電機としての水素燃料電池の可能性を探るプロジェクトを統率しています。写真提供: マーク モンロー / マイクロソフト

マイクロソフトは、Azure データセンターのお客様に対して「ファイブナイン」のサービス稼働率の提供を目指しています。これは、データセンターが 99.999 パーセントの時間、運用可能であることを意味します。停電時には、バックアップ電源が起動されます。

「ディーゼル発電機はほとんど使用していません。月に 1 度、動作確認のために起動し、年に 1 度、適切な電力を供給できるか確認するための負荷検査を行なっていますが、実際に電源断に対応するのは平均的に年 1 回以下です」とモンローは述べます。

マイクロソフトは、サービス稼働率を維持あるいは向上できる、ディーゼルの代替テクノロジを研究しており、水素燃料電池とバッテリーに可能性を見出していると、データセンターのエネルギーと持続可能性開発チームのゼネラルマネージャ、ブライアン ジャノス (Brian Janous) は説明します。

「私のチームが今行っている活動は、様々なソリューションの実現可能性を評価することです」とジャノスは述べます。

既に、バッテリーは短時間のバックアップ電力を提供しており、停電からディーゼル発電機起動までの 30 秒のギャップを埋めています。先進的バッテリーであればより長時間稼働できます。

「バッテリーが効果的ではないさらに長時間のシナリオでは、燃料電池などの他の選択肢を検討しなければなりません」とジョナスは述べます。

概念実証 (PoC)

Power Innovations は、250 キロワットの燃料電池システムを構築し、マイクロソフトによるデータセンターのバックアップ電源としての水素燃料電池の研究を支援しています。概念実証では、このシステムは 1 列のデータセンターサーバーを連続 48 時間稼働できました。写真提供: Power Innovations

水素燃料電池をバックアップ電源として活用するというアイデアは、2018 年の春、コロラド州ゴールデンの National Renewable Energy Laboratory の研究者が、PEM (プロトン交換膜燃料電池) 型の水素燃料電池をコンピューターラックの電源として活用した時に生まれました。モンローと彼の同僚たちはこのデモに出席していました。

「自動車用燃料電池を使用していた点に興味を持ちました。自動車用燃料電池は、ディーゼル発電機と同等の応答時間で、迅速に起動できます。数秒以内でフル稼働状態にできます。その後は、すぐに休止でき、アイドル状態にできます」とモンローは述べます。

PEM 燃料電池は、水素と酸素を反応させて水蒸気と電力を生成します。自動車メーカーは、自動車やトラックなどの車両の動力としてこのテクノロジを開発しています。デモの後、マイクロソフトは、燃料電池をデータセンターのバックアップ電源として活用することを検討し始めました。

モンローのチームは、250 キロワット級の燃料電池システムを調達しました。これは、10 ラック程度のデータセンターサーバーの電力として十分です。2019 年 9 月に、ソルトレイクシティの郊外にあるシステム開発企業 Power Innovations でテストが開始されました。12 月に、システムは 24 時間の耐久テストをパスし、この 6 月には 48 時間の耐久テストをパスしました。

「これは、私たちが知る限り、水素で稼働するコンピューターバックアップ電源としては最大のものであり、継続稼働時間も最大です」とモンローは述べます。

チームの次のステップは 3 メガワット級の燃料電池システムを調達することです。これは、Azure のデータセンターのバックアップ用ディーゼル発電機と同等の規模です。

燃料電池の研究

ブライアン ジャノスはデータセンターのエネルギーと持続可能性開発チームのゼネラルマネージャです。彼のチームは、バックアップ用ディーゼル発電機の代替テクノロジを研究しています。写真提供: スコット エクランド (Scott Eklund) / Red Box Pictures

2018 年のデモの前にも、マイクロソフトは、燃料電池の活用法を模索しており、カリフォルニア州アーバイン校の National Fuel Cell Research Center と共に 2013 年に燃料電池テクノロジの研究を開始しています。そこでは、天然ガスを使用した SOFC (固体酸化物形燃料電池) によるサーバーへの電力供給のテストが行われました。

「大学には供給された天然ガスから自身で水素を抽出する能力がありました。天然ガスに水を加え、炭火の温度に相当する摂氏 600 度に加熱すればよいのです」とモンローは説明します。

これは、発電に必要な水素原子を作り出す水蒸気メタン改質と呼ばれるプロセスのために十分な温度です。

マイクロソフトは、信頼性の高い基準電力を提供できる SOFC 燃料電池の可能性を研究してきました。これにより、電力網への依存を排除し、データセンターの効率性を 8 倍から 10 倍向上できる可能性があります。しかし、今のところ、このテクノロジは広範な展開を行うにはコストが高すぎる状況です。

また、SOFC のプロセスでは二酸化炭素が生成されます。これが、マイクロソフトが PEM 燃料電池の研究を進めているもう一つの理由であるとモンローは説明します。

さらに、National Renewable Energy Laboratory のデモ以降、データセンターのバックアップ発電向け PEM 燃料電池システムの推定コストは 75 パーセント以上低下しました。この傾向が続けば、1 年か 2 年以内には、燃料電池の資本コストはディーゼル発電機と同等になるでしょう。

データセンター業界からの需要増により、燃料電池の生産が拡大することで、さらにコストが低下する可能性もあると、モンローは付け加えました。

「マイクロソフトが水素経済全体の触媒役になっていると考えています」とモンローは述べます。

水素経済

マイクロソフトの視点では、水素経済には、業界標準である「ファイブナイン」の稼働率を実現するために、バックアップ発電機を 12 時間から 48 時間稼働できるのに十分な、環境負荷が低い水素を調達し、貯蔵し、供給するためのインフラストラクチャが前提となります。

たとえば、バックアップ発電を 48 時間行うためには、各データセンターは、10 万キログラムの水素を必要とするとモンローは述べます。

ジャノスによれば、このインフラストラクチャを堅固なものにするための社内の対話において、来たるべき水素経済でマイクロソフトが果たすべき役割が議論されるようになりました。

「データセンターが備える資産をすべて電力網に統合することで、データセンターのみの特定ソリューションではなく、電力の炭素排出量削減をさらに加速できます。それこそが最も注目すべきポイントです」とジャノスは述べます。

タイトル画像: ユタ州ソルトレイクシティ郊外の研究所に駐車されたトレイラーに積載されたタンクに、1 列のデータセンターサーバーを 48 時間稼働できる水素燃料電池のための水素が貯蔵されています。写真提供: Power Innovations

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