日本マイクロソフトは、2023 年 6 月 27 日 (火) 〜 28 日 (水) の 2 日間、国内開発者向けイベント「Microsoft Build Japan」を開催しました。オンラインとリアル会場のハイブリッドで展開し、10,000 人を超える開発者が参加。当社のリーダーや製品エキスパートが、5 月の「Microsoft Build」で発表された 50 を超える製品やサービスの中から、注目のトピックについてデモを交えて紹介すると共に、日本独自のコンテンツを発表しました。
本ブログでは、1 日目と 2 日目の基調講演の内容を 2 回に分けて追っていきます。第一回目は、生成 AI の反響に加え、プラグインや Azure AI を利用したライフサイクルツール群、データプラットフォームなどの最新の技術情報をご紹介します。また、Microsoft Cloud のプラットフォームとツールを使って、実ビジネスに生成 AI を活用しているお客様の事例もご紹介します。
まず初めに、日本マイクロソフト株式会社 代表取締役 社長 津坂 美樹の基調講演の内容をお伝えします。
AI 時代のテクノロジーシフト
今、生成 AI が大きな注目を集めています。ChatGPT の発表後、わずか 3 か月でユーザー数が 1 億人を突破し、パソコン、インターネット、スマートフォンによる歴史的なテクノロジーシフトを経験して以来の、大きな変革が起きています。これは、開発者の皆様の役割が、これまで以上に重要になる新たな時代がやってきたことを意味します。例えば、AI 搭載の新しい Bing での 1 人当たりの検索数は日本が世界トップで、Bing にとって非常に重要な市場となっています。また、新しい Bing 発表後、2 週間で 200 万を超えるチャットの利用もあり、開発者だけでなく、一般の方も、生成 AI に強い関心を寄せていることがわかります。
その生成 AI を活用したコパイロットとして、いち早く発表したのは、開発者向けの「GitHub Copilot」です。現在、「GitHub Copilot」では、コードの 46% が生成 AI で作られ、使用者の 75% が仕事のやり甲斐を感じ、より高い満足度の仕事に集中できるようになったとしています。特に、開発スピードがより早くなったと実感する開発者は 96% にも上ります。
また、私がユーザーとして一番感動したのは、皆様に幅広く使って頂いている「Microsoft 365」や「Windows 11」が、AI のプラットフォームとして進化し、コパイロット が使えるようになることです。これにより、業務のあり方が一変します。実際、私も日々利用していて、仕事の効率が良くなったと感じています。
AI に対する期待も高まっています。世界 31 か国、3 万人以上の当社の従業員を対象に調査を実施したところ、AI に仕事を奪われることを心配する人が半数近くいましたが、70% は AI を活用して仕事を効率化したいと考えています。こうしたニーズに応えるためにも、開発者の皆様の取り組みが一層重要になっているのです。
ここで、GDP と技術革新の関係を示したグラフをご紹介します。歴史が示すように、テクノロジは経済成長をけん引し、その変化のスピードは日増しに加速しています。こうした社会の変化をけん引し、形作っていくためにも、開発者の皆様の役割はとても大きく、マイクロソフトはテクノロジを通じて、皆様の想像力と活動を最大限にサポートしていきます。
続いては、日本マイクロソフト株式会社 執行役員 常務 クラウド & ソリューション事業本部長 岡嵜 禎の基調講演の中から、最新の AI ソリューションの機能やそれが企業にもたらす効果について解説します。
生成 AI の導入進み DX が一気に加速
現在、あらゆるユースケースで生成 AI の導入が進んでいます。最も多いのが、情報の要約や言語翻訳をやり取りする「従業員の壁打ちチャットボット」です。続いて、社内に散らばる様々な資料を統合し対話をベースに必要なドキュメントを検索する「社内情報の検索」。そして、お客様からの問い合わせを受ける「コールセンターの最適化」があります。しかし、こうした分野だけでなく、あらゆる領域において生成 AI の可能性が広がっています。
これまで、クラウドでの変革が進み、その延長上でデジタル トランスフォーメーション (DX) が起こりました。今後数年は、生成 AI を中心とした AI トランスフォーメーションが変革を推進していくでしょう。日本では、DX がなかなか進まないと言われていますが、生成 AI によって一気に DX が加速するとみています。
プラグイン
様々な AI ソリューションを展開する中、「Microsoft Build」で大きく取り上げられたのが、プラグインです。コパイロットの機能にプラグインをつけることで、ユーザー自身やコパイロット単体ではできないことを API を通して拡張することができます。ChatGPT と同じオープンなプラグイン規格を採用し、ChatGPT とマイクロソフトが提供する様々なコパイロット機能との間の相互運用性を保証しています。
例えば、Word でカリフォルニアの法律関連の契約書を作成したい場合、カリフォルニアの法律に特化した企業がプラグインの機能を提供していれば、その機能を有効にするだけで、依頼した内容に従って、契約書の確認や訂正を実行してくれます。より多くの専門性や技術を持った企業がプラグインを提供し、コパイロット機能に拡張機能が追加されることで、利用者は幅広く便利に活用することができます。
今後、プラグインが揃い、OpenAI の機能を活用した様々なアプリケーションやサービスが世に出回るとみています。これらをお客様が連携して利用することで、自分たちが想像している以上に便利な世界を実現することができます。マイクロソフトは、そうした世界を支援していくことを目指しています。
Azure OpenAI Service
自社のデータを組み合わせて、独自のアプリケーションを開発したい場合は、Azure OpenAI Service を活用できます。開発者は、Azure プラットフォームから OpenAI の AI モデルにアクセスし、テキストの生成、文章要約、質問応答など、多くのタスクが実現できるアプリケーションやサービスを迅速かつ簡単に構築できます。
適用できる機能には、言語生成や要約を行う GPT-3/3.5 と GPT-4、プログラミングコードを生成する Codex、画像生成に特化した DALL-E 2 といった最先端のモデルがあります。実際、Azure OpenAI Service を活用しているお客様は、今、劇的に増えています。
多くの製品にアップデートの波
5 月の「Microsoft Build」以降、多くの製品でアップデートが急速に進んでいます。
- Azure OpenAI Service on your data
Azure OpenAI Serviceの「on your data 機能」のパブリックプレビューが開始されました。これは、ChatGPT/GPT-4 に固有の社内データなどを読み込ませることで、そのデータに基づいた回答を自然言語で得られるというものです。ノーコードで機能を作成できるため、簡単かつ迅速に構築することができます。 - Copilot in Azure Quantum
量子コンピューティングのクラウドサービスである「Azure Quantum」にコパイロット機能が追加されました。Azure OpenAI Service に化学や材料科学データセットを読み込ませることで、研究者は会話型式でコードを生成したり、量子計算を行うことができます。これにより、計算速度を上げるなど、生産性を向上させます。
Microsoft Fabric
生成 AI の進化と普及に伴い、ソースデータの正確性と量がますます重要になります。膨大なソースデータを分析するためには、データの統合が必要ですが、データはあらゆる場所やフォーマットで点在していて、それを活用するには多大な時間と高度な技術力が必要です。
そこで、AI 時代のデータ活用を支える統合・分析プラットフォーム「Microsoft Fabric」をご紹介します。データの加工・変換からデータ サイエンス、Real-Time Analytics、ビジネス インテリジェンスまで、あらゆるものをカバーする企業向けのオールインワン分析ソリューションです。 データ レイク、データ エンジニアリング、データサイエンスなど、包括的なサービス スイートを 1 か所で提供します。これらの機能は、すべて SaaS ベースで提供されているため、迅速でシームレスに活用することができます。
データを物理的に統合するのではなく、構築された「OneLake」と呼ばれる共通のプラットフォームを使用し、あらゆるデータを統合し管理するのが特徴です。また、コパイロット機能により、データを検索する際のクエリやデータ処理を自動生成することから、作業時間と労力の削減にも貢献します。他社のクラウドサービスやオンプレミスにあるデータも、仮想的に「OneLake」で見えるようにして、「Microsoft Fabric」上でデータを活用することも可能です。
三菱 UFJ 銀行: DX とデータドリブン経営を推進
マイクロソフトのクラウド プラットフォームを活用し、データ戦略と AI 戦略をすでにビジネスに取り入れている企業が、三菱 UFJ 銀行です。同社のデジタルサービス企画部 部長 (CDTO 補佐) 兼 経営企画部 部長 (特命) 各務 茂雄 氏に、その仕組みや効果について説明いただきました。
三菱 UFJ 銀行は、DX とデータドリブン経営を進めていくことで、人間が持つリアルやアナログな部分の価値をより大きく引き出すことに取り組んでいます。そして、社員、ビジネスパートナー、顧客など、利害関係者とのコミュニケーションとコラボレーションを円滑に行うための仕組みとして生成 AI を取り入れています。
「全行員が AI デフォルトでアナログなおもてなしの価値を最大化する」を目標に掲げ、人的資本経営を重視しています。全行員が日々 AI を活用することで、可処分時間を生み出し、その時間をリスキリングや個人の成長に活用し、行内の活性化と顧客への良いサービス提供につなげています。さらに、JDD や MUIT といった IT 系のグループ企業と連携し、彼らの高度な技術を活用して基盤を強化しています。
生成 AI を適用した業務において、3 つの検証結果が出ています。これまで手作業で行っていたドラフトの作成や英語以外の言語に翻訳する稟議アシストでは 44%、手続き照会では 60% の行員が効果を実感しました。また、金融レポートの要約では、時間を 40% 削減できたことがわかりました。
今年 3 月、マイクロソフトの Azure OpenAI Service を活用した取り組みを開始したところ、様々な部署や役員からユースケースの要望がありました。その内容は、銀行固有の業務が 30 件、メールのドラフト作成や文章の要約などの汎用的な業務が 80 件です。現在、これらのユースケースを同時に実現する方法を考えながら、迅速に対応できるよう取り組んでいます。
銀行業界はもともと事務作業が主体で、潜在的な需要がありました。そこに生成 AI が持つ業務補完の特徴に価値を見出し、試してみたいという意欲が高まっています。
こうしたユースケースを実装していくために、Azure OpenAI Service を活用したアーキテクチャを日本マイクロソフトと一緒に作成しました。基盤の周りをしっかりとパターン化し、拡張可能な仕組みを構築することが重要です。将来的には、アーキテクチャを発展させ、日本や世界での展開を目指します。さらに、データの活用環境を整備し、業務改革を通じて、DX とデータドリブン経営を進めていきたいと考えています。
デジタル庁: 生成 AI で「ガバメントクラウド」を運用管理
デジタル庁は、ガバメントクラウドの運用管理において、生成 AI の活用を試行しています。具体的には、IaC を用いた運用管理や断続的な CI/CD パイプラインの整備に取り組んでいます。また、ガバメントクラウドでのユーザー環境構築において、生成 AI を活用してサンプルテンプレートを作成し、生成されたコードの正確性を検証しています。生成 AI の活用によって効率性と透明性を向上させ、コード開発の品質を高めることを目指します。
弁護士ドットコム: チャットサービスに「Azure OpenAI Service」を活用
弁護士ドットコムは、5 月 12 日、Azure OpenAI Service を活用した法律相談のチャットサービス「チャット法律相談 (α 版)」を開始しました。日本には、必要でも弁護士に相談しない人が多く、相談しても内容が明確でないため弁護士が適切な回答をしにくいという課題があります。「チャット法律相談 (α 版)」は、約 125 万件もの法律相談の実績データと生成 AI を組み合わせ、相談者と弁護士のギャップを埋める手助けをします。Azure 上にコンテナーベースでサービス提供基盤を構築し、短期間でサービスを開始。利用者の 8 割以上が回答内容に満足していると評価しています。
日本独自のコンテンツ
マイクロソフトは、日本独自のコンテンツにも力を入れています。生成 AI 開発を推進するための新たな共創プログラムなどを発表しました。
- Microsoft AI Co-Innovation Labs
2023 年秋、日本初の「Microsoft AI Co-Innovation Labs」を開設します。この施設は、企業がマイクロソフトと協業して、新たなビジネスの可能性や技術の進化を創り出すための共創施設で、世界で 5 番目の拠点となります。お客様は自社のシステムやサービスに AI と IoT を組み合わせて、先進的なソリューションを開発する際にマイクロソフトの支援を受けることができます。マイクロソフトのエンジニアや開発チームと共同で、ソリューションの構築・開発・プロトタイプ作成・テストを行っていきます。 - Azure OpenAI Service リファレンスアーキテクチャ公開
2023 年 7 月 4 日から、Microsoft Base のコンテンツポータルで公開しておりこのリファレンスアーキテクチャは、マイクロソフトが推奨する Azure OpenAI Service の活用シナリオ例とそのアーキテクチャを詳しく解説したドキュメントで、お客様が生成 AI モデルをビジネスに組み込む際の参考資料としてご活用いただけます。業務の効率化はもちろん、アプリケーションの作成にも役立つ情報が含まれています。 - Azure OpenAI Service リファレンスアーキテクチャ 賛同パートナー プログラム
「Azure OpenAI Service リファレンスアーキテクチャ」に賛同いただけるパートナーを募集しています。このプログラムに参加することで、自社の Azure OpenAI Service 関連ソリューションや顧客事例を公式ページで紹介することができます。また、賛同パートナーは、独自の「Azure OpenAI Service リファレンスアーキテクチャ」を紹介することも可能です。現在、すでに 45 社以上が賛同を表明しています。様々な業務やユースケース、B2B/B2C などのあらゆる用途において、共通のノウハウを公開し、AI のモメンタム、イノベーション、トランスフォーメーションを共に発展させていきたいと考えています。
今後は特に生成 AI が核となり、AI トランスフォーメーションが進んでいくと予想されます。ここで重要となるのは、トランスフォーメーションの目的を明確にし、いかにスピーディーに実現するかです。マイクロソフトは、AI を活用し、生産性を向上させることによって、より豊かな社会を実現するべく、開発者の皆様とともに取り組んでまいります。
参考: Day 1 基調講演の模様
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