日本マイクロソフト株式会社
執行役員 常務 クラウド & AI ソリューション事業本部長
岡嵜 禎
今年は、ビジネスや日常生活において生成 AI の活用が急速に広がりました。利用拡大のスピードを凌駕する勢いで AI の進化は続いており、そのトレンドは自律的にタスクを遂行する AI エージェント へと変化しています。
AI エージェントとは、ユーザーと一緒に、あるいはユーザーの代わりに、たとえば質問への回答から、より複雑なマルチステップのタスクまで幅広い作業をこなすことができる、生成 AI の力をさらに一歩進めた存在です。特定の専門性を持たせたり、カスタマイズしたりすることが可能です。
AI エージェントの特徴は、以下の 3 つです。
- 自律性: 従来のチャットサービスはユーザーの指示に基づいて動作するのに対し、AI エージェントは与えられた目標に基づき自律して行動し、ユーザーの介入を最小限に抑えます。
- 目標指向: 通常の AI サービスがユーザーの質問に答えるのに対し、AI エージェントは特定の目標やタスクの達成に向けて計画を立て、行動します。
- 高度な推論: AI エージェントは、複雑で連続した対話からタスクを処理する能力を持ち、必要に応じて複数のエージェントと協調して問題を解決することが可能です。
AI エージェントを活用することで、企業は業務効率を向上させるだけでなく、人間にしかできない創造性を高め、より高度なイノベーションと成長を促進することが可能です。日本市場でも、先進的な企業を中心に AI エージェントの導入が進んでおり、2025 年にはその動きがさらに加速すると期待しています。
マイクロソフトは、Copilot と AI エージェントを組み合わせることで、引き続きユーザーを支援します。Copilot はユーザーインターフェース (UI) として機能し、エージェントを呼び出して、作業を実行します。AI エージェントとシームレスにつながる Copilot を提供するマイクロソフトだからこそ、「人と AI が協働してタスクを遂行する世界を実現する」ことができると考えています。
マイクロソフトでは、 AI エージェントを以下の 3 つに分類しています。
- ビルトイン型エージェント (Microsoft 365 Copilot に組み込まれたエージェント)
- サードパーティ型エージェント (外部組織との連携によるエージェント)
- カスタマイズ型エージェント (ユーザー自身が目的に応じて作成するエージェント)
今後、需要の増加が予想される「カスタマイズ型エージェント」向けには、2 つの基盤を提供しています。簡単にカスタムAIアシスタントを作成できる Copilot Studio に加え、開発プロ向けには Azure AI Foundry を提供し、AI モデルの構築やより高度なカスタマイズを実現します。ビルトイン型からカスタマイズ型まで幅広いユーザーのニーズに対応します。
AI エージェントの活用は、本格的な導入から運用のフェーズへ移行しつつあります。企業にとっては、今後技術的な実用化に加え、導入を支える組織や人員の基盤の整備が重要となっていきます。日本マイクロソフトは、AI エージェントを単なるテクノロジーとしてだけではなく、生産性を向上し、イノベーションを推進する企業変革の取り組みとして支援していきます。
以下に、AI エージェントをはじめとした主な AI 活用事例をご紹介します。
主な AI 活用事例
【カスタマイズ型エージェント】
ソフトバンク株式会社: コールセンター業務の効率化と顧客満足度向上を目指し、Microsoft Azure OpenAI Service を活用したLLM自律思考型システムを開発。これにより、顧客からの問い合わせ内容を AI が判断し、最適な回答を提供することで、待ち時間の短縮と対応の均質化を図っています。また、自社での実績をもとに、ソリューションの外販も予定しています。
大和証券株式会社: 生成 AI を活用した「AI オペレーター」を導入し、マーケット情報提供や手続き関連の問い合わせ対応を効率化し、顧客体験の改革をはかっています。投資家層の拡大に伴い、問い合わせ増加と待ち時間の削減を目指し、複数の AI エージェントがリアルタイムでタスクを高速、効率的に処理します。リアルタイムで正確なマーケット情報の提供や、信頼性の高い手続き案内を迅速かつ信頼性高く提供することが可能になりました。あわせて、モニタリング AI が応対内容をチェックしています。有人オペレーターの業務負荷を軽減し、24 時間対応が実現。今後はお客様ごとに必要な手続きの案内や執行、入出金や受発注等の対応も目指しています。
トヨタ自動車株式会社 パワートレーンカンパニー: 熟練エンジニアの知見を継承し、新車開発のスピード向上を図るため、生成 AI エージェントシステム「O-Beya (大部屋)」を導入しました。このシステムは、Azure OpenAI Service を活用し、エンジンやバッテリーなど 9 つの専門分野のAIエージェントが、24 時間体制でエンジニアの質問に対応します。これにより、物理的な制約を超えて、社内の専門知識を効率的に共有・活用することが可能となり、開発プロセスの効率化と技術革新の加速が期待されています。
西日本旅客鉄道株式会社 (JR西日本): 駅員の業務負担低減とお客様満足度向上を目的に、鉄道業界特化型エージェント「Copilot for 駅員」を開発。鉄道固有の複雑で膨大な営業制度に対応するため、生成 AI アシスタントが駅員を支援し、お客様の待ち時間短縮とサービス品質向上をはかります。お客様からの問い合わせ実績データを蓄積、分析、活用することで、新任係員の教育レベル向上や営業制度の改善への寄与が期待されます。今後は業務対応範囲の拡大やお客様への利用展開などを検討中です。
富士通株式会社: 難易度の高い業務を自律的かつ人と協調して推進できる「Fujitsu Kozuchi AI Agent」を開発。ユーザーからの指示や質問に対して応答を返す対話型ではなく、人と AI が協調して課題解決に取り組む自律型エージェントです。抽象的な問いから具体的な課題に分解してタスクを生成、複数のサブエージェントを活用して適切な回答を提案します。すでに社内体験版として数百のエージェントが活用されており、今後は生産管理や法務など、業務特化型エージェントへの利用拡大が進められています。
株式会社ベルシステム 24: コールセンター業務の精度向上と自動化を目指し、生成 AI を活用した「Hybrid Operation Loop」を開発。生成 AI と人間の協働によるハイブリッドオペレーションを構築し、通話データからナレッジベースを自動生成する機能を搭載。これにより、回答精度の向上と業務効率化を実現します。通話データから回答に必要な情報を抽出、整理し、検索拡張精鋭 (RAG) も活用することで回答精度を 95% 以上に向上させることを目指しています。また電話自動応答を AI 自動応答に対応する検証も進めています。
【Azure AI Service】
株式会社スクウェア・エニックス: ゲーム開発の効率化を目的に、生成 AI を活用したチャットボット「ひすいちゃん」を導入。このチャットボットは Azure OpenAI Service を活用して、Slack と連携して膨大な機能を持つ内製ゲームエンジンに関する社内各部門からの質問に対応しています。2024 年 2 月のリリース以降、開発者がゲームエンジン担当者に気軽に質問でき、ゲームエンジンの活用支援を効率化する環境を提供しています。
さらに、Python コードの自動生成やデータ生成結果の即時確認を可能にする機能も追加。これにより、新人教育や非プログラマーによる活用も進み、ドキュメント作成への意欲向上など多方面で効果を発揮しています。
株式会社セブン銀行: Azure OpenAI Service を活用し、ATM 接客システムやコンタクトセンターにおける顧客対応の品質向上を進めています。生成 AI により、応対業務の精度を約 9 割に向上させ、ATM では音声応答など新たな顧客体験を実現しています。また、ハルシネーション低減に向けた取り組みも進めながら、業務効率化と新たな価値創出を目指しています。
株式会社ナガセ: Azure OpenAI Service を活用し、生徒一人ひとりに最適化された学習支援を提供しています。200 億問以上の解答データを分析し、志望大学に合わせた演習問題を提案することで、国公立大学合格率 70% 以上を達成しました。また、AI を用いた指導で生徒がどこでも何度でも演習できる環境を整え、さらにプログラミング対応版の開発を進めることで、学力向上と教育改革を推進しています。
日清食品ホールディングス株式会社: Azure OpenAI Service と Power Platform を活用して独自の対話型 AI「NISSIN AI-Chat」を開発し、IT 部門の作業工数を 24% 削減しました。このシステムは、営業やマーケティングなど 140 部門で 100 種類以上のテンプレートを作成し、業務効率化を実現しています。また、社内外からの問い合わせ履歴を AI が学習し、最適な応答を提供することで、さらなる業務効率向上と現場のニーズに応じた活用範囲の拡大を進めています。
三菱商事株式会社: Azure OpenAI Service を活用し、生成 AI を通じた業務効率化や投資判断支援を推進しています。特に、文章要約ツールと社内チャットボット「SHINE」を活用し、膨大な情報の要約や状況に応じた素早い判断を可能にしています。Azure OpenAI の導入により、業務効率化とともに、より良い投資判断や経営判断の支援につながっており、企業競争力の強化にも貢献しています。
株式会社三菱 UFJ フィナンシャル・グループ (MUFG): Azure OpenAI Service を活用した MUFG 版 ChatGPT を開発し、業務効率化と企業文化の改革を推進しています。このシステムは約 110 を超える業務ユースケースで活用され、銀行固有業務や汎用業務の効率向上を実現。将来的には、専属アシスタントのような役割を果たし、顧客対応や会議サポートにも活用できる環境整備を進めています。生成 AI を通じて人財育成やスキル向上も目指しています。
弁護士ドットコム株式会社: Azure OpenAI Service を活用し、24 時間無料で利用可能な AI 法律相談チャットサービス「弁護士ドットコム チャット法律相談 (α 版)」を一般公開しています。このサービスは、過去の 125 万件以上の法律相談データを基に質問・回答を生成し、プライバシー保護とセキュリティ機能を備え、誰でも気軽に法務相談が可能です。交通事故や相続、労働問題など多様な分野に対応を拡大し、法的トラブル解決の支援を目指しています。
【Microsoft 365 Copilot】
住友商事株式会社: 生成 AI 活用を全社で推進し、Microsoft 365 Copilot を全従業員に導入することで日常業務を効率化し、創造性向上を図っています。グローバル 8,800 ライセンスを展開し、定着を目指したプロンプトテンプレートの活用や、アンバサダー配置による支援体制を構築。業務変革を進めるとともに、生成 AI の活用モデルをグループ会社へも展開予定です。
株式会社デンソー: Microsoft 365 Copilot を導入し、全社員の日常業務で AI を活用する環境を整備し、月12時間の業務削減や設計品質向上を実現しています。安全性と利便性を両立しながら、Teams の会議要約や翻訳機能を中心に、業務の効率化を図り、成功体験を積み重ねる「カイゼン」の文化を活かしてDXを推進。今後は全社 3 万人、国内外グループへの展開を視野に入れ、生成 AI で業務効率化と社会貢献を加速させます。
日本ビジネスシステムズ株式会社: 生成 AI の活用を推進する中で、Microsoft 365 Copilot の全社導入を決定しました。2023 年 8 月から先行検証プログラムに参加し、利用データや定量分析を基に導入効果を可視化。ハッカソンやプロンプトテンプレート作成を通じて、全従業員が「便利さ」を実感しやすい環境を整備しています。また、メールや会議時間削減により、価値創造時間を 30% 以上増加させ、真の働き方改革と業務効率化を実現しています。
日本マイクロソフトは、堅牢なセキュリティに裏打ちされた技術とソリューションの提供に加え、導入、活用を全面的に支援し、日本のお客様が生成 AI の力を最大限に活用できるように尽力するとともに、業務効率化、創造性の向上、イノベーションの促進を実現に向けて、引き続きパートナー各社と連携して取り組んでいきます。
以 上
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