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AI (人工知能) と F1 ー テクノロジのレースでは AI がポールポジションに

※ 本コンテンツは2017年9月17日にアジアで公開されたコンテンツの抄訳をベースにしています。

F1 には、華やかなレース、多くの観客、馬力、スピード以外の要素もあります。世界のグランプリサーキットを F1 レースカーが轟音を立てて走り抜ける時、必要となるのは運転技術と度胸だけではありません。

ルノー・スポール F1 チーム CIO (最高情報責任者)ピエール ディンブリバル

F1 は、テクノロジのレースでもあります。そして、そこでまもなく AI (人工知能)がポールポジションを取る可能性があります。

ルノー・スポール F1 チーム CIO (最高情報責任者)ピエール ディンブリバル (Pierre d’Imbleval) 氏にとって最も重要なことは、グランプリカーが 1 つのラップにどれだけの時間を要するかです。「90 秒間に多くのことが起こり得ます。レーシングカーにはおよそ 200 個のセンサーが備えられ、コースを走り出すとそれらのセンサーが何千個ものチャネルを通じてデータを送信し始めます。」

エンジンの調子はどうか?タイヤのグリップはどうか?ブレーキはどうか?加速は?振動は?テレメトリーは?燃料は?風、雨、気温は?ドライバーは適切に応答しているか?ピットインの予定を変更すべきか?チームのエンジニアはレース期間中ノート PC に張り付き、次のラップをどうすべきかを、チェッカーフラッグが振り降ろされるまで延々と繰り返します。適切な判断が勝利に結びつき、誤った判断は失敗を、最悪の事態はと事故さえ招きかねません。

これは、人間にとってはきわめて過酷なデータ処理と意思決定です。そして、ルノー・スポール F1 チームに参加してまだ 1 年にも満たないディンブリバルは、新たなテクノロジを採用すべき時が来たと考えました。

参考:世界で最も素早く動く業界で、デジタルトランスフォーメーションが不可欠な理由(英語)

アルゴリズムに基づいてコーディングされたボットは、人間よりも何倍も高速にデータを処理できると彼は説明します。「多くのエンジニアがこれらの数千個のチャネルの情報を監視させるのではなく、AI エンジンのようなものを置き、複数のチャネルの組み合わせによる挙動を監視させたいと考えました。」

ジョリオン パーマー (英国) ルノー・スポール F1 チーム RS17 ー 2017 年 9 月 17 日(日)シンガポールグランプリ マリーナベイ・ストリート・サーキット(シンガポール)

 

より迅速な AI で統合された情報は、レースの成績を向上させることに加えて、事故の防止やレースカーのエンジン故障の予測にも貢献するかもしれません。そして、その分自由になったクルーを他の作業に割り当てることができます。ディンブリバルは、次のレーシングシーズンにレース上で AI を活用することを計画しています。

「AI はレースにおいて極めて重要になるでしょう。ラップ毎に最善の意思決定を下すための支援が必要だからです」とディンブリバルは述べます。

参考:アジアのAI、ここにもどこにでも(英語)

彼は、3 年後の優勝を目指すルノー・スポール F1 チームの、壮大なデジタルトランスフォーメーション計画において、AI が次の論理的ステップとなると考えています。

「来年には表彰台を目指します。そして、2019 年と 2020 年には優勝を争いたいと考えています」と彼は述べました。その後、9 月 17 日にシンガポールの雨天下での夜間グランプリ決勝で、ルノー・スポール F1 チームのジョリオン パーマーは 6 位でフィニッシュし、チームメートのニコ ヒュルケンベルグはピットリタイアしました。シンガポールでの結果により、ルノー・スポール F1 チームは 2017 年度のコンストラクターズポイントランキングにおいて成績を 7 位に上げました。 ディンブリバルは、自分がレースの複雑性とその興奮に、虜になっていることを自覚しています。自分を「カーキチ(petrolhead)」と呼ぶことすらあります(これは彼の母国語のフランス語には翻訳困難なようです)。

とは言え、彼は冷静な企業人としての顔も持っています。チームが納期通り、予算通りに結果を出し、ビジネスとして機能した時のみ、成功したと言えると述べています。その目標を達成するため、ルノー・スポール F1 チームは、長きにわたるテクノロジパートナーであるマイクロソフトに協力を求めました。

「来年には表彰台を目指します。そして、2019 年と 2020 年には優勝を争いたいと考えています。」

マイクロソフトの多様なビジネスソリューションは、既に結果を出しています。多くの業務をクラウドに移行し、Microsoft Dynamics 365 ソリューションを活用することで、フランスのヴィリー=シャティヨンと英国のエンストンの主要設計工場の管理、調整、製造をより適切に統合できました。

ジョリオン パーマー (英国) ルノー・スポール F1 チーム RS17 ー 2017 年 9 月 17 日(日)シンガポールグランプリ マリーナベイ・ストリート・サーキット(シンガポール)

 

ルノー・スポール F1 チームは、F1 レースで 40 年の経験を持っています。2016 年にエンストンのチームを引き継いでフルコンストラクターとして復帰し、ルノー傘下でドライバーズチャンピオンとコンストラクターズチャンピオンを連続で取得した 2005 年と 2006 年の栄光を再び目指し始めました。

テクノロジは設計と開発にも変化をもたらしました。Azure Machine Learning は車両の構成を変えた時の影響の予測に役立ちます。Microsoft Cloud (英語) のハイブリッド機能は、風洞テストの必要性を軽減するための自動車デザインの3D仮想テストにおいて、Azure Stream Analytics とルノー社内のスーパーコンピューターを同期させる際に有効でした。

将来におけるMicrosoft HoloLens を使用したMixed Reality(複合現実)の活用

 

そして、デザイナーや研究者は、車体周囲の気流やエンジンなどの高度な部品の内部動作の可視化のために Microsoft HoloLens を活用し始めています。「我々のチームメンバーは競合優位性を提供してくれるあらゆるものに対してとても貪欲です」とピエールは述べています。

Mixed Reality(複合現実)(英語)は、修理やメンテナンスにおいても重要な役割を果たす可能性があります。F1 レーシングカーはいったん組み立てられると、特にツアー中には分解するのは困難です。エンジン内部での液漏れなどの原因を究明しにくい問題が発生した時に、リペア担当者が HoloLens のアプリケーションを使用して、本社の技術専門家とやり取りができるようになるかもしれません。

ニコ ヒュルケンベルグ(ドイツ) ルノー・スポール F1 チーム RS17 ー 2017 年 9 月 17 日(日)シンガポールグランプリ マリーナベイ・ストリート・サーキット(シンガポール)

 

ディンブリバルは、Mixed Reality がグランプリレースの観客にとっての魅力を高める上でも有効であると考えています。「観覧席の観衆が HoloLens のヘッドセットを装着して、たとえば、ドライバーの気分、つまり、攻めに入っているのか守りに入っているのかなどの情報が得られる世界を想像してみてください。レースファンにとってはまったく新しい体験となるでしょう。」

「観覧席の観衆が HoloLens を装着している世界を想像してみてください…」

しかし、これほど多くのイノベーションが、今、そして近い将来に活用できることは、F1 がテクノロジに過剰に依存する状況にはならないのでしょうか? ディンブリバルは、テクノロジによって実現すべきことはまだ数多くあると考えています。しかし、人間のドライバーがいないロボットのレースといった考えには反論します。

「スポーツとは何でしょうか?スポーツには、人間と機械がともに必要です。車の中にはリスクを取る人間が存在し、彼の背後には人間のチームがいるという点を念頭に置かなければなりません。」