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デジタル時代に向けた鉄道改革

※本ブログは、2021 年 5 月 18 日に EMEA で配信された ”Reinventing railway for the digital age” の抄訳です。

2021 年は European Year of Rail (ヨーロッパ鉄道年) です。これを機に、1820 年代に蒸気機関車の運行を開始し、今でも豪華絢爛なイメージを醸し出すオリエント急行のような長距離列車サービスを提供するなどして、都市や国、さらには大陸までも結ぶ列車旅行の世界的な金字塔を打ち立ててきたヨーロッパ鉄道事業者の約 200 年近くにわたる歴史を振り返ってみましょう。

20 世紀後半には低価格航空券の需要が高まったため、ヨーロッパの国際鉄道サービスは落ち込みましたが、現在では鉄道旅行が再び増加しています。EU の政策立案者は、より環境に配慮した移動手段の組み合わせを実現するにはヨーロッパ鉄道が欠かせないと考えているため、この傾向を歓迎しているようです。

21 世紀の旅行者の期待に応えようと、鉄道事業者ではクラウドの導入が加速しています。

情報とプロセスの正しい扱い方

ヨーロッパでは、エレベーターの故障から線路上の障害物まで、駅員が日々さまざまな問題に対応しています。こうした問題はすべて遅延の要因となりますが、遅延時にお客様を特に苛立たせてしまうのは情報不足です。この情報不足は事故対応の手順が古いことが原因であることが多く、事態を悪化させてしまうこともあります。

そこで、ベルギーの鉄道会社である SNCB のスタッフが、こうした課題をより効率的に対処しようと、マイクロソフトのクラウドコラボレーションプラットフォームである Teams を活用して合理的かつ統合されたワークフローを構築、同社の既存の事故管理プロセスを変革しました。その結果、すぐに事態は改善に向かったのです。

アントワープでゾーンチーフを務めるロード ファン スティーンベルゲ (Lode Van Steenberge) 氏は、「誰もが乗客コーディネーターに情報を求めていたため、その人がボトルネックになるとともに唯一の情報源となっていたことが問題でした」と話します。「そこで、Teams 内に事故管理グループを作り、重要な事故とあまり重要でない事故のチャネルを追加しました。現在は一般的なフォーラムで共同作業し、より迅速に事故が解決できるようになりました」

現在では、乗客コーディネーターが Microsoft Forms で事故報告書を記入すると、Teams の Power Automate ワークフローが開始され、関係者全員に情報が伝わります。そこでは課題解決に向け、同僚同士で写真を投稿することや、関連情報を投稿することも可能です。

ファン スティーンベルゲ氏によると、以前は小さな事故でも適切なサポートスタッフを探すのに時間がかかっていたといいます。それが今では適切な人に情報が行き渡るので、より迅速に解決できるとしています。

「何時間もかかるような問題もありますが、適切な人に伝えれば 5 分で解決できることもあります」とファン スティーンベルゲ氏。「最近、お客様が緩んだ釘の写真を撮影し、危険だと指摘していました。その写真を駅のメンテナンスチームに送ると、金槌で釘を打って問題は解決されました。以前はこうした単純な問題でも対応に数時間かかっていたんです」

より良い情報発信に向けて

ベルギー国内のほとんどの主要ターミナルでは電子信号ボードを利用していますが、多くの小規模駅では車掌が運転士に列車の発車準備が整ったことを伝える際にこれまで警笛を使用していました。

そこで SNCB では、どこででも使えるシステムを構築しようと考え、Azure にて Linda アプリを開発しました。SNCB の列車運転士、ケビン バーメイレン (Kevin Vermeylen) 氏は、Linda によって発車時の車掌と運転士のコミュニケーションがよりスマートで安全かつ効率的になったと話します。

「車掌がまずスワイプしてシグナルボックスに列車の発車準備ができたことを伝えると、自動的にすべての情報スクリーンに発車間近であることがメッセージとして表示され、乗客はそれ以降中に入れなくなります」とバーメイレン氏。「そして車掌がすべてのドアを閉め、またスワイプすると、運転士にはタブレットを介して信号が送られ、問題なし、発車準備完了と伝わるのです」

これにより、すべての停車駅で発車プロセスの統一化が進むことに加え、車掌はすべてが安全に行われているか余裕を持って確認できるようになるとバーメイレン氏は述べています。また、列車運転士の規定書が E Drive という Azure のクラウドソリューションへと移行したため、車掌がより簡単にその規定書にアクセスできるようにもなりました。

規定書には運転士に交通規制の変更を伝える内容が書かれており、1930 年代以来ずっと紙で配布されていました。つまり、運転士は情報の詰まった重い荷物を持ち歩かなくてはならなかったのです。規定が変わると新たなページに差し替えなくてはなりませんが、頻繁に更新されるため対応が困難で、運転士が異なる規定書や古い規定書に従っていることもあったのです。

現在では規定の変更は年 2 回で、運転士にはタブレットが提供されているため紙の負担からは解放されています。しかし、デジタル化されても新たな更新がある時には運転士が PDF をダウンロードする必要があり、サービス開始時はこれを運転士のデバイスに同期させるプロセスに 20 分ほどかかることもありました。それが、E Drive によって大幅に時間短縮できたのです。

「今では更新があってもダウンロードする必要はなく、インターネットやクラウドで調べるだけです」とバーメイレン氏は話します。「以前よりずっと短時間で済むので、シフト開始時に必要な時間が5分程度にまで短縮できました」

運転士に時間の余裕ができただけでなく、SNBC は月間 900 ポンドもの紙を削減することにもなりました。これは 1 年間で 18 本分の木の量に値します。

データ信号の活用で乗客体験を向上

ラッシュ時に通勤電車をご利用の方であればご存知かと思いますが、列車はかなり混雑し、不快なだけでなく危険につながる可能性も否めません。

オランダの Nederlandse Spoorwegen (Dutch Railways) では、国内全体で 1 日約 110 万人もの乗客が駅を利用していることから、この課題に対応したいと考えていました。

「お客様からは、電車が混雑しすぎだ、席がないといった苦情がいつも寄せられていました」と、主要鉄道網を運営する Dutch Railways の上級分析ビジネスコンサルタントであるレオ ファン デル ミューレン (Leo van der Meulen) 氏は話します。「そこで、この課題に対応するため、どうすれば解決できるのか調査してみました。すると、満員電車などほとんどないことが明らかになって驚きました。一部のラッシュ時の電車では、1000 人分の座席があるのに 600 人しか乗っていなかったのです」

これは、乗り換え時間を短縮しようとして、目的地の駅の出口に近い車両に人が集まったことが原因でした。

「乗客が停車駅で一部の車両から降りると、電車内に大きなスペースが空いたままになります」と、ファン デル ミューレン氏。「問題は、各車両の乗客が同じ駅で降りる傾向にあり、同時に満席の車両もあることでした。車両を移動すれば座席が確保できることを知らないだけなのです」

「時間通りに運行するだけでお客様の満足度が向上するわけではありません。お客様についてしっかり理解することが重要なのです。」

この問題を解決しようと、Dutch Railways では Seat Finder アプリを開発しました。このソリューションは、さまざまな追跡センサーを使って各車両の重量配分を測定します。その情報を、Microsoft Power BI や HDInsight、Analysis Services、Azure プラットフォームの機械学習モデルなどを組み合わせた高度分析ツールに入れ、各車両の人数をはじき出すのです。そのデータがアプリで可視化されるため、乗客は目的地までの間にどの車両がより空いていて席を確保できるのか把握できるようになります。

「現在は全員に同じ情報を提供して空いている席を見つけられるようにしていますが、今後お客様ごとにアプリをパーソナライズしたいと考えています」とファン デル ミューレン氏。「これは大変なことですが、私たちにとって重要な次のステップにつながるでしょう。というのも、列車の前方が混雑しているからといってお客様に後方に移動してもらうと、新たな問題が発生するかもしれないためです。このアプリは、運転士も使っていることがすばらしい点です。特に混雑している時は、車内のスピーカーを使って、どこに行けば静かに座れる場所があるか伝えられますから。皆様に喜んでいただいています」

パンデミック前には、Seat Finder アプリによって 1 日 2 万人の乗客が座席を見つけられるようになりました。これにより、お客様の満足度は 80% に高まり、定時運行率が 92% 以上となり、運行情報の提供率が 82% となりました。

パンデミック以降は乗客の数が少なく、測定と予測に使っていたモデルが正確ではなくなったため、Seat Finder アプリは現在停止中です。ただ、再び人が自由に行動できるようになれば復活する予定です。

カスタマーサービスをクラウドで提供

鉄道会社は大規模なマルチチャネルのカスタマーサービスを用意し、オンラインでのチケット購入や電話での旅行オプションの問い合わせなど、さまざまな面で乗客をサポートしています。鉄道会社はこうしたサービスを、コストとカスタマーサービスの両面からできるだけ効率化することが重要になります。その実現に向けたソリューションの中でも特に革新的な例が、オーストリアの鉄道事業者 OBB による、AI を駆使したクラウドベースのインテリジェントボットです。

この OBB Bot は、Microsoft Power Virtual Agents のソリューションで、プロモーションやリベートなどパーソナライズされた旅行情報を乗客に提供し、旅行のニーズに合った最適なオプションを見つけやすくしています。ボットはドイツ語に対応しているため、OBB のチームは母国語で簡単にコンテンツを更新できます。言語モデルのトレーニングをしなくても必要に応じて新しいトピックを追加できることから、顧客ニーズに迅速に対応できます。

ボットが解決策を提供できなくても、オムニチャネル統合されていることから、乗客は OBB チームのメンバーと同じチャットのインターフェースで話すことが可能です。OBB では、このバーチャルボットで年間の電話の数を 30~35% 削減できると見込んでいます。

クラウドはさまざまなソリューションを通じ、ヨーロッパ中の鉄道事業者がお客様をより深く理解し、お客様に合ったサービスが提供できるよう支援しています。

SNCB の CIO、グイド レメール (Guido Lemeire) 氏は、「時間通りに運行するだけでお客様の満足度が向上するわけではありません。お客様についてしっかり理解することが重要なのです」と述べています。「今の時代はパーソナライゼーションがすべてで、いかにしてパーソナライズした最高のサービスを提供できるかが鍵となるのです」

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