コンテンツへ移動
メイン コンテンツへスキップ
News Center

マイクロソフト、海底データセンターの信頼性、実用性、エネルギー消費の持続可能性を実証

ジョン ローチ (John Roach)

※ 本ブログは、米国時間 9 月 14 日に公開された “Microsoft finds underwater datacenters are reliable, practical and use energy sustainably” の抄訳です。

今夏の初め、海洋関係の専門家たちが、藻、フジツボ、イソギンチャクに覆われた貨物コンテナサイズのデータセンターをスコットランドのオークニー諸島沖合の海底から引き上げました。

この回収作業は、海中データセンターが実現可能か、さらには、設置負荷、環境への影響、そして、経済性の面で現実的かを検証するための数年にわたる取り組みの最終段階の始まりでした。

2018 年の春、マイクロソフトの Project Natick のチームが水深 117 フィートの海底にデータセンター Northern Isles を設置しました。その後の 2 年間、チームメンバーはデータセンターサーバーの性能と信頼性をテストし、監視してきました。

チームは、海底に設置され、密閉されたコンテナは安定して高い信頼性の環境を提供するとの仮説を立てていました。地上では、酸素と湿気による腐食、室温の上下、故障した部品の交換を行う人による衝撃などが故障の要因となることが知られています。

マイクロソフトの Special Projects リサーチグループのプロジェクトマネージャーであり、Project Natick のリーダーであるベン カトラー (Ben Cutler) は、「水中での故障率は地上の場合と比較して 8 分の 1 です」と述べています。

「何台のサーバーが障害を起こせば陸上と同等と言えるという経済モデルを作っていましたが、それよりもはるかに良い結果を出せました」と彼は付け加えます。

Project Natick から得られた教訓は、マイクロソフトのエネルギー、廃棄物、水資源に関するデータセンター持続可能性戦略に反映されています。

さらに、海底データセンターの信頼性が実証できたことは、世界中のあらゆる場所に戦術的に重要なデータセンターを運用したいと考えているお客様への機会提供を検討している Azure Global のチームとの議論にもつながりました。

Azure Global の最高技術責任者、ウィリアム チャペル (William Chappell) は、「私たちは、世界で様々な規模のエッジデバイスを展開しています。人間をまったく介在させずに済むだけの信頼性を備えたデータセンターは私たちの夢です」と述べています。

概念実証 (Proof of concept)

マイクソフトにおける海底データセンターの概念は、2014 年に開催された、社員が斬新なアイデアを共有するイベント、ThinkWeek で生まれました。このアイデアは、超高速のクラウドサービスを沿岸地域に提供し、エネルギー消費を削減できる可能性があると考えられました。

世界の人口の半数以上が海岸から 120 マイル以内に居住しています。データセンターを沿岸都市に近い海底に設置することで、データの移動距離が短くなり、ウェブサーフィン、ビデオストリーミング、オンラインゲームを高速でスムーズにできます。

海底は常に水温が低いため、たとえば、潜水艦で使用されているような熱交換配管を活用したエネルギー効率に優れたデータセンターの設計が可能になります。

マイクロソフトの Project Natick チームは、2015 年に太平洋で行われた 105 日間の実験により、海底データセンターという考え方が有効であることを実証しました。プロジェクトの第 2 フェーズでは、設置技術、船舶設計、再生可能エネルギーの分野における海洋の専門家と共に、この考え方が現実的であるかが検証されました。

「今は実証をさらに進めるよりも、既に得たことをどう活用するかにフォーカスが向いています。必要なことはすべて行いました。Natick はマイクロソフトが活用すべき重要テクノロジになりました」とカトラーは述べています。

藻、フジツボ、イソギンチャク

Northern Isles 海底データセンターは、海防と海洋再生可能エネルギーの専門企業である Naval Group とその子会社 Naval Energies により製造されました。オークニー諸島に拠点を構える企業 Green Marine が、データセンターの設置、保守、監視、回収において Naval Group とマイクロソフトを支援しました。マイクロソフトの Special Projects チームが 2 年間にわたりこのデータセンターの運用を行いました。

Northern Isles は、潮力タービンと波力発電のテストサイトである European Marine Energy Center に設置されています。この場所では、潮流の速度は最大時速 9 マイルになり嵐の際の波の高さは 60 フィート以上に及びます。

海底データセンターの設置と回収には、きわめて穏やかな海、そして、浮箱のクレーンによる入念な操作が必要になります。いずれの場合も丸一日を要する作業です。

Northern Isles は、設置時には白く輝いていましたが、2 年間海中にあったことで、藻とフジツボの薄い層が形成され、砂利でできた土台の陰にはメロンのような大きさのイソギンチャクが成育していました。

マイクロソフトの Special Projects リサーチの主任テクニカルスタッフ、スペンサー ファウアーズ (Spencer Fowers) は「実のところ、とても綺麗だったのでびっくりしました。硬質の堆積物はほとんどなく、大部分がゴミのようなものでした」と述べています。

水圧洗浄とデータ収集

Northern Isles が海底から引き上げられ、オークニー諸島に運搬される前に、Green Marine のチームは 864 台のサーバーと冷却システムを格納していた防水鋼管を水圧洗浄しました。

そして、研究者が容器の上面にあるバルブから試験管を挿入し、ワシントン州レドモンドのマイクロソフト本社で分析するための空気サンプルを採取しました。

「内部を窒素ガスで満たしていたため、環境的にはきわめて安全なはずです」とファウアーズは述べます。

ここでの懸念は、ケーブルや他の機器から排出される気体がコンピューターの動作環境を変えてしまわないかという点だと、彼は付け加えます。

洗浄され、気体サンプルを採取されたデータセンターはトラックに積まれ、北スコットランドにある Global Energy Group の Nigg Energy Park の施設に運ばれました。そこで、Naval Group のスタッフが蓋を解錠し、サーバーラックを取り出して、ファウアーズと彼のチームが機器の状態をチェックし、さらなる分析を行うためにレドモンドに送付しました。

回収され、レドモンドに送られた機器の中には故障したサーバーやケーブル類が含まれていました。研究者は、これらの機器が、海中データセンター内のサーバーが陸上のデータセンターの場合と比べて 8 倍信頼性が高い理由を理解する上での助けになると考えました。

「素晴らしい結果が出ました。なぜこのような結果が出たかを正確に分析する必要があります」とファウアーズは述べています。

チームは、酸素よりも腐食性が低い窒素が空気中を占めていること、そして、人が機器にぶつかったり、揺すったりすることがないことが、この相違を生み出しているとの仮説を立てました。この分析が正しければ、この結果を陸上のデータセンターにも応用できるかもしれません。

エネルギー、廃棄物、水資源

研究者によれば、Project Natick から得た教訓が既にデータセンターのエネルギー消費の持続可能性向上に関する議論に影響を及ぼしています。

たとえば、Project Natick チームが Northern Isles の展開にオークニー諸島を選択した理由の一つは、現地の電力が 100 パーセント風力と太陽光発電により提供されていることに加えて、European Marine Energy Center においてグリーンエネルギーの実験が行われていたことでした。

「ほとんどの陸上のデータセンターでは、電力網が不安定な場合でも十分な安定稼働を実現できてきました。今回の調査結果により、電力網の信頼性についてはさほど心配する必要はないと言えるようになることを期待しています」とファウアーズは述べています。

既に、カトラーは海底データセンターの近隣の沿岸に集合型風力発電所を設けるシナリオを構想しています。風が弱いときでもおそらくデータセンター運用に十分な電力が得られるでしょう。また、岸からの電力線を、データ転送に必要な光ケーブルと束ねるという手段も取り得ます。

持続可能性に関する他の利点として、交換部品の必要性の削減があります。無人データセンターでは、すべてのサーバーを 5 年ごとに交換すれば済みます。サーバーの信頼性が十分に高いので、早期に障害を起こしたサーバーがあっても単にオフラインにすればよいのです。

さらに、Project Natick は、データセンターが人々、植物、野生動物にとって不可欠である新鮮な飲料水なしでも運用可能であることも示したとカトラーは述べます。

「今、マイクロソフトはこれを陸上のデータセンターでも活用する方法に取り組み始めました」と彼は述べます。

データセンターをどこででも

Project Natick の将来に関する初期の議論では、海底データセンターの規模を拡大し、Microsoft Azure クラウドサービスのフルスイートを提供するにはどうすべきかが中心になっていました。これには、Northern Isles と同サイズの容器を十数個以上組み合わせることが必要になります。

「クラウドコンピューティングからクラウドとエッジのハイブリッドへの移行が進む中で、大規模なデータセンターを僻地に置くよりも、小規模なデータセンターをお客様の近くに置くニーズが高まっています」とファウアーズは述べています。

これが、Azure Global のチャペルのグループが、重要データ保護のための量子コンピューター後の暗号化テクノロジのテストなどに向けて、Project Natick の進捗に注目している理由の一つです。多くの業種において、データを保護することが Azure の中核的役割になっています。

「きわめて迅速に設置でき、高い信頼性で継続稼働し、暗号化も提供できることは未来のビジョンとして大変魅力的です」とチャペルは述べています。

本ページのすべての内容は、作成日時点でのものであり、予告なく変更される場合があります。正式な社内承認や各社との契約締結が必要な場合は、それまでは確定されるものではありません。また、様々な事由・背景により、一部または全部が変更、キャンセル、実現困難となる場合があります。予めご了承下さい。