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AI、宇宙技術、クラウドを活用し、オーストラリア極北の保護を目指す SpaceCows プロジェクト

※こちらはオーストラリア時間 9 月 13 日に公開された “SpaceCows – using AI, space technology and cloud to protect the Top End – Microsoft Australia News Centre” の抄訳をもとに掲載しています。

野生のバッファローは、体重 1200kg (2645 ポンド)、肩の高さ 188cm (6 フィート 2 インチ) ほどの大きさにもなります。非常に大きく予測もできないような動物で、映画ではクロコダイル・ダンディーがバッファローを睨みつけていたものの、実際のバッファローは人間にとっても環境にとっても非常に危険な生き物です。

バッファローは 1800 年代にオーストラリア極北の開拓農民によって持ち込まれ、開拓地が放棄された 1900 年代半ばに家畜だったバッファローが放たれ野生化しました。

現在バッファローや牛などの野生動物は、オーストラリア北部の生態系や経済にとって大きな脅威となっています。野生動物の管理プログラムには何百万ドルもの資金が投入されていますが、新しいアプローチとして現地の先住民の知識と宇宙技術、そして人工知能を組み合わせた手法の研究が進んでおり、これによって世界最大の遠隔牛群管理システムを構築しようとしています。

野生のバッファローによる被害が広がっている
野生のバッファローによる被害が広がっている

マイクロソフトは、CSIRO と共にこの画期的な取り組みを進めており、同プログラムのデジタル基盤となる AI アルゴリズムと機械学習パイプラインを開発しています。このプログラムでは、新たな経済的、環境的、文化的機会を構築するとともに、AI と宇宙技術で大量の牛群を管理するための証拠に基づいた「ベストプラクティス」を作ろうとしています。

野生の牛が土地に被害をもたらすことも
野生の牛が土地に被害をもたらすことも

SmartHerd 管理プログラムは、オーストラリアの国立科学機関である CSIRO が進めているもので、400 万オーストラリアドル (290 万米ドル) をかけた 4 年間のプログラムです。SmartHerd では、GPS 衛星追跡タグを使って管理されていない 1000 頭以上の牛やバッファローを電子的に追跡します。

SpaceCows というプログラムでは、合計 2 万 2000 平方キロメートル以上の地域で動物を追跡します。その範囲は、ノーザンテリトリー州アーネムランドのアラフラ湿原集水域や、クイーンズランド州ケープヨーク半島のノーマンビー川上流とアーチャー川にまで及びます。

従来のワイヤレス技術はオーストラリア極北の自然の地形や厳しい環境に適していないため、代わりに高度 650km にある Kinéis の超小型衛星 IoT 群 25 基と Microsoft Azure を利用して、タグデータを収集します。

データは人工知能が解釈し、Power BI のダッシュボードを使って先住民警備隊に予測を提供します。これにより警備隊は、問題のある動物を制御するにあたって的確な行動が取れるようになり、環境や重要な文化施設が保護できるようになります。またこの手法では、野生動物の倫理的な捕獲と販売も実現することから、経済的機会にもつながります。

SpaceCows プロジェクトは、Healthy Country AI という CSIRO とのパートナーシップの延長線上にあるものです。このパートナーシップではすでに、カカドゥ国立公園のカササギガンや、ケープヨークにいる絶滅危惧種のウミガメの巣作りを保護してきました。SpaceCows は、CSIRO、マイクロソフト、NAILSMA (北オーストラリア先住民地区および海洋管理連合)、衛星 IoT 企業の Kinéis、ジェームスクック大学、Mimal Land Management Aboriginal Corporation、Aak Puul Ngangtam、Normanby Land Management、チャールズダーウィン大学のパートナーシップによって実施しているプロジェクトです。

倫理的なアプローチ

このプロジェクトは、オーストラリア政府の国家土地保護プログラムから資金提供を受け、スマート農業パートナーシップという取り組みによって支えられています。同プロジェクトで注力しているのは、先住民の土地で手に負えない状態の牛群を管理するためのロードマップを作成することです。このプログラムでは、地元住人が倫理的に野生の牛やバッファローを捕獲し処理できるようサポートするだけでなく、認定されたトレーニングや教育プログラムを用意し、先住民のデジタルスキルを高め国内での雇用機会を広げることも視野に入れています。

CSIRO の科学研究員であるアンドリュー ホスキンス (Andrew Hoskins) 博士は、「こうしたことを効率的かつ安価に実施するには、衛星による無線技術を使うことが鍵となります」と述べています。

「技術パートナーと共に衛星とリンクした耳標を構築し、その耳標から位置情報や行動、温度、湿度をはじめとするさまざまなメタデータが送信されるようにします。その情報を、Kinéis 衛星 IoT システムでバックホールするのです」

SpaceCows の取り組みの成功の鍵となるのは、効率的にデータが収集でき、環境的、文化的、経済的価値を考慮した上で設計された意思決定支援ツールです。

ホスキンス博士は、牛群が各拠点をどう移動しているか完全に把握するには、さまざまな遠隔識別データからの環境データを解釈する必要があると話します。その知見を基に、CSIRO はキャスティングツールのようなものを開発し、そのツールによってさまざまな管理シナリオを提案し、それぞれのシナリオのコストとリターンを把握したいと考えています。

これは大規模な取り組みですが、長期的にはとても有望なもので、第一段階の作業は順調に進んでいます。

デジタル基盤

時間とともに変化するバッファローの数
時間とともに変化するバッファローの数

CSIRO とマイクロソフトは、AI アルゴリズムや機械学習パイプラインの開発に取り組んでいるほか、SpaceCows の基盤となるデジタルプラットフォームの基礎も構築しています。

このシステムをトレーニングするにあたり、マイクロソフトと CSIRO は初期プロジェクトのデータを活用しています。初期プロジェクトでは、18 ヶ月間にわたってアーネムランドの野生のバッファロー 22 頭の動きを追跡しました。

動物の移動データを使って観測した分布図を作成し、それを天候などの環境データと組み合わせることで、データを反映したモデルが開発できたのです。

CSIRO は、テストデータで実施したことが、SpaceCows プロジェクトで 1000 頭の牛にタグを付けた際にも拡張できると考えています。

CSIRO の研究員であるエリン グラハム (Erin Graham) 氏は、Azure の地理的対応範囲が重要だと語ります。このプログラムに携わる科学者は、オーストラリア全土のさまざまな地域に拠点を置いているためです。また Azure は、キャンベラとアデレードにいるマイクロソフトの宇宙エンジニアもサポートしています。その宇宙エンジニアは、衛星画像から雲を取り除く方法を模索しています。雲によってプロジェクトに必要な地上の詳細情報が不明瞭になってしまう可能性があるためです。

野生バッファローの移動によって被害を受ける土地
野生バッファローの移動によって被害を受ける土地 写真提供: セス セデン (Seth Seden)

マイクロソフトオーストラリアで Azure Space リードを務めるリン マクドナルド (Lynn McDonald) は、「これは、宇宙を駆使した技術が利用しやすくなることで、オーストラリアの重要な環境問題にプラスの影響をもたらすことが可能だということを示した重要な事例です」と述べています。

「Azure Space で注力しているのは、農業、エネルギー、通信、政府など、さまざまな業界のお客様に対し、衛星との接続性と衛星データへのアクセスのしやすさを高めることです。Azure Space には、宇宙コミュニティとそのお客様のニーズに対応するさまざまな Azure 技術やサービス、そしてイノベーションが含まれています」

マイクロソフトオーストラリアで環境インテリジェンスおよびモニタリング用 AI を担当するスティーブ ヴァン ボーデグラヴェン (Steve van Bodegraven) は、Azure Machine Learning、Azure Synapse Analytics、Azure Blob ストレージを組み合わせることで、Healthy Country AI プログラムによる学びを活用しながら、SpaceCows プログラムのデジタル基盤が構築できるとしています。また、次のようにも述べています。

「このプログラムは、責任ある AI や科学と、先住民の知識を組み合わせ、北オーストラリアのいくつかの場所の複雑な環境管理問題を解決するという先駆的なプログラムです」

将来的には、このプログラムへの取り組みから得た学びを、ロバやヤギ、ブタなど他の野生動物の課題に対処する際に活かせるかもしれません。

このほかにも研究者は、地球環境データと直感的な API を組み合わせたマイクロソフトの Planetary Computer 機能が、現場ソリューションの開発促進にどう役立つか模索しています。

柵に入れられた野生のバッファロー
柵に入れられた野生のバッファロー 写真提供: セス セデン (Seth Seden)

グラハム氏は、「このアプリケーションを現場の警備隊に展開し、ほぼリアルタイムに意思決定できるようにしたいと考えています。すべてを Azure でやれば、それも実現するでしょう」と述べています。

「それに、Azure が統合されているものを考えると、その堅牢さもわかると思います。すでに利用中の Git リポジトリや統計パッケージ Universe といったツールと連携しているため、より迅速に開発でき、柔軟性も高くなっているのです」

また、Azure はプロジェクトの計算量の多さも問題にはなりません。例えば、ある地域の植物の密集度や希少度を示す植生指標を把握することで、牛の移動の予測や警備隊の行動計画に重要な知見をもたらしますが、この指標は Azure に正しく取り込まれた約 200 ギガバイトの生データによる膨大なデータベースを使って計算されています。

このような深い分析は、地勢デジタルツインを作成する際の基礎となります。これを活用して CSIRO は、警備隊がオーストラリア極北の野生の牛やバッファローを管理できるよう支援する考えです。

野生のバッファローを注意深く監視する警備隊
野生のバッファローを注意深く監視する警備隊

先住民の権限を尊重

グラハム氏は、それぞれのバッファローがどのように移動しているかを示すサンプルデータを使ったモデルがすでに開発されているといいます。バッファローの 1 日の移動距離は通常 5km ですが、直線距離にすると 1km 程度です。「最終的にはこのデータを使って群れ全体の分布を予測し、1 年の中でどの時期に群れがどこにいるか、時系列で把握したいと考えています」とグラハム氏は述べています。

ホスキンス博士は、今後はデータやモデルとのやり取りをする人のユーザーエクスペリエンスに注力し、システムが役立つ情報を提供できるようにすると述べています。

グラハム氏は、「ほかのデータセットとも重ね合わせることが可能です」と語ります。「例えば、警備隊が捕獲するにしても、動物の群れがどこにいるかわかればいいだけでなく、そこにちゃんとたどり着けるかどうかも知りたいわけです。近くに平らな場所があり、そこに柵を設置して動物の群れを集められるのか、動物を運び出すトラックはそこにたどり着けるのか、警備隊がそこに行って動物を捕獲できるのか、費用対効果の面からそこに行く価値があるほどたくさんの動物がいるのか、といったことも把握したいのです」

警備隊員のクリフ ハリガンン
警備隊員のクリフ ハリガンン (Cliff Harrigan) 氏 写真提供: セス セデン (Seth Seden)

簡単に使える Power BI ダッシュボードでこうした詳細情報を警備隊に提供できるようになれば、倫理的かつ経済的な捕獲遠征の計画を立てられるようになり、野生の牛やバッファローによる環境や文化への損害が軽減できます。また、捕獲した動物を販売することで、地元コミュニティで経済機会を構築することもできるようになります。

地元コミュニティでも、野生動物が地域の環境や重要な文化施設にもたらす脅威を理解すれば、警備隊の活動を優先できるようになります。

ホスキンス博士は、「意思決定支援ツールを用意することで、バックエンドが十分な速度で稼働し、分析処理を十分な速度で行えるようになればと考えています」と夢を語ります。「そうすれば、ビジュアル化された所有地を座って見ながら『ここに群れを集めてみたらどうなるだろう。これをここでやったらどうなるかな。こっちでこのように動かすと何が起こるだろう。どのような結果になるだろうか』と考えることができます」

「シナリオツールを検討しているのはそのためです。こうしたツールで避けたいのは、ここに行ってこうしろ、と伝えるだけのツールになってしまうことだからです。それでうまくいくはずなどないのですから」

「そのような方法は現地ではうまくいきません。そこで働く土地管理者による所有地でのユニークな体験や、物事の仕組みを取り入れることができないのですから」

このプログラムを持続的に成功させるには、警備隊と地元コミュニティの権限を尊重し、維持していかなくてはなりません。Power BI ダッシュボードによって、野生動物の動きや最適な管理方法に関する知見は手に入りますが、最終的な意思決定は警備隊や地元コミュニティが下すことになります。

地元住人にも、現地のデータや知見をプロジェクトに入れてもらうようにする予定です。これによってデジタルツインが完全に最適化され、その可能性が最大限発揮できるようになるでしょう。

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