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AI 搭載ドローンが絶滅の危機に瀕するイルカの研究を支援

※こちらは、米国時間 7 月 21 日に公開された ”AI-equipped drones study dolphins on the edge of extinction” の抄訳を基に掲載しています。

小型で丸みを帯びた背びれが特徴のマウイイルカは、海の中でも特に希少性が高く、絶滅の危機に瀕しているイルカです。その数はわずか 54 頭しか確認されていません。南太平洋のニュージーランド西海岸沖での刺網漁など、何十年にもわたって行われた漁業活動により、この種のイルカが絶滅寸前の状況となっているのです。

写真提供:MAUI63
写真提供: MAUI63

現在、科学者と自然保護活動家が、ドローンと AI、そしてクラウド技術を組み合わせ、この希少な海洋哺乳類に関する研究を進めています。このソリューションは、世界の海で生存をかけて戦う他の生物の研究にも応用できるといいます。

最近では、AI などさまざまなテクノロジを活用し、より効果的に環境保全データを収集し分析しようとする傾向が高まっており、今回の取り組みもこうした手法のひとつです。例えば、Microsoft AI for Earth のパートナーである Conservation Metrics では、機械学習とリモートセンシング、そして科学的専門知識を組み合わせ、野生動物の調査の規模と効果を高めています。また、別のパートナー組織である NatureServe は、Esri ArcGIS ツールとマイクロソフトのクラウドコンピューティングを活用し、絶滅の危機に瀕する生物の生息地マップを高解像度で生成しています。

非営利団体 MAUI63 の科学者と自然保護活動家は、AI などのツールを活用してマウイイルカの保護を支援しています。マウイイルカという名称は、ポリネシアの半神マウイにちなんで名付けられました。

左から、MAUI63共同設立者のウィリー・ワン(Willy Wang)氏、パイロットのヘイリー・ネシア(Hayley Nessia)氏、パイロットのピート・カースカレン(Pete Carscallen)氏、MAUI63共同設立者のテーン・ヴァン・デル・ブーン(Tane van der Boon)氏。 調査後の集合写真。写真提供:MAUI63
左から、MAUI63 共同設立者のウィリー・ワン (Willy Wang) 氏、パイロットのヘイリー・ネシア (Hayley Nessia) 氏、パイロットのピート・カースカレン (Pete Carscallen) 氏、MAUI63 共同設立者のテーン・ヴァン・デル・ブーン (Tane van der Boon) 氏。 調査後の集合写真。写真提供: MAUI63

マウイイルカは、アオテアロア (マオリ語でニュージーランドの意) の生態系や精神面で重要な役割を果たしています。生息地は同国北島の西海岸で、「マウイの魚」を意味する「テ・イカ・ア・マウイ」とも呼ばれています。

マウイイルカは、成体の体重が 50 キログラム、大きさは最大 1.7 メートルと、海洋イルカ科の中でも非常に小さく、極めて見つけにくいイルカです。白、灰色、黒の模様があり、背びれは黒く丸みを帯びています。人間の顔と違って模様には個体差がないため、肉眼で個体を識別することはできません。従来の方法でこうした動きの速い動物を海上で観察し研究するには課題があり、コストもかかります。研究者の間でも、マウイイルカの生態はほとんど知られておらず、特に気象条件が悪化する冬の状況はわかっていません。

そんな中、MAUI63 が解決策を見出しました。AI を駆使したドローンで、イルカを効率的に見つけ出し、追跡し識別できるというのです。MAUI63 の共同設立者で海洋生物学者のロシェル・コンスタンティン (Rochelle Constantine) 教授によると、この取り組みの目的は「不確実なことを確実にすること」だと言います。

「現在マウイイルカについてわかっているのは夏の間のことばかりで、冬のマウイイルカについてはほとんど何もわかっていません」と、コンスタンティン教授は述べています。

コンスタンティン教授が、テクノロジとイノベーションのスペシャリストであるテーン・ヴァン・デル・ブーン (Tane van der Boon) 氏と、ドローン愛好家のウィリー・ワン (Willy Wang) 氏と共に 2018 年に結成したのが MAUI63 です。当時マウイイルカの個体数は 63 頭と推定されていましたが、その後 54 頭まで減少しています。

同団体の CEO を務めるヴァン・デル・ブーン氏は、ワン氏とパブで飲みながら、ドローンと機械学習、クラウドコンピューティングを活用し、イルカを研究するというアイデアを思いつきました。「コンピューター学習に興味を持ち始めていたのです。コンピューターに見ることを教えるのは、非常に素晴らしいことだと思いました。私たちで解決し実行できることすべてに大変に興味をそそられました」と、ヴァン・デル・ブーン氏は話します。

マウイイルカのヒレは丸みを帯びており、他のイルカの尖った形のヒレとは異なります。そのため、既存のコンピュータービジョンモデルはマウイイルカの識別に適していませんでした。そこでヴァン・デル・ブーン氏は数ヶ月間、夜と週末を使ってモデルの構築方法を独学で学びました。そして、インターネット上の映像から丹念にマウイイルカの画像にタグ付けし、識別できるようトレーニングしたのです。

ニュージーランド・オークランドのハミルトンズギャップ沖で泳ぐマウイイルカとその子ども。写真提供:オークランド大学、オレゴン州、自然保護局
ニュージーランド・オークランドのハミルトンズギャップ沖で泳ぐマウイイルカとその子ども。写真提供: オークランド大学、オレゴン州、自然保護局

それは、今後も続く、数多くの挑戦の始まりに過ぎませんでした。その後 4 年間にわたり、開発やテスト、資金調達に取り組みました。また、翼幅 4.5 メートルのドローンを海上で飛ばすには専門の資格も必要でした。こうして今年前半、ようやくマウイイルカの発見に至ったのです。

「とても興奮しました。私たちはバンの中で座っていて、ドローンは海岸から 16 キロメートル離れたところにいました。周囲を一周していると、AI がイルカを検知したんです」と、ヴァン・デル・ブーン氏は語ります。

開発にあたっては、持続可能な社会的影響をもたらすプロジェクトに資金を提供するニュージーランドの Cloud and AI Country (クラウドおよび AI 立国) 計画からの資金援助を受けたほか、Microsoft Philanthropies ANZ からのサポートも受けました。同ソリューションは、8K 超高精細スチルカメラとフル HD ジンバルカメラに、イルカを発見する物体検知モデルを組み合わせ、本来顔認識用に開発されたオープンソースアルゴリズムを統合したものです。Microsoft Azure 上にホストされたこのソリューションで、背びれの形や大きさ、傷や特徴などから個体を識別するデータを収集します。

また MAUI63 は、マイクロソフトからの資金提供によって Sea Spotter というアプリも開発しています。同アプリは Azure Functions を活用し、マウイイルカの目撃情報を写真でアップロードできるようにしており、AI アルゴリズムによってどの個体かを識別します。自然保護活動家によると、マウイイルカを脅威から保護する方法を把握するには、その生息地を正確に特定することが極めて重要だと言います。

マウイイルカの生息地として知られる区域は 2008 年に海洋生物保護区となり、2020 年には保護区が拡張されました。そのため、マウイイルカが漁船の網に混獲されるリスクは「極めて低い」とコンスタンティン教授は話します。それでもイルカは保護区の外に出てしまうことがあります。そこで MAUI63 では、漁業会社と協力して統合プロジェクトに取り組み、最終的にはドローンによる目撃情報をリアルタイムで漁船の乗組員に通知しようと考えています。

MAUI63では物体検知コンピュータービジョンモデルを活用し、調査の一環で収集されたドローンの映像からイルカを発見している。写真提供:MAUI63
MAUI63 では物体検知コンピュータービジョンモデルを活用し、調査の一環で収集されたドローンの映像からイルカを発見している。写真提供: MAUI63

もう 1 つの脅威は、猫の糞にいる寄生虫が引き起こすトキソプラズマ症という病気です。この寄生虫は陸地の流出物から海の食物連鎖に入り込み、海洋哺乳類の死産や死亡の原因となっています。「イルカの普段の居場所がわかれば、トキソプラズマが水に入り込んでいる可能性のある地域を調べ、何らかの対策を講じることができるかもしれません」と、ヴァン・デル・ブーン氏は話します。

MAUI63 が目指しているのは、自然保護に携わる意思決定者に対し、科学的に確実な情報を提供することです。「とにかくデータを収集し、そのデータが必要な人に利用してもらいたいと考えています。MAUI63 で保護のあり方を決めるわけではありません。皆それぞれ考え方が異なるため、そこは押さえておくべき点です」とヴァン・デル・ブーン氏。現時点で MAUI63 の活動が絶滅の防止に役立つかどうか定かではないと同氏は言いますが、それでもやってみる価値はあると誰もが考えています。

マウイイルカは、先住民族であるマオリ族にとって特別な意味があります。というのも、何百年も前にマオリ族の祖先が初めてアオテアロア (Aotearoa) にカヌー (waka) でやって来た時、マウイイルカが守護神 (kaitiaki) としてそのカヌーを導いたと考えられているためです。

環境科学者のアロハ・スピンクス (Aroha Spinks) 博士は、環境のマウリ、つまり生命力を高めるには、マウイイルカの保護が欠かせないと言います。「科学的な裏付けもありますが、マオリの観点からすると、環境の健全性は人の健康と幸福にも影響するのです」と同氏は語ります。

MAUI63 は、他の海洋生物を扱う団体にも自らの調査内容と技術を提供する計画で、EU 環境評議会との南極での潜在的プロジェクトも視野に入れています。コンスタンティン教授は、彼女にとってそうだったように、このハイテクなアプローチが他の研究者にとっても革新的なものとなるよう願っているといいます。「私の世界が大きく変わりましたし、対話の内容も変わりました。また、政府や一般市民の人たちに対し、自然保護に関する重要な決定を下す際に提供できる情報の内容も変わったのです」

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