コンピュータアクセサリの新しい組み合わせで、障碍のある人の仕事や創作活動が容易に
ヴァネッサ ホー (Vanessa Ho)
※本ブログは、米国時間 2022 年 11 月 2 日に公開された ”New mix-and-match computer accessories give people with disabilities easier ways to work and create” の抄訳を基に掲載しています。
ジャラ ヘルメス (Jara Helmes) さんは幼少の頃、足に固くて重いギプスをつけて歩いていましたが、彼女の父親は 3D プリンタでジャラさんの好きなピンク色をした軽くて柔らかいギプスを作ってくれました。ジャラさんが学校でコンピュータを使い始めた時には、父親は脳性麻痺の娘のために別のカスタムデバイスを作ることを思い描きました。
その父親であるマイクロソフトの工業デザイナー、ジョン ヘルメス (John Helmes) は今回、より大きなプロジェクトに取り組んでいます。従来のマウスが使えない人を対象としたアダプティブ マウスというアイデアを、年に一度、従業員向けに行われるイノベーションイベントのハッカソンに持ち込んだのです。ヘルメスは大規模なチームを編成し、Microsoft Arc Mouse を切断して 3D プリンタで作った部品に取り付け、指をサポートし制御するよう設計されたプロトタイプを作成しました。このデバイスにより、意図しないクリック数は減り、当時 5 歳だったジャラさんは初めてコンピュータのカーソルを操作できるようになりました。
あれから 2 年が過ぎ、バージョンアップを繰り返した初期のプロトタイプは、新しい Microsoft Adaptive Accessories へと進化しました。この適応性の高いエコシステムにより、ユーザーはマウスやキーボード入力、ショートカットがカスタマイズできるようになります。アクセサリには、アダプティブ マウス、アダプティブ ハブ、アダプティブ ボタン が含まれ、現在一般提供されています。
「最初は、『PC が使えないジャラのために、父親として彼女が PC を使えるようにしてあげよう』という考えでした」と、オランダ在住のヘルメスは話します。「でもすぐに、『ちょっと待てよ。ジャラに使えるのなら、他のたくさんの人たちにも同じようなインパクトがあるかもしれない』と思うようになったのです」
こうしたワイヤレスアクセサリにより、運動機能が限られているユーザーや、PC をより簡単かつ効率的に使いたいユーザーにとって、従来のマウスやキーボードの代わりとなったり、そうしたツールを補強したりすることが可能になります。ユーザーは、マウスの延長コードや左手・右手用に設定できる親指サポートなど、さまざまなアタッチメントで アダプティブ マウスをカスタマイズできます。また、アダプティブ ハブとアダプティブ ボタンにより、キーボードを使わず入力する方法のカスタム設定ができます。アダプティブ ボタンには、D-Pad ボタン、ジョイスティックボタン、Dual ボタンが用意されています。マウスとボタンは、Shapeways 社の 3D プリンタによるアタッチメントでより高度なカスタマイズが可能です。
「マイクロソフトのアダプティブアクセサリにより、身体を自由に動かせない人が従来のマウスやキーボードに対して感じていた障壁を取り除くことが可能です」と、マイクロソフトでアクセシブルアクセサリ担当ディレクターを務めるガビ ミッシェル (Gabi Michel) は語ります。「同じような人が 2 人といるわけではないので、自分に合った独自のシステムを構成できるようにすることが目標だったことは間違いありません」
ノースカロライナ州のグラフィックデザイナーで声優も務めるマンディ パーズリー (Mandy Pursley) さんは、アダプティブ マウスとアダプティブ ボタンで仕事がより速くこなせるようになり、肩の痛みも和らいだといいます。生まれつき右前腕部がないパーズリーさんは、左手で入力やマウス操作をしていましたが、アダプティブ製品により、マウスとキーボードによる繰り返しの作業や、複数のキーを同時に押す必要のある動作に代わるマクロを、アダプティブ ボタンにプログラムすることができました。
「アダプティブ ボタンは最高です。まるで私のために作ってくれたようです」と話すパーズリーさんは、最近簡単に押せるボタンを使って 500 ページものプロジェクトに取り組みました。その際、作業時間が 30% 短縮できたことがわかり、時間が大幅に節約できたといいます。
「これは多くの人に大きな違いをもたらすでしょう」とパーズリーさんは語ります。「障碍のある人は、すでに創造性と資質に満ちています。というのも、世の中でどのように機能し、テクノロジにどう適応するべきか、学ばなくてはならないためです。実際に私たちに適応するようなテクノロジがあれば、生産性を次のレベルまで高められます」
パーズリーさんは、マイクロソフトの製品チームに対し、指針となるフィードバックを提供したベータ版参加者であり、障碍のある人を支援する人であり、身体が不自由な技術ユーザーです。製品チームでは、Xbox Adaptive Controller を使用するゲーマーからの意見も参考にしました。Xbox Adaptive Controller は、ジャックやポートに補助ボタンやスイッチを有線接続するデバイスで、2018 年に発売されたものです。このデバイスによってゲームのアクセシビリティは高まりましたが、ゲーマーからはケーブルが邪魔で大きなコントローラは持ち運びにくいとの意見が寄せられていました。マイクロソフトはその意見に耳を傾け、アダプティブアクセサリに反映させたのです。
Adaptive Controller の開発を率いたミッシェルは、「私たちはいつも障碍のある人たちのコミュニティから意見を聞き、彼らが体験している障壁について学び、何を求めているのか知りたいと考えています。ケーブルの問題は難しいですね。これは Adaptive Controller で得た大きな学びです」と話します。「アダプティブアクセサリでは、ケーブルを使う必要はまったくありません」
最新の Bluetooth テクノロジを搭載したスリムなアダプティブ ハブは、デバイス 3 個とアダプティブ ボタン4 個、そして 3.5 ミリのポート経由で支援技術スイッチにワイヤレスで接続できます。それぞれのボタンに 8 個デジタル入力があり、小さなデバイスに多くのカスタマイズオプションが詰め込まれています。ワイヤレスでポケットサイズのこのアクセサリは、セットアップが簡単で外出先でも使えるポータブルシステムとなっています。
ヘルメスは、プロトタイプを娘の学校にも持ち込み、障碍の専門家であるハンス プラウム (Hans Ploum) 氏とペトラ ボンガーツ (Petra Bongartz) 氏から貴重なフィードバックも得ました。2 人からは、使い勝手の悪いスライダーの代わりにオン・オフボタンを使用することや、製品を車いすや机に簡単に取り付けられるようにすることなどが提案され、今ではその提案がアクセサリのデザインの一部になっています。
オランダにある障碍のある生徒のための児童センター Ulingshof で IT コーディネーターを務めるプラウム氏は、「少しサポートするだけで、生徒たちが突然 PC を使い始めたのです。簡単に使えるようになったからですね」と話します。「このように参加するようになったことは非常に重要です」
通常のマウスが使えない生徒も何人かいましたが、アダプティブ マウスと、指を合わせるため 3D プリンタで作られたアタッチメント、そして Windows のカスタムマウス設定を組み合わせることで、カーソルを動かせるようになりました。ヘルメスの娘のジャラさんも、今では自分のマウスとデュアルボタンでクリックやスクロールができるようになり、自分で教育ゲームがプレイできるようになりました。
オランダのリハビリテーションセンター Adelante の作業療法士で、同校の生徒を担当するボンガーツ氏は、「教育に役立つだけではありません」と話します。「自分で作業ができるようになると力が沸いてきますし、自信と自尊心が生まれます。生徒たちがデジタルテクノロジを使えるようになると、世界が広がり社会参加もできるようになります」
Xbox Adaptive Controller や Surface Adaptive Kit、Windows 11 のアクセシビリティ機能など、マイクロソフトにとってアダプティブアクセサリは、よりインクルーシブなテクノロジを作るという長期的な取り組みの一環となっています。Shapeways とも提携し、3D プリンタでアダプティブグリップを用意、ユーザーが Microsoft Business Pen や Classroom Pen 2 をカスタマイズできるようにしています。
ヘルメスのマウスのプロジェクトには、電気および機械関係のエンジニアや UX 研究者、ソフトウェア開発者など数多くの専門家が、アジア、米国、英国から参加しました。これがアイデアの実現につながったとヘルメスは考えています。参加者の多くは、ヘルメスのようにこうしたテクノロジで知人や愛する人が恩恵を受けるかもしれないという思いに突き動かされていました。
このハッカソンプロジェクトを始めた時、Azure Sphere プラットフォームのシニアデザイナーを務めていたヘルメスは、「皆、それぞれの専門性とアクセシビリティに対する情熱を持ち、本当に美しい形で集結しました」と語ります。「今後どうなっていくかを考えると、本当に楽しみでなりません」
製品はすでにマイクロソフトの開発者であるジェレミー リクネス (Jeremy Likness) にインパクトを与えています。2020 年初頭に若年性パーキンソン病と診断されたリクネスは、利き手の左手に震えがあり、キーボード入力やマウス操作が困難になりました。フットペダルやヘッドトラッカーなどの支援技術も模索しましたが、どれも自然ではなく、効率的とも感じられなかったといいます。
そこでリクネスは、ベータ版参加者として Adaptive Accessories を使い始めたところ、より生産的に、より制御しやすく、こわばりを抑えて作業する方法を見いだしました。アダプティブ マウスに装着された 3D プリンタ製のアタッチメントにより、震えで意図しないところをクリックするのを防ぎ、クリックしたいところはしっかりクリックできるようになったのです。リクネスは、右手で一般的なタスク用にマクロをプログラムしたアダプティブ ボタンを操作しているほか、音声入力ソフトも使用しています。
メールを返信する時は、ボタンを押してマクロを起動、そのマクロが返信ボタンを押し、「Hello」と書き、次の行に進み、音声入力アプリを開きます。リクネスはメールの選別や通話を始める際にもボタンからマクロを実行しています。
マイクロソフトで .NET 開発者プラットフォームのマネージャーを務めるリクネスは、「かなりの速さで口述筆記ができています」と話します。「アダプティブハードウェアと音声入力の進化が組み合わさったことで、以前と同じレベルの生産性を取り戻すことができたと感じています」
リクネスはパーキンソン病の診断を受けた後、障碍のある従業員グループに参加し、他の人たちをサポートするとともに、アクセシビリティの重要性に対する意識を高めています。障碍擁護者としてリクネスは、自身の実体験を発信し、多くの人を支援するため設計された新製品へのフィードバックを共有することに積極的に取り組んでいます。
「自分で使っているからこそわかるメリットのある具体的な形で、生産性にインパクトを与えることができています」とリクネス。「これで他の人も使えるようになるのですから、本当にすばらしい気分で、すばらしい体験です」
トップ画像: ジャラ ヘルメスさんと父親のジョン ヘルメス (写真: デビー ヘッケンズ)
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