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マイクロソフト、環境に配慮した未来の建築資材の基礎を構築

著者: ジョン・ローチ (John Roach)

※本ブログは、米国時間 2023年 9 月 28 日に公開された “Microsoft lays foundation for green building materials of tomorrow” の抄訳を基に掲載しています。

ワシントン州クインシー – マイクロソフトのデータセンターに隣接する建設業者の敷地では、コンクリートミキサー車の渦巻くドラムの中で砕石と砂がぶつかり合っています。このうだるような夏の日の光景は、2030 年までにカーボンネガティブを達成するというマイクロソフトの取り組みの新たな一歩を示しています。

コンクリートの仕上げを担当するチームは、ミキサー車の斜面台から転げ出る混合物を平らにして滑らかにし、テーブルの天板ほどの大きさの木枠 3 つの中から 1 つに入れ、コンクリート平板を形成しようとしていました。

ただ、ドラム内の混合物は典型的なものではありません。コンクリート混合物によくある岩や砂、水、セメントに加え、微細藻類由来の石灰石や、コンクリートに含まれる炭素量を全体的に低下させるその他の添加物が含まれていたのです。

エンボディドカーボン (内包炭素) とは、製品や材料の製造、設置、メンテナンス、廃棄の際に排出される炭素の指標のことです。業界や政府の計算によると、コンクリートのエンボディドカーボンは、現在世界の温室効果ガス排出量の約 8% を占めているとのことです。重建築に使われるもうひとつの材料である鉄鋼のエンボディドカーボンは、炭素排出量の 7% を占めると考えられています。

気候ソリューションの開発と展開の加速に向けた 10 億ドルの基金であるマイクロソフトの気候イノベーション基金 (Climate Innovation Fund) 担当シニアディレクターを務めるブランドン ミドー (Brandon Middaugh) は、「建築環境では、コンクリートと鉄鋼の脱炭素化が気候への影響という観点から極めて重要です」と述べています。

実行中の計画

マイクロソフトのデータセンター研究チームでデータセンター研究担当シニアディレクターを務めるショーン ジェームズ (Sean James) は、コンクリートや鉄鋼の製造に使用される従来のプロセスは炭素集約型のため、エンボディドカーボン* の削減や除去は困難だと述べています。

エンボディドカーボンがより少ない代替素材でこの課題を克服すれば、2030 年までにカーボンネガティブを達成するというマイクロソフトの取り組みも前進するだろうとジェームズは語ります。これは、世界の他の地域にも影響が及ぶことです。というのも、世界の建築業界は現在、今後 37 年間にわたって毎月ニューヨーク市全体に相当するほどのビルを建設するペースで進んでいるためです。

マイクロソフトのデータセンター研究チームで主席インフラストラクチャエンジニアを務めるスティーブ ギルゲス (Steve Gilges) は、コンクリートに関連する排出量の大半はセメント製造によるものだと指摘します。セメントの主成分は石灰石で、石灰石は通常石炭またはガス焚きの窯で粘土とともに華氏約 2,650 度まで加熱されます。そこで焼成という化学反応が起こり、その副作用として二酸化炭素が放出されるのです。

クインシーで試験的に使われたコンクリート混合物には、生物由来の石灰石を使用したものと、アルカリソーダ灰で活性化したフライアッシュとスラグ (The fly ash and slag) を使用したもの、そしてアルカリ活性セメントと生物由来の石灰石の両方を使用したものがあります。マイクロソフトがこのプロジェクトで目指しているのは、コンクリートのエンボディドカーボンを従来のコンクリート混合物より 50% 以上削減できる混合物の設計をテストすることです。

クインシーで試験的に使われたコンクリート混合物は、生物由来の石灰石を使用したものと、アルカリソーダ灰で活性化したフライアッシュとスラグを使用したもの、そしてアルカリ活性セメントと生物由来の石灰石の両方を使用したものがあります。写真: ダン デロング (Dan DeLong) がマイクロソフトに提供
クインシーで試験的に使われたコンクリート混合物は、生物由来の石灰石を使用したものと、アルカリソーダ灰で活性化したフライアッシュとスラグを使用したもの、そしてアルカリ活性セメントと生物由来の石灰石の両方を使用したものがあります。写真: ダン デロング (Dan DeLong) がマイクロソフトに提供

アルカリ活性セメントのフライアッシュとスラグは、石炭燃焼や製鋼による産業廃棄物です。生物由来の石灰石は、コロラド大学ボルダー校で開発された海藻石灰石の生産促進プロセスを商業化している Minus Materials から供給されています。

これらの混合物は、コンクリートのエンボディドカーボン問題に対するソリューションとしては不完全だとジェームズは指摘します。ただ、それでもいいのです。これがきっかけになるのですから。

「進歩を妨げる最大の敵は、始める前に完璧でなければならないという概念です」とジェームズは語ります。「実際に影響を及ぼすようになるには、とりあえずこれでいいというソリューションを使ってみることです。現時点のこれでいいソリューションとは、炭素を減らすことが可能な混合物を使うことです。そうすることで、すぐにでも影響が出始めるのです」

未来への投資

マイクロソフトはこのほかにも、コンクリートやその他建築資材のエンボディドカーボンをゼロへと削減し、カーボンネガティブにまで持ち込む可能性を秘めたソリューションに注目しています。

こうしたソリューションの多くは、マイクロソフトの気候イノベーション基金で投資したアーリーステージの企業から生まれたものです。このイノベーション基金は、炭素、水、廃棄物、生態系に焦点を当てたマイクロソフトの取り組みと並行して 2020 年に立ち上げたものです。

「基金を立ち上げたのは、こうした目標を達成するにあたり、当社を取り巻く市場環境を整備し、脱炭素化への取り組みを可能にするテクノロジを社外に構築する必要があると考えたためです」と、ミドーは語ります。

ミドーのチームでは、斬新で、最大限効果を得るためにも幅広く利用できる技術、そして顧客となるマイクロソフトが提供する知見から恩恵を受けるようなテクノロジがないか目を光らせています。建築資材の分野で当基金が注目しているのは、コンクリートと鉄鋼です。

例えば、初期に投資した企業のひとつが CarbonCure です。同社は、回収した二酸化炭素をコンクリートに注入する低酸素コンクリート技術を展開しています。この技術では、二酸化炭素が即座に無機化し、ナノサイズの岩石として永久にコンクリート製品に埋め込まれます。これは、炭素吸収源として機能するだけでなく、材料が強化されることから、炭素集約型のセメント量の削減にもつながります。

Prometheus Materials は、異なる方法で脱炭素化に向かい合っています。ミドーによると同社は、自然発生した微細藻類を他の必須成分と組み合わせる独自のプロセスによって、炭素ゼロのバイオセメントとバイオコンクリートを製造しているとのことです。

Prometheus Materials のバイオセメントは、仕上げから乾燥、在庫に至るまで、炭素ゼロのバイオブロックを形成するために使用されています。写真: Prometheus Materials
Prometheus Materials のバイオセメントは、仕上げから乾燥、在庫に至るまで、炭素ゼロのバイオブロックを形成するために使用されています。写真: Prometheus Materials

コロラド州ロングモントに本拠地を構える Prometheus Materials の最高経営責任者、ローレン バーネット (Loren Burnett) 氏は、「当社のミッションは、地球上でも特に使用量の多い、いや最も使用されているかもしれない建設資材であるコンクリートから、炭素を除去することです」と述べています。

マイクロソフトの気候イノベーション基金は最近、Boston Metal への投資を発表しました。同社は、再生可能エネルギーを動力源とした特許取得済みの溶融酸化物電気分解 (MOE) 技術を開発し、あらゆる等級の鉄鉱石から純鉄を生産するとともに、製鋼での二酸化炭素排出を排除しようとしています。Boston Metal は、環境に配慮した鉄鋼ソリューションの商用化を目指しており、ブラジルの鉱山廃棄物から価値の高い金属を生産する取り組みも進めようとしています。

マイクロソフトをはじめとするさまざまな企業は、炭素排出量の削減や、炭素除去による排出量の相殺で排出量ネットゼロを達成するといった持続可能性目標を掲げています。ミドーによると、基金による投資は、こうした企業が持続可能性目標を期間内に達成できるよう、環境に配慮した建築資材の市場を競争力のあるものにすべく推進することが目的だといいます。

「現在の市場には、ネットゼロに取り組むすべての企業の需要を満たせるだけの供給量がありません」と、ミドーは語ります。「こうした企業によるプロジェクトの立ち上げを支援し、実際の施設を稼働させる必要があります。そのニーズがますます高まっていると感じています」

低炭素コンクリート市場の強化

データセンター大手 4 社が署名した公開書簡で、環境に配慮したコンクリートと鉄鋼の市場を競争力のあるものにする必要性が再認識されました。この公開書簡では、低炭素コンクリートのより広範な利用に向け、達成可能な道筋が示されています。

マイクロソフトのバイスプレジデントで著名エンジニア、そしてデータセンター先進開発グループを率いるクリスチャン ベラディ (Christian Belady) は、「このような新しい技術の多くは、普及に至るようなクリティカルマスに到達していません」と話します。

低炭素コンクリートの製造業者が自社製品を差別化し、建設業界で購入する材料に含まれた炭素量を把握できる共通の方法があれば、需要と透明性を高められるでしょう。今回の誓約の一環として、各社はコンクリートのエンボディドカーボンを計算する一貫した方法の確立を目指しています。

「当社を取り巻く市場環境を整備し、脱炭素化への取り組みを可能にするテクノロジを、社外に構築する必要があります」

マイクロソフトで炭素削減戦略および市場開発担当ディレクターを務めるケイティ ロス (Katie Ross) によると、マイクロソフトはこれまで建築資材に含まれるエンボディドカーボンを、推定値を使って算出してきたといいます。

「企業に支払う金額と、その支払いに関連する直接的な排出量には相関関係があります。その流れを突き詰めていく中で、この関係性を打破することができました」と、ロスは説明します。

マイクロソフトが、主要な建築資材の会計方法を、食品パッケージのような栄養表示ラベルに基づいた手法に切り替えているのもそれが理由です。このラベルには、環境製品宣言 (EPD) という、第三者が検証した資材の地球温暖化係数に関する情報も含まれています。

「この栄養ラベルという情報があるため、自社で下した決断と、その決断に伴う二酸化炭素排出量を正確に示すことができるようになりました」とロスは話します。「時間の経過とともに削減量を示すこともできています」

環境配慮への取り組みの足がかり

ギルゲスと彼のチームは、クインシーで注入した低酸素コンクリートスラブを数ヶ月観察し、例えば混合物がどのように固まっていくかといったことを把握しようとしています。

同チームによると、クインシーで注入した混合物から学んだことは、低酸素コンクリート技術が広まる中で、より複雑な試験にも応用される予定だといいます。

「単なるコンクリートではありますが、特に生物由来の成分を組み合わせた合成フィラーを導入する場合、資材の特性や化学反応、機械的変化が複雑になる可能性があります」と、ギルゲスは語ります。

コンクリートのエンボディドカーボンを削減する材料が入った容器の中で、コンクリート混合物のサンプルを滑らかにする作業員。写真: ダン・デロング (Dan DeLong) がマイクロソフトに提供
コンクリートのエンボディドカーボンを削減する材料が入った容器の中で、コンクリート混合物のサンプルを滑らかにする作業員。写真: ダン・デロング (Dan DeLong) がマイクロソフトに提供

クインシーの試験プロジェクトと似たような取り組みは、アイオワ州デモインやテキサス州サンアントニオのコンクリート供給業者でも行われています。こうした取り組みにより、マイクロソフトは実世界での課題について学ぶことができ、ジェームズらがその課題を克服する際にも役立てることができるのです。

「できるだけ早く PowerPoint から離れ、すぐにでも泥だらけになって実際に作り上げていかなくてはなりません」と、ジェームズは話します。「そうすれば、スピードを減速させている原因が何なのか把握できますし、その対処法について検討する時間も多く確保できるからです」

注釈 *建物の建設、維持管理、耐用年数終了に関連する、建物の生涯を通じて排出されるすべての温室効果ガスの総和

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