Asia Vision Series:日本におけるデジタル トランスフォーメーション < 2 >
Asia Vision Series (アジア ビジョンシリーズ) *では、重要な業界動向と課題について、アジア各地域の専門家と共に議論していきます。全 3 回の本インタビュー記事では、 元シンガポール The Straits Times 紙の記者で、テクノロジ系ブログの創設者でもあるベテランジャーナリスト アルフレッド スー(Alfred Siew)が、日本マイクロソフト株式会社 代表取締役 社長の平野拓也と対談し、日本企業のデジタルトランスフォーメーションにおける課題について議論しました。また、平野は、個人的なエピソードとして、自分自身のアイデンティティ、他地域でのマネジメント経験が、自身の世界観に与えた影響について語りました。
*Asia Vision Series 英語版はこちらをご覧ください: https://news.microsoft.com/apac/features/putting-digital-transformation-on-the-business-agenda/
経営課題へのデジタルトランスフォーメーションの適用
デジタルトランスフォーメーションとは、IT システムを最新のものに移行することや、 デバイスやソフトウェアなどの IT リソースをアップグレードするといった、IT インフラの刷新だけを意味するものではありません。最新のテクノロジを活用して、「お客様とつながる」、「社員にパワーを」、「業務を最適化」および「製品を変革」などを実現することが、デジタルトランスフォーメーションの重要な要素です。
2011 年 3 月 11 日に日本で発生した東日本大震災の際に、日本マイクロソフトは、クラウドとモバイルを活用したテレワークにより、状況が厳しい中、事業を継続するとともに生産性も維持しながら、お客様対応なども可能な限り実施しました。これは、働き方改革に向けた大きな第一歩となる経験でした。平野は、「当社では、いつでもどこでもでも業務を行なえるように、多様な働き方を推奨し、必要なIT基盤を整備してきました。そのため、震災があった直後でも、全社員が業務を継続することができました。また、お客様やパートナー様に電話をして、安否を確認し必要な支援について伺うこともできました。この経験が自信となって、テレワークの推進に繋がったのだと思います。」と述べています。
現時点では、日本マイクロソフトの社員は、必要に応じてオフィスの外でも自由かつ柔軟に勤務することができます。マイクロソフトはこのような働き方改革に関する社会的な盛り上がりが日本全体に広がっていると考えています。
これは、物理的にオフィスで長時間を過ごすことが求められる、従来の日本文化からの大きな変化と言えます。この深く根付いた文化は、長い通勤時間と合わせて、日本の生産性低下の要因と言われてきました。また、出産後の女性が、継続して就労する機会を失わせる結果にもなっていました。
2015 年度、日本の労働生産性は OECD 諸国中 22 位にランクされました。そして、G7 諸国中では過去 20 年間を通じて最下位です。実際、生産性向上は国家的課題となっており、日本の正社員の長時間労働を前提としたこれまでの働き方を変え、「一億総活躍社会」を実現するために、日本政府は今年8月に「働き方改革担当大臣」を任命しました。
2014 年、日本政府は、ワークライフバランスの改善を目的に、テレワークを新たに導入する中小企業に対して、テレワークを実現する機器などの初期投資について、最大で 4 分の 3、上限 150 万円(13,500 米ドル)まで負担する助成金制度を開始しました。
日本政府は、2020 年までにテレワーク導入企業の数を 2012 年と比較して 3 倍に増加させ、全労働力の 10 パーセント以上が、週に少なくとも 1 日は在宅で就業するテレワーカーとなる計画を立てています。
よりスマートかつ生産的に働くことができるために、最先端のデジタルテクノロジを活用し、デジタルトランスフォーメーションを実現することが重要です。
平野は次のように述べています。 「働き方変革は、企業および政府にとってきわめて重要なテーマです。デジタルトランスフォーメーションの実現において、マイクロソフトが一丸となってあらゆる人々を支援できることを非常に嬉しく感じています。日本マイクロソフトは、お客様およびパートナー企業の皆様に対し、当社と同様に働き方改革に向けた活動への参加を 2012 年から継続して呼びかけてきました。昨年実施した「テレワーク週間 2015」には 651 法人が参加、今年は「働き方改革週間 2016」として実施し 833 の法人に参加いただきました」と平野は述べています。
日本マイクロソフトは、新しい働き方への取り組みを開始して以来、その効果測定を定期的に行っています。
「当社の場合も以前は、複数名参加の会議の招集から開催までは平均して 10 日ほどかかっていました。現在は、 5.5 日です。新しい働き方による社員への支援は生産性向上だけではなく、ワークライフバランスの改善にも貢献しました。これは優秀な人材の確保と維持にも寄与します。実際、日本マイクロソフトでは女性の離職率を40%低減できました」と平野は述べています。
次回は、企業文化が変化の触媒となっていくという点について触れます。日本におけるデジタルトランスフォーメーションの重要性について平野がお話しした第一回も是非ご一読ください。
平野 拓也 日本マイクロソフト代表取締役社長
平野 拓也は、東京を拠点に日本マイクロソフト株式会社の事業を統括しています。2005 年にシニアディレクターとして日本マイクロソフトに入社し、全体的な事業拡大計画を担当してきました。2011 年から 2014 年にかけて、マイクロソフトの中東欧地域組織において 25 カ国の事業を統率し、その後、日本マイクロソフトへと戻りました。カリフォルニアのシリコンバレーでも数年の勤務経験があります。北海道出身であり、米国ブリガムヤング大学で国際関係学の学士号を取得しています。
アルフレッド スー(Alfred Siew)
アルフレッド スーは、シンガポールそして東南アジアにおいてジャーナリズムとコミュニケーションの分野で約 30 年の経験を持つ著述家・講演家です。以前には、シンガポールの全国紙 The Straits Times のテクノロジ担当記者として、10 年以上にわたり地域のテクノロジ動向をカバーしてきました。現在は、消費者、CEO、政府担当者などの熱心な読者を持つテクノロジ ブログを運営すると共に、自身のコンサルティング会社を経営しています。