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世界的金融機関でキャリアをスタートできるよう、障碍のある若者を支援

障碍のある人の雇用格差解消を目指すインドのスキルイニシアチブについて

※本ブログは、5 月 20 日にインドにて公開された “Empowering youth with disabilities to launch careers in the global finance sector” の抄訳を基に掲載しています。

プラチ パンディ (Prachi Pandey) さんは去年、Allstate India の IT 部門に入社しました。パンディさんは、インド北部のウッタルプラデーシュ州にあるウンナーオという工業地帯出身の若い女性。このような地方出身の女性が大学院で学位を取得し、大手多国籍企業に採用されるのは珍しいことです。

パンディさんにとってこの仕事は初めての仕事で、2 回目の人生を変える出来事でした。最初に人生が変わったのは、14 歳で「二分脊椎症」と診断された時です。これは、足の衰弱や麻痺につながる病気で、彼女の左足は感覚を失い、右足の傷は毎日包帯が必要で、何度も手術をしなくてはならない状態でした。

学校を卒業する年には、医師から治療法がないことを告げられました。

「それを知って一晩中泣きました」とパンディさんは振り返ります。「でも次の朝、このような状態で生きていかなくてはならないのなら、前向きに生きていこうと決めました」

パンディさんはキャリアを築こうと決意しました。成績の良かったパンディさんでしたが、生まれつきの内気な性格を克服し、面接で良い結果を出すためにも、さらにスキルを身に着ける必要があることもわかっていました。

パンディさんは障碍のある人に向けた特別コースで、3 ヶ月間プログラミングの基礎やパブリックスピーキングを学びました。

昨年 Allstate India の IT 部門に入社しました
若くして二分脊椎症と診断されたものの、キャリアを築こうと決意したプラチ パンディさん。SAMEIP でトレーニングを受け、昨年 Allstate India の IT 部門に入社しました。(写真: Hudson Clay Consultants がマイクロソフトに提供)

パンディさんは 6 月に、ベンガルールに拠点を置く WinVinaya Foundation のインタラクティブオンラインコースを受講、「授業後には先生に山のように質問を投げかけました」と話します。「以前は英語が下手だったのですが、今ではずっと上達したんです」と、Teams のビデオ通話で自宅から笑顔を見せました。

パンディさんは、SAMEIP の恩恵を受けた人のひとりです。SAMEIP は、インドの銀行や金融サービス、保険 (BFSI: Banking, Financial Services, Insurance) といった分野で、障碍のある人に有意義な仕事の機会を提供することを目指しています。

SAMEIP は、SBI Foundation and Microsoft Employability Initiative for Persons with disabilities (SBI Foundation とマイクロソフトによる障碍のある人向け雇用適性イニシアチブ) の略で、ヒンディー語で「近い」という言葉の同音異義語です。State Bank of India (SBI) はインド最大の銀行および金融機関で、SBI Foundation はその CSR (企業の社会的責任) 部門です。

インドではさまざまな分野にスキルと雇用の格差が存在し、障碍のある人には特にその格差が顕著に出ています。障碍のある人の多くが正規の教育を修了できていないためです。

SAMEIP により、非営利団体が障碍のある人に業界関連スキルの訓練を提供できるようになります。また、インドで急成長中の銀行および金融サービス (BFSI) 分野における雇用の障壁を崩すことにもつながるでしょう。

SBI 会長のディニッシュ クマール カラ (Dinesh Kumar Khara) 氏は、「障碍のある人を雇うことは、企業が法遵守のためにやっていること、もしくは優しさや高潔さを示すためにやっていることだと思われがちです。これをインクルーシブなプロセスにするには、さらなる努力が必要です」と語ります。「リーダーとしては、障碍がある人にも平等な条件で活躍できる場とインクルーシブな環境を用意し、そういった人たちの可能性が最大限発揮できるよう努力することが不可欠です。SBI ではそうするよう力を注いでいます。だからこそ、SBI Foundation とインドのマイクロソフトが、それぞれの強みを活かして障碍のある若者に学習と成長の機会を提供し、彼らが BFSI 業界の労働力の一員となれるよう協力できたことを大変誇りに思います」(カラ氏)

2011 年の国勢調査では、インドで 2800 万人以上の人が障碍を持っていることがわかりました。これは人口の約 2.21% にあたります。

「これは、一部の国の人口を超えるような人数です。障碍のある人も企業が提供するサービスを利用しているのですから、企業が彼らを無視するわけにはいかないのです」と、SBI Foundation のマネージングディレクター兼 CEO のマンジュラ カルヤナスンダラム (Manjula Kalyanasundaram) 氏は指摘します。「今は何でも営利目的で動けばいい世界ではなくなっているのです」

カルヤナスンダラム氏は、まだほとんど発掘されていない人材の宝庫から人を採用することで確実にビジネスにつながると主張し、SBI 独自のインクルージョン文化によってアクセシビリティを考慮したモバイルアプリが開発できるようになったと語ります。

マイクロソフトのエグゼクティブバイスプレジデント兼グローバルセールス マーケティング&オペレーション担当プレジデントのジャン フィリップ クルトワ (Jean-Philippe Courtois) は、「パンデミックによる経済的影響は、特に弱者に大きくのしかかっています。真のインクルーシブな復興を実現するにあたって鍵となるのは、デジタルスキルをより簡単に身に着けられるようなプログラムを提供することです」と述べています。「マイクロソフトは、デジタルスキルのエコシステム構築に真摯に取り組んでいます。これにより、インドに住む障碍のある人 2800 万人を含むすべての人がデジタル経済の中で活躍できるようになります。労働市場をよりインクルーシブにすることは、『地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする』というマイクロソフトのミッションの中核となるものです」

SBI Foundation マネージングディレクター兼 CEO のマンジュラ カルヤナスンダラム氏
SBI Foundation マネージングディレクター兼 CEO のマンジュラ カルヤナスンダラム氏。同氏は、障碍のある人を雇用することで、確実にビジネスにつながると主張しており、SBI 独自のインクルージョン文化によってアクセシビリティを念頭にモバイルアプリが開発できるようになったと述べています。(写真: ソーミク カー (Soumik Kar) がマイクロソフトに提供)

インドの憲法では、2017 年に定められた障碍のある人の権利規定により、公共部門の仕事の 4% は障碍のある人のために確保することが義務付けられています。しかし、実際の比率は未だわずかにとどまっています。

民間企業でもこの分野は遅れをとっており、2019 年にインドの日刊紙 Business Standard が明らかにしたところによると、インドのトップレベルの企業における障碍のあるスタッフの割合は 0.5% 以下とのことです。

インドのマイクロソフトで社会貢献活動担当ディレクターを務めるマンジュ ダスマナ (Manju Dhasmana) は、「障碍のある人の仕事は、たいていハウスキーピングやフロントデスクのようなエントリーレベルのものに限られています」と指摘。「マイクロファイナンスや保険といった分野は成長産業です。こうした分野の企業は需要を満たそうと人材を探していますが、まだ障碍のある人の雇用については語ろうともされていません。興味深いことに、BFSI業界ではバックエンドにて技術的な役割が数多く存在します。そこに障碍のある人の雇用機会があるのではないでしょうか」

SBI は BFSI 業界で影響力を持つ企業で、マイクロソフトの戦略的顧客でもあります。そこで、マイクロソフトは同銀行に対し、CSR プログラムを立ち上げるよう打診してみたのです。マイクロソフトのグローバルスキルイニシアチブの下、CSR プログラムにて障碍のある人がこの分野のスキルを身に着けられるようにし、同時に有意義な雇用機会も提供することがねらいです。

SBI Foundation とマイクロソフトは 2020 年初頭にはコースを設計し、現場で実施できるよう 5 つの組織から協力を得ました。プログラムは去年 4 月に COVID-19 が蔓延する中での実施となりましたが、初年度に 500 人の学生のスキルを高めるという当初の意欲的な目標は変わりませんでした。

主要実施パートナーの American India Foundation (AIF) でプログラムマネージャーを務めるマニッシュ クマール (Manish Kumar) 氏は、「ひとつの村を作るようなものです」と語ります。AIF では、障碍のある人に向けたトレーニングを専門とする Mahendra Skills や TeamLease Skills University、v-shesh、WinVinaya といったパートナーを集めました。

これらトレーニング機関はインドの 5 大都市で運営されていましたが、コースは無料でインターネット上にて提供されたため、パンディさんのような小さな町に住む参加者にも対応できたのです。

本稿執筆時点で SAMEIP に登録している障碍のある人は約 500 人。参加者は、ソフトウェア開発やビジネスプロセスオートメーション、銀行業務など、これまでの経歴に応じてさまざまな分野のトレーニングを受けます。同団体では業界特有の専門知識以外にも、ソフトスキルやライフスキル、雇用準備といったトレーニングを提供し、障碍のある人が企業の世界に飛び込めるよう準備を整えています。

SAMEIP のトレーナー自身も障碍を抱えて生活している人が多く、参加者のニーズや不安に共感できるといいます。例えば WinVinaya や v-shesh では、聴覚に障碍のあるトレーナーが手話でビデオレッスンを実施しています。

ここでは、自信をつけることが鍵になると考えられています。

「障碍のある人に対しては、多くの場合、家族が快適な環境を作って本人が肉体的にも言葉によっても傷つかないようにしています。ただ、このような環境にいると、社会に出た時に自分が無視されているように感じてしまうでしょう」と、TeamLease Skills University で勤務する全盲の教師ニーナ グプタ (Neena Gupta) 氏は指摘します。「私たちは学生に、躊躇せず助けを求めるようにと伝えています。助けを求めたからといって、自分が弱いということでも恥ずかしく思うことでもないのですから」

TeamLease Skills University では、特に経済的な不安を抱える家庭からの候補者を募っており、そのような家庭の介護者や雇用主に向けたカウンセリングも実施しました。

グプタ氏がトレーニングを担当した学生の中にシャバナさんがいます。シャバナさんは子どもの頃に事故で両腕を失いましたが、小さな台座にキーボードを置いて足で入力できるようにし、自宅からオンラインレッスンを受けました。

シャバナさんは卒業後の昨年 12 月、通信業界や銀行業界向けにデータ管理サービスを提供する Web Date Systems という企業に就職、バックエンド業務を担当することになりました。新しい職場には、自宅で使っているデスクと似たものが設置され、シャバナさんはそこでクレジットカードの申請書を処理しています。

シャバナさんの家族は、建設現場で働く父親をはじめ過保護気味だったのですが、その仕事に就くよう勧めたといいます。彼女の収入の大半が、自宅のある首都デリーから近郊の都市グルガオンのオフィスまで 1 時間半かかる通勤の費用で消えてしまうことがわかっていたにもかかわらずです。

「父は、私が何らかの知識を得るだろうと考えたのです」とシャバナさん。彼女は芸術学部卒で、仕事に就くのはこれが初めてでした。

パンデミックによる不透明さが続いた 1 年を経て、インドの経済は徐々に広がりつつあり、SAMEIP のトレーニングコースに参加した 77 人が金融業界の大手多国籍企業に就職しました。G.B. カーティク (G.B. Karthik) さんも、新しく採用され達成感と主体性を得ることができた 1 人です。

カーティクさんは 12 歳の時に転倒し、運動機能と言語機能に影響が出ました。これにより、その後の教育を通信教育で受けざるを得なくなってしまいました。さまざまな難しい試験に合格し、経営学の学位も取得、地元の就職センターに登録していたにもかかわらず、31 歳のカーティクさんはこの 2 年間職に就けませんでした。

SAMEIP のトレーニングを受けた後、カーティクさんは面接に合格し、大手多国籍金融サービス企業にプロジェクトオペレーターとして入社することになりました。同社にてカーティクさんは、1 月より住宅ローンの記録サポート業務を担当しています。「外資系企業にやっと就職した僕を見て、家族も非常に喜んでいます」とカーティクさんは述べています。

G.B. カーティクさんと、母親のスマティ バラクリシュナンさん
G.B. カーティクさんと、母親のスマティ バラクリシュナンさん。チェンナイの自宅にて (写真: ムニッシュ ラジャ (Munish Raja) がマイクロソフトに提供)

カーティクさんの母親であるスマティ バラクリシュナン (Sumathi Balakrishnan) さんも、息子と共にインド南部のチェンナイ市の自宅から喜びの声を寄せています。困難から成功への道のりは長く、経済的にも精神的にも負担が大きかったといいます。

「自分でお金を稼げるようになったことで、カーティクの自己肯定感も高まりました」とスマティさんは述べています。

スマティさんは SBI で 26 年間働いていましたが、在宅介護のためそのキャリアを諦めた過去があります。そのスマティさんにとって、SAMEIP は仕事復帰と昔務めていた企業とのつながりを再構築するきっかけにもなりました。SAMEIP が自分の息子にもたらした影響を見て、彼女は英会話や面接スキルのセッションを週 2~3 回ボランティアで実施することにしたのです。

「この銀行で得た経験はどれもすばらしいものばかりでしたが、退職という難しい決断を下さなければなりませんでした。この取り組みに関わることで、恩返しできたような気がします」(スマティさん)

この取り組みのミッションで中核となるのは、障碍のある人のスキルアップですが、同じく重要なのが採用担当者の意識向上です。

Yunikee の共同創業者であるチャイタニア コタパリ (Chaithanya Kothapalli) 氏は、同社の顧客が資格以外のことにも目を向けるようになってきたと語ります。Yunikee は、複数の銀行のバックエンド IT 業務を担当するベンガルールの企業で、SAMEIP でトレーニングを受けた聴覚に障碍のある 4 人を採用。4 人は、銀行の信用証明業務を担当しています。

「スキルの方が重要ですから」とコタパリ氏は述べています。

それに、コタパリ氏によると、障碍のある従業員は他の従業員と同じように集中力があるほか、離職率は低いといいます。

EY に高品質なサービスを提供するサービスデリバリーセンターネットワークである EY Global Delivery Services (EY GDS) にて倫理・多様性・インクルージョンのリーダーを務めるジャヤ ヴィルワニ (Jaya Virwani) 氏は、「これまでの採用活動では、直接面接を実施するか、一定時間業務に携わってもらうようにしていました。今ではそのような考えをあらため、オンライン採用でより多くの機会を生み出そうとしています」と話します。

EY GDS では、運動機能に障碍のある SAMEIP 卒業生を 7 人採用しています。ヴィルワニ氏によると、応募した候補者の中には、自らの経験レベルを超える職務の面接もクリアした人がいるといいます。

生まれつき右手に障碍のあるカラヴァニ R (Kalaivani R) さんは、SAMEIP のトレーニングパートナー v-shesh の授業を受けた後、EY の会計部門に保険アナリストとして入社しました。

「以前から銀行については本で得た知識がありましたが、仕事に役立つ実践的なことについては v-shesh で身につけました」と、商学部を卒業したカラヴァニ R さん。彼女は、銀行よりも寺院で有名なインド南部の町マイラドゥトゥライからリモートで授業に参加しました。

「私のモットーは、どこに行ってもうまくやりたいということです」という彼女。新しい仕事を得たことで、もうすぐ大都市に引っ越すことになりますが、21 歳の彼女にはもっと大きな計画があります。「海外に行ってみたいんです」

SBI Foundation とマイクロソフトは、この変化を加速させたいと考えています。そのためにも、BFSI 業界からさらに多くの賛同者を集め、このイニシアチブに参加してもらうか、組織内で同様の取り組みを実施してもらいたい考えです。次の予定としては、AI を駆使した就職マーケットプレイスを用意し、意欲的な従業員と潜在的雇用主を結びつけようと計画しています。

ランジタ ガネサンはムンバイを拠点とするジャーナリスト兼リサーチャーです。

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