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AI とクラウドが、北オーストラリアとケープヨークで絶滅危惧種となっているウミガメの保護を支援

※本ブログは、米国時間 2 月 18 日に公開された “AI and cloud combine to help protect vulnerable marine turtle populations in northern Australia and Cape York” の抄訳を基に掲載しています。

現在、地球上に存在するわずか 7 種類のウミガメのうち、悲しいことに 6 種が絶滅の危機に瀕していると考えられています。これは、人間や環境、捕食動物といったさまざまな脅威にさらされていることが要因です。

オーストラリア最北端の地域では、毎年 6 月から 11 月の間にタイマイ、ヒラタウミガメ、およびヒメウミガメがケープヨーク西部の海岸にやって来て、メスが砂浜に上陸し、巣穴を掘って産卵します。

オーストラリア最北端は人里離れた場所で、美しくも過酷な場です (写真:Phisch Creative – フィル シャウテッテン (Phil Schouteten))
オーストラリア最北端は人里離れた場所で、美しくも過酷な場です (写真:Phisch Creative – フィル シャウテッテン (Phil Schouteten))

カメは、海岸地域の地元住人にとって伝統的な食材のひとつとなっていますが、その消費量は常に持続可能なレベルに保たれていました。

1800 年代までは、オーストラリアのカメにとって最大の脅威となっていたのは、オオカミに似た野生犬の一種であるディンゴやオオトカゲによる巣の捕食でした。ただし、それさえも、カメの存在を脅かすほどのものではありませんでした。

しかし、1800 年代にブタがオーストラリアに持ち込まれ、野生のブタが急増すると、カメは大きなリスクにさらされるようになりました。その影響は、ケープヨーク西部の組織と従来の所有者が約 10 年前に警鐘を鳴らすまで、同地域で記録されることはほとんどありませんでした。

1800 年代にオーストラリアに持ち込まれたブタは、現在野生化し有害な生物となりました (写真: ブライアン ロス (Brian Ross))
1800 年代にオーストラリアに持ち込まれたブタは、現在野生化し有害な生物となりました (写真: ブライアン ロス (Brian Ross))

南ウィク地域の伝統的所有者が運営している非営利団体の Aak Puul Ngantam (APN) Cape York は、カメを捕食から保護する活動に長年取り組んでいます。それが文化的にも、環境面においても、持続可能性という側面からも、生き物の価値と関係があるからです。

過去には、制御手法により、野生のブタがカメの巣を捕食するケースを最大 90% 減らすことに成功しています。一方で、管理はできたものの、監視は困難でした。効果的でタイミングよく監視できなければ、管理の効果を評価することもできません。

APN Cape York の警備隊は、カメの数や巣の場所の監視に大きな課題を抱えていました。巣は人里離れた場所にあり、数千キロメートルにもおよぶ海岸線全体に広がっているだけでなく、雨季の期間とその後数ヶ月は警備隊が腰まで水に浸かるような平野を渡らねばならず、そこではクロコダイルが頻繁に出没するため、その時期に巣に到達するのはほぼ不可能となります。

そのため、正確でタイムリーな監視データを得ることが非常に困難であり、時間もかかるため、管理活動にはデータがあまり役立っていませんでした。

APN Cape York、CSIRO、そしてマイクロソフトは、NESP Northern Australia Environmental Resources Hub (NESP 北オーストラリア環境資源ハブ) プロジェクトの一貫として、マイクロソフトの AI for Earth プログラムの下、先住民の知識やドローンおよびヘリコプターで収集したビデオ、クラウドコンピューティング、AI (人工知能) などを活用し、遠隔地の砂浜にいるカメや捕食動物の移動経路を特定しようとしています。完成度の高いより直近のデータがあれば、警備隊や科学者、先住民のリーダーが協力し、より効果的に巣の捕食動物を管理してウミガメの保護に取り組むことができるのです。

ウミガメの卵を捕食動物から保護

国立科学機関の CSIRO と APN Cape York は、約 8 年間にわたって、絶滅危惧種のカメを保護するプログラムに共同で取り組んでいます。この取り組みは重要なことだと、APN 警備隊員を務める先住民族のディオン クーミータ (Dion Koomeeta) 氏は語ります。

「多数のブタが砂浜を荒らし、ウミガメの巣などさまざまなものを掘り起こしています。いつもブタはすべての巣を掘り起こして回るので、警備隊が到着した時には巣の中にほとんど卵は残っていません。ブタに掘り起こされてしまうのです」とクーミータ氏は述べています。

「科学の力でカメを保護し、次世代の子どもたちにカメがどんな姿をしているのか知ってもらいたいと考えています。子どもたちが警備隊の取り組みを学ぶことは良いことだと思います。彼らが成長した時に、その次の世代に向け土地を守ることができるためです」

CSIRO でリサーチサイエンティストを務めるジャスティン ペリー (Justin Perry) 博士は、「この取り組みは、警備隊と共に一から作り上げたものです。技術的な解決策を思いつくまで 8 年間もかかりました」と話します。

「ケープヨーク西部の海岸では、3 種類のカメが巣作りをします。ひとつはタイマイで、この海岸では非常に珍しい種です。監視を開始して以来、タイマイは合計十数匹程度しか見つかっていません」

「いま注目しているのはヒメウミガメとヒラタウミガメです。特にヒメウミガメについて懸念しています。ヒメウミガメの巣は浅く、一般的に砂丘の植物が生えた場所ではなく砂浜で巣作りをするため、非常に無防備な状態になっています。捕食動物を対象とした管理を実施する前、アクセスできる範囲の砂浜で調査した巣は 100% 捕食によって破壊されており、その主な原因は野生のブタでした」

海に向かって進む子ガメたち (写真: APN Cape York のアーカイブより)
海に向かって進む子ガメたち (写真: APN Cape York のアーカイブより)

主に監視している砂浜では、1 シーズンで約 350 個の巣が作られ、1 つの巣につき約 80 匹の子ガメが生き残ります。CSIRO の科学者によると、通常は約 100 個の巣が自然に捕食され、残りの巣は 250 個になるとのことです。

海にたどり着いた子ガメは、さまざまな形で死に至ります。これほど多数の卵が産み落とされるのもそのためです。海にたどり着く子ガメの数が多ければ多いほど、成長するまで生き延びる数も多くなるというわけです。

ウミガメの保護を願う伝統的所有者であるウィク族は、この状況を非常に懸念しています。NESP 北オーストラリアハブは、伝統的所有者と科学者が捕食動物を管理する新しい革新的な方法を編み出せるよう、CSIRO と APN Cape York による長期的なパートナーシップをサポートすることにしました。

この調査を活用した目標管理活動により、すでに捕食レベルは 30% 以下にまで下げることができました。これにより、CSIRO と APN Cape York はカメを持続可能な数に保つことができると考えています。

管理のどの部分に注力するべきか検討するにあたっては、カメがどこに巣を作り、卵がどこで食べられ、捕食動物が最も活動的になるのはいつなのかといったことを、科学者と警備隊が把握しなくてはなりません。

それが最初の困難な作業でした。

海に向かって、そして明るい未来に向かって進むウミガメの赤ちゃん (写真: APN Cape York のアーカイブより)
海に向かって、そして明るい未来に向かって進むウミガメの赤ちゃん (写真: APN Cape York のアーカイブより)

空撮映像を分析

極北の人里離れた砂浜にたどり着くのは非常に困難で、特に雨季やその後の時期は難しくなります。そして、ウミガメが巣を作る時期もごくわずかです。

ドローンを使って人里離れた浜辺の画像を収集する警備隊 (写真: Phisch Creative – フィル シャウテッテン (Phil Schouteten))
ドローンを使って人里離れた浜辺の画像を収集する警備隊 (写真: Phisch Creative – フィル シャウテッテン (Phil Schouteten))

雨季が終わる 7 月下旬から 8 月頃までは、カメのいる浜辺にたどり着くことはほぼ不可能です。雨季には腰の位置まで水位が高まる 100 メートル幅の氾濫原が泥状になり、渡ることができないためです。雨季が終わる頃には、6 月から始まる巣作りのピーク期を大幅に過ぎてしまいます。産卵後数日間の卵は最も攻撃されやすいため、巣を守るにはもっと早期に浜辺を監視したいと警備隊は考えました。産卵後数日間はメスガメの足跡がまだ捕食動物からも見えており、産みたての卵の匂いは最も強いのです。その後、卵からカメが孵化するまで 50 日間もかかります。

警備隊は巣作り後の数日間に巣を保護するのが理想的だと考えていますが、同時にその地域に物理的に立ち入ることも制限したい思いでいます。また、より迅速に監視データを入手し、新しい巣ができた場所を素早く管理できるようにしたいと考えています。

空撮映像によって砂浜を遠隔監視できれば、こうした課題が解決できます。もちろん、映像を役立てるには素早く解析する必要もあります。

これまでにもヘリコプターによる空撮調査写真は収集されていましたが、何時間もかけて綿密に分析する必要があったため、管理面での有用性は限られていました。

人里離れた浜辺をスキャンしてカメと捕食動物の足跡を探すヘリコプター (写真: APN Cape York のアーカイブより)
人里離れた浜辺をスキャンしてカメと捕食動物の足跡を探すヘリコプター (写真: APN Cape York のアーカイブより)

処理の迅速化に向け、CSIRO はマイクロソフトにアプローチしました。何万枚もの調査画像から AI で関連情報を迅速に探し出し、カメの巣作りと捕食動物の活動の両方の痕跡がある場所を特定できないかと相談したのです。

マイクロソフトの AI for Earth プログラムにより、マイクロソフトのエンジニアは Azure クラウドに画像をアップロードし、AI を活用した画像検出アルゴリズムを開発しました。その中には、地形分類器や足跡・捕食動物オブジェクト検出器などが含まれています。このアルゴリズムは初期段階から高い検出精度を示しており、地形分類器は 90% 以上の精度で浜辺や茂み、海の地形を判別、足跡・捕食動物オブジェクト検出器は 4 万 5000 枚以上の画像処理とトレーニングによってパフォーマンスが徐々に向上しています。

環境管理の向上

ケープヨーク自然資源管理局で生物多様性および火災プログラムマネージャーを務めるケリー ウッドコック (Kerri Woodcock) 氏は、2000 年代初頭の調査で西ケープ地域のカメの巣がほぼ 100% 捕食され、以来 20 年間その状況が続いていた可能性があると指摘し、問題の大きさを説明しています。

ウッドコック氏は、カメのライフサイクルの性質上、この問題はすぐには解決できないとしています。「一部のカメは繁殖できるようになるまで 30 年かかります。しかも、野生で生き残れるのは 1000 匹に 1 匹なのです」

現在進行中の取り組みにウッドコック氏も心を動かされています。「これは、先住民が主導する絶滅危惧種プログラムであり、実際に測定可能な定量的成果も出ています」

ウッドコック氏によると、このプログラムはカメの巣作りのピーク時に重要な知見を警備隊に提供するとのことです。「警備隊は産卵にやってくるカメの数だけでなく、捕食の件数も監視し、捕食動物の適応制御プログラムを実施してできるだけ多くの巣を残そうとしています」

この取り組みは、ビンジ族の共同研究者と先住民の警備隊、CSIRO、NESP、カカドゥ国立公園、マイクロソフトがすでに行っている Healthy Country Partnership (健全な国に向けたパートナーシップ) という活動がベースになっています。カカドゥ国立公園での侵入雑草の広がりを監視するにあたってクラウドコンピューティングと AI が使われ、先住民警備隊が公園を管理しカササギガンの回帰促進ができるよう知見を提供しています。

最近では、この技術を使って自動化パイプラインを反復適応して改良し、さまざまな環境問題に対応できることも示されています。

ペリー博士は、「マイクロソフトの AI を使って自動的に何万枚もの画像を分析し、捕食動物の移動経路や巣の場所を探します。そこで得た知見を、Power BI のダッシュボードでリアルタイムに警備隊と共有しています。これにより、1 ヶ月かかっていた海岸線の 2 倍の長さの監視が 2 時間でできるようになりました」と語ります。

「この取り組みにより、毎シーズン 2 万匹の子ガメが海にたどり着くようになりました。生態系全体が安定してきたのです。AI などの新技術が、カメを絶滅の危機から救うにあたって重要な役割を果たしています。」

保護ネットで守られるカメ (写真: APN Cape York のアーカイブより)
保護ネットで守られるカメ (写真: APN Cape York のアーカイブより)

ペリー博士の意見によると、「この取り組みは、環境管理に向け柔軟で適応力のある管理ツールを開発する次のステップを反映しています」とのことです。

このカメ管理システムは、シンプルにデータ入力できるよう設計されています。警備隊がドローンやヘリコプターに搭載されたカメラから SD カードを抜き出し、その内容をフォルダにアップロードするだけで、自動的に分析が始まります。

分析結果は、CSIRO とマイクロソフトが Power BI で開発したダッシュボードに送られます。ダッシュボードでは、警備隊が地上で Nestor アプリを使って収集したデータと、空撮写真の分析によって得られた知見が重なり合い、警備隊や科学者が特定の場所や時間に応じた問題管理の最善策を決定します。

瞬時に提供される知見とテクノロジで子ガメを支援 (写真: ジーナ バーネット (Gina Barnett))
瞬時に提供される知見とテクノロジで子ガメを支援 (写真: ジーナ バーネット (Gina Barnett))

ダッシュボード上では、どこにカメがいるのか、どこで捕食が行われているのかといった情報がリアルタイムで表示されます。

これと同じ情報がアウルクンの先住民コミュニティや長老とも共有され、同地域のカメの数についての意思決定に役立てられます。

ペリー博士は、「監視プロセスの自動化が進めば、警備隊が実際の管理作業により集中できるようになります。この監視の目的は、適応管理に向けた情報提供です。ただ、監視は大変な作業で多大な時間がかかるため、単に種の絶滅を記録するだけになってしまうこともあるのです」と話します。

「監視がより効率的になり、的を絞ることができれば、より多くの時間を脅威の管理に費やすことができます。それが重要な保全の成果につながります。私たちは、適切な情報を適切な人に適切なタイミングで届けようとしているのです。そうすることで、現地での管理が優先されるようになります。それが警備隊プログラムの目的なのですから」

そして、毎年ケープヨークに戻って産卵するウミガメにとっては、このプログラムが種の存続にとって最善の機会となっているのです。

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