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AI エージェントとは何か、そして私たちの働き方をどう変えるのか

AI エージェントとは何か、そして私たちの働き方をどう変えるのか

スザンナ レイ (Susanna Ray)

※本ブログは、米国時間 11 月 19 日に公開された “AI agents — what they are, and how they’ll change the way we work” の抄訳を基に掲載しています。

月曜日の朝、まだカフェインが効いていない状態で、目の前には忙しい一日が待っています。返品処理、新しい出荷請求書の確認、技術者への最新情報の提供、また社員への IT サポートなど、多忙な業務が待っているかもしれません。

今では、AI エージェントにこれらの作業を依頼するだけで対応できるようになりました。その間に 2 杯目のコーヒーを飲みながら、チームの長期戦略に集中することができます。

エージェントは、バーチャルプロジェクトマネージャーとしての役割を果たしたり、財務諸表を調整して帳簿を締めるといった複雑な作業を代行したりすることが可能です。Microsoft 365 Copilot は、日々の面倒な業務を手助けし、クリエイティブなプロジェクトを効率的に手助けするパーソナルアシスタントとしてすでに活躍しています。これを活用してさまざまなエージェントと連携することで、組織が従業員を支援し、ビジネスを推進し、さらに多くのことを成し遂げる新しい可能性が広がります。

エージェントは、顧客の返品を確認し、承認したり、出荷請求書をチェックしてサプライチェーンの高額なエラーを回避したりといった作業を 24 時間体制で行うことができます。また、膨大な製品情報を整理して現場の技術者に段階的な指示を提供したり、文脈を把握し、過去の記憶を活用して、IT ヘルプデスクにおけるチケットのオープンやクローズ処理をすることも可能です。

「エージェントは AI が牽引する世界における新しいアプリケーションと考えることができます。私たちは職場での最大のペインポイントを解決し、ビジネスで成果を上げるための新しい機能を迅速に追加しています。」とマイクロソフトの AI at Work 担当最高マーケティング責任者、ジャレッド スパタロー (Jared Spataro)  は言います。

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エージェントとは何か

エージェントは、生成 AI の力をさらに一歩進めた存在です。ただ単に支援するだけでなく、ユーザーと一緒に、あるいはユーザーの代わりに作業を行うことができます。エージェントは質問への回答から、より複雑なマルチステップのタスクまで幅広いことをこなせます。パーソナルアシスタントとの特筆すべき違いは、特定の専門性を持つようにカスタマイズできる点です。たとえば、自社の製品カタログについてすべてを理解しているエージェントを作成し、顧客からの質問に対する詳細な回答をドラフトしたり、プレゼン用の製品情報を自動でまとめたりすることが可能です。

また、営業注文を処理するエージェントのように、ユーザーの代わりに動くエージェントもいます。ユーザーは自由な時間が増え、新規顧客との関係構築に集中できるようになります。こうしたエージェントを利用することで、業務のルーティン作業を軽減し、時間や金銭的コストを削減し、製造や研究、金融、小売といった業界全体での生産性向上が期待できます。

Microsoft 365 や Dynamics 365 では、既存のエージェントを活用することができます。また、Copilot Studio で、より具体的なニーズに応じたカスタムエージェントを構築することも可能です。
たとえば、あなたが四半期ごとに大きな目標を達成する必要がある営業担当者だとします。Copilot は、あなたのパーソナルアシスタントとして、メールを作成したり、不在にした会議の要点をまとめたり、洗練された営業プレゼンテーションを作成する手助けをしてくれます。一方で、見込み客の獲得に特化したエージェントは、バックグラウンドで自律的に新しい潜在顧客を見つけ出し、あなたが週の後半にフォローアップできるよう準備を進めます。Copilot は日々のタスクをサポートし、目的に応じて作成されたエージェントは、そのカスタマイズされたスキルを活用して四半期末の目標達成を支援します。

AI エージェントは、人々により多くの価値を提供する手段であるだけでなく、仕事の進め方におけるパラダイムシフトをもたらします。

エージェントは新しいものではありません。マイクロソフトはこの分野で広範な研究を行い、昨年には世界中の開発者向けにマルチエージェントライブラリを作成しました。この成果が、現在のエージェントの可能性を形作る基盤となっています。また、最近の大規模言語モデル (LLM) の進展により、開発者コミュニティ以外の人々でも AI と簡単にコミュニケーションを取れるようになったため、現在エージェントへの注目がさらに高まっています。このエージェントと LLM の組み合わせにより、AI ツールがより実用的で身近なものとなっています。

Microsoft AI Frontiers Lab のマネージング ディレクターである エジェ カマール (Ece Kamar) は「人々は AI に何かを『代行してほしい』と期待しています。単に言葉を生成するだけでは不十分です。現実の課題を実際に解決し、人々を助けるシステムを構築するには、そのシステムが私たちの生活する世界を十分に理解し、変化が起きたときにはそれを認識して適切に行動する必要があります。」と指摘します。

エージェントは、情報を観察し、収集し、モデルに情報を提供し、それを基に行動計画を生成してユーザーに伝える言語モデルの上に重ねられたレイヤーのようなものです。また、許可されていれば、エージェントは独自に行動することもできます。このように、生成 AI ツールにおいて、エージェントとモデルの両方が同じくらい重要な要素となっています。

エージェントは、記憶、権限、他ツールとの連携という 3 つの要素におけるイノベーションによって、より有用になり、さらに自律性を高めることができます。

記憶は、毎回新たに指示をする際に、以前言ったことを言う必要がないよう、連続性を提供します。

「自律性を持たせるためには、一連の行動において文脈を保持する必要があります。しかし、モデルが行う処理は非常に断片的で、私たちが持つような連続性を持っていません。そのため、各プロンプトが独立しており、誤った記憶を引き出してしまう可能性があります」とマイクロソフトの副最高技術責任者である サム スキラッチェ (Sam Schillace) 氏は言います。「これは、コマ撮りアニメーションを見ているようなものです。ひとつひとつのコマは実際は分かれていますが、私たちの脳は絵が連続して動いているように認識します。クレイアニメの粘土もそれ自体が自分で動いているわけではありません。」

この問題に対処し、記憶を構築するために、スキラッチェとそのチームは「チャンク化」や「チェイン化」というプロセスに取り組んでいます。これはその名の通り、やり取りを関連性に基づいて小さな単位に分割し、それらをリンクさせて、人間の記憶のように保持するというものです。これにより、特定のプロジェクトに関する会話をグループ化し、エージェントがその詳細を迅速に思い出せるようになります。たとえば、ステータスアップデートを求められた際に、全データベースを検索する必要がなくなります。

権限委任とツール連携については、エージェントがあなたの許可を得て必要な情報に安全にアクセスできるようにすることが重要です。たとえば、上司が誰であるかなどの情報を把握したり、Teams や PowerPoint といったプログラムにアクセスして、ユーザーの代わりに処理を行う権限を持つことが挙げられます。

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エージェントの活用方法と作成方法

現在、スプレッドシートやプレゼンテーションを作成するのと同じくらい簡単に、Microsoft 365 Copilot ではエージェントを作成して公開し、日常業務に活用することができるようになっています。コーディングスキルは必要ありません。

また、Copilot Studio を利用すれば、開発者でなくてもエージェントを構築することができます。たとえば、メールやレポート、顧客管理システムなどの関連する業務データとエージェントを接続することで、タスクの実行やインサイトの提供が可能です。

さらに、今後は新しいエージェントを Microsoft 365 に追加して、一般的なワークフローやタスクを支援できるようになります。たとえば、Teams の「Interpreter」は、会議中にリアルタイムで音声から音声への翻訳を提供します。また、自分の声をシミュレートさせることも選択可能です。「Employee Self-Service Agent」は、ノートパソコンの問題解決や特定の福利厚生の利用限度の確認など、人事や IT ヘルプデスク関連のタスクを簡素化します。このエージェントは、Copilot Studio を通じて企業のシステムと連携させ、さらにカスタマイズすることも可能です。

Microsoft Dynamics 365 でも、販売、サプライチェーン、財務、顧客サービス機能など、幅広い一般的なビジネスワークフローに対応するエージェントが導入されます。

また、すべての SharePoint サイトには、組織のコンテンツに特化したエージェントが装備され、従業員は膨大なナレッジベースに素早くアクセスし、必要な情報を数秒で見つけることができます。たとえば、作業スケジュールに埋もれたプロジェクトの詳細や最近の製品メモの要約を簡単に検索できます。

開発者にとってはさらに選択肢が広がります。新しい Azure AI Agent Service を利用すれば、小規模または大規模な言語モデルを選択して、エージェントを活用したアプリケーションの調整、開発、スケールを行い、注文処理や顧客データ同期のような複雑なワークフローの簡素化や自動化ができます。このサービスでは、エージェント開発用のソフトウェア開発キットを提供しており、Visual Studio Code や GitHub を使用してエージェント機能を効率的に統合できます。

たとえば、OpenAI が最近発表した o1 シリーズのモデルは、エージェントに高度な推論能力を提供します。このモデルを活用すれば、タスクをステップごとに分解し、たとえば IT ヘルプデスクで問題解決に必要な情報を収集し、試みた解決策を考慮して計画を立てるといった複雑なタスクを遂行できます。

また、LinkedIn でもエージェントの力を活用できます。このプラットフォームの最初のエージェントは、リクルーターの採用活動を助けます。

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リスク評価とエージェントの自律的な行動

エージェントが自律的に行動する場合、特に安全性の観点から慎重な考慮が必要です。マイクロソフトは、エージェントがアクセスできる範囲をユーザーが適切に管理できるようにすることに注力しています。マイクロソフトの責任ある AI 製品最高責任者のサラ バード (Sarah Bird) は次のように説明しています。

「エージェントは責任ある AI の観点からリスクを高める要素となります。そのため、エラー率を大幅に低下させる必要があり、エラーとみなされる可能性のある状況も非常に多様化しています。これはエージェントにとって大きな課題です。しかし、他の AI アプリケーションで使用されている責任ある AI の基本原則は、エージェントにおけるリスク評価や軽減にも応用可能です。」

新たに導入された Copilot Control System は、IT 部門が Copilot やエージェントを管理するためのデータアクセス、ガバナンス、セキュリティ制御、測定レポートを提供し、導入のビジネス上の効果も追跡できるようにします。

多くのエージェントでは、人間による承認プロセス (いわゆる「ヒューマン イン ザ ループ」) が組み込まれています。たとえば、Sales Order Agent が作成したメールを送信する前に、人が最終確認を行うステップが含まれています。また、Copilot Studio で開発されたエージェントでは、作成者がエージェントの行動履歴を確認し、どのようなアクションが取られたのか、またその理由を把握することが可能です。

「精度を確保するためにはテストとモデレーションに注力する必要があります。また、各組織が自分たちのニーズに合った適切な出発点を選ぶことが重要です。もちろん、私たちはすでに持っている基盤を活かしながら進歩を続けています。そのため、すでに私たちは非常に強固な基盤からこの旅を始めているのです」とバードは述べています。

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過去を振り返り、未来を見据える

「技術者たちは、長年にわたり、人間と共に作業する自律システムの可能性を夢見てきました」と、Microsoft AI Frontiers Lab のマネージング ディレクターであるエジェ カマール (Ece Kamar) は語ります。彼女は 2005 年から AI エージェントの研究を進め、2010 年にはこのテーマで博士論文を執筆しました。
「これまで私たちには、バックエンドでの一般的な問題解決能力が不足していましたが、大規模言語モデル (LLM) がその欠けていた要素をついに提供してくれました。これにより、長年の研究が構想にとどまっていたアイデアを実現に移せるようになったのです。今後、エージェントはスマートフォンのアプリが人々の生活を豊かにしたように、さらに大きな可能性をもたらす新しいエコシステムや市場を形成するでしょう。」
また、カマールは、エージェントにはタスクを完了するための基本的な構成要素がすでに備わっている点にも言及します。たとえば、状況を観察し、「会議が長引いているので、次の会議を遅らせるべきだ」といった判断を下すような機能です。そして、記憶や権限委任の進歩を通じて自律性を獲得することで、さらに便利で有用になると述べています。

エージェントは、記憶や権限委任の進化を通じて自律性を獲得し、さらに便利で有用になります。従業員にとっては、経費報告やプロジェクト管理、会議の運営支援といった業務のペインポイントとなるような負担の軽減が期待されます。一方で、企業にとっては、以下のような恩恵があります。たとえば、エージェントは在庫不足を検知し、サプライチェーン管理者に通知します。そしてその後、すぐに自動再注文を行うことで、売上促進や顧客満足度向上を実現します。このように、業務全体にわたる好影響が期待されています。

「エージェントは、AI と人々が連携してタスクを完了するための新しい可能性を切り開く鍵です。これは AI システムに期待される役割そのものです。AI エージェントは、人々により多くの価値を提供する手段であるだけでなく、仕事の進め方におけるパラダイムシフトをもたらします。」とカマールは言います。

そして、これは始まりに過ぎません。Copilot は、休暇中に見逃したメールの要約や、ミーティング アジェンダの作成、月次レポートの生成といったルーティン作業を効率化するための新しい機能「Copilot Actions」を備え、さらなる進化を遂げます。これらの機能は来年にかけて次々と導入され、従業員やチームの作業負担を軽減していきます。

マイクロソフトのジャレッド スパタロー (Jared Spataro) は、「Copilot は、従業員一人ひとりがより短時間で最善の仕事を成し遂げ、より意義のあるタスクに集中できるようにします。そして、Copilot Studio で作成されたエージェントは、すべてのビジネスプロセスを変革し、企業が業務を合理化し、コラボレーションを強化し、大規模なイノベーションを推進する手助けをするでしょう」と語りました。

イラスト提供: Michał Bednarski / Makeshift Studios

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