生稲 晃子氏と「働き方改革」対談 <後編>
~すべての人が活躍できる仕事環境の実現に向けて~
【プロフィール】 働き方改革実現会議 民間議員 生稲 晃子 (いくいな あきこ) 氏 1986 年 6 月フジテレビ系「夕やけニャンニャン」おニャン子クラブ オーディション合格。87 年「うしろ髪ひかれ隊」で CD デビュー。 おニャン子卒業後は、女優・リポーター・講演活動等で活躍。主な出演番組に「キッズ・ウォー」(TBS 系)「芸能花舞台」(NHK)「暴れん坊将軍」(EX 系)等。乳がん闘病を綴った「右胸にありがとう そして さようなら」(光文社)発売中
日本マイクロソフト株式会社 代表取締役 社長 平野 拓也
「同一労働同一賃金」や「長時間労働の是正」、「テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方」そして「病気の治療、子育て・介護と仕事の両立」など、9 つのアジェンダを掲げ、議論が交わされている「働き方改革実現会議」。 安倍首相自らが議長を務める同会議に、民間議員として参加し、提言されている生稲 晃子さんと、当社 代表取締役 社長の平野の対談の後編をご紹介します。
日本マイクロソフト品川本社の視察を終えて ~心と体のケアの重要性~
生稲 晃子 氏 (以下、生稲 氏) 「今日、御社の取り組みを拝見させていただいて、一見ユニークなものもありましたが、すべて社員の皆さんのこと考えた上での取り組みで、結果として会社をより良いものにしていくのだということをすごく感じました。」 平野 拓也 (以下、平野) 「ありがとうございます。 IT を活用したテレワークという働き方で、いつでも、どこでも働けるようになりますが、同時に心と体のケアや、その正しいアドバイス、マネジメントのサポートなどの社員の健康管理も重要です。 健康管理において、テクノロジーとしての支援もできる部分はあるのですが、 “人と人のつながり” がこれまで以上に大切になってくる思います。Face to Face の会話を超えるものは、この世界にはないですしね。 社員同士の会話、上司と部下の会話、売上や営業成績といったビジネスの会話を超えて、お互いの健康やキャリアに関する会話など“人と人のつながり”が、以前にも増して、意識して行われるようになったと思います。 」
視察を終えて ~「健康のケア」と「女性の活躍」
治療しながら働く時「ひとりぼっち」にさせない環境づくり
生稲 氏 「『会社が管理する』という言葉を使うと、堅い印象になってしまうのですが、御社においては、会社として、そしてチームとしてお互いを理解し合って、互いにケアしているという雰囲気がとても強く感じられました。 そしてその人と人との結びつきの強さは、テクノロジーによっても支援されているということも感じました。 私自身経験したことですが、病気になってしまうとどうしても「ひとりぼっち」になってしまうのです。同じ苦しみを共有できる仲間が、職場にいなくなってしまう疎外感と言いますか、ネガティブなイメージに囚われてしまいます。 ですからやっぱり会社の中でも、「みんなが、自分のことも理解してくれている」と思うことができれば、またやりがいをもって仕事できるのではないかと考えたのです。 病気をよく理解しているのは、医師なので、会社の産業医というものはより充実して欲しいと思いますし、心のケアという角度での理解では、心理カウンセラーが必要だと思っています。 私が心理カウンセラーの存在を重視した背景には、私自身の経験もあります。 私が今やっている治療というのが、ホルモン治療で、女性ホルモンを減らしていくような薬を飲んでいます。このホルモン治療は、軽いうつ症状や、倦怠感、あとホットフラッシュという突然身体が熱くなって汗がバーッと出るとような、周りの人には分かりにくい副作用が多いのです。 同じがん治療の副作用でも、抗がん剤治療の副作用だと、外見から辛そうなことがわかるのですが、このホルモン治療は外見からは非常にわかりにくいのです。 ダルそうにしていると、「サボってるんじゃないの?」、「やる気ないんじゃない?」と思われてしまいますので、同じように苦労されている方も多いと思います。 だからこそ、体のことを考えてくださる方だけではなく、心のケアを一番に考えていただきたかったのです。 それは闘病している人だけではなく、今の世の中で、特に大切なことだと思っています。」 平野 「『心のケア』は非常に重要な課題ですね。より良い環境を作るためには、会社としてどのような取り組みを行うべきだと思いますか? 病気についてはプライベートな話題でもありますし、周囲としてもどこまで踏み込んで良いのか、あるいは過剰な気配りになっていないかどうか悩む場面もあると思いますが、話しやすい、受け入れられやすい環境が必要だと思います。」 生稲 氏 「そうですね。過剰に気を遣われてしまうと、逆に重荷になってしまいますので、普通に接してあげるのが一番だと思います。私の家族も、術後の私に対して普通に接してくれました。私の行動に対して『そんなことして大丈夫?』とか『休んでいてもいいよ』とか、そういう過剰な気遣いは特にありませんでした。 その方が私も楽でしたし、会社の中でもそれは同じだと思います。何でも気軽に話し合い、理解し合える環境が重要なのだと思います。 そういった意味で、御社が進める働き方改革の中によって、“人と人” の結びつきが、すごく強くなっているのが、とても素晴らしいなと思いました。本日、拝見させていただき、お話を伺って、自分の中では本当に理想の状態を、御社は作ってられるのだとすごく感じました。」
すべての社員が活躍できる環境づくり
生稲 氏 「御社が働き方改革を進めた成果として、『女性離職率が、40% も下がっている』(2010 年と 2015 年の実績比) と伺いました。とても素晴らしいですね。 メディカルルームなどの福利厚生も整っていますし、もし私が社員だったとして、産休・育休を取得したとしても、「なるべく早く復帰したい」と感じるようになると思います。 だから皆さん、いきいきと働いているのだと思いました。」 平野 「ありがとうございます。でも、『子育てをしながら働く』ということは、女性だけではないですよね。男性も、育児に参加したり、家事を手伝ったりと、女性の為だけのプログラムというわけではなく、男性も女性も同じレベルで取り組める、すべての社員に向けたものでないといけません。」 生稲 氏 「そうなんです。母親と父親が揃って “両親” なんです。『育児を手伝う』のではなく、一緒に子育てするのが、当たり前なんですよ。ただ一方で、社会における一般的な仕事の進め方がありますので、いきなり男性が育児に 100% 参加することも難しいと思います。ですが、少しずつでも、変わっていくとうれしいですね。」 平野 「そうですね。働き方改革の中で、ある意味家庭内の文化も変える必要があるのかもしれませんね。 先日、子育てをしながら働く女性社員に『もっと働きやすくするためには、どのようにするのが良いか。』『社内に託児所が必要だと思うか?』と質問したのですが、その時に彼女が言ったのは、『託児所よりも、午後 5 時以降は、ミーティングをしないことを徹底して欲しい』ということでした。 保育園に子どもを迎えに行く時間が決まっているので、その時間にミーティングがあるとすごく申し訳ない気持ちになってしまうということなのです。 『何で大切なミーティングに出られないのか』と思われることが、非常に心苦しい。でも、決まった時間に、子どもを迎えに行かなくてはならないわけです。 こういう話を聞くとやはり、何時以降はミーティングをしないなどのルールを作って、働き方改革の多様性を実現することが、すべての社員が活躍できる仕事環境にはすごく大切だと感じます。」
「家庭」まで理解して受け入れる環境づくり
生稲 氏 「すごく柔軟な働き方、いろいろな働き方のパターンがあるということですよね。 それをちゃんと会社が 1 人 1 人ケアしていくことが一番ですね。」 平野 「そうですね。当社も、まだまだ努力しなくてはいけないです。まだ、ほんの入り口に立ったばかりだと感じています。」 生稲 氏 「先日、「マザーズハローワーク」という子育てをしながら働くひとを応援するハローワークを視察しました。 小さなお子様を抱えて仕事を探しに来られていたお母様たちにお話を伺うと、「子供を産んで、生きていることが窮屈だと感じてしまった」という言葉がでてきました。 それはもう、すごく、ショックだったというか、悲しかったです。私も子供を育てているので、本来幸せなはずの育児が、会社勤めをしていてとても窮屈に感じた、それは、直接上司から言われるわけでもないのですが、「辞めた方がいい」という空気が職場に満ちていて、その中に自分が置かれてしまったということです。 私は、このお話が本当にショックでした。」 平野 「それはショックなお話ですね。 家庭という、パーソナルな世界を、上司と部下が理解して、受け止めていくということも、「良い会社」になるために必要な、ステップの 1 つではないかと思います。」
最後に ~人を大切にする「働き方改革」について~
生稲 氏 「私、今日の訪問前に、御社はITを活用してパソコンを持っていればどこからでも仕事ができるということを見に来るんだとイメージしていました。 でも実際に訪問してみると、テクノロジーに頼っているのではなく、人間というものをすごく大切にしていらっしゃると強く感じました。機械でも何でもない、心の部分を、しっかりとフォローされているから、皆さんが力を発揮できるのですよね。 本当に、御社が提供されているテクノロジーとは関係のない感想になってしまって申し訳ないのですが、これだけ大きな会社なのに、アットホームな雰囲気を感じたっていうのが一番の感想です。 私は会社という組織で働いたことがないので、「こんな会社があったらいいな」という夢をずっと持っていました。日本マイクロソフトはその夢にとても近い印象を感じました。 机に囲まれた中で、長時間残業が辛くて、命を落とす若い方たちもいらっしゃるようなそんな世界は悲しすぎると思っていたものですから、今日は日本マイクロソフトの皆さんの笑顔に励まされた思いです。」
対談の感想 ~人を大切にする姿勢 平野 「私たちも、今日は『心のケア』という、大きなテーマをといただきました。これは治療しながら働く人に限らず、すべての働く人に共通するものですし、今後ビジネスがどんどん複雑になっていく中で、さらに大切なテーマになっていくと感じています。貴重な「気づき」をいただき、本当にありがとうございました。」 生稲 氏 「今日お会いした方々の笑顔が、皆さんとても素敵で…。本当に気持ちの良い時間を過ごさせていただきました。ありがとうございます。」